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第二章
第45話 騒がしかった日々
しおりを挟む禁魔獣との戦いが終わった後、僕はオルタナの身体を修理するために急いで自宅へと帰ることにした。
予想外の出来事の連続で結果的にアイリスやルナにオルタナの正体がバレてしまったが、あの状況であればあれが最善であったと今でも思う。
それにあの時、即座に外部からの干渉を防ぐ結界を展開しておいたのでルナとアイリス以外には間違いなく僕のことは知られていないだろう。彼女たちに固く口留めをして万が一の対策を考えておけばそれで問題はとりあえずないと思う。
そうして僕はオルタナの修理と強化、そして万が一の際の対策などこの際に出来ることをすべてやっておくことにした、その結果、僕がオルタナとしてオリブの街に戻れたのは戦いから3日後のことだった。
=====================
オリブの街に戻ってからすぐにルナとアイリス、そして完治した騎士団長と再会して俺がいない間に何があったのかを聞いた。
彼女たちによると俺が禁魔獣を倒した後、街に戻ってきたアイリスとルナの報告を受けたギルド長と警備兵団長は再び全勢力を迫りくる魔物たちに集中させて何とか街を守り切ったのだそうだ。
多くの負傷者や市壁への被害は出たものの、犠牲者や街の人たちへの被害は一切なかったのだそうだ。
その点においては我々の完全勝利と言っていいだろう。
そして禁魔獣を倒してからパタリと魔物の侵攻はなくなり、現在は領主様の指示のもとで市壁の修復が進められているのだそうだ。
そうしてその後、忙しそうに後始末に追われているギルド長にも再開した。
ルナたちからは重傷を負ったと聞かされていたため、会って早々に凄い心配そうな顔をしてこちらへ迫ってきたのだが、いつも通りの俺だと分かるとすぐに元気に笑い始めていた。
「オルタナ、お前のおかげでこの街は救われた!本当にありがとう!!お前がいなければどうなっていたことか」
「俺のやるべきことをやったまでだ。だが実際に俺のほかにあの魔物を相手できる者はおそらく俺の知る限りでは俺以外に2人しかいないだろうな」
「まあ何となくお前の言いたい人物には心当たりはあるが、この国の者じゃないからな。お前がいなければこの国はあの魔物によって滅んでいたんじゃないか?」
「分からない。あの魔物のことについては情報が少なすぎて何とも言えないな」
するとそこに話を聞いていたアイリスが俺の隣にやってきてギルド長に話しかける。
「ギルド長、以前にもお話しした通りあの魔物はこの世のものではありません。誰かが何かの意図をもってあの場に召喚したと推測されますから、おそらくこの問題はかなり根深いものになるかもしれません。ですのであの魔物のことは出来る限り他言無用でお願いします」
「承知いたしました、王女殿下。ギルドの秘匿情報として扱わせていただきます」
「ご理解感謝します。この問題に関しては私とアレグが責任を持って調べますので、ご安心を」
禁魔獣に関する今回の件は第一王女であるアイリスが受け持つ、そう宣言した彼女はこちらをちらっと見つめた。すると何だか意味ありげな笑顔をこちらに一瞬だけ向けて再びギルド長の方へと視線を戻す。
何かをしようとしていることは何となく分かるが、とりあえず危険なことだけはしないで欲しいと切に願う。
そうしてギルド長から今回の件に関する報告や報酬のことについて聞いた後、俺とルナはアイリスと騎士団長と共に領主邸に戻ることとなった。
魔物の襲来を防いだからといって俺たちが受けているアイリスの護衛依頼が終わったわけでもない。俺がいない3日間はルナだけで依頼を遂行してもらっていたことになるので、今日から俺も頑張らなければいけない。
まあかといって特に何かが起こるわけでもない。
結局、以前と同じようにアイリスとルナへ魔法を教えながら穏やかな日々が続いてゆき、ついにオリブの街に王都から騎士団の一行が到着した。
そうして彼らと共にアイリスたちは王都へと帰ることとなり、俺たちの護衛依頼も今日で最後となった。
「ルナ様、そしてせんぱ...オルタナ様、今日までありがとうございました。王都に戻ってからも定期的に手紙を送りますので楽しみにしててくださいね!」
「はい!王女様もお元気で...!!」
「殿下もお元気で」
俺たちが別れの挨拶をしていると出発の準備をしていた騎士団長がこちらへと駆け寄って、俺たちに対して深々と頭を下げた。
「お二方、この度は王女殿下の護衛依頼を引き受けていただきありがとうございました。それとオルタナ殿、先日の禁魔獣との戦闘の際には命を救っていただきありがとうございます。この恩義、必ずや返させていただきます!」
「そんな気負わなくても大丈夫ですよ」
「あの戦いで私は自身の力不足を実感しました。王都に戻ってからさらに修行を重ねてまいる所存です」
何とも真面目な人だとつくづく思う。
だがそれが彼の良いところなのだろう。
そんな彼のことをアイリスも信頼しているようだし、彼がアイリスの側にいてくれるのは俺としても安心だ。
「では、王女殿下。そろそろ出発のお時間です」
「ルナ様、オルタナ様!また必ずお会いしましょう!!」
アイリスは満面の笑みでこちらに手を振ると騎士団の用意した馬車に乗り込んでいった。そしてすべての準備が完了すると、複数の馬車がぞろぞろと順番に走り出していった。
「何だか騒がしい日々だったな」
「そうですね。でも楽しかったです!」
「......たしかに、そうだな」
オリブの街を去っていく馬車を見送りながらルナと俺はそんな風に何だか久しぶりの静けさに少し寂しさを感じていた。
すると見送っていた馬車の窓から突然アイリスが身を乗り出してこちらへと手を振って何やら大声を上げていた。
「絶対!!!絶対、また会いましょうね!!!」
何だか少し不安そうな顔をしながらこちらへと手を振るアイリス。そんな様子を見た俺は彼女の考えていることが少し理解できた。
俺は少し申し訳ない気持ちになりながらも拳を上に伸ばして彼女にサインを送る。
それを見たアイリスは俺の言わんとしていることが理解できたのか少しだけ安心したような顔になって体を馬車の中へと引っ込めた。
そうして彼女たちの乗った馬車は地平線の遥か向こうへと姿を消していった。
=====================
「殿下、例の件について報告が上がってまいりました」
「ほう、どうなった?」
魔法士団の団長が手に様々な資料を抱えながら第一王子に報告をする。その報告を聞いた第一王子は不敵な笑みを浮かべて、窓の外の天を仰ぎ見る。
「ならば計画は予定通り実行できそうなのだな?」
「ええ、あとは少しだけ最終調整を行えば実行可能です。時間的には十分間に合うかと」
「そうか、ならばいい。邪魔なアイリスを消せていればなお良かったが、まあそれは別に後からでも十分どうにでもなる。ではすべて手筈通りに頼むぞ」
「仰せのままに」
魔法士団長は深々と第一王子に頭を下げて部屋を出る。ゆっくりと長い長い廊下を歩きながら彼は少し大きなため息をついた。
「実験は一応成功...だが、あの不可解な消滅が気になるな。途中から何らかの影響で禁魔獣周辺の観測が出来ず詳しくは分からんが、あの地形の抉れ方...そしてSSランク冒険者を瀕死に追いやった状況を考えれば禁魔獣自身の仕業と考えるべきか...」
魔法士団長はブツブツと独り言を小さく呟きながら深夜の王城の長い廊下をゆっくりと歩いている。所々月明かりに照らされて窓の影が廊下に落ちている。
「まあ最終調整でその辺りのことも調整すれば問題ないだろう。すでに禁魔獣を完全にコントロールすることには成功しているからな。くっくっく、計画が実行に移されるのが楽しみだな」
真っ暗で静かな廊下に微かに響く笑い声。
魔石の光に照らされて大きく伸びた彼の影は黒く深く存在感を増していた。
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