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第17章 死霊の軍団
196 死者と魍魎
しおりを挟む『出でよ! センチュリオン!』
ゴルドバの掛け声と共に、足元に展開した魔方陣から数百の戦士達が現れる。
それはかつてゴルドバが従えた戦士団の成れの果て
揃いのラウンドシールドに揃いのハルバード、腰にはショートソードを指し、ハーフヘルムにマント、そしてチェストと呼ばれる肩当ての無い胴鎧を付けている。
かつてゴルドバと共に周辺国を蹂躙した最強の精兵を、その魂ごと自らに取り込み、闘気により再現したのがゴルドバのユニークスキルの一つ、【センチュリオン】だった。
『魚鱗陣形!』
一糸乱れぬ連携でゴルドバの率いる【センチュリオン】は陣形を整え、屍食鬼の群れに挑む。
その反対側
『さあ、姫達よ、我等が主人の為に働く時が来ましたよ』
エメラルダスが、その羽衣を振るうと、その模様から女の姿をしたモノが溢れ出て来る。呻き声や啜り泣く声が辺りを埋め尽くすと、百体の灰色いヴェールを被ったモノがフワフワと漂うようにエメラルダスの元へ集結していた。
『ふふふ、妾の率いる堕姫には生贄が不可欠…死者の群れ如きではその足しにもなりませぬが、我らが主人の為に始末してくれようぞ』
そして自らも巨大な髑髏を顕現させる。
闇を纏う巨大な髑髏は骨で出来た鞭のようにしなると劔、そして水鏡とよばれる鏡を模した盾、そして勾玉を首にかけていた。
『元々は我ら一族に伝わる三種の神器。されど全ては奪われ、この様な形でしか取り戻せぬは無念なれど、お前ら死霊共には過ぎた宝具、一目目にする事が出来ただけでも有り難く思うがよい!』
ソロモン王を挟んで、エメラルダスも陣形を敷き終える。
『……此奴ら、復活させたのは失敗じゃったかの。目の前のゴソゴソとした輩より余程危険じゃわい。あのマスターでなければ欲望に取り憑かれ、暴走するところじゃろうが、それだけが救いかの』
やれやれと頭を抱えるソロモン王だが、その骨と皮だけの顔はやけに嬉しそうにみえる。それは気の所為では無い。骨と皮だけなのに嬉しそう──それだけでも奇異なのではあるが。
『国を滅ぼし、逃げ延びた儂に再びこの様な民を救う機会を与えられた事に感謝いたす。されば、我らがマスターの為、この死者の群れを屠ってくれようぞ!』
そう言ってソロモン王は魔力を最大限に高め、迫り来る屍食鬼の群れに叩き込んだ。
ワイトキングに進化したソロモン王のユニークスキルである【混沌の渦/ケイオスタイド】の上位スキル──【荒れ狂う混沌の嵐/ケイオスダイタルウェイブ】を放った。
ソロモン王の眼前に収束した黒い魔力の塊が、屍食鬼の群れのど真ん中に向けて放たれ、ちょうど中央に到達した時に、一気にその力を解放した。
赤黒い雷を放つ黒い雲が、爆発するかの様に数百メートル近く広がり、一気に渦を巻き始めた。
最初の爆発により中心に近い場所にいた屍食鬼は塵となり、離れたものも崩壊する体をとどめる術はなく、まさに灰燼と化したのである。
殆ど知性の無い屍食鬼はただその黒い雲に蹂躙されるしかなかった。しかも、【荒れ狂う混沌の嵐/ケイオスダイタルウェイブ】は一過性のものではなく、そのまま戦場に存在し続け、敵を屠り続けるのだ。
──それを、光の柱に隠れている黒衣の者達が驚愕の目で見ていた。
『化け物とは聞いていたが此処までとは』
『よくぞ従えていたものだな』
そう、間違い無く人を凌ぐ存在であるワイトキングは、本来なら人に従うなど有り得ないのだ。
『呑気な事を。このままでは此方の仕掛けも潰されるぞ。オズボーンとの誓約もある。ここは急ぎ次の手を打たねば』
『勿体無いが仕方あるまいな。所詮、屍食鬼などでは敵う相手ではない』
すると、宝珠を携えた者が歩み出る。
「【暗黒よ来たれ/モーターヘイト】」
展開した二つの魔方陣から一気に飛び出したのは黒い豹の様なモンスターだった。だがその形状は似てはいるが大きく違うところがある。首が二つある上に、尻尾には蠍の棘の様な物が生えている。それは、地獄より呼び出された【ヘルハウンド】だった。
さらにもう一つの魔方陣からは溶岩の様な燃えたぎる赤い巨人が現れ、全速力でダルシアへと向かって走り出した。
燃え滾る溶岩の体に二つの頭、四本の手を持つ【ヘカトンケイル】の亜種【アスラケイル】呼ばれる火の眷属だった。
それをソロモン王が視界に捉える。
『…コレはまた珍しいモンスターじゃ。主物質界でお目にかかるとはの。長生きはするもんじゃわい』
だが、屍食鬼よりも遥かに魔法抵抗力が高い──そもそも同じ混沌を糧とする【ヘルハウンド】と【アスラケイル】には殆どダメーシを与える事は出来ない。
『どうやら前回の反省に基づき対策を講じておるようじゃの。敵ながらあっぱれじゃわい』
ちらとダルシアを振り返るとこう呟いた。
『…ククリの結界が万全でもギリギリのところか? やはり早めにネフィリムに命じ【蜃気楼の塔】にセシル達を退避させたほうがよいやも知れぬ』
だが気になるのは光の柱だ。
どのような力を秘めているのか、全くの未知数なのである。
『力押しは無理だと分かっておる筈…さればどう出る?』
ソロモン王は【暴走する混沌の嵐/ケイオスダイタルウェイブ】を保持する為に動けない。しかし、屍食鬼を屠るにはまだ解除は出来ないのだ。
『ゴルドバとエメラルダスに任せるにしても、もう少しは削っておかねばの』
反属性である神聖魔法ならば効果的に滅する事が出来るが、同じ闇の眷属たるソロモン王達は互いに削り合う他無い。そして、激戦を繰り広げるマスターを支える為には、自らの力を持って敵を殲滅する気構えが必要だと強く理解している。王国や領主などに頼る気など毛頭無いのだ。
『いざとなれば儂が直接乗り込むだけじゃがの』
この判断は正しい。
だがこれは強者の余裕であり驕りとも言える。
黒衣の者達は何が何でもこの機会をモノにしようしたいた。その差が驚くべき戦術を編み出し、この短期間で現実に行使される事になったのだ。
次の一手は、黒衣の者達からとなった。
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