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第二章
第38話 魔物襲来と死の魔力
しおりを挟む市壁の上へと到着した俺たちはその場にいた兵士たちに望遠鏡を借りて森の方を見てみると、平原を埋め尽くさんばかりの魔物たちがこちらへと迫ってきているのが確認できた。
あの距離だと第一波が到着するのはおそらくあと10分ほどであろう。
「警備兵士諸君!あと少しで魔物たちがここへとやってくる。この街の安全は君たちにかかっているのだ。全力でこの街を守り抜いて欲しい!!」
「そして冒険者諸君!我々の力をあの魔物どもに見せつけてやれ!君たちの活躍を期待している!」
「「「「「おおおおおお!!!!!!」」」」」
少し離れたところにいるギルド長とその隣に立っている警備兵隊長と思しき人物が下にいる市壁の外側に待機している冒険者や兵士たちに激励を送っていた。
およそ数百人ほどの冒険者や兵士たちはとても熱量が高く、彼らなら立派に守り抜いてくれそうだと思わせてくれるほどやる気に満ち溢れていた。
ただおそらく多くの冒険者はこの防衛戦の貢献によって貰える高額な報奨金のための奴らが多いのだろう。微かに金の話をしているのが聞こえる。
そのことを考えると少し何とも言えないところだ。
だが理由は何であれ士気が高いことはいいことである。一点を気にしなければ俺たちも頑張らねばとそう思わせてくれるからな。
「王女殿下、我ら騎士団の面々も防衛につかせました」
「ご苦労様、アレグ。さあこの街を必ず守り切りましょう!」
アイリスの言葉と共に俺たちは互いを見て頷き合う。そして気を引き締めて魔物たちがやってくる方へと視線を向ける。
さああと7分ほどで大群が俺のある魔法の射程圏内に入る。ある魔法というのは開戦の狼煙として放つ予定の俺の広範囲殲滅魔法である。
初撃で大幅に数を減らして戦いやすくするためだ。一度戦いが始まってしまうと味方を巻き込む危険のある広範囲の魔法は使えないから最初に発動しておこうという算段である。
「オルタナ、例の気配なんだがお前でも分からんか?」
「ああ、一度魔法でその辺りを探ってみたんだが魔力の量が尋常じゃなく大きな魔力の塊があるとしか分からなかった。これは実際に見てみないと分からんな。まだはっきりとは分からんが少なくともドラゴンよりは遥かに強いだろうな」
「そうか...」
俺の隣へとやってきたギルド長は難しそうな顔をして魔物たちの方を見つめる。おそらくその先にいるであろう謎の魔物の対処をどうすべきか考えているのだろう。
「現状だとその魔物が動きそうな様子はないのであれば下手に刺激して余計な被害を出すのは避けるべきだ。もしこちらへと動き出すようなことがあればすぐにでも対処できるようにしておいてくれ。こちらでも常時その魔物の周辺を監視させておく」
「了解した。今はこちらに来る魔物に集中しよう」
そうして待つこと5分、ついに魔物の大群が俺の魔法の射程圏内に入った。俺はギルド長に合図を送ると皆それぞれ武器を持って戦いに備える。
「オルタナさん、いきます!」
「ああ、頼む!」
皆が準備を整えたのを確認し、俺はルナに複数の支援魔法を付与してもらった。これで魔力をセーブしながらも高威力の魔法を放つことが出来る。
「では、始める!範囲指定...完了、構築...完了。広範囲殲滅魔法、ディザスター・レイ発動!」
次の瞬間、魔物の群れの上空に大きな魔法陣が出現した。そしてその魔法陣から無数の光の雨が降り注ぎ、その光一つ一つが地面に衝突した瞬間に大規模な爆発を起こした。
一つの爆発で何十体もの魔物が巻き込まれ、大量にいた魔物たちが次第にその数を減らしていく。しかしさすがに魔物の数が多すぎるのでその爆発全てをすり抜けてこちらへとやって来るものたちもいた。
「さあ狼煙は上がった!諸君、突撃開始!!!」
「「「「「おおおおおおおお!!!!!!」」」」」
そうしてギルド長の掛け声とともに待機していた冒険者や兵士たちが一斉に魔物たちの方へと向かっていった。こうして街の防衛戦の火蓋は切られた。
「はぁ!!!」
「ふんっ!!」
「そこっ!」
最前線で冒険者たちが俺の魔法でやられなかった魔物たちを相手に激闘を繰り広げている。その後方でルナやアイリス、そして騎士団長は市壁ギリギリまで迫ってきた魔物たちの対処をしていた。
俺と騎士団長が前衛を務め、ルナとアイリスでその援護をする。
非常に連携の取れた戦い方をしていた。
ルナもここ数日の練習の成果もあって、攻撃魔法で多くの魔物たちを倒すことが出来ていた。難易度Dの魔物に苦戦していたあの時と比べたら本当に成長したのだと見ていて少し感動を覚える。
アイリスはさすが学園でも優秀な成績を収めていただけあって非常に頼もしい活躍を見せてくれている。おそらく彼女の実力はAランク冒険者にも引けを取らないレベルなのではないかと思うぐらいだ。
そして騎士団長、彼は言わずもがな強い。
騎士団最強の名は伊達ではないということがよく分かる。
他の冒険者や兵士、そして騎士たちもとても頑張ってくれているので戦況とつぃてはとても順調なものである。
ただ未だに魔物たちが次々と押し寄せてきているので、このペースがしばらく続くのであれば魔力や体力の消耗によって徐々に押されてしまう可能性は十分にある。
やはり原因である謎の魔物を倒さなければこちらがキツイかもしれない。だがその魔物が意図的にこちらに他の魔物たちを嗾けていないのであれば、魔物たちの侵攻も次第に終わるだろう。
それにギルド長の指示を受けた一部の冒険者たちが森から出て来ている魔物たちの状況を常に監視しているようなので、謎の魔物を叩くかどうかの判断はギルド長に任せておいてもいいだろう。
とりあえず俺はどちらに転んでも大丈夫なように常に余力は残したまま冷静に戦況を見極めて戦っていくことにしよう。
そうして激しい戦いが行われている中、ギルド長の元に森を監視していた冒険者からとある報告が入った。その報告を聞いたギルド長はすぐさま戦っている全ての冒険者や兵士たちに向かって拡声魔法を使って呼びかける。
「諸君!森からやってくる魔物の数が減ってきている!!我々の勝利は目前だ!!」
ギルド長の呼びかけによって連戦によって疲労していたみんなの士気が高まり、こちらの勢いがより増していくこととなった。この調子であれば完全防衛を達成できるだろう。
ただ謎の魔物の魔力が薄っすらとこの辺りまで広がってきていることが懸念点ではある。そのせいかもしれないが少し嫌な予感というものが頭の中にモヤモヤとこびりついている感覚がある。
完全に防衛出来たとしてもあの魔物の扱いをどうするべきかは終わってからの悩みの種になるだろうなとそう考えながら戦っていると、戦場のどこかから悲鳴が上がった。
「う、うわあああああああああ!!!!」
急いでその声が聞こえた方へと視線を向けるとそこには倒したはずの魔物がアンデッド化して冒険者に襲い掛かっていたのである。
「きゃあああああああ!!!!!」
「や、やめろっ!!!!」
すると次々とアンデッド化した魔物たちが冒険者や兵士たちを襲い始めた。
生前よりもさらに凶暴さを増したアンデッドたちは徐々に数を増やしながらこちらへと迫ってきていた。騎士団長やAランク上位レベルの冒険者たちは何とかそれらに対処してはいるが、それ以外の人たちはかなり苦戦を強いられてきていた。
それもそのはずでアンデッドというのは生物の死後、その死体に残った強い思念が周囲の魔力に当てられて仮の意識を生み出してまるで生きているかのように動き出すものだ。そのため、基本的にアンデッドは生前よりも強くなっているのだ。
難易度Dの魔物であれば難易度Cに、難易度Bの魔物であれば難易度Aになると考えてもいい。
だがアンデッド化するためには死んだ直後の状態でその思念が仮の意識を生み出すだけの魔力に当てられなければいけないので滅多に発生することはないので、これほどのアンデッドが一度に大量発生するのは異例の事態である。
「...あの魔物の魔力に当てられたか」
俺はすぐにギルド長の元へと向かい話をする。
「オルタナ、これは...」
「ああ、あの謎の魔物の魔力に当てられて倒した魔物が次々とアンデッド化し始めたのだろう」
「だがこの辺りに感じられるその魔物の魔力はこれほどのアンデッドを生み出せるほど多くはないぞ」
「だが、アンデッドは発生してしまっている。どういうことか分からないが、おそらくは奴の魔力がアンデッドと相性がいいのだろう。どうするギルド長」
俺の仮説を聞いたギルド長は少しの間、眉間にしわを寄せて考えを巡らせる。
「こうなったら仕方がない。オルタナ、頼む。あの謎の魔物を討伐してきてくれ!」
「了解した」
ギルド長から謎の魔物の討伐を頼まれた俺は急いでルナたちの元へと戻っていった。おそらくここからが防衛線の正念場だ、さらに気を引き締めなければ...!
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