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第14章 氷の剣士
149 風雲急を告げない
しおりを挟むそうだ、まだ暖かかったんだ。
「どうしたんです? ユウテイ、おかわりは?」
「…あ、うん、大盛りで頼むよ」
「はいっ」
あれから馬車を輪形で組み直し、晩御飯を交代で取りながら、周囲の警戒を交代で行っている。
やはり引き返す選択肢は無いらしい。
こういったブラフは、日常茶飯事であり、紛争などでも良く行われる常套手段だからだそうだ。
(だが、あの場所はさっきまで人の居た気配があった)
まるで俺達の事を──正確には俺の事を見計らっていたかの様にである。
「うん、相変わらず安定の美味さですね、セシルさん凄い!」
皆、口には出さずとも緊張が伝わって来る。それでもこれだけ美味いものを提供出来るセシルさんはやはり肝っ玉の太さはアルマンドさん譲りなんだろう。その辺の高ランク冒険者など目じゃ無いな。まあ、エレンやマナは例外として、キャシイやシルビアも少し緊張している様だ。
俺は不死身に限りなく近いバビロニアンだから別格だが、普通の高ランク冒険者をしても、死んだらほぼ復活は絶望的だ。余程の高レベルな僧侶/クレリックや神官/プリーストでも居れば別だが、極端に適正が絞られる上に、レベルアップに必要な経験値も多く、然も信仰心などの素養にも左右される所為で、この世界では回復、治癒、蘇生などを行使するジョブにつくものは稀であり、勇者などの特別なパーティにしか殆ど配属される事は無いらしいから、剣と魔法の支配するこの世界においても、やはり死は常に絶対の真理として少なくとも我々一般人には支配的に振る舞う。
(当然と言えば当然なんだよな)
「て言うか、このポテトサラダが塩胡椒も効いて美味すぎる!」
「ふふふ、アルマンド家に伝わる秘伝のレシピですからね、当然なのです」
その腕前はどう考えても調理師というジョブとして成り立ってるよね?
特別な付与魔法でも掛かってる気がするんだが。
ゼイラムやスグワルド達はあまり食がすすむ気配が無い。無理矢理押し込んでる感じだが、やはりオルグ達は高ランクに相応しく、全く動じるところが無い──いやなくも無いのだろうが、感情を見事に抑制しているのはさすがと言うべきだろう。
ローズ達は全く態度に変化が見られ無い。相変わらず一糸乱れぬその所作は感服すると言うより畏怖の念すら覚えてしまうレベルだ。やはり只者では無い。て言うか戦いたく無い。人間よりも余程モンスターの方が相手にし易い気がする。賞金首狙いや専門に対人戦闘特化を行う者も居るが、やはり人が人に行う残虐行為は異世界に来ても慣れる事は無さそうだ。
俺もかなり酷い目に遭っているのだが、それはこれからも変わりそうに無い。
あの後、ドルクスは呪術に詳しい冒険者を呼び、死体と魔法陣を検証したが
「古い形式なのは分かるが、刻まれているルーンも解読出来無い。何らかの力場を形成するのだけは間違い無いのですが」
「力場か」
ドルクスはそう言って険しい顔にさらに皺を寄せてジッと魔法陣を睨み付けた。
力場ねえ。
宝貝であった【太極図】とかは皆の霊力を集める空間を形成する空間支配の為のマジックアイテムだったけど、それに近い呪術なのだろうか。魔術形式が違い過ぎるから確信は持てないけど。
黒衣の者達が使っていたのとはまた違う気がする。そもそも、奴等が完全に同じ目的を持っているかどうかすら未知数なのだ。
(考えるだけ無駄か)
検証の余地はまだ無い。
目的地まではあと一日半だ。
何らかの接触があるやもしれん。
「見張りの段取りを変える。警戒レベルを上げ、敵襲に備えるぞ」
ドルクスはそうギルドのサポート役に告げ、さらにそれぞれのパーティリーダーにも告げた。
ただ、周囲には殆どモンスターは居なかった。人影もである。特に北から此方に向かって来る者は皆無だったのだ。
すると、ドルクスが俺に耳打ちして来た。
「ユウテイ、お前は召喚術が使えるんだよな」
「さて、何のことだか──」
「おいっ!」
「お任せ下さい」
真顔で怒られた。
感情をそんなに荒立てては事を仕損じますぞ、ドルクスさん。
「遠距離索敵出来るヤツはあるのか?」
レイブン当たりか?
「はい、黒鴉が」
オシリィコシリィ軍団は秘密にしておこう。
「実は墓谷/クレイブバリー周辺の村の近くでは、かねてよりおかしな行方不明事件が相次いでいてな、実際に冒険者達や領主の騎士達も派遣されて調査に当たっていたのだが、何の情報も得られて無かった。だからこそ、こんなな早く討伐隊が編成されたんだ」
実際にはもっと早くから事態が変化していたかも知れ無いのか。
そして手掛かりは無し。
無能なのかしてやられてるのか、判断はつかない。
そして真打登場って事なんだな。
「それに、今はダルシアに兵力が集中しているからな、動かし易いのだ」
それはその通り──て言うかこの辺りの兵力はダルシアに集中していると言っても過言では無い。
狙いはそこに?
いやいや、ダルシアの護りが固まったらかえって困るんじゃ無いの? しかも領主直属の精兵が、これでもかと集められてるんだ。ダルシアを責めるなら不利になったよな。
ダルシアを責めるなら、だが。
「では前方警戒を?」
「頼む、それと、もしも近くの村まで届くならそこも頼む。墓谷近くの街道にあるソーン村だ。この街道に沿って北上するとあるから場所はすぐに分かるだろう。丁度そこに分かれ道があり、街道はそのまま国境へと続く。辺境ダルシアのさらに辺境、国境の村だ」
一キロ圏内はオシリィコシリィ軍団の警戒網を敷いているから、丁度良いな。
「分かりました、では直ぐに」
俺は森の中へ一人入った。
◇
「この辺で良いか」
俺はZuWatchの魔導書/グリムウェルをTAPして幻獣を呼び出しだ。
「サモン:レイブン」
呼び出した魔石が光の粒子となり、黒鴉が現れた。
「クアッ!」
「では頼むぞ」
一声鳴くと、そのまま舞い上がり、森の切れ間から、一路ソーン村へと向かった。
「これで良し」
本来なら幻獣軍団総出演で布陣を敷くところだが、他のパーティも警戒態勢に入っているので残念ながら却下である。
間違って討伐される可能性もあるからな。
高ランクパーティは何でもありだから危険極まりないのだ。
レイブンを見送り、俺は馬車へと戻った。
氷の剣士とのご対面には、紆余曲折がありそうだ。
「嫌な予感──いや、虫の知らせってやつか」
北の空を見上げ、俺はそう呟いた。
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