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第16章 西方街道
186 亡霊騎兵
しおりを挟むダルシアを発って二日目
既に慣れた護衛任務は順調そのものだった。
今の所、ダルシアに異常は無い。
仕掛けて来るなら明日あたりと読んでいるのだが、さてどうなるか。
ソロモン王率いるアンデッドトリオ(実は最高戦力ではないかと噂されている)に加え、ククリとネフィリム、そして猫姫にアンサタクロス(ローブに変幻中)まで投入しているのだから、まあ、普通に考えても撃破は困難だろう。
そこにギルドに依頼も掛けているしな。
「…だが、襲って来る気がするんだよ」
前方警戒としてフェンリルがその索敵スキルを活用して布陣し、後方にはガーゴイルが睨みを効かせており、そしてそのさらに後方では追跡者を始末するべく森の中にケルティが潜んでいる。
ほぼ完璧な布陣でアルマンド商隊は旅していた。
俺達はキャシィとシルビア、エレンとマナに分かれ、三時間毎に交替で警戒に当たっている。
そして俺は一人、森の中で狩りを行なっていた。
俺の移動力なら、商隊は止まっているに等しいので、新たに手に入れたミスリルスピアの慣らしをかね、金になりそうな動物を狙っている。モンスターでも全然OKだ。
手に入れた忍者のスキルは、全く気取らせず、縦横無尽に森の中を駆け巡る事を可能にし、さらに仙術スキルを試している。
周囲に展開しているシリィ率いるコシリィ軍団からの情報を逐一ZuGlassに投影し、獲物の背後に忍び寄り、急所にミスリルスピアを突き立て、生体電流/エナジーボルトを叩き込んで行けば、群れに気取られる事なく一網打尽にする事も可能だ(狩り尽くさぬ様に敢えてやらないけども)。
因みに今狙っているのは山鳥──大ウズラである。
用心深い山鳥と水鳥の仲間は、狩人でも苦戦する難易度の高い獲物なので、訓練には最適なんだよな。
あと美味いしね。
森の中を隠密スキルと縮地スキルを駆使して高速移動&潜伏を繰り返し、群れを見つける度にチクチクとミスリルスピアでサクッと刺して生体電流を流し込む事を繰り返している。
結構楽しい。
訳のわからない特殊能力を持った奴等を相手にするより精神衛生上大変宜しいのである。
「ふんふん~八匹~~」
今日のオカズは大ウズラに決まりだな。保存食の干し肉はイマイチなんだよ。地球のビーフジャーキーみたいな味がイマイチ馴染めない。酒の肴的な味なんだよね。
『草原と森の切れ間の辺りに高速移動する馬の一群が来ました~凡そ800メートル西です~』
八匹目を狩り、アイテムボックスに収納した時、シリィの放っているコシリィから情報が送られて来た。
映像は森の切れ間を疾走する馬が数頭、どうやら此方に向かって来ている様だ。
だがこれは…
「追われてるのか?」
『付かず離れず──ですが森の切れ間とは言えこの速度は異常です~』
「だよね~」
だが、ものの数分で商隊の移動している街道に到達するぞ。
「……よし、商隊の手前でケリを付けよう!」
俺はそのまま大地を蹴り、一気に加速して接近する騎馬の一団を迎え撃つべく縮地スキルを使い移動を開始した。
『画像から判断すると、逃げているのは──女騎士の様です~』
映し出された画像にはその女騎士の背後に迫る黒衣の者達が映し出されている。
あの黒衣の者達──とは違う様だ。
「騎士/ナイト──いや騎兵/ライダーと言うべきか?」
ふむ、素性を明かさず騎兵の足止めをしてみるか。
木々の間を抜け、気配を消したまま騎兵の集団に接近していくと、どうやら想定とは違う事が分かって来た。
「先頭は女騎士か──中々の美女だな。定番なら姫騎士とかその辺りかな」
『後方から追い縋るのが黒騎士と言うよりも亡霊騎兵/ファントムライダーっぽいですね~』
シリィコシリィ軍団の情報を統合すると、どうやら一人の騎士を六人の騎兵が追跡しているようだ。
高価そうな魔法鎧に身を包んだ女騎士を黒い甲冑に身を包みさらにヤバ気なマントで覆う騎兵は唯の人とは思え無い。
これは間違い無く人外──恐らくは元は真っ当な騎士だったのかも知れない。
ここはアルマンド商隊から離れてはいるが、目指しているのは間違い無く西街道だ。つまり必ず遭遇する。六騎とは言え魔法を行使する(暗黒魔法か死霊魔法のいずれかだろう)なら最低でもランクB相当、リーダー格ならランクAは覚悟しておく必要がある。
「……よし、迎え撃つ!」
『了解~最適な迎撃ポイントを割り出します~』
俺は黒鴉/レイブンを放ち、移動するコースを予測していく。
早い。
馬が良いのか腕が良いのか、際どい木々の間を見事にトップスピードで走り抜けている。
亡霊騎兵/ファントムライダーも元は名のある騎兵だったのか、見事に並走しながら連携して逃げ果せるとは思え無い。
『移動ポイント出ました~』
ZuGlassに投影されたポイントに向け、俺は全速力で迎撃に向かう。
商隊から500mほどの木々の切れ間に狙いを絞り、隠密と縮地を発動し一気に間合いを詰めて行く。
『接敵まであと100m!』
「速いな!」
俺は先行して接敵ポイントに到着し、タイミングを計る。
一発勝負だ。
外したら、距離的に街道で商隊が巻き添えになるのは避けられない。ケルティに足止めさせるのが効果的だが遥か後方に布陣しているから時間的に間に合わないのが残念だ。
自然魔法は待ち伏せに最適なんだけどな~
『姫騎士きました!』
目の前を姫騎士が通り過ぎたのを確認するかしないかの刹那、俺は一気に間に割って入るかの如く亡霊騎兵達の前に飛び出した。
分身体を六体だし、牽制を兼ねてそれぞれの馬に泡弾を至近距離から叩き込ませた。
「──お前かっ!」
その中で最も迅速で的確な対応をした二番手を駆けていた奴に狙いを定め、超多重圧縮泡弾を三発放ち、一気に間合いを詰めた。
閃光一閃──分身体が両断されたのが分かる。
俺の分身体を初見で見切るとは、元はやはり高名な騎士様かもしれんな。
「だが闇に身を落とした奴に好き勝手させる訳にはいかないんだよ!」
流石に至近距離からの超多重圧縮泡弾の弾幕を避け切る事は、如何な亡霊騎兵とは言え不可能だった様でその内の一発が直撃した。
連続爆発するのを避ける様に盾を構えた逆方向から今度は仙術チャクラを発動し、念体を繰り出す。
「喰らえっ!」
黒鵺を上段から叩き込む!
必殺の間合いの筈が、大剣を片手で振り上げ、勘だけで防ぎ切った。
マジかこいつ。
普通筈がアンデット系に転生すると俊敏さは落ちそうなもんだが、元の剣の腕が桁外れだったのか?
「だが甘い!」
念体は腕だけ二本を繰り出し、既に後方に振りかぶっている。それをそのまま両手を重ねる様にして無防備な頭部に叩き込んでやった。
「グハッ!」
全速で駆けていた所為で、バランスを崩しそのまま落馬するのを確認し
『全騎兵落馬!』
よし、先ずは予定通り!
振り返ると、姫騎士は(あくまでも希望)そのまま一瞬だけ俺の方を視認し、何かを言おうと口を開けようとしたが、そのまま走り去って行った。
そのまま行くと街道に数分で当たる。
PASを繋ぎ、エレンとマナに対応する様に伝えた。
『本当に騒動の渦中に入るのが好きなんですね』
『女に──特に美人に甘いのは転生者の呪いなのかしら』
悪口は後にしてくれ!
「さて、先ずは此方を片付けないとな」
俺は剣鬼/ソーディアンと羽蛇/リンドブルムを召喚し、黒鵺と嵐の剣を構え、倒れた亡霊騎兵達の前に立ちはだかった。
商隊に接近する可能性さえなければ、あの姫騎士を確保するだけでよかったんだが、此奴らをそのまま近寄せる訳にはいかない。
巻き添えを喰らう羽目になるのはほぼ確実だ。
『周囲に敵影は有りません~』
ほほう、随分頑張って逃げて来たんだな。
重畳重畳!
「お前ら、女一人に随分とご執心らしいな。残念ながらあの女は俺の獲物にする。諦めて帰るなら見逃してやるが、どうする?」
さて、どう出るか。
眷属支配されているなら、死んでも前に出るしかない。
だろ?
「キサ…マ ジャマハサセン」
ドスンッ!!!
その時、亡霊騎兵の胸を背後から貫いた槍の先端が、胸から突き出した。
「ググッ! オ、オノレ」
分身体は六体だけじゃ無いからな?
取り敢えずリーダー格は潰した。
さて、残りも一掃させて貰おうか。
最初の一当てでその実力は計らせて貰ってるからな。
黒鵺で首を一閃し、俺は残りの亡霊騎兵を睨んだ。
「……覚悟はいらないぞ。ただ、現実を受け止めれば良い」
生体電流を発動し、雷人化した俺は、瞬身の術を並行励起し、そのまま、稲妻と成った。
六騎の残り五騎に向かった俺は、まるで静止した時間の中を突き進む様に両手に持った剣をただ振り下ろすだけでいい。
「ザワールド!」
全てのバビロニアンの能力を速さにだけ注ぎ込んだ、忍術との合成スキル、雷神を発動した。
但し、燃費は恐ろしく悪い。
瞬間的にしか発動は出来ないのがたまに傷だが、侍の【居合斬り】に匹敵する破壊力と引き換えならば充分だろう。
光の奇跡が糸のように亡霊騎兵を切断し、後には肉塊だけが残された。
「ふう……あれ!?」
だが、そこには肉塊だけでは無かった。
「……魔石があった…のか!?」
そう、そこには魔石が六個残されていたのである。
魔道書/グリムウェルとソロモンの指輪が有れば、幻獣として支配下に置く事が出来る。アンデットでもモンスター枠だからな。
俺は期せずして、新たなる仲間を手に入れる事が出来た様だ。
と言うか
俺って、戦えば戦うほど幻獣にして支配下に置けるんだよな。
……それって──
「…姫騎士も魔石を──」
『虐殺者/ジェノサイダーです~!!』
冗談だよ。
でも、俺の自由に出来る姫騎士か──浪漫だな。
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