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第13話『突然の別れ』
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第13話「突然の別れ」
「う~~~!う~~~!」空襲警報が鳴り響く。
「まさかだろう?」正樹は財布とスマホやノートパソコンをリュックにつめ、必要最低限の物を持ってホテルの玄関を出た。
ロシアのウクライナ侵攻は隣国ベルラーシと軍事演習をしている1月頃から囁かれていたが、国際社会の状況をみても侵攻まではしてこないだろうと言っていた。だが、もしもの事を考えてホテル側から地下防空壕の案内は聞いていた。ウクライナはロシア(旧ソビエト)とEU圏に挟まれており、地政学的に歴史上戦争に巻き込まれる事が多い国であるため、このように防空壕が設備されている家やホテルは珍しくなかった。
「MR.SHIMIZU PLEASE COME TO THIS WAY!!」ホテルのスタッフが防空壕までの道のりを案内してくれる。
「THANKS.」正樹はスタッフにお礼を言って、地下防空壕に滑り込んだ。
防空壕では食糧と水は準備されており宿泊者とスタッフを合わせて1週間分は持ちそうであった。
『ズドーン・・・!スドーン・・・!』とロシア軍のミサイル攻撃と空襲により激しい音が響き渡っていた。
「まずいスマホが繋がらない。」圏外になっており、真咲に状況を伝える事が出来ないのに正樹は苛立ちを隠せなかった。
「どうしよう全然繋がらないよ。」テレビを点けると各局ロシアのウクライナ侵攻を報道している。
「大丈夫だって、アメリカ軍やEUもウクライナを支援しているみたいだから。これからよくなるよ。」美佳が心配になり真咲の家に泊りに来ていた。
「でもなんで連絡くれないの!?」真咲は泣き出す。
「大丈夫だって!今混乱しているだけだから。」美佳も根拠は無いが慰めるしかなかった。
「だってテレビを見ているとネットも繋がっているんだよ。なんで連絡くれないの?もう3日経っているんだよ。連絡くれてもいいよね。」たしかにテレビの報道を見ても一般の人から多数の動画がネット上で流れており、通信網が遮断されたわけではなかった。後日分かる事ではあるが、アメリカの若き大富豪テスラー社のイーロン・マスク氏が自社で所有している通信衛星を解放してネット環境を守っていることが分かるのだが、現時点ではそこまで分かっていなかった。
「ね~正樹さん死んじゃったのかな?」真咲は美佳に抱きついて泣き続ける。
「なに言っているの?真咲が信じて待ってあげないでどうするの?」美佳が真咲を抱きしめて慰め続けた。
「プルルル~プルルル~」深夜12時になりかけた頃泣きつかれて寝ている真咲のスマホが鳴り響く。
「もしもし正樹さん。」眠っていた真咲だが、音に気が付きスマホに飛びついた。
「もしもし真咲。俺は生きているから大丈夫だよ。」
「うん。よかった。本当によかった。」正樹の声が耳の中に響いた瞬間、真咲の目からは止めどなく涙があふれる。美佳が背中にそっと手を添える。
「ごめん。地下防空壕に入っていて電波が通じなかった。」
「防空壕に?本当によかった。」
「心配かけてすまない。まさかロシアが本気で攻めてくるとは思わなかった。」
「日本でも報道が凄いの!心配で仕方ないの!」
「すまない。今はどこの航空会社も動いていないんだけど、運よく日本政府が用意した専用機に乗れることが決まった。明日こっちの時間の14時に飛行機に乗って日本に帰るよ。」
「うん、本当によかった。」
「待っているね。」真咲は涙を拭きながら答えた。電話を切った後、隣で聞いていた美佳が頭を『よしよし』して抱きしめてあげた。
翌日朝07:30、ロシア軍のミサイルと空爆がおさまっていた。正樹は今がチャンスと思い、時間は早かったが現地の社用車で空港に向かうことにした。途中日本大使館によりパスを受け取り空港に向かった。『キエフ(現キーウ)・ジュリャーヌィ国際空港』に到着したのは13:00になっていた。途中キエフから逃げようとする車の渋滞にハマリ思った以上に時間がかかってしまった。
「まったくはやく出てよかったよ。後1時間で間に合うのか?」空港の敷地内で車をほぼ乗り捨てしてリュック片手に走り出した。車は関係者に後から回収して貰う事にした。
出発ロビーには沢山の人が溢れかえりチェックインカウンターに近づけない状態であった。元々国際便は2時間前チェックインが通例であるが、もう1時間を切っていた。このままでは飛行機に乗ることが出来ない。
「プルルル・・・プルルル・・・」正樹のスマホが鳴った。
「はい、もしもし。」
「清水正樹さんですか?私、日本大使館の滝沢と申します。」
「あーよかった。今チェックインカウンター前にいるのですが、人が多すぎて近づけません。どうしたらいいですか?」
「そうだと思いました。乗客名簿の中で清水様の名前にチェックが入っていなかったので心配致しました。政府専用機ですのでチェックインの必要はありません。私が出国ゲートまで迎えに行きますから、そこまでお越し下さい。」
「ありがとうございます。今から向かいます。」そう言いつつ正樹は人ごみを掻き分けた。
「清水様ですね。」人ごみを掻き分けて出国ゲートに辿りついた先で声をかけられた。
「滝沢さんですか?ありがとうございます。助かりました。」
「いえいえ日本人の皆様の命をお助けするのが私達の務めですから。さあ行きましょう。」正樹はやっと安堵して滝沢に付いて行くことにした。
「ズドーーーン!」
セキュリティーゲートを通りぬけようとした瞬間、激しい爆発音と共に正樹も滝沢も吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
「キーーーン!」
という耳鳴りが響き何も聞こえない。目の前は煙や粉塵が舞いちり先も見えなかった。
方向感覚もおかしくなり立ち上がる事も出来ない。
「清水さん!清水さん!清水さん!」横を見ると滝沢が清水の腕を引っ張り上げる。
「ロシアのミサイルが着弾したみたいです。はやく走って向かいましょう。政府専用機にはロシアも手は出さないでしょう。でも誤爆でもあったら大変です。一刻も早く飛行機に乗らないと。」
「でも滝沢さん、はやく手当てをしないと。」よく見ると滝沢は頭から血を流しスーツとワイシャツが血だらけになっていた。
「これくらい大丈夫です。機内で治療しますから。」そういう滝沢を見てこんな凄い役人もいるのだな。っと改めて感動した。
「あっ!」走り出そうとした瞬間、後ろの光景を見て凍りついた。
人で溢れていた出国ロビーは瓦礫の山となり、そこにいた人達は一瞬で爆発に巻き込まれ跡形も無く消えていた。遠くの方で呻き声が飛び交っていたが、ここからでは確認出来なかった。その光景を見た瞬間、正樹は腰を抜かし座り込み動けなくなった。後数分ゲートに入るのが遅かったら確実に死んでいたであろう。
「清水さん!清水さん!大丈夫ですか?私達は運がいいんです。この運を生かさないと!走りますよ。」正樹は滝沢に強引に立たされてフラフラしながらも飛行機に向かって歩き出した。
「もう直ぐです。通路ゲートは無いので、滑走路近くまでバスで移動します。」滝沢の指示で滑走路に下りる事にした。
「バスが無いじゃないか?」滑走路まで下りるとそこには連結用のバスはいなくなっていた。
「さっきのミサイルで皆混乱しているんですよ。仕方ありません。あの飛行機まで走りましょう。」
「俺は大丈夫ですが滝沢さん大丈夫ですか?血が止まらないじゃないですか?」
「はははもう飛行機に着いたら嫌になるほど横になりますから。」
「分かりました。走りましょう。」2人は意を決して走り出した。
「滝沢さん、はやく乗って!」政府専用機のドアから日本人が叫ぶ。
「武藤か!助かった。止めてくれていたんだな。」滝沢の同僚が何とか政府専用機を止めていたのだ。
『やっと助かった。』心の中でそう叫んだ瞬間。頭上から激しい音が鳴り響いた。
「『バタバタバタバタ・・・・!』」頭上を見上げると空港の反対側から低空でロシア軍の戦闘ヘリコプターMi-28N通称「夜の狩人」が3機、輸送ヘリコプターMi-24通称「クロコダイル」が約10機空港占拠するように空をおおい尽くした。
「こっこれはもうチェックメイトだな。」正樹と滝沢は立ち止まりその場で座り込んだ。
真咲はスマホを握り締めて、ベッドの片隅に座って連絡を待っていた。テレビのチャンネルを変えながら少しでも情報を得ようと必死であった。
「もうそろそろ着くはず。」真咲は正樹が現地時間14時にフライトすると言っていたのを聞いてその後『インターネット検索』で時差を計算していた。
日本時間とウクライナ時間は時差が-7時間なので正樹がフライトした時間は日本では21時である。ウクライナと日本の直行便は無いが、ヨーロッパから日本までは13~14時間はかかるから、政府専用機もそれくらいになると思われた。なので日本に到着するとしたら22時か23時である。
「もう直ぐ24時なのに電話が来ないよ。どうしよう。どうしよう。」真咲の鼓動が早くなり怖くて全身が凍るようになっていた。
その時、テレビから臨時ニュースの声が聞こえた。
「臨時ニュースです。」
「本日ウクライナのキエフ・ジュリャーヌィ国際空港がロシア軍に占拠されました。それにより出国予定をしていた日本政府専用機が出発直前にフライトを中止致しました。」
真咲はテレビの臨時ニュースを聞いて、思考が停止してしまった。
「どうして・・・。」真咲はもう涙が止まらない。正樹の声が聞けると思っていたに・・・。
「プルルル~プルルル~」スマホが鳴り慌てて真咲は画面をみた。美佳からであった。
「真咲、大丈夫?ニュース見たよ。正樹さんの飛行機でしょ?心配だよね。」泣き崩れている真咲を慰める。
「大丈夫よ。ロシア人もウクライナ人以外に手を出したら国際問題になるから、きっと生きているよ。」美佳も確証はなかったが、慰めるしかなかった。
「美佳・・・私辛くて・・・辛くて。」
その時テレビの臨時ニュースがさらに飛び込んでくる。
「続けて邦人行方不明者2名の名前をお知らせ致します。」
「『滝沢 亮二(38歳)』・『清水 正樹(45歳)』、もう一度お知らせ致します。
邦人行方不明者は『滝沢 亮二(38歳)』・『清水 正樹(45歳)』、政府は引き続き行方不明者の安否をウクライナ政府の協力をえて捜索していく模様です。」
「どうしたの?真咲?どうしたの?ねえ聞いているの?」
真咲はもう泣く事も考える事も何も出来なかった・・・。
次回最終話 「アイノカタチ ~Shape of Love~」
「う~~~!う~~~!」空襲警報が鳴り響く。
「まさかだろう?」正樹は財布とスマホやノートパソコンをリュックにつめ、必要最低限の物を持ってホテルの玄関を出た。
ロシアのウクライナ侵攻は隣国ベルラーシと軍事演習をしている1月頃から囁かれていたが、国際社会の状況をみても侵攻まではしてこないだろうと言っていた。だが、もしもの事を考えてホテル側から地下防空壕の案内は聞いていた。ウクライナはロシア(旧ソビエト)とEU圏に挟まれており、地政学的に歴史上戦争に巻き込まれる事が多い国であるため、このように防空壕が設備されている家やホテルは珍しくなかった。
「MR.SHIMIZU PLEASE COME TO THIS WAY!!」ホテルのスタッフが防空壕までの道のりを案内してくれる。
「THANKS.」正樹はスタッフにお礼を言って、地下防空壕に滑り込んだ。
防空壕では食糧と水は準備されており宿泊者とスタッフを合わせて1週間分は持ちそうであった。
『ズドーン・・・!スドーン・・・!』とロシア軍のミサイル攻撃と空襲により激しい音が響き渡っていた。
「まずいスマホが繋がらない。」圏外になっており、真咲に状況を伝える事が出来ないのに正樹は苛立ちを隠せなかった。
「どうしよう全然繋がらないよ。」テレビを点けると各局ロシアのウクライナ侵攻を報道している。
「大丈夫だって、アメリカ軍やEUもウクライナを支援しているみたいだから。これからよくなるよ。」美佳が心配になり真咲の家に泊りに来ていた。
「でもなんで連絡くれないの!?」真咲は泣き出す。
「大丈夫だって!今混乱しているだけだから。」美佳も根拠は無いが慰めるしかなかった。
「だってテレビを見ているとネットも繋がっているんだよ。なんで連絡くれないの?もう3日経っているんだよ。連絡くれてもいいよね。」たしかにテレビの報道を見ても一般の人から多数の動画がネット上で流れており、通信網が遮断されたわけではなかった。後日分かる事ではあるが、アメリカの若き大富豪テスラー社のイーロン・マスク氏が自社で所有している通信衛星を解放してネット環境を守っていることが分かるのだが、現時点ではそこまで分かっていなかった。
「ね~正樹さん死んじゃったのかな?」真咲は美佳に抱きついて泣き続ける。
「なに言っているの?真咲が信じて待ってあげないでどうするの?」美佳が真咲を抱きしめて慰め続けた。
「プルルル~プルルル~」深夜12時になりかけた頃泣きつかれて寝ている真咲のスマホが鳴り響く。
「もしもし正樹さん。」眠っていた真咲だが、音に気が付きスマホに飛びついた。
「もしもし真咲。俺は生きているから大丈夫だよ。」
「うん。よかった。本当によかった。」正樹の声が耳の中に響いた瞬間、真咲の目からは止めどなく涙があふれる。美佳が背中にそっと手を添える。
「ごめん。地下防空壕に入っていて電波が通じなかった。」
「防空壕に?本当によかった。」
「心配かけてすまない。まさかロシアが本気で攻めてくるとは思わなかった。」
「日本でも報道が凄いの!心配で仕方ないの!」
「すまない。今はどこの航空会社も動いていないんだけど、運よく日本政府が用意した専用機に乗れることが決まった。明日こっちの時間の14時に飛行機に乗って日本に帰るよ。」
「うん、本当によかった。」
「待っているね。」真咲は涙を拭きながら答えた。電話を切った後、隣で聞いていた美佳が頭を『よしよし』して抱きしめてあげた。
翌日朝07:30、ロシア軍のミサイルと空爆がおさまっていた。正樹は今がチャンスと思い、時間は早かったが現地の社用車で空港に向かうことにした。途中日本大使館によりパスを受け取り空港に向かった。『キエフ(現キーウ)・ジュリャーヌィ国際空港』に到着したのは13:00になっていた。途中キエフから逃げようとする車の渋滞にハマリ思った以上に時間がかかってしまった。
「まったくはやく出てよかったよ。後1時間で間に合うのか?」空港の敷地内で車をほぼ乗り捨てしてリュック片手に走り出した。車は関係者に後から回収して貰う事にした。
出発ロビーには沢山の人が溢れかえりチェックインカウンターに近づけない状態であった。元々国際便は2時間前チェックインが通例であるが、もう1時間を切っていた。このままでは飛行機に乗ることが出来ない。
「プルルル・・・プルルル・・・」正樹のスマホが鳴った。
「はい、もしもし。」
「清水正樹さんですか?私、日本大使館の滝沢と申します。」
「あーよかった。今チェックインカウンター前にいるのですが、人が多すぎて近づけません。どうしたらいいですか?」
「そうだと思いました。乗客名簿の中で清水様の名前にチェックが入っていなかったので心配致しました。政府専用機ですのでチェックインの必要はありません。私が出国ゲートまで迎えに行きますから、そこまでお越し下さい。」
「ありがとうございます。今から向かいます。」そう言いつつ正樹は人ごみを掻き分けた。
「清水様ですね。」人ごみを掻き分けて出国ゲートに辿りついた先で声をかけられた。
「滝沢さんですか?ありがとうございます。助かりました。」
「いえいえ日本人の皆様の命をお助けするのが私達の務めですから。さあ行きましょう。」正樹はやっと安堵して滝沢に付いて行くことにした。
「ズドーーーン!」
セキュリティーゲートを通りぬけようとした瞬間、激しい爆発音と共に正樹も滝沢も吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
「キーーーン!」
という耳鳴りが響き何も聞こえない。目の前は煙や粉塵が舞いちり先も見えなかった。
方向感覚もおかしくなり立ち上がる事も出来ない。
「清水さん!清水さん!清水さん!」横を見ると滝沢が清水の腕を引っ張り上げる。
「ロシアのミサイルが着弾したみたいです。はやく走って向かいましょう。政府専用機にはロシアも手は出さないでしょう。でも誤爆でもあったら大変です。一刻も早く飛行機に乗らないと。」
「でも滝沢さん、はやく手当てをしないと。」よく見ると滝沢は頭から血を流しスーツとワイシャツが血だらけになっていた。
「これくらい大丈夫です。機内で治療しますから。」そういう滝沢を見てこんな凄い役人もいるのだな。っと改めて感動した。
「あっ!」走り出そうとした瞬間、後ろの光景を見て凍りついた。
人で溢れていた出国ロビーは瓦礫の山となり、そこにいた人達は一瞬で爆発に巻き込まれ跡形も無く消えていた。遠くの方で呻き声が飛び交っていたが、ここからでは確認出来なかった。その光景を見た瞬間、正樹は腰を抜かし座り込み動けなくなった。後数分ゲートに入るのが遅かったら確実に死んでいたであろう。
「清水さん!清水さん!大丈夫ですか?私達は運がいいんです。この運を生かさないと!走りますよ。」正樹は滝沢に強引に立たされてフラフラしながらも飛行機に向かって歩き出した。
「もう直ぐです。通路ゲートは無いので、滑走路近くまでバスで移動します。」滝沢の指示で滑走路に下りる事にした。
「バスが無いじゃないか?」滑走路まで下りるとそこには連結用のバスはいなくなっていた。
「さっきのミサイルで皆混乱しているんですよ。仕方ありません。あの飛行機まで走りましょう。」
「俺は大丈夫ですが滝沢さん大丈夫ですか?血が止まらないじゃないですか?」
「はははもう飛行機に着いたら嫌になるほど横になりますから。」
「分かりました。走りましょう。」2人は意を決して走り出した。
「滝沢さん、はやく乗って!」政府専用機のドアから日本人が叫ぶ。
「武藤か!助かった。止めてくれていたんだな。」滝沢の同僚が何とか政府専用機を止めていたのだ。
『やっと助かった。』心の中でそう叫んだ瞬間。頭上から激しい音が鳴り響いた。
「『バタバタバタバタ・・・・!』」頭上を見上げると空港の反対側から低空でロシア軍の戦闘ヘリコプターMi-28N通称「夜の狩人」が3機、輸送ヘリコプターMi-24通称「クロコダイル」が約10機空港占拠するように空をおおい尽くした。
「こっこれはもうチェックメイトだな。」正樹と滝沢は立ち止まりその場で座り込んだ。
真咲はスマホを握り締めて、ベッドの片隅に座って連絡を待っていた。テレビのチャンネルを変えながら少しでも情報を得ようと必死であった。
「もうそろそろ着くはず。」真咲は正樹が現地時間14時にフライトすると言っていたのを聞いてその後『インターネット検索』で時差を計算していた。
日本時間とウクライナ時間は時差が-7時間なので正樹がフライトした時間は日本では21時である。ウクライナと日本の直行便は無いが、ヨーロッパから日本までは13~14時間はかかるから、政府専用機もそれくらいになると思われた。なので日本に到着するとしたら22時か23時である。
「もう直ぐ24時なのに電話が来ないよ。どうしよう。どうしよう。」真咲の鼓動が早くなり怖くて全身が凍るようになっていた。
その時、テレビから臨時ニュースの声が聞こえた。
「臨時ニュースです。」
「本日ウクライナのキエフ・ジュリャーヌィ国際空港がロシア軍に占拠されました。それにより出国予定をしていた日本政府専用機が出発直前にフライトを中止致しました。」
真咲はテレビの臨時ニュースを聞いて、思考が停止してしまった。
「どうして・・・。」真咲はもう涙が止まらない。正樹の声が聞けると思っていたに・・・。
「プルルル~プルルル~」スマホが鳴り慌てて真咲は画面をみた。美佳からであった。
「真咲、大丈夫?ニュース見たよ。正樹さんの飛行機でしょ?心配だよね。」泣き崩れている真咲を慰める。
「大丈夫よ。ロシア人もウクライナ人以外に手を出したら国際問題になるから、きっと生きているよ。」美佳も確証はなかったが、慰めるしかなかった。
「美佳・・・私辛くて・・・辛くて。」
その時テレビの臨時ニュースがさらに飛び込んでくる。
「続けて邦人行方不明者2名の名前をお知らせ致します。」
「『滝沢 亮二(38歳)』・『清水 正樹(45歳)』、もう一度お知らせ致します。
邦人行方不明者は『滝沢 亮二(38歳)』・『清水 正樹(45歳)』、政府は引き続き行方不明者の安否をウクライナ政府の協力をえて捜索していく模様です。」
「どうしたの?真咲?どうしたの?ねえ聞いているの?」
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