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第17章 死霊の軍団

202 仮面のアサシン

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 ◇ ◇ ◇


「てめぇら、オレ達をダルシアのパロムポロム兄弟と知ってのことか」
「ここはユウの約束があるんでな、指一本触れさすが訳にはいかねぇんだ」

 修道院の周りを、仮面を被った者達が取り囲んでいた。
 不思議な紋様が施された仮面は目の部分に穴は空いているがとても視えるとは思えない不自然な物だった。何らかの呪物である事は間違い無いだろうが、その力は謎だった。
 パロムとポロムは数名の冒険者仲間と共に修道院の警護をしていたが、襲撃が始まった事によりその多くは城壁へと向かっており、残ったのは僅かな冒険者だけである。
 戦力差は十倍近い。
 一体何処に潜んでいたのか。
 クローディアの放っている諜報活動を主とする者達ですら気が付かなかったのは、その高い隠密スキルを象徴している。

「その陰気臭い風体、どうせ何処ぞのアサシンギルドか秘密結社の回し者なんだろうが、たかが破門された修道女一人にえらく仰々しいじゃねえか、なあ、ポロム」
「おうよ、なんの目的なのか、きっちり答えてもらわねぇとな、パロム」

 二人は臆する事なく、ニヤリと笑い、仮面の者達を睨み付ける。
 この二人
 見た目は蛮人の様に見えるが──実際に蛮人/バーバリアンに連なる者達なのだが、少し毛色が違う。
 素行に問題があり、オルグやノーラ程の評価は得られていないが、間違い無く超一級の冒険者であり、特別なユニークスキルを保持していた。
 元々、蛮族は高い回復力や膂力を誇り、荒削りながら直接戦闘では凄まじい戦果を上げる者達なのだが、この二人はさらにそれを底上している。
 見た目は狂戦士/バーサーカーか重闘士/ウォーリアそのものであるが、故あって仕えた高名な騎士の薫陶を得て、なんと白騎士/ホワイトナイトの称号を得ていた。
 もともと力任せの肉弾戦で盗賊紛いの事をしていたが、ある時軽くあしらわれた騎士に仕える事になり、そな騎士が引退するまでの数年間、行動を共にしていた時に立てた数々の武功が、二人に新たなる力を与えたのだ。
 正に開眼と言うに相応しい出来事だった。
 白騎士/ホワイトナイトは魔法こそ使えぬものの、高い魔法抵抗力と回避能力を有し、さらに高い移動能力を持ち、集団戦では盾騎士を遥かに凌ぐ防御力と耐久力を誇る。
 大楯と両手武器を片手で軽々と扱う蛮族/バーバリアンの特性と相まって、人を遥かに超える戦闘力を発揮するのだ。
 そして、二人の秘匿するユニークスキルはそれだけではない。
 二人は白騎士/ホワイトナイトの称号を得た後も、決してそれを周囲に伝える事はなく、逆に隠し通していた。それは仕えた騎士の教えによるものだが、仲間の冒険者達も、ひいてはドルクスやクローディア達ですらその秘密を知らない。
 かつてのならず者だったパロムとポロムは改心し開眼していたのである。
 仮面の者達は、それを確かめる最初の被害者になろうとしていた。だがその道の──人の命を奪う陰惨な生業を糧とする者達ですら気が付いてはいなかった。
 その油断が、パロムとポロムに修道院を護る機会を与えた。最初から本気で襲っていれば、さすがに防ぎきれたかどうかは分からない。
 だが、仮面の者達はこの二人の冒険者をただの蛮族だと思って舐めていた。本来なら相討ち覚悟で臨むべき相手だったのだが、おかげでユウが駆け付ける時間を図らずも稼ぐ事が出来たのである。
 そして
 戦闘が始まる。

「さあ、かかって来い!」
「おうよ、ジッとしててもラチがあかねえぞ!」

 二人は両手武器を両手持ち──いわゆるダブルアタックで仮面の者達十五人を迎え撃とうとしていた。

(嫌な予感がしやがる)

 その雰囲気から持っている暗器には恐らく毒が仕込まれているのは間違い無いと呼んでいた。毒使いには纏う独特な雰囲気がある。

(まあ、俺達には通じねえがな)

 だが、シスターアンジェラを護る他の冒険者には荷が重いだろうと、目の前の仮面の者達の気配から推察していた。敵の力を正確に把握する事は冒険者にとって重要な資質の一つである。その点に於いて、パロムとポロムの野生の勘は恐ろしい程鋭い。

(此奴らは仕込みの手甲に短剣、恐らくは針かなんかと飛剣を使うんだろうがそれだけじゃねえな)

 睨み合いを続けた数分間
 仮面の者達は時間を掛けられないと踏んだのか、一気に勝負をつけるべく同時にパロムとポロムに攻撃を仕掛けた。
 ユウがこのダルシアから離れた隙を突いたのは何も黒衣の者達ばかりでは無い。
 腕の立つ者が集められていたが、パロムとポロムはそれを凌駕している。
 一切受けるつもりは無かった。
 いわゆる両手持ち武器の二刀流──つまり無双を、相手の後の先、つまり先に攻撃させてそれを上回る攻撃速度で迎撃に出たのである。
 それも二人同時に
 鉄塊を振り回すそれは正に鉄の暴風と呼ぶに相応しいものだった。
 まるで小枝を子供が振り回して遊ぶ様に、しかも神速と呼ぶに相応しい閃光にもにた切っ先が、一瞬にして仮面の者達を肉塊へと切り刻んだのである。

「へっ、刀の錆にもならねえな」
「手応え無さすぎだが遠慮はしねえから覚悟しろよ!」

 その目には妖しい魔力が満ちている。
 そう、二人はクリティカルヒットやハードヒット、ノックバックを連発するスキルが当たり前の様に発動していた。
 鍛え抜かれた技、元々の身体能力の高さ、それに白騎士の称号に加え、蛮族特有のユニークスキルを隠し持つ二人はただ事ならぬ怪物と呼ぶに相応しい者達なのである。

 だが、仮面の者達もまた只者では無い。
 吹き飛ばされた筈の者達は音も無く立ち上がり、ふたたび短剣を構え、パロムとポロムを取り囲んだ。

「…手応えはあったんだがな」
「何で立ち上がれるんだ? おかしなスキルでも使ってやがるのか」

 攻撃力に関しては自信のある二人だが、仮面の者達は平然と立ち上がって来る。まるで何かに操られているかの様に。

「傀儡にしては動きがいい」
「手応えは間違い無く人間だったぜ」

 訝しがる二人の前に、赤黒いマントを被った者が二人、影から染み出す様に現れた。
 一線を画す魔力にパロムとポロムは武器を構え直す。

「どうやら此奴らは足止めで、てめえらが本命か」
「ちったあ歯応えがありそうだな」

 前に出た仮面の二人
 違いは仮面の眉間の辺りに宝石の様な者が取り付けられている事だ。妖しい光を放つそれは何らかの魔力を放っているのは間違い無い。
 二人はパロムとポロムを間に挟むように移動し、一対一に持ち込む構えを見せた。

「舐めんなよ!」

 パロムが一人に上段から大剣を叩き込むべく大きく振りかぶり、その巨体からは考えられない速さで間合いを詰めた。
 だが仮面の者は微動だにせず、スルリと短剣を構えただけだった。蝶の模様が束の部分にあしらわれたた美しい意匠の、まるで工芸品の様な逸品だが、パロムの大剣を受け止めるにはあまりに細やかだった──が、次の瞬間、二人をして驚愕の事態が起こる。

(そんなもので受け止められるかよ!)

 構わず振り切るその大剣は恐るべき速度で仮面の男を兜割りに──出来なかった!
 ギンッ!!!
 剣戟が激しい金属音と火花を撒き散らす。
 だがそれだけだった。

「な、なんだと!」

 その仮面の者はなんのためも無く片手で、無造作に、さも当たり前の様に受け切ったのである。そしてもう片方の短剣を何気無く横薙ぎにした。
「ぐはあっ!」
 咄嗟にパロムは大剣で受け止めようとしたが、今度は吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。
 驚きを隠せないパロムとポロム

(何をされた!? ただ短剣を振るっただけだぞ!)

 何らかのスキルが発動した気配は一切無かった。だからこそ百戦錬磨のパロムが直撃を喰らってしまったのである。
「ぐぅ…」
 必死に立ち上がるパロムだが、受けたダメージは深い。
 もう一人の仮面の者は無造作に腕を振るうと、マジックアイテムなのは間違い無いだろう、手甲から爪が伸びた。

「てめえは武闘家…いや魔拳士か」

 ポロムは一瞬だけパロムに視線を送り、まだ動ける事を確認すると、スキルを発動させ仮面の男に斬りかかる。攻撃力を破壊的に底上げするパワーライズを発動し、二刀流をやめ両手持ちにして必殺の一撃を狙っていく。見かけに似合わぬ臨機応変な攻撃は仕えた騎士の教えの賜物だった。
 振りかぶった大剣が直撃する瞬間、仮面の者は手甲を構えようとすらしなかった。
(なぜ構えん!)
 ポロムはそのまま叩き込んだ。
「ぬうっ!」
 だが、斬り裂いた筈の刃はそのままヌルンッと通り抜けてしまったのである。
 それを視線で追っていたパロムが舌打ちした。
(ちぃっ! どんなスキルを使ってやがるんだ)
 直接的な激突には滅法強い二人だが、このような得体の知れぬスキルには苦戦させられる事も──いやどんな者でも初見で対抗するのはほぼ不可能だろう。
 圧倒的に不利な状況
 だがユウとの約束を頑なに護ろうとする二人に引くことなど有り得ない。

「とは言えコレはマズイな」
「ああっ、此奴らはただもんじゃねえな」

 パロムとポロムが相討ち覚悟で攻撃に転じようとしたその時、雷と炎を纏い、一人の美少女が空から舞い降り、そのまま短剣を構えている仮面の者に肉薄──生体電流を最大出力で放つと青白い火花が直撃しそのまま吹き飛ばされてしまった。

「ユウ! …じゃねえ?」

 そしてポロムと対峙している仮面の者に呪紋の浮かび上がったヒレが襲いかかる。
 咄嗟に身を躱し間合いを取るところに、更に髪飾りを変幻させて光弾を放つ。

「マナのお嬢ちゃんじゃねえか! 生きてたんだな!」

 ユウ…いや紅/クレナイとドッペルマナが白き勇者を退け、ギリギリ間に合った瞬間だった。
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