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第14章 氷の剣士
156 ズールー
しおりを挟む「殺してやる──!」
「なんて直情傾向な奴だっ!」
洞穴の中
俺は首の千切れかかった魔女(恐らくは霊媒師)から熱烈な歓迎を受けていた。
と言うか、首が繋がる位までは、様子を見るとか考えろよ。
分身である俺は捨て駒な訳だが、それでも犬死には御免だ。特にこの変態相手には絶対に遠慮したい。
忍者にジョブチェンジしている俺は、そのアビリティとバビロニアンとしての身体能力向上により、遅れを取るとは思えないが
「キレた女の人ヤバい」
そもそも、霊媒師ってヤバいんだな。てっきり恐山のイタコみたいなのを想定してたんだが、自称天才霊媒師かどうかの真偽は定かでは無いが、霊媒師に不死属性がデフォルトで付いているとは思え無いから、その辺りで特殊な術を使って無理矢理特別な存在になっている事は間違いない。
しかも武闘派だし。
「逃げるなっ──!」
「お断りしますっ!」
身体から染み出した赤黒い触手の様な物は、恐らくは血液に何らかの魔力付与されているらしく、先程おれを貫いた物と同質だと想定しておくべきだろう。
(刺されたり触れたら、クラゲの棘みたいにやられるんだろうしな)
洞穴の中を壁に吸い付く様に移動し、俺を攻撃してくるその異様さに辟易しながら、取り敢えず外に出る事を優先する事にした。
そのまま逃げてもヤバいだろうな。貞子的に呪いが無限追跡して来る可能性も有るし。と言うか、実際にはそっちが本命な能力なんじゃなかろうか。
一気に外に飛び出した俺を執拗に追いすがる。
「おらぁ!喰らえやあ──!」
「うおっ!」
身体から生えた赤黒い触手がその体積を数十倍に増し、俺を貫かんと鞭の様に大気を切り裂いて襲い掛かって来る。
(ヤバいっ!)
「火遁:炎蛇!」
振動発火させた炎を苗床に、炎の蛇を放ち牽制する。
「魔法を使えるなんて聞いてない!」
轟!!!
直撃した炎蛇が赤黒い触手を燃やし尽くす。
「ぐううっ! やりやがったなゴルァ!」
本体にはダメージ無し
分身だから宝具であるドラッケンも手元には無い。数打ちの武器があるだけだ。
「やれやれだな!」
《生体電流発動》
でも魔人化すれば何とかなる──かもしれない。
雷を纏い、俺は反撃に移る。
「雷遁:雷牙!」
エナジーボルトの忍術版だ。
接触しなくても雷撃を叩き込め、しかも、連続発動が出来る優れ物である。
これで接触は避けられるだろう。
襲い掛かって来る血の塊をことごとく弾き返し、俺は隙を伺っていた。
首を刎ねても死ななかったからな。
つまり物理的に倒す事は難しいって事だ。
恐るべしラメラ-ズールー
バビロニアンに匹敵する不死属性をオリジナルで編み出しているとは。
「風遁:烈空破!」
大気の砲弾を叩き込んだ。
だが、触手を展開し弾き返した。かなり反応が良いな。この至近距離からでも全く躊躇する事もない。
「その程度で止められるとでも思ったか!」
その顔が怖い。
マジ切れしてるし。
鬼の形相で猛撃を繰り返して来る。
雷化して無かったら避け切れ無いかもしれん。
森の中を樹々を薙ぎ倒しながら追い縋って来るが、移動力はイマイチなのか、カウンター狙いの穴熊戦法が主体らしく、特筆すべき点は無い。それでは俺を捕らえるのは不可能だな。
時間稼ぎ位しか出来無いんじゃないか?
「……まさか」
俺はハッとなり、洞穴の方に意識を集中した。
マズい。
分身からさらに分身は出せ無い。
陽動用の空蝉なら可能だが術は殆ど使え無い。
「ぐうっ!」
その時、また背後から貫かれた。
しまった。
あの黒い影だ!
「ふん、あの体勢から身を躱すとはね」
「遅いぞ!パメラ!」
「うるさいね!この術は時間が掛かるんだよ!」
黒い影が女の顔に変わり喋りだした。
「くっ!お前が黒い影を!?」
「あら、わかった? ラメラは私のガード役なの。広域に儀式魔術を展開するのは私のユニーク魔法なのよ」
あの時、僅かに感じた違和感が無ければ直撃を喰らうところだったぞ。警戒した矢先に感じた殺気に辛うじて反応する事が出来た。
距離を取り、周囲を伺うと、周りには黒い影が数十体揺らめいている。
マズい。
《振動発火発動》
俺は更に炎を纏った。
「あら、まだ隠し玉があるのね」
「パメラ、この子は私の獲物よ!」
「仕方ない、分け合う事にしましょ」
勝手に分割されては困る。
口調も元に戻ってるし。
「二人は…お友達か?」
「「違うわよ!」」
ハモってる。
「「姉妹よっ!」」
まさか…
「あの洞穴にあった布の中身は…」
「あら、よく気が付いたわね。本当は生贄を依代にして黒い影を引き出すんだけど、大技を使う時は私が依代になるのよ。ほら、だって私は不死属性だから」
「……変態だ」
自らを…死な無いからといって依代にしただと?
その不死属性の元になる魔術が特定出来無いと倒せ無いって事なのか。
「その術の途中で貴方が入って来たもんだから、外に誘き出すのに苦労したわ」
目の前のラメラ-ズールーと名乗る霊媒師はにこやかに微笑みかけて来る。ちくしょう、ハメられたのか。
んっ?!
まてよ…
「…大技だと?」
「あら、聞こえたの? 耳が良いのね」
パメラはニヤリと笑った。
この変態不死属性マジ切れ姉妹は、さらなる仕掛けを施し、その時を待っていたらしい。
「さあ、本気で掛かって来ないと、私の下僕になっちゃうわよ」
そう言って笑う二人は良く見ると美人だが、その瞳の奥には狂気が宿っている。
「お手柔らかに」
俺は両手に超多重圧縮泡弾を生成し、二人に叩き込んだ。
「水属性!また珍しいわね」
「その程度じゃ私の魔神は抜けないわよ」
「なにっ!」
その時、黒い影が数十、数百とパメラの前に集まり、一つの巨大な黒い渦になった。そしてそこからズルリと抜け出した手の様な物が泡弾を叩き潰したのだ。
「降臨!」
「時間がかかり過ぎなのよ」
その黒い渦は、巨大な六脚の蜘蛛の様な形状に変化していった。そして、その体高は三十メートル近い。
怪獣かよ!
「村人を犠牲にして…コレを創ったのか?」
「そう、村人の苦痛や憎悪を糧にして、私が依代になり形を与えたの。滅多に使えない大技なのよ。本当は貴方たちレギオンを壊滅させる目的で用意してあったんだけど、ついでに貴方も始末して上げる」
そう言ってパメラはその蜘蛛の様な影の中に取り込まれていった。
「じゃあ、名残惜しいけど、死んで貰うわね。死んだら、私の下僕にして、飼って上げるから安心してくれていいわよ」
「……マジかお前ら」
マズい。
忍術だけでどうにかなる気がしない。
俺は分身と言うよりも、本体からの分割に近いから、取り込まれたら、逃げ出さない可能性が高い。
その時、背後から声が掛かった。
「あら、ユウテイ、一人で楽しそうな事してるわね」
闇の中から現れた影
すると、さらに五人が姿を現した。
「ローズ…ブラッディローズ」
闇の中に怪しく微笑むその姿は、どこか浮世離れして、神々しいまでに美しい。
「見つけたわよ、ズールー姉妹」
ローズはそう言って黒い蜘蛛を見上げた。
「ローズ、お前らを待ってたんだよ」
「ローズ、必ず殺すと言っておいた筈だ」
ズールー姉妹が地獄から吐き出した様な声でローズに語りかけた。どうやらお知り合いのようだ。
仲良しでは……無さそうだな。
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