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第13章 ダルシアの秘密
137 最深部にして最新部
しおりを挟む無数に蠢く刺突触手はまるで水の中に揺らめく海藻のように見える。通常の物理法則をあからさまに無視したその動きは、何らかの魔力付与が施されている事を如実に物語っており、じっと俺とソーディアンを伺っているようだ。刺突触手一つ一つがまるで意思を持っているかの様にすら思えてくる。
(何者かが仕掛けているトラップっぽい──いやこの地精の無限洞窟最深部でそれは無いか)
ギカントードにしてもそうだったが、このダルシアに現れる上位モンスターには一手間加えられている輩が多い気がするな~
やはり転生者か召喚者が何らかの関与をしているのは間違いないだろう。そしてあの黒衣の者達に関係している可能性が高い。どうやらこの世界では単なる脳筋召喚者ばかりでは無いようだ。
サエグサも人形使い/ドールマスターの適正を持っていたみたいだし──だが黒の呪いを受けていたな。弱い者だけがその影響を受けると思っていたが、考えていたが、ジャムルも黒の呪いに掛っていたのだから、可能性は誰にでもあるという事だろうか?
俺はじっと貴石エレメンタルを見据えながら、感染爆発の可能性に疑念を抱き始め──ていたそこへ刺突が弾幕となり襲い掛かって来た。どうやら待ちハメ戦法では無いらしい。あぶな!
「エイジスの盾をなめんなよ!」
絶対防御を選択し、俺は敢えて弾幕へと飛び込んだ。それに呼応するようにソーディアンもその大剣を振るい斬りかかっていく。PASが繋がっている所為で連携はほぼ完璧だと言って良いだろう。一薙ぎで刺突触手十本近くを斬り飛ばし、さらに飛び込んだ。
(剣鬼の名は伊達じゃ無い!)
身の丈を超える大剣を小枝の様に振るい、接近する剣鬼に貴石エレメンタルが意識を取られたその瞬間、俺は地を蹴り、一気に間合いを詰めた。エイジスを盾に、突貫を仕掛け、ドラッケンを最大荷重でその本体目掛けて叩き込む。
「どりゃあああ!」
一度に操れる刺突触手には限界がある筈だ──と読んでの奇襲に反応が遅れた貴石エレメンタルは数本の刺突触手を展開するが、全てをエイジスで弾き返し、俺は本体に直撃させた。
ギンッ!!!
「金属音!まさか!」
貴石エレメンタルには似つかわしく無い硬質な音が俺を戦慄させる。
「ちっ!ハメられたか!」
俺は咄嗟に身を翻し、全く殺気を感じさせ無い攻撃に備えた。
(エレメンタル系は感情の起伏が少ない所為か読みにくいな)
そこへ追撃が来た。
見えない大気の刃が床を斬り裂く。恐らくは透明化した刺突触手の──奥の手ってヤツなの?
貴石エレメンタルの癖に侮れん戦略性じゃないか。やはり何者かの手が加わっているとしか思えない。
紙一重で躱した俺は牽制の泡弾を放ち、 さらに小泡弾を大量生成し、貴石エレメンタルの前方に壁のように展開させた。
(恐らくは透明化しているのは一本のみだ!)
俺はエイジスをさらに展開し再度突貫を仕掛ける。
「どっからでも掛って来い!」
出来たら前方から頼む。
それと透明化じゃなくて実は短距離空間転移とかやめてくれよ!
意を決して飛び出した俺に再び刺突触手透明化仕様が右上方から襲い掛かって来た。
小泡弾が破裂していくのが視界に入る。
(やはり触手か)
俺は瞬間的に軌道を察知し、そのまま紙一重で躱し自らも小泡弾の壁に突っ込む。俺は自らの小泡弾を無効化出来るのだ。
「うおおおおおおおっ!!!」
牽制でタイミングを合わせ飛び出したソーディアンに対応した所為で、俺に対する反応が一瞬遅れた貴石エレメンタルは刺突触手を展開しようとソーディアンから引き戻そうとするが、あまりのソーディアンの猛攻に迂闊に引き戻す事が出来ず、俺の前方には数本の刺突触手が展開するのみだった。
再び大剣で刺突触手を薙ぎ払うソーディアンとほぼ同じタイミングで俺はドラッケンを真っ直ぐに貴石エレメンタルの本体に叩き込む事に成功した。
「最大荷重を喰らえ!」
ヌルンッとした手応え
核を貫いたか!?
貴石エレメンタルが一瞬だけ激しく脈動する。
(……いったよな?)
そして水塊となったように地面に崩れ落ちていった。
どうやら琥珀を破壊せずに済んだようだ。握りこぶしほどはあるその黄色い貴石は粘性のある水溜りの中でゆっくりと明滅している。やはりかなりの魔力を溜め込んでいるのは間違いないだろう。
「そっちも終わったみたいね」
マナがそう言いながら回収したサファイアとルビーを両手に持って近付いて来た。どうやら爆散した宝石をなんとか集めて終わったらしい。派手にぶっ飛んだからな~
かなりの宝石を見つけたようでエレンは脇目も振らず集めまくっている。
どうやらあの二体に集約されていてのか、残りは小さなエレメンタルが僅かに纏わり付いているに過ぎない。
数十分掛けて俺たちは大量の宝石と、貴石を回収する事に成功した。
貴石エレメンタルと宝石エレメンタルの魔石も二つ手に入れ、さらに鉱石エレメンタルの魔石に魔法金属の鉱石も大量に回収出来た所為で、俺とエレンとマナはご満悦である。
ひと財産出来たよね!
夢が広がるな~
黒衣の者達やダルシアの領主も気になるが、思わず笑みが零れるのも仕方ない事だね。
「この二個の、宝石エレメンタルと貴石エレメンタルの魔石も役に立ちそうだしな」
ここは吸収してバビロニアンとしてのレベルアップを目指すべきだな。幻獣は順調に増えてるしな。予想外の加入もあったが、増え過ぎて管理に困るレベルだし、バランス的には俺のレベルアップを目指すのが正解だろう。
エレンとマナも回収出来る全てをその手に収めご満悦である。
「これでシスターズを復活できるわ」
「大量の魔法金属はゴーレムの素材にもなります。レギオンゴーレムの支配下に置いて魔操兵団を創るのもオススメです」
あ~でもないこ~でもないと三人で話し込んでいる足元を、毛玉がコロコロと通り過ぎて行った。
「……えっ!?」
「……ノーム?」
「……でも数が」
一匹だけでは無かった。
まるで騒動を聞き付けて様子を伺いに来たとでも言わんばかりに実にデカイ態度で俺達を伺っている。
そしていつの間にかその数は十倍近くにまで膨れ上がっている。
毛玉がまるでマスゲームでもするかの様に離合集散を繰り返し、一つの生き物の様にも見える。
そして戦闘の終わった後をしきりに調べあげているようだった。
そうか、ここは地精/ノームの領域なのか。地精の無限洞窟の支配者は我々ではなく目の前の毛玉のようなリス……では無くてこの地精/ノームなのだ。
「……読んで…る?」
地精/ノーム達が一斉に最深部にして最新部へと向かって動き始め、そしてジッとこちらを見つめ何かを伝えて来る。
「……ついて来いって事なのか?」
俺達は地精の無限洞窟最深部へと誘われたようだ。
……嫌な予感がするが
俺達は地精達の後を追う事にした。
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