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第17章 死霊の軍団

204 シスターアンジェラのフラグが重そうな件について

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「…強い」

 その切っ先はまるで光の線を引くかの様に弧を描き、仮面の者達を紙屑の様に斬り裂いていった。恐らくは何らかの破魔の力が付与されているのだろう、二度と立ち上がる事はなかった。

(まるで初動が掴めない)

 乱れる事のない気の流れは、すり抜けるスキルを持つ者も、そして蝶の短剣を持つ者をも、まるで気にする素振りもなく、剣士の力量を物語っており、その顔には笑みまで浮かんで見える。
 こいつ、魔法を使う気配は無いが、剣士としては化物レベルだ。
 あれは刀
 しかもあの長さは異常だ。
 どうやって引き抜いてるんだ?
 この世界の者とは思え無い。

「…凄く俺の知っている剣豪に似てる」

 まさか…いや何らかの方法で召喚した可能性は十分考えられる。聖杯戦争みたいに何人も入り乱れるって事は無いかも知れないけど。
 敵に掠らせもせず斬り刻んで行く剣士は、遂にすり抜けるスキルを持つ者と蝶の短剣を持つ者に直接対峙した。どうやら此奴らの実力も正確に把握出来ているようだ。
 剣士はニヤリと笑った。実に涼やかな笑顔である。オヤジ臭い──と言うか今は獣なパロムとポロムとは一線を画しているな。

「さて、どうするか? このまま屠られたいならかかってまいれ」

 斬り裂いた仮面の者達はやはり復活はしない。パロムとポロムの方は復活して苦戦しているから、やはり武器の特性か? 対霊剣みたいに何かあの刀にあるのは間違い無い。だがそれ以上に腕が立つ。鳥肌が立つほどに。
 全く無駄の無い所作はまさに極められているって感じだ。俺の雷化をもってしても互するのは困難だと思う。相討ちが精々か? 不死性で俺が有利だとは思うが、あの刀に斬られるると、仮面の奴等みたいに復活が出来ない可能性もある。

「…邪魔立てした事、必ず報いを与える」

 そう言って操っていたと思われる仮面の者は、懐から珠のような物を取り出し、地面に叩きつけた。
 閃光が辺りを覆い尽くす。

「スタンスローターか!」

 瞬間的に展開した魔方陣が、倒れた仮面の者達ごと転移させた。掻き消されたのが半分ほど──恐らくは幻術か念体だろうか? そして中には斬り刻まれた死体も転がっている。

「仮面が消えたのか?」
「みたいね。どうやら具現化した呪具で操ってたらしいわね」

 ご丁寧な事に幾つもの手段を駆使して傀儡や生身の奴等で構成していたのは間違い無い。普通の兵士では苦戦していただろう。剣士は何方も斬り刻んでたが。
 しかし、現地調達とはえぐい。
 恐らくは近隣の者が犠牲になったのは間違い無い。

「完全に転移したわね」

 そう言ってドッペルマナは髪をたくし上げ「ふんっ!」と鼻息荒く俺の前に立ち、剣士にそのヒレを向けた。

「おやおや、人助けをたまにしてみれば、この仕打ち、やはりこの世は御し難いものよ」

 そう言うとクルリと刀を鞘に収めた。
 敵意は無い──今の所はって事だろうが。
 そしてようやく俺の臓腑を深く抉った傷の修復が完了した。偉く時間が掛かったな。気を付けておかねばならない。バビロニアンでも苦戦する毒とは恐れ入った。さすがアサシンっぽいだけある。性格の悪さが滲み出てたな。

「どうせザハルの手下なんでしょ? その時まで借りにしておくわ」
 
 ドッペルマナ、危険だから煽るな!
 まあそうなんだけどな。

「これは気の強い事よ。可愛いお嬢さんに免じてここは引かせて貰うがね。主人からもこれ以上の事は禁じられておるのでな」

 そう言って背を向けると、此方を全く意に介さぬとばかりに悠然と歩き出した。
 殺気は無いが、隙はもっと無い。
 達人ってヤツか。
 本体でも苦戦は必至だ。

「ふん、借金の期日が来たら、問答無用で引っ立てるだけの力量があるって言いたいわけね」

 マナがヒレを戻し、苦々しく言い放つ。
 だが事実だ。

「また厄介な助っ人を連れて来やがったわね」
「マスターまだその設定を引っ張ってるのね」
「初志貫徹だよ」 

「彼奴が噂の凄腕剣士か」
 
 パロムとポロムが、警護に当たっていた冒険者と共に此方にやって来た。てか、何気に人獣/ライカンスロープなのを披露する事になったんだけど、秘密にしてたんじゃ無いのか?

「噂通りの腕前だな」
「そんなに?」
「ああ、何故か冒険者登録はしてねぇんだが、ザハル子飼いの冒険者と連んでオークの群れを全滅させたり、無茶苦茶な暴れっぷりだったからな」
「おうよ、腕前だけならオルグに勝るとも劣らないと評判だったんだ。迷宮都市にこもって何やら探していたらしいが、どうやらあの刀の事だったんじゃねえか」

 剣士にとって刀は我が身も同然
 ウィザードリィの村正みたいなもんだろうな。正に妖刀──と言うか俺にも効果絶大っぽいのが怖い。

「大丈夫ですか」

 その時、修道院からシスターレイチェルが駆け寄って来た。

「おう、ザハルの手の者の力も借りたが、何とか凌いだぜ!」
「どうやら外から来たらしいが、シスターアンジェラは無事か!?」
「ええ、皆様のお陰で何とか」

 シスターレイチェルは俯きながらそう言った。

「しかし、彼奴らは外からとは言え、どうやらコレまでの黒衣の者達や、当然ザハルの手の者でもありませんでした。シスターレイチェル、何か心当たりは?」
「…いえ、特には」

 消えたシスターエルザと言い、この修道院…それとシスターアンジェラには何か秘密がありそうだ。しかもかなりヤバ気なのが。

「マス…紅、でもここは離れられないわよ」
「そうね、このまま警戒に入るしかないわね」

 修道院の中から此方を心配気に伺うシスターアンジェラ。その眼からうかがい知れる動揺の色。自覚ありって事か。
 これはとうやら、お金を用意して一件落着とはいきそうにも無い。

「前門の仮面の者達、後門の凄腕剣士、何れにせよこのフラグ、高く付きそうだ…だわ」
「粘るわね、マス…いえ紅」

 その時、PASが繋がって来た。

『マスタード、城壁は激戦中なんだけど』
『お取り込み中申し訳ありませぬが是非に助力をお願い致します』

 忘れてたわ。

「マナ、修道院を頼む」
「了解…心配だからドッペルマナを一つ仕わせるわ。監視網にもなるし」

 そんな性能もあったのか。
 そう言うとドッペルマナは二つに分かれ、一つはシスターアンジェラの元へ、一つは俺の横に寄り添った。

「さて、今日は寝る暇なしだぞ」
「騒がしいのはもう慣れたわ。でも安心して。私が必ず護ってみせるから」

 その時、城壁から真っ赤に燃え上がる紅蓮の炎が見えた。ククリの結界が無かったら突破されてたんじゃなかろうか。それ程の破壊力がダルシアに襲い掛かって来ているんだな。

「さて、本体と合流してお休みしたいがそうもいかないみたいね」
「ククリとネフィリムがイジけて口を聞いてくれなくなっても知らないわよ」

 それは困る。
 俺は幻獣等を使い潰すつもりは無いからな。

「いくぞ!」
「お供するわ」

 俺は夜の闇を纏い、城壁へと駆け出した。
 多くの思惑が交錯するダルシア
 嫌な予感──と言うかフラグが溢れかえっているのは気の所為…じゃ無いな。
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