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第12章 探索依頼 太古の遺跡都市…と見せかけて
123 激突!!!!!!!!!
しおりを挟む「…全てを開け放つとはな」
ダルシアの中心にある【天の門】と石柱の前に、その男は仲間を引き連れ立っていた。そこは中央広場の真ん中にあるランドマーク的な遺跡の一つで、その最奥には地下へと続く迷宮があると言われているが、特にモンスターが現れる訳でも無いので、この街を切り開いた元の領主により、ダルシアが造られた時から封印されていたと言われている。
ダルシアに住む者にとっては馴染み深い遺跡であり、幾重にも取り囲む壁の様な構造物も一説によれば外敵の侵入を防ぐ城砦としてと言うより、内部から外へ逃さぬ為の防護壁の役割を果たしていると研究者達は予想していた。
長い月日により半分以上が喪失しているダルシアの内側にある城砦跡ではあるが、上に登る為の階段が中からでは無く、外から内側を伺うように造られていたからだった。最外周の城砦はさすがに内側に階段が設えられているのだが、多くの研究者はこのダルシアが何かを封じ込める為にあったと結論づけていた。そう、最外周の城砦は何かを封じているダルシア遺跡の奥を護るために造られたのだと。
そして今、ゆう帝の命に従い開け放たれた地下への侵入路は、ほんの少し前までは数十名の衛兵が護っていたのだが、正門に侵入者があった所為で殆どが掻き集められており、残ったのは僅かに三名しか居なかった。
そして此処にやって来たのは【太古の遺跡都市】で損害を出し這々の体て逃げ帰った悠久の風のパーティメンバーである。あくまでも見た目は──ではあるが。
「なんだ? お前ら持ち場はどうした? 」
「……三人か」
「おい、なぜ答えない? 今は緊急召集で全員呼び出されている筈だぞ!」
「黙らせろ」
その言葉に仲間の男が矢を次々と放っていった。
三人の衛兵も反撃を試みるがあっという間に斬り伏せられていく。悠久の風は探索メインのパーティで生粋の武闘派では無い。
「随分と腕を上げたのね」
「!!! なに!」
その瞬間六人居たパーティメンバーのうち三人が吹き飛ばされ宙を舞った。
何の前触れも無く──である。
「よほど良い経験を【太古の遺跡都市】で積んだのね。ギルドマスターとして是非に詳細を聞かせて欲しいわ。パーティリーダーのロダムとか言ったわよね。ちゃんと自分の名前くらい覚えてるんでしょうね。ランクDにしてはやけに強そうだし何だか別人みたいに見違えたわね。さあ、説明して貰えるのかしら」
「……何のスキルかは知ら無いが過激なギルドマスターだな」
「最近予定外の出来事が多くてナーバスなの。怒らせない方がいいわよ。ああ、もう手遅れかも知れないけどね」
クローディアは六人のギルド専属の冒険者を従えていた。そしてその全てが女であり、皆何らかのマジックアイテムを携えている。そして手練れの魔道士らしく既に全員が魔力を高め臨戦態勢を整えいつでも攻勢に出る構えであった。
「知らなかったよ、ギルドに慰安部隊があったなんてな。ハニートラップでも仕掛ける気か」
「私の親衛隊なの。普段はちゃんとお仕事して貰ってるのよ? でも貴方はやっぱり偽物ね。みないつもの看板受付嬢なのに反応無しって寂しいわね~もうお世話する事も無いでしょうけどね」
「ふっ、それはどうだか──うおっ!」
その言葉を遮る様にクローディアが手を翳すとそのまま男は吹き飛ばされ、そのまま遺跡に叩き付けられた。男も何らかの障壁を展開しているのか、致命傷では無い様だか…
「余計なお喋りはお断りさせて頂くわ。何しろダルシアは今大忙しなのよ。さあ、喋って…貰わなくても結構よ、テナ!」
クローディアはゆう帝を審査した魔眼持ちであるテナを呼び出した。
「私よりもテナの方が尋問は得意なの」
「は、はひぃ!が、がんばりまふ!」
相変わらず緊張して噛みまくっているが、どうやらそれは性格の様だった。
だが実際にはクローディアも精神掌握を仕掛けていた。実際にテナは高位の精神感応スキル、地球で言うところのテレパシーを操るレアなスキルホルダーではあるが、今でこそ第一線を退いてはいる現役時代は辺境の魔女と恐れられたクローディアとは比べることは出来無い。その過去を完全に隠蔽しており知る者はドルクスと領主以外居ないが。
決して油断はしない。
手をこまねく事はしないが勇み足とならぬのは過去の経験の為せる業と言えるだろう。
失われた一族の最後の一人であるクローディアは血みどろの人生の果てにその力を開眼し、その全てを封印してある取引の結果としてこのダルシアを護っているのである。
それを受け入れる冒険者ギルドもまた言わずもがな…ではあるが。
その時、吹き飛ばされて倒れていた筈の男が瞬身のスキルを発動した。有り得ない速度で数十メートルの間合いを一気に詰めた男はその長剣を抜刀しテナの首を刎ねた。
「!!! テナっ!」
宙を舞うテナの顔は事態を理解出来ぬ唖然としたものだった。それほどのまさに閃光と呼ぶに相応しい一撃だった。そのあまりに滑らかな剣尖の所為でテナはその場で崩れ落ち、その上に宙を舞った愛らしい首がボトリと肉塊となって転がっていった。
まるで噴水の様に血が噴き出し地面を染め上げていく。
身じろぐ事すら許さぬ斬撃。
相手がクローディアで無ければではあるが。
「急げ、遊んでる暇は無い」
次の瞬間、ロダムと呼ばれた男は魔力を発しクローディアの呪縛を消し飛ばした。
その身体からは銀色に光り輝く線虫のような物がおぞましくも這い出ていた。それは間違い無く何らかのマジックアイテムではあるが、クローディアをしても、見たことが無い奇異な物だった。
「お前だけがレアなスキルを持ってると思うなよ。悪いがお前の精神掌握/メンタルアクトは俺達には通用せんぞ」
どうやら何らかの対策を施しているらしくその顔には自信が溢れている。
そしてロダムはその顔を脱ぎ捨てた。どうやら何らかのマジックアイテムだったのか、外法の一つであろうか、パーティの者達は皆その肉で出来た何かを剥ぎ捨てたのである。肌の色すら違う者達は悠久の風の者達では無い。恐らくは口に出すのも躊躇われる陰惨な技が用いられ、もはや生きてはいまい。恐るべき隠形の技の犠牲になったのだ。
「……中々にやってくれるわね」
「これからだがな」
そう言うと背後に控えた男がポトリポトリと宝玉を地面に落とし、何かを唱えた。
(速い! あれは何かのコア? という事は)
クローディアが仲間に指示を出そうとしたそれよりも僅かに早くその異形の者達は姿を現した。
「ゴーレム…呪術士/ウォーロックね」
四本の腕を持った魔像が大地より屹立した。
八体のゴーレムはクレイゴーレムやストームゴーレムでは無く金属の光沢を持ったアイアンゴーレムだった。
「悪いがここで死んで貰おうか」
「残念ね、私は忙しいし野暮な男の相手をさせられるのは真っ平なのよ。テナ、解析は出来た?」
その時、テナと呼ばれた首を刎ねられた死体がピクリと蠢いた。
そして…ゆっくりと起き上がる。
「はい、この男は呪術士ですがスキルには具現化系上位を保持しています。ゴーレムコアは予め用意していますがゴーレムの身体を形成する素材/マテリアルは魔力により大量生成したようです。瞬身使いは剣士ですが風魔法寄りで身体能力強化を主体とした魔法剣士が正解のようです。蟲使いはミスリルを基にした使い魔を体内に巣食わせ精神掌握を受けた時に解除する役割もおっています。事前にクローディア様のスキルを調べ上げ対策を施していた様です。よって正門前の敵よりも此方の方が遥かにランクの高い者達なのは明白です。つまり──」
「本命はやはり此方って訳ね。ムカつくわ! ユウテイの言う通りだったとはね」
唖然として動きを止めた男はクローディアを睨んだ。
「随分と禍々しいスキルを使ってるようだな」
「あんたには言われたく無いけど人前で私の魔法少女を見せたのは五年振りくらいかしらね。見た目はイマイチかイマサン位だけど腕はあるみたいね。大概に下品だけど」
テナと呼ばれた少女の首は肉が盛り上がり元の様に繋がり始めていた。そしてクローディアが率いる残りの女達も気にする素振りも無い。だが一人一人にネックレス、イヤリング、ブレスレットやアンクレットと差異はあれど皆何らかの同質の魔力を放つ宝玉を身に付けていた。ほんの僅かな物なので気がつく者は稀だろうが。
(屍体…いや付喪神の一種か…それとも悪魔か天使などの上位意識体を使い魔にしてやがるのか。俺より悪趣味な奴が居たとはな)
「さあ、どうする? 私の可愛い魔法少女と闘ってみたいのかしら」
背後に控えていた六人の女達が歩みでて来る。一人一人が全く性質の違うスキルを持っている事は放つ魔力が極端に違う事から恐らく間違いないだろう。
「魔法少女だと…少女とは看板に偽りありだ!どう見ても少女じゃねえだろうが!大事なトコを端折るんじゃねぇぞこらぁ!」
「ちゃんと若い娘を連れて来てるわよ失礼な!」
「ふざけるな!魔法少女は15才以上は認めねぇ!訂正しろやこらぁ!」
「……あんた召喚者ね…」
ご丁寧に顔を変えたのをバラした様に見せ掛けてさらに変えていたのだろう。図星を突かれ男は息を呑んだ。
「な、何故それが」
「魔法少女なんて知ってるのは召喚者ぐらいよ」
「お前はなんで召喚者が魔法少女を知っている事を知っているんだ」
「…古い知り合いにふざけた奴がいただけよ。気分が悪いから思い出させないで!」
怒りを露わにするクローディアは珍しく感情が前面に出ていた。
(これで約束は果たしたわよ!後は大丈夫なんでしょうね!)
ゆう帝との打ち合わせどおり遺跡跡で敵の分断をはかったクローディアはそう心の中で呟いた。
そして予想通りにうちの二人が遺跡へと乗り込んで行くのを苦々しい思いで見送るのだった。
そしてこの罠を仕掛けた張本人は【太古の遺跡都市】で頭を玉座代わりに献上しアンサタクロスと交渉の真っ最中──の筈だったが、まさかそんな事になっているとはこのダルシアに存在する者の中で誰一人として予測する事は出来なかった。
◇
「実は俺、異世界から転生して来たみたいなんだよな」
アンサタクロスは真顔でそう言った。
「…………はっ!?」
いやアンサタクロスの真顔がどんなものかは知らないのだが。
と言うか
どんなカミングアウトだよ!
「お前転生して来たのか!」
「そうだよ、馬から落ちて首が変な方向に曲がったと思ったら意識が無くなって、気が付いたらこの遺跡都市──お前らが呼んでるだけだけどな。ここに奉られてたんだよ。まさか他にも転生…いや召喚だったっけな、居るとは思わなかったよ。ご同輩がね」
「にゃぁ~ん」
……話はおかしな方向へと捻じ曲がり始めていた──のである。
「でもそれを信じる根拠がどこにあるんだ?」
人間なら分かるが神獣だよ神獣!
「テラフォーマーズと進撃の巨人の実写化失敗なら仕方ないとして鋼の錬金術師まで穢すのは許せないよな」
「日本人の転生者だ!」
てか俺も同意見だ。
そしてこの時神が滅茶苦茶時間と空間を歪めている事に気が付いた。
◇
俺達は実に有意義な会談を持ち、話は大詰めに近付いていた。
やはり持つべきは日本の転生者の仲間だと痛感する次第である。
いや本当に
「それでだ、どうだ、協力してくれないか?」
「……分かった、俺に出来る範囲なら」
「にゃにゃ~~ん!」
頭の上でダイアモンドのネックレスをつけた元女王の猫が尻尾を振って喜びを露わにしていた。
う~む
猫にされて封印までされてるのに元気だな。それが伝説の女王ってヤツなのかな。
それにしても諦めて地球に帰還する事も出来ただろうに、その辺は女王を一人には出来無いとか何とか言っていたが大概に良い奴過ぎると思う。
ジッと待ち続けていたんだろ?
頭が下がるな。
「うむ、これで俺も肩の荷が下りた」
「ふざけんなよ!お前も手伝うの!」
「しかし、俺は神獣とは言え制約も多い。女王が健在ならいざ知らずこの神殿から離れるのはかなり難しいと思われるが」
「任せろ!そんなの慣れてるから!」
そう言ってゆう帝は魔導書/グリムウェルを取り出した。ソロモンの七十二柱の悪魔の指輪は現在元の持ち主に託されている。
「…それはまた何と禍々しい」
そしてニコリと笑い
「じゃあ目を瞑って歯を食いしばれ」
「はっ!?」
「にゃっ!?」
もう一度言おうか
「目を食いしばって歯を瞑れ」
いや、力を抜いてもらうのが正解だからそれは違うかな。
「じゃあさ、リラックスして力を抜いてくれるかな。そして絶対に目を開けないでね」
「……な、何を?」
「お前もここに居るのはもう飽きただろ? ほらほら、俺が新しい世界を切り開いてやるからさ、信じろって」
俺はそう言って自らに課した戒めを解いた。
俺の本来の質量は見た目の数百倍ある。まあ、神獣とは言え神では無いからな。四分の一くらい開放すれば十分だろう。
俺はドラッケンを持つ手に捕食触手を最大で展開し、足元にも支持する為に肉体を変形させて固定した。
機動力は全く無くなるし見た目も悪いが破壊力は極大である。戦闘で使ったら良い的になると思うけど。
俺の変容をアンサタクロスと呪われ猫女王が顔を引きつらせて見ていた。体高はアンサタクロスといい勝負にまでなっている。なるほど、俺が全力顕現すると鎧の巨人みたいになるんだな。
覚えておこう。
うっかり家の中でやったらエライ事になるとこだったわ~
「……お前どんなチートスキルなんだよ」
「……にゃ…」
絶句する一体と一匹
「さあ行くぞ」
「あっ…何となく分かったよ」
少しアンサタクロスの顔が青ざめた気がする。
安心しろ、痛いけどすぐ終わるから。多分だけど。
「すぐ済む…その前に名前を聞くの忘れてたな」
「……今さら…もう忘れてたけど…俺の名は尾白 拓磨だ。タクマと呼んでくれ」
「分かった…タクマ」
俺は全力でドラッケンを振るった。
せめて一思いに逝かせてやる。
武士の情け…
いやバビロニアンの情けだ。
決していきなり雷撃を撃ち込まれから仕返しをしようなんて話では無いのだ。
その時【太古の遺跡都市】に爆発するような魔力の奔流が駆け巡り、震えるような咆哮が響き渡った。
そしてどこか悲しげな猫の鳴き声が何時までも響いていた。
別れを惜しむかのように。
惜しむらくは一撃では不可能だった事だろうか?
ごめんなタクマ
こうして俺は幻獣にして伝説級の守護神獣アンサタクロスを手に入れたのだった。
ミスリルリザード、カイザートード、ランク6のダンジョンコアメンタルであるマナ、そしてアンサタクロス、俺はダルシアの四天王を纏めてゲットしたようだ。
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