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第一章
第24話 救出作戦 前編
しおりを挟む攫われたドラゴンの子の居場所が判明し、ついに救出へと動き出すことにした。
俺はルナにドラゴンの子を転移させた際の受け手の役割を頼み、俺が単独で男爵領の屋敷へと潜入するつもりであった。だが、その作戦を聞いた古龍が自分も同行すると言い始めたのだ。
「客人よ、その潜入に我も同行しよう」
「長よ、先ほども言ったがドラゴンが行ったら余計な被害が...」
「心配するでない、わしを誰だと思っておる。手加減なんぞ朝飯前じゃ。それに我らドラゴンの子を攫ってただで済ませる訳にはいかぬ。我らドラゴンの恐ろしさを知らしめる必要があるからのう」
確かに...古龍の言い分にも一理あると思ってしまった。
このまま全て俺が解決してしまえば穏便に終わるが、だがドラゴンに手を出しておいてそれだけで終わるというのは後々ドラゴンたちに悪影響があるだろう。
今回の件でドラゴンのことを甘く見た連中が再び何かしでかすかもしれない。そういった連中をけん制するという意味ではドラゴンの恐ろしさを知らしめておくのは重要だ。
だがそれで死人が出てしまうのはよろしくない。罪のない人たちに被害が及ばず、誘拐犯側にかなりの被害を与えるが死者は出さないということが必要だろう。
それに今回の相手はもしかしたらアンダリング男爵が関係しているかもしれないのだ。もしそうだとしたら、俺は貴族と関わり合いを持ちたくないので表立って行動するわけにはいかない。
だがそうなると今回の誘拐をギルド側に報告することが出来ず、ただドラゴンに襲われた可哀想な男爵という事実だけになってしまう可能性がある。ドラゴンの子を攫うなんて危険なことをしているのだ、それ以外にも余罪は掘ればたくさん出てくるだろう。
そんな奴らを見て見ぬふりして野放しにしておくのは何だか腹立たしい。
これらの条件を同時にクリアするのは俺たちだけでは不可能だ。ドラゴンの恐ろしさを知らしめようとすれば大事になり、今ドラゴンの調査をしている俺が男爵との関わりのことを報告しなければいけない。
そうなると男爵家や男爵家の悪事に加担している貴族からの要らぬ関心を買う可能性があるので、俺の関与が疑われないよう秘密裏に行動したい。だがそうなるとドラゴンの尊厳が...と堂々巡りとなってしまう。
だが要は俺の関与が知られなければいい。
どこかで情報統制をしてもらえばその点については解決する。
そうなると...
少しの間、頭を悩ませていたのだったがついに今後の方針を確定した。その作戦内容について協力してもらう必要があるルナと古龍に全て話した。
「なるほど、それならば我らドラゴンの恐ろしさを思い知らしめることが出来る!」
「私もその作戦で賛成です!悪いことをしている人たちは放っておけません!!」
ルナたちの同意を得て、俺たちはその作戦を実行するための準備を進めることにした。
そのために転移魔法で俺とルナは一度オリブの街へと帰ってきた。
そしてそのまますぐにギルド長と話をするべくギルドへと向かう。
「っ!オルタナさん!!お帰りなさい!!依頼の方はどう...」
「ミーシャ、今すぐにギルド長と話がしたい。呼んできてくれないか」
ギルドに入ってすぐに見つけたミーシャの言葉を遮って要件を簡潔に伝える。いつもの様子とは違うことにすぐに気が付いた彼女はすぐに真剣な表情でギルド長を呼びに行ってくれた。
そして1分もかからずしてミーシャが俺たちの元へと戻り、ギルド長が応接室で待っていると部屋へと案内してくれた。こういうところに彼女の有能さが表れていると俺は思った。
そうして案内された応接室に入るとそこには真剣な表情でソファーに座っているギルド長の姿があった。俺たちに気づくとすぐに座るよう目線で促した。
「オルタナ、それにルナ。一体何があった?」
「今受けている依頼についてなんだが、実は...」
俺はギルド長に今回の一件について全て説明した。
ドラゴンが人里を襲っていた原因、攫われたドラゴンの子が今どこにいるのか、そして俺たちがこれから行おうとしている作戦の内容。全てを聞き終えたギルド長は一度大きなため息をついて眉間にしわを寄せていた。
「...はぁ、予想外に厄介なことになってるな」
「すでに解決の算段はついているが、それにはギルド長...あなたの協力が必要だ。ぜひとも協力してほしい」
俺はギルド長に協力を要請すると彼は少し天を仰いだ。一部貴族の不正を暴くという危険な橋を渡らなければいけないのだ、それはギルド長も思うところはあるだろう。
「...見て見ぬふりは出来ないか。分かった、協力しよう。で、俺は何をすればいい?」
そうして俺たちはスムーズにギルド長の協力を得られることとなった。俺の伝えた作戦も了承してもらい、あとは作戦を実行するだけとなった。
そうして再び俺は古龍たちの元へと転移魔法で戻り、作戦を実行に移す準備を進める。ルナはというと今回の作戦の役割としてギルド長の元に居てもらう必要があったので俺は一人で戻ってきた。
そしてもう一度、古龍と注意事項と作戦内容の最終確認を行って準備を完了させる。
「準備は良いか?」
「ああ、もちろんだとも」
作戦の実行のため、一時的に人の身体へとなった古龍。
彼と共に男爵領へと転移魔法を使って向かった。
=====================
俺たちは転移魔法で魔道衛星から得られた正確な位置情報を用いて遠く離れた男爵領へと移動した。目的の屋敷から少し離れたところに転移し、ここからは徒歩で向かうことにする。
すでにここから隠密行動を開始するべく俺は無音魔法と透明化魔法を自身と古龍に付与した。そして魔力でバレないように身体の表面を周囲の魔力を集めて薄い膜を張ることで内部からの魔力を外部に漏れ出さないようにし、周囲の魔力と同化させることによって存在を環境に馴染ませる。
これで視覚、聴覚、そして魔力ですら俺の存在を認知することは出来ない。それに今の俺の身体はゴーレムであるので嗅覚ですら俺のことを認知することは難しいだろう。
一報の古龍も自身の魔力を極力隠ぺいし、一般的な人間と変わらないぐらいの魔力ほどしか感じない程度まで抑え込んでくれた。彼は全く気付かれないようにする必要はないので一般人程度の魔力まで抑えてくれたら問題はない。
そうしてステルス状態で俺と古龍は目的の屋敷へと向かう。
「あそこが目的の屋敷だ」
少し歩いたところで俺たちは目的の屋敷の近くに到着した。
その屋敷はこの地の領主邸よりは小さいが、屋敷の周りに広い庭が設けられている。さらにその周囲を外から見えないくらいの高い壁が取り囲んでおり、意識して見ると異様な雰囲気が漂っているように感じる。
唯一の入り口である正面の門には門番として兵士が二人、完全装備で長槍を携えて警備にあたっている。ただの屋敷にしては厳重過ぎる警備である。
「長はここで待機だ。作戦通り、俺が先に侵入して攫われた子を救出する。その子を親の元へと無事に送り届けたら合図を送る。そうしたらドラゴンの姿になってあの屋敷を攻撃してくれ。ただし決して誰も殺さないように頼む。合図はこの魔道具が強く光を放つからそれを確認してくれ」
そう言って俺は古龍に受信専用の魔道具を渡す。この魔道具は魔道衛星を経由して遠距離からの信号を受け取ることが出来るがそれ以外何も出来ない完全に受信専用な代物。
前まで一人で活動することばかりだったのでずっと異空間に眠らせていたのだが、今日ようやく使える場面が出来て良かった。作った甲斐があったというものだ。
「では、作戦開始だ...!」
「ああ!上手くやるんじゃぞ」
俺はさっそく古龍と別れて屋敷への侵入を開始する。
もちろん正面突破では気づかれてしまうので空から侵入するつもりだ。さきほどゴーレムを侵入させたときにこの屋敷全体を取り囲む結界に部外者の侵入を禁ずる効果が付与されているのは分かっており、すでに結界の解析および改変も完了している。
つまり、すでに俺はこの結界を素通りすることが可能なのだ。
そうして飛行魔法で周囲を取り囲む高い壁を越え、結界を無視して何事もなかったかのように屋敷の庭へと侵入することに成功した。
さらにドローンからの情報でこの屋敷の構造はすべて把握しており、建物への侵入ルートから地下牢の位置情報なども完璧だ。
そのまま難なく建物内部へと侵入し、警備が巡回している中をステルス状態で堂々と移動し、侵入から1分も経たないうちに地下へと入っていった。
そうしてそのまますぐに見事に攫われたドラゴンの子が幽閉されている地下牢へと辿り着いた。その牢にはさらに厳重な結界が張られており、絶対に逃がさないという誘拐犯の強い意志が感じられる。
だがそんな思いなど構うことなく、俺は結界の改変を開始する。ここの地下牢の結界は非常に強固で複雑な構造をしており、事前に改変してその結界の異変に気づかれるかもしれないので救出する直前までそのままにしておいたのだ。
だがそもそもすでに展開された結界の効果改変なんてものは現状では未知の技術であり、それの改変に気づける者がいる可能性は無いに等しいだろう。だが俺も実際にこの技術を実戦で使ったことはなかったので用心するに越したことはないと判断した。
まあ改変自体は俺にとってさほど難しいものではなく、30秒ほどあれば問題なく可能であるので気づかれてもすぐにドラゴンの子さえ救出すればいいだけの話である。
そうして宣言通り30秒ほどで牢に施された結界を改変し、牢の中へと転移魔法で侵入する。
牢の冷たい床で弱々しく眠っているドラゴンの子にまずは回復魔法を施して体力を少し回復させる。
子の状態が少し良くなったことを確認してすぐにその子を抱きかかえて転移魔法を発動させた。
父親と母親ドラゴンの待つ洞窟へと直接転移すると、俺にすぐに気づいた父親ドラゴンが目を大きく見開いてこちらへと駆け寄ってくる。
「おぉ!!!我が子よ!!!!!」
俺が抱きかかえている子の様子を確認して無事なことを直接目で確かめると安心したのか彼の目から大粒の涙が零れ始めた。
「良かった...本当に良かった...」
俺はそんな父親ドラゴンへと抱きかかえている子を手渡した。彼はそのまま奥の母親ドラゴンが待つ寝床へと向かっていき、その子を寝床へと寝かせた。
「ああ、本当に無事で...」
無事な子の様子を見た母親ドラゴンも父親同様に笑顔で涙を流し、父親と共に子の身体へと顔を寄せて再会を喜び合っていた。家族を大切に思う気持ちというのは種族なんて関係ないのだとこの光景を見ていると思い知らされる。
俺も少しお母さまに会いたくなってしまった。
早く依頼を終わらせて家に帰ろう。
そんなことを思いながらも、彼らの様子を見届けた俺はすぐに魔道具で古龍へと合図を送る。さあ、ここからが作戦の第二フェーズだ。
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