上 下
141 / 205
第14章 氷の剣士

141 深紅の薔薇

しおりを挟む


「どうする、参加するか?」
「敵は盗賊団、無名だが、剣士が率いる武闘派らしいしな」
「既に墓谷周辺の村々が襲われてるんだろ?」
「領主の兵は壊滅したらしいな」

 ギルドの執務室から降りた俺は、冒険者達が集まって騒いでいるのに耳を傾けた。参加するかどうかを検討中の様だ。かなりの報酬が得られるらしいが、つまり生命の多寡を測っているという事か。

「参加出来るのは最低でもランクCからなんだぞ」
「あとは推薦を受けるかか」
「ただの盗賊狩りではねえって事だな」

 ランクC
 あれ?
 おれランク外じゃないか?
 キャシイとシルビアも?
 真剣に参加要項を見ている数十人の冒険者達の後ろをそっと通り過ぎながらどうやら俺達が無理矢理連れて行かれるのだと理解する。
 その時点で参加する冒険者のパーティの予測がついた。

(彼奴らしか想像出来ない)

 恐ろしく居心地が悪そう。
 セシルさんのご飯が三食食べれる事だけが救いだ。アルマンド商会は食い意地も一流なんだからな。
 すると、気配を消して通り過ぎ様としていた俺の正面に立ちはだかる者達がいた。
 これは……異世界召喚小説ではおなじみの態度はデカイが実力はイマイチな奴等が難癖をつけてくるってヤツだ──いやそういや俺は既にダルシアに初めて来た時に百人近くに囲まれたか。
 うわぁ 懐かしい
 遥か昔の事の様に思える。
 仕方ない、ここは面倒臭いけど相手になるしかないな。きっと何らかのフラグが立つんだろ。これが盗賊団討伐中のイベントへと──
「きゃああっ!本当に可愛い!」
 はっ!?
「うそっ──! 女の子みたい!て言うか遥かに超えてるわ!」
 へっ!?
「絶対に妹にする!決定よ!」
 突然黄色い歓声がギルドに響きわたる。
 ハッとなり視線を上げると、そこには、まるでレースクィーンかキャンペーンガールと見紛う美女の集団が六人、俺を囲む様に立っている。その服装は恐らくマジックアイテムだから可能なのだろうが最低限の場所しか守られてはいない。それに余程の実力があるらしい。でなければこんな軽装で冒険者稼業など出来ないだろう。どう考えても娼婦や踊り子枠だ。

「お、おい、彼奴らいつダルシアに来たんだ?」
「ホームを移すとは噂になっていたが、まさかダルシアに来るとは」
「しかもこんな時に」

 どうやら有名らしい。
 そりゃこの格好だ、噂は広まるだろうな。

「あなたがユウテイね?」

 そう言ってリーダーと思しき人物が俺に声を掛けて来た。身の丈程の巨大な戦斧を背負い、鋭い眼光を向けて来る。てかその戦斧って振れるのか!エレンの破砕の鉄球並みだぞ。

「そうですね、ユウテイとは俺の事です」
「いやぁん!こんな可愛い顔で子供なのに俺なんて!」
 そう言ってグイグイと俺に接近をして来る。なんだ? 偉くいい匂いがするぞ!こう、大人の女って言うか、なんかほわ~ってなる──おいこれってまさか魅了かなんかのスキルじゃ!?
「何の騒ぎ!」
 その時、二階から耳慣れたツンツン声がした。
「クロちゃ──いやギルドマスター!」
「ユウテイ!いまクロちゃんて言おうとしなかった? したよね? 間違いなく!」
 顔を真っ赤にして怒ってる。
 訂正、ツンツンでは無くプンプンだった。
「いやいや……誤解ですよ」
「何その間は!ギルマスを舐めた事したらどんな目に──」
「お久しぶり、お姉様」
 その時、女達の間を分け、一人の凄まじい美女が前に出て来た。巨大な胸はどう考えても鎧では覆いきれずはみ出そうである。くっ!視線が、タゲが取られる!ソロモン王のヘイト効果並みだぞ。

「貴女と姉妹の契りを結んだ記憶はないけど、取り敢えず気が進まないけど歓迎するは。何しろランクBの冒険者パーティがホーム変更をしてまでこのダルシアに乗り込んで来たんですものね」
「冷たいわね~昔はあれほど仲が良かった──」
「昔の事よ!」
 慌ててギルマスが会話を止める様子から、何れにせよ黒歴史である事は間違い無さそうだ。
 う~む、気になる。

「本当はあまり乗り気じゃ無かったけど、あの有名な領主様の直々のご指名だもの、断る理由は無いわね」
「……ダルシアは今大変な時だこら、領主様の慧眼には感服するしか無いわね。普通なら王都のギルドが必死の引き留め工作するとこなんでしょうけど、この国で一番の被害を出したダルシアへの移籍なら、ギルドも大っぴらには動けないでしょうから」

 う~む、言葉の端々から敵意にも似た感情が溢れている気がしてしょうがない。
 どちらも美人だが、一癖も二癖もありそうだ。
 光沢のある銀色の髪を束ねているクローディアとは対照的に、見事な金髪で豊満な肉体をこれでもかと露出しており、その迫力に圧倒されそうだ。
 クローディアがモデルの様な凜とした美しさなら、言い方は悪いが目の前の美女は妖艶な、どこか蠱惑的な瞳と相まって娼婦の様な淫靡さが際立つ。事実、ギルドの中にいた男達はみな視線を奪われ身動ぎ一つせず二人のやり取りを注視している。
(こわ!めちゃこわ!)
 だが俺はその程度では陥落しない。何しろエレンやキャシイやシルビアやセシルさんに囲まれて美人慣れしてるもんな。

「そんなに私の胸が気になるのかしら」
「!!! しまった!結局ガン見してた!」

 恐るべきハニートラップだ。
 視覚ハメタイプの幻術だと断言する!俺は悪くないから!

「 私達は【深紅の薔薇】と言う女だけのパーティを組んでるのよ。ユウテイ…で良かったのかしら? 私はローズ、人はブラッディローズと呼ぶわ。これから宜しくね」

 そう言って手を差し出して来た。得物は持っていないが、女だけならヴァルキリー系の魔法戦士なのかも知れない。確か女には補正がついたような気がする。ゲームの話だが、巧みにゲームシステムを取り入れているようなこの世界ならおかしくは無いだろう。男女の差別化が図られている可能性は高い。
 俺は差し出されたその華奢な手に目を引き寄せられた。無骨な鍛え上げられた手を想像していたが、信じられない整った手をしてる。
「えっと…俺はユウテイと──」
「私はエレクトラ、エレンとお呼び下さい。ユウテイ様の一の使徒です」
「私はマナ、ユウテイの飼い主よ。これからユウテイに用がある時は私を通して貰おうかしらね。飼い主として放し飼いには出来ないもの」
 そう言ってな俺の背後から二人が手を伸ばし、ローズさんの美しい手を強奪しまった──てかどこから見てたんだろう。
 俺の飼い主を名乗る放浪ダンジョンの妄言はさておき、飛び散る火花が余りにも激しく実体化しそうなレベルである。これもモテ期の一つなのだろうか?あまりの殺気に足が震えそうになるのを必死に抑え込み、視線を合わす事が出来ない自分に気がつく。

「おかえりが遅いのでお迎えに上がりました」
「ユウテイは私の物なんだから勝手に余計な事をしない様に釘を刺しにきたわ」

 飼い主から少し軟化した様だ。
 そして、俺はランクBを超える武闘派美女に囲まれ、トラウマになりそうなハーレムの雛型を味あわさせされていた。

 ダルシアに再び嵐が捲き起こる予兆が、特に俺の周りで広がりつつある事は間違い無い。違う意味でのだが。
 そして男達の刺す様な嫉妬と羨望の眼差しは殺意のこもった本気のものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クリ責めイド

めれこ
恋愛
----------  ご主人様は言いました。  「僕は、人が理性と欲求の狭間で翻弄される姿が見たいのだよ!」と。  ご主人様は私のクリトリスにテープでロータを固定して言いました。  「クリ責めイドである君には、この状態で広間の掃除をしてもらおう」と。  ご主人様は最低な変態野郎でした。 -----------  これは、あらゆる方法でクリ責めされてしまうメイド「クリ責めイド」が理性と欲求の狭間で翻弄されるお話。  恋愛要素は薄いかも知れません。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...