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第14章 氷の剣士
141 深紅の薔薇
しおりを挟む「どうする、参加するか?」
「敵は盗賊団、無名だが、剣士が率いる武闘派らしいしな」
「既に墓谷周辺の村々が襲われてるんだろ?」
「領主の兵は壊滅したらしいな」
ギルドの執務室から降りた俺は、冒険者達が集まって騒いでいるのに耳を傾けた。参加するかどうかを検討中の様だ。かなりの報酬が得られるらしいが、つまり生命の多寡を測っているという事か。
「参加出来るのは最低でもランクCからなんだぞ」
「あとは推薦を受けるかか」
「ただの盗賊狩りではねえって事だな」
ランクC
あれ?
おれランク外じゃないか?
キャシイとシルビアも?
真剣に参加要項を見ている数十人の冒険者達の後ろをそっと通り過ぎながらどうやら俺達が無理矢理連れて行かれるのだと理解する。
その時点で参加する冒険者のパーティの予測がついた。
(彼奴らしか想像出来ない)
恐ろしく居心地が悪そう。
セシルさんのご飯が三食食べれる事だけが救いだ。アルマンド商会は食い意地も一流なんだからな。
すると、気配を消して通り過ぎ様としていた俺の正面に立ちはだかる者達がいた。
これは……異世界召喚小説ではおなじみの態度はデカイが実力はイマイチな奴等が難癖をつけてくるってヤツだ──いやそういや俺は既にダルシアに初めて来た時に百人近くに囲まれたか。
うわぁ 懐かしい
遥か昔の事の様に思える。
仕方ない、ここは面倒臭いけど相手になるしかないな。きっと何らかのフラグが立つんだろ。これが盗賊団討伐中のイベントへと──
「きゃああっ!本当に可愛い!」
はっ!?
「うそっ──! 女の子みたい!て言うか遥かに超えてるわ!」
へっ!?
「絶対に妹にする!決定よ!」
突然黄色い歓声がギルドに響きわたる。
ハッとなり視線を上げると、そこには、まるでレースクィーンかキャンペーンガールと見紛う美女の集団が六人、俺を囲む様に立っている。その服装は恐らくマジックアイテムだから可能なのだろうが最低限の場所しか守られてはいない。それに余程の実力があるらしい。でなければこんな軽装で冒険者稼業など出来ないだろう。どう考えても娼婦や踊り子枠だ。
「お、おい、彼奴らいつダルシアに来たんだ?」
「ホームを移すとは噂になっていたが、まさかダルシアに来るとは」
「しかもこんな時に」
どうやら有名らしい。
そりゃこの格好だ、噂は広まるだろうな。
「あなたがユウテイね?」
そう言ってリーダーと思しき人物が俺に声を掛けて来た。身の丈程の巨大な戦斧を背負い、鋭い眼光を向けて来る。てかその戦斧って振れるのか!エレンの破砕の鉄球並みだぞ。
「そうですね、ユウテイとは俺の事です」
「いやぁん!こんな可愛い顔で子供なのに俺なんて!」
そう言ってグイグイと俺に接近をして来る。なんだ? 偉くいい匂いがするぞ!こう、大人の女って言うか、なんかほわ~ってなる──おいこれってまさか魅了かなんかのスキルじゃ!?
「何の騒ぎ!」
その時、二階から耳慣れたツンツン声がした。
「クロちゃ──いやギルドマスター!」
「ユウテイ!いまクロちゃんて言おうとしなかった? したよね? 間違いなく!」
顔を真っ赤にして怒ってる。
訂正、ツンツンでは無くプンプンだった。
「いやいや……誤解ですよ」
「何その間は!ギルマスを舐めた事したらどんな目に──」
「お久しぶり、お姉様」
その時、女達の間を分け、一人の凄まじい美女が前に出て来た。巨大な胸はどう考えても鎧では覆いきれずはみ出そうである。くっ!視線が、タゲが取られる!ソロモン王のヘイト効果並みだぞ。
「貴女と姉妹の契りを結んだ記憶はないけど、取り敢えず気が進まないけど歓迎するは。何しろランクBの冒険者パーティがホーム変更をしてまでこのダルシアに乗り込んで来たんですものね」
「冷たいわね~昔はあれほど仲が良かった──」
「昔の事よ!」
慌ててギルマスが会話を止める様子から、何れにせよ黒歴史である事は間違い無さそうだ。
う~む、気になる。
「本当はあまり乗り気じゃ無かったけど、あの有名な領主様の直々のご指名だもの、断る理由は無いわね」
「……ダルシアは今大変な時だこら、領主様の慧眼には感服するしか無いわね。普通なら王都のギルドが必死の引き留め工作するとこなんでしょうけど、この国で一番の被害を出したダルシアへの移籍なら、ギルドも大っぴらには動けないでしょうから」
う~む、言葉の端々から敵意にも似た感情が溢れている気がしてしょうがない。
どちらも美人だが、一癖も二癖もありそうだ。
光沢のある銀色の髪を束ねているクローディアとは対照的に、見事な金髪で豊満な肉体をこれでもかと露出しており、その迫力に圧倒されそうだ。
クローディアがモデルの様な凜とした美しさなら、言い方は悪いが目の前の美女は妖艶な、どこか蠱惑的な瞳と相まって娼婦の様な淫靡さが際立つ。事実、ギルドの中にいた男達はみな視線を奪われ身動ぎ一つせず二人のやり取りを注視している。
(こわ!めちゃこわ!)
だが俺はその程度では陥落しない。何しろエレンやキャシイやシルビアやセシルさんに囲まれて美人慣れしてるもんな。
「そんなに私の胸が気になるのかしら」
「!!! しまった!結局ガン見してた!」
恐るべきハニートラップだ。
視覚ハメタイプの幻術だと断言する!俺は悪くないから!
「 私達は【深紅の薔薇】と言う女だけのパーティを組んでるのよ。ユウテイ…で良かったのかしら? 私はローズ、人はブラッディローズと呼ぶわ。これから宜しくね」
そう言って手を差し出して来た。得物は持っていないが、女だけならヴァルキリー系の魔法戦士なのかも知れない。確か女には補正がついたような気がする。ゲームの話だが、巧みにゲームシステムを取り入れているようなこの世界ならおかしくは無いだろう。男女の差別化が図られている可能性は高い。
俺は差し出されたその華奢な手に目を引き寄せられた。無骨な鍛え上げられた手を想像していたが、信じられない整った手をしてる。
「えっと…俺はユウテイと──」
「私はエレクトラ、エレンとお呼び下さい。ユウテイ様の一の使徒です」
「私はマナ、ユウテイの飼い主よ。これからユウテイに用がある時は私を通して貰おうかしらね。飼い主として放し飼いには出来ないもの」
そう言ってな俺の背後から二人が手を伸ばし、ローズさんの美しい手を強奪しまった──てかどこから見てたんだろう。
俺の飼い主を名乗る放浪ダンジョンの妄言はさておき、飛び散る火花が余りにも激しく実体化しそうなレベルである。これもモテ期の一つなのだろうか?あまりの殺気に足が震えそうになるのを必死に抑え込み、視線を合わす事が出来ない自分に気がつく。
「おかえりが遅いのでお迎えに上がりました」
「ユウテイは私の物なんだから勝手に余計な事をしない様に釘を刺しにきたわ」
飼い主から少し軟化した様だ。
そして、俺はランクBを超える武闘派美女に囲まれ、トラウマになりそうなハーレムの雛型を味あわさせされていた。
ダルシアに再び嵐が捲き起こる予兆が、特に俺の周りで広がりつつある事は間違い無い。違う意味でのだが。
そして男達の刺す様な嫉妬と羨望の眼差しは殺意のこもった本気のものだった。
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