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第14章 氷の剣士
147 尖兵の告げる事は
しおりを挟む森を抜け、巨大な気配へと俺は迫った。
どうやらただのモンスターでは無いようだ。
それは違和感
強さと言うよりも、悪意と憎悪が混ざり合わさったような独特な感覚が伝わって来る。
「ミスリルリザードやギガントードと同じだ」
誰かが──同じ誰かが手を加えているのでは無かろうか。
同じ敵がさらに手を打って来たのでは無かろうか。
俺は確信めいたものを感じていた。
「……やっぱり来てるな」
そして背後からは、冒険者が様子を伺いに来てるな。
『二人が追撃…いや応援に来ているようです~』
やれやれだ。
さて、本気を出して見ようか!
「さあ!ついて来い!」
俺を襲うのだけはやめてくれよ~
『間も無く接敵します~』
「ついて来てるか!」
『ピタリと!』
《生体電流発動》
《振動発火発動》
少しサービスしてやるか
この二つは忍術の土台にもなる優れものだからな。
素早さと筋力に補正がかかる。魔人化して隠密を行使しているが──
『ついて来てますね~』
さすがは高ランクなだけはある。感知スキルと移動力に長けているのはある意味当然か。
『正面に現れました!』
オシリィがそう言った次の瞬間、目の前に巨大なカマキリが──いや手が、いや、鎌が四つある!
距離が三十メートルまで接近したその時、無造作に鎌の一つを振るうのが見えた。
「えっ!? 遠く──無い!」
遥か遠いはずの間合いから繰り出されたその鎌は、そのまま当たり前の様に大気を斬り裂き、周囲の大木を紙のように両断した。
『ゆう帝!』
オシリィが叫ぶ。
どうやら奴の感知スキルは俺の隠密スキルを凌駕しているらしい。見事に捉えられているな。
寸手で躱し、第二撃を潜り抜けるべく更に接近した。高められた反射速度は大カマキリ/ジャイアントマンティス(昆虫系モンスターの反射速度)をさらに凌駕している。
(止まって──は見えないが)
「喰らえっ!」
俺は泡弾を立て続けに放った。
忍術はまだ温存だな。
て言うか此奴相手にはやめておこう。
三発の泡弾は直撃コースに乗っている。これで奴の対応が見て取れる筈だ。
距離は二十メートル、俺は横に移動し一定の距離を保つべく森の中を移動する。
『追跡者は停止、同じく距離を取り此方を伺う気配です~』
懸命な奴等だが俺をバックアップする気は毛頭無いんだな。俺が気が付いているとは思って無い様だ。いや、敢えてかも知れ無いけれど。
『攻撃来ます!』
その時、大鎌が一閃され、泡弾が斬り裂かれ、さらに追撃が俺に向かい振り下ろされた。
「速い!」
巨体を物ともせず、更に追撃を掛けるべく大カマキリは距離を詰めんと俺に迫る。
あの攻撃は恐らくは風系の風斬、それに今度は直接攻撃を織り交ぜて来た。
「どうやら多少は進化してる様だな!」
その鋭い鎌は周囲の巨木ごと、俺とその一帯を薙ぎ払った。
手加減無しかよ!
ZuWatchから黒鵺を抜刀し、斬り飛ばされた木々の間を潜り抜け、大カマキリに肉薄するべく、森の中を跳ぶ。
(正面から打ち合うのは避けるべきか)
いかな黒鵺とバビロニア製のこの身体を持ってしても、鎌の長さは二メートル近い。ここは奇襲狙いで背後から首の両断を狙うべきだ──と思ったその時、背筋に痺れる様な悪寒が走った。
「…まずいっ!」
その時、振り返りもぜず大カマキリは、背後の俺に向けてその死の鎌を的確に振るって来る。
気配を読んだ? いや、大カマキリにそんな高等な事が出来るとは思え無い。
なら…
「──遠隔操作…憑依か!」
寸手で大鎌から身を躱し、俺はZuWatchから超多重圧縮泡弾を直撃させた。ほぼゼロ距離からの一撃だ躱す事など出来ない。死角から放たれた泡弾はそのまま大カマキリに命中し、連続爆発を起こしその巨躯を吹き飛ばす。
あれ、威力が増してるのは──
『忍術を取得した所為で、水系の操作能力が増していますね~』
やはりそうか。
なんか手触り感が違うと思ったら、予想はしていたが予想以上に破壊力が増している。
「ギギッ ギギギギッ!」
呻き声を上げ、必死に立ち上がる大カマキリはそのまま空へと舞い上がった。
「飛ぶのか!」
『一応は虫ですからね~』
「接近させずに上から遠距離攻撃を仕掛けて一方的に嬲り殺しにするつもりらしいな」
『如何にも人間臭い戦法ですね~実に陰険』
この対応の良さは、やはり眷属支配などの様な緩いものとは一線を画している。
「させんがな」
咄嗟に粘膜を展開し、大カマキリに向かって水遁を放つ。触媒は俺の粘膜から滴り落ちる粘液と強酸性の胃液を混ぜ合わせた逸品を利用し、水遁により操る実に禍々しい水龍鞭だ。
「水遁:溶酸龍鞭!」
『名称を叫ぶ必要は有りませんよ?』
「威力が三割増しになるんだよ!」
『迷信を信じてる!』
だってその方が気合が入るんだよ
放たれだ水の鞭は巨大な奔流となり、大カマキリの羽根を直撃した。体表は昆虫らしく外骨格で覆われ、堅牢だが、その下に収められている羽根は別だ。
強酸性と超粘性を備えたオリジナル忍術は、一度直撃を受けると決して自らの力では引き剥がす事は出来無い。
酸に灼かれ、懸命に引き剥がそうとしてもその粘性の所為で接触した場所を更に灼く悪魔のような忍術は、巨大な大カマキリに累積ダメーシを与え続けるのである。
「グギギギギッ!」
苦悶の声を上げ、そ羽根を灼かれ、空へ逃げる事を封じられた大カマキリはその複眼に俺を捉えたらしい。羽根の灼ける煙が視界を阻害する。
だが
分かる。
その荒れ狂う本能を俺は視覚化出来る程に感じ取っている。
武神に授けられた侍のジョブアビリティの影響が、バビロニアンの知覚能力と合わさり、更に進化している様に思える。
(まだ正式には取得しては無いんだが)
だが、今までよりも刃に力が乗り移っているかの様に錯覚してしまう。まるで刃の先が指の先端になったかの様でもある。
そして黒鵺の特性でもある殺気を極限まで消し去る効果により、その刃はその巨大な鎌をあっさりと両断した。
斬!!!
「ギギギッ!!」
「斬れた!」
吹き飛んだ鎌が宙を舞い、大カマキリは必死に距離を取ろうともがくが、俺の溶酸龍鞭に羽根を灼かれ、飛ぶ事は叶わない。
「……支配が解けた?」
闇雲に大鎌を振るうが、間合いを遠く外れている所為で全く無意味で隙だらけとしか言いようが無い。
まるでテストでもしているかの様だ。
「終了したって事か?」
俺は背後に飛び
「雷遁:雷光弾!!!」
そのまま雷撃を放った。俺の生体電流を触媒にしたその一撃は大ダメージと追加効果であるスタンを大カマキリに叩き込み、完全にその動きを止める。
「悪く思うな」
そのまま首を刎ねた。
転がり落ちたその巨大な首
「これは…」
そこには黒い呪紋が刻まれていた。
「…ボストロールの時よりも進歩してるな」
俺はその呪紋をそっと撫でる。
氷の剣を持つ剣士
「黒衣の者達の仲間か」
『その可能性撃高ですね~それと…』
追って来た奴等は引き返したな。
『はい、やはり助けるつもりは全く無かった様ですね~』
大カマキリは得をしたが
「油断出来無い…と言うかここはダルシアから半日も離れて無いんだぞ」
罠か
それとも誘いか
俺は北の街道の更に向こう、国境のある方向をジッと見据える。
そう、敵は黒衣の者達だけとは限らない。この時代…いや、いつの世も人の心の闇は限りなく深いのだ。
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