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第18章 ローハンに吹く風
206 後始末
しおりを挟む『ようやく終わったみたいね』
『はい、彼奴等は所詮召喚されし者共、召喚者が逃げ出せばあとは自滅するしかありませぬ』
激賛の後の城壁に立ち、ネフィリムとククリがダルシア平原を見つめながら周囲の気配を探っている。
どうやら危機は去ったようだ。
ソロモン王はさらに黒衣の者達が魔法陣を展開した場所も調べようと移動を開始したようで、合わせてゴルドバとエメラルダスも周辺を探るべくセンチュリオンと堕姫達を放っている。
もの凄い数の魑魅魍魎が徘徊しているがかなり距離があるので気が付くのは余程の術者くらいだろう。
『さて、俺はアルマンド商会に戻り様子伺いして来る。ネフィリムとククリはレギオンゴーレムとホムンクルスに後を任せて待機だ。一応警戒態勢は維持する』
2人はPASを通じ了解した。
幻獣はどうしようか。
持って来とくんだったな。
今は紅に偽装してるからギルドには寄れんし、暫くはこっそり隠れとく必要がある。この姿はセシルさんにも内緒にしとこう。
こっそりとアルマンド商会に戻り、ホムンクルスの一部とレギオンゴーレムの一部を回収し、城壁に戻り、破壊された城壁の一部に向かった。
ここが一番の激戦区になったのだ。
死んだ者や怪我人を運び出し、城壁の応急処置を急ピッチで行なっている。市民も手伝って何とか壁を修復しようとしてい?のが見えた。
「これだけの大仕掛けだ。すぐに襲って来るとは思えないがそんな事は言ってられないんだろうな」
ここの所の騒動でかなりダルシアは疲弊している。人的にも経済的もだ。
奪われた星の転移門の聖遺物が何なのか。オブシディアンやダイアモンドなんかの聖石系関連で繋がりがあるはずだが、それが何なのか、何を意味するのかまではまだ分からない。
寡兵で何を企んでるのか。
周囲にホムンクルスを配置し、壊れた城壁にレギオンゴーレムを潜り込ませた。
いざという時には周囲の壊れた瓦礫を集めて壁の一部になる予定だ。今は見せられたないからな。
『…暫く本体には戻れないな』
目立たぬように城壁の近くを監視しつつ警戒態勢を取る事になるだろう。
「大陸中で同じような事が起こっているらしいが、情報を集めるのは難しい。ローランドから更に周辺国に分身体と幻獣を送り込む必要がありそうだな」
壊れた瓦礫の撤去が行われている城壁から外を見て、溜息を吐きながら俺はそう呟いた。
◇
森の深奥
人も入り込めぬ危険な樹海の中に、太古の遺跡があった。正確には遺跡の周りに森が広がったのではあるが、それを知る者は遥か昔に途絶え、それから既に数千年の月日が流れていた。
たがそこに魔法陣が忽然と広がり、光の粒子が人型を形成していく。5つの人影が遺跡に現れ、さらに奥へと進んで行った。
地下にある、円を描くように巨石が連なる祭場の中央に待つのは2つの人影だった。少なくともその形状は。
2つの影の前に揃った5人。その中のリーダーと思われる者が前に歩み出ると、そっと厳重に箱に納められている何かを手渡す。
それは【トパーズ】である。
ダルシアの【星の転移門】から奪い取った聖遺物の1つ。
それを確かめる2つの人影は、そっと中身を確認し、安堵した。
「国王の手に渡るのは阻止できたわね」
「ふむ、ただイズァルドとの約定にある通り、預かりではあるがな」
「星守りの一族とは言え、彼奴は何を考えているのか全く分からぬ」
2人の前に、大剣を背負った者と、その横に小さな魔法紋が縫い込まれた皮袋を手にした者が歩み出る。
「【アメジスト】をお返しします」
それを手に取る影
「声は聞こえずか」
「残念ながら」
箱を手渡した者はそう言って首を横に振った。
「残念ながら仕方ありませんね」
その時、1人の男が歩み出る。
「ダルシアに現れた召喚者の件について報告があります」
「噂の新人冒険者か」
「かなりの美少年とか。一度見てみたいものよの」
「既に王都では争奪戦が始まると噂されております。貴賎老若男女問わずに。ただし、その能力は恐るべきものでした」
「ほう、噂に違わずか」
「はい、自らの能力は妖術や忍術に近いものですが、ほぼ不死に近い回復能力だけでなく、何らかの召喚術を保持しておるらしく、凄まじい数の魔獣や人や亜人、アンデッドを従えております。今のところその能力を特定出来るだけの情報は得られておりません」
そして、【アメジスト】を手渡した男がこう付け加えた。
「ダルシアに別の組織の者達が入り込んでいました。仮面を付けた暗殺者の集団でした。恐らくはアサシンギルドだと思われます。かなりの実力者なのは間違いありませんでしたが、狙いは星の転移門では無く、どうも孤児院の居る教会だったようです」
「…アサシンギルドか、また厄介な」
「それと、ズールー姉妹が手酷くやられたようです。その召喚者が仕掛けたと思われます」
「いずれにせよ、散逸した聖遺物をそのままには出来ぬ。ズールー姉妹がどうなったかは別にして、その召喚者もいざとなれば仲間に引き込むか、封印するか、我ら星守りの役割は変わる事はない」
「では次の命を伝える」
2人は5人の者達に告げる。
この世界の影に存在する【星守り】達の目指す聖遺物の封印。その為に、多くの召喚者、転生者、漂流者を隈なく集められたその組織は、いくつかの組織と時に争い、時に手を取り合い、この世界、ユグドラシルを影から支えて来たのである。
◇
『残念ですね、姫騎士を追って来た亡霊騎士達は何処にも痕跡がありませんか』
使い魔が何やらケルティの膝の上に降り立ち、何かを伝えていた。何も得るものが無い事を確認し、そっと魔力に還元して掌にある紋章に引き戻す。
そして周囲に群がっている鳥や獣達に視線を移す。ジッとケルティを見つめている緑色に輝く無数の眼は夜の森に不可思議な静寂を撒き散らしている。
さらに近くに大きな白いフクロウが舞い降りて来た。何らかのの魔力を行使するフクロウはケルティに何かを伝える。
交錯する視線
緑色の瞳が緩やかに明滅していた。
『実に用心深い』
森の中で、ケルティが思わず呟く。
『転移石で5回以上跳ぶとは、かなり周到に用意していたのでしょうね』
ユウの後をつけ、ローハンへと向かおうとした者達を退けたケルティは、そのまま森の中から墓谷から転移した者達を追跡していた。
『氷の宝剣を所持しているお陰で何とか追い切れましたが、でなければとても辿り着けませんでしたね』
そしてジッと北を睨んだ。
氷の宝剣を奪い取り、いくつもの偽装を繰り返して辿り着いたのは遥か北の凍土地帯の手前だった。
『そのような不毛の地に何を?』
そして、その時居合わせた裏切り者と裏切られた者のうち、裏切られたと思われる神官は逆に他の国へと移動していた。
『こちらは壊滅させられた戦力を補強し直しているのでしょうね』
そして、今はどちらも動きを止め沈黙を守っている。
この大陸全土に強引に広げたケルティの動植物のネットワークを持ってしても、これ以上の追跡は流石に困難になりつつあった。
『ドルイドリンクを利用するしかなさそうですね。このまま放置はできません』
森の賢者と言われるドルイドであるケルティ。その広域探索能力はこの世界でも随一であろう。それを恐れ、仕えた王に罪をなすりつけられ火あぶりにされた過去は数百年前の出来事だ。
その力を再び役に立てられる時が来るとはついぞ思わなかったケルティ。
『マスターのお役に立てるのは嬉しい限りですが、流石に限界のようですが、簡単には手を上げる訳にはまいりませんね』
森の上で巨大な猫とも兎ともつかぬ獣の上で座っているケルティは溜息を吐き──
『では北へ』
その声に頷くように身を震わせ、その獣は森の木々の上を飛ぶように走り出した。そして、夜の森を駆け抜けるその姿を、周囲にいた鳥や野ネズミ達が微動だにせず見上げていた。その瞳はケルティと同じみどり色に輝いている。
ケルティが去った直後、瞳の緑が失せると、全ての獣達は何事もなかったかのように森の中に散っていく。静まり返っていた森に普段の夜がやって来た。
ケルティの罠にその命を落とした追跡者も遠からず獣達に始末される事だろう。何が起こったのか、それを知る者はもういない。
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