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第一章

第10話 薬屋の若き店主

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オリブの街に帰ってきた俺たちはギルドへと直行し、依頼の報告へと向かった。ギルドは夜には依頼に関する業務が終わってしまうので、出来るだけ早くギルドに行かないといけないのだ。

とはいえ、俺たちが街に帰ってきたのは業務終了1時間も前だったので十分に時間的余裕はあるが何があるか分からないから早めに行っておくに越したことはない。


「あっ、オルタナさんにルナさん。お帰りなさい!」


ギルドに入って受付へと向かうとそこにはいつも対応してくれる受付嬢のミーシャさんがいた。SSランクだからと言って専属の職員がいるわけではないのだが、基本的に彼女が俺の対応をしてくれている。


「依頼の報告にきた」

「いつも早いですね...!ではお伺いします!」


ミーシャさんはそう言って冒険者カードと討伐証明部位を受け取るとテキパキと業務を行ってくれた。これが俺に慣れていない職員だと「えっ、本当に終わったんですか?!こんな遠くの依頼を二つも?!たった半日で?!」などと信じてもらえずなかなか依頼完了の手続きをしてくれないのである。

そういった意味では彼女が専属で対応してくれた方がありがたい。
一度、ギルド長に相談してみるのもありかもしれない。


「はいっ!依頼、計二つの完了を確認しました!こちら報酬の金貨8枚と銀貨10枚になります」

「ありがとう」

「いえ!いつもありがとうございます!!」


俺は冒険者カードと共に受け取った報酬が入った小袋の中から報酬額の半分である金貨10枚を取り出して収納魔法で異空間へと投げ入れる。そして残ったもう半分が入った小袋を隣にいるルナへと渡す。


「えっ、お、オルタナさん?!私の分...これ全部ですか?!」

「ああ、俺の分は取り出したからその袋の分は全部君のだ」


ルナは袋の中をのぞいて中の硬貨を数える。
その額に驚いたのか再び慌てふためいた声を出した。


「は、半分も私もらえないですよ...!デッドリーサーペントはほとんどオルタナさんだけの力で倒したじゃないですか...」

「何を言ってるんだ。君は俺の援護という役割を果たしてちゃんと戦闘に参加していただろ。それに戦闘の後にも言ったが君の支援魔法のおかげで楽に倒せたと。君はパーティメンバーとして十分すぎるほど依頼達成に貢献したのだからその報酬も妥当だ」


ルナは俺の言葉を聞いて再び彼女の手にある小袋の中を見つめる。


「ほ、本当に...私はオルタナさんの役に、立てましたか...?」

「ああ、もちろんだとも」


そう断言するとルナは少し微笑んで小袋を握り締める。
先ほどまで俯き気味だった頭を上げて俺と目が合った。


「オルタナさん、ありがとうございます!」

「...良かったですね、ルナさんっ!」


このやり取りの様子を受付から見守っていたミーシャさんはニヤニヤしながら話しかけてきた。グッドサインをルナに向かってしており、それを見たルナは恥ずかしそうに頭を下げていた。

あの人は何をやっているんだか...
そう思いながら俺たちはギルドを後にした。


そして次に俺たちはギルドの解体場へと向かい、今日討伐した魔物の解体を依頼しておいた。解体場は比較的ギルドの営業よりも長くやっていてくれるが、今から解体を依頼しても終わって買取してもらえるのは明日になる。

俺たちは解体場で魔物の死体を渡してすぐに帰ることになった。


「そういえば、このあと薬屋もよるのか?」

「その予定です。オルタナさんは帰られますか?」

「いや、俺も一緒に行くつもりだ。最近行けてないから新しい商品がないか少し見ておきたい」


という訳で俺とルナは共に薬屋に向かうことにした。

この街にはいくつか薬屋があるのだが、ルナの行きつけの薬屋はこの街の中で一番商品の種類が多いと有名な店だった。

俺も何回か行ったことがあるが、お店の外観のボロさとは打って変わって品質の良い薬が多く揃えられていた。それに加えてポーションや魔物除け液など多種多様な商品もあり、そのすべてを店主が製造・開発しているらしい。

だから俺が行っていない間に新しい商品が並んでいないか少し気になっているのだ。面白そうな商品があれば買ってみるのもありかもしれない。



解体場から5分ほど歩いたところで俺たちは例の薬屋に到着した。やはりここは何度来ても外観のボロさに少し入るのをためらわれる。

品揃えも商品の質も良いのにあまり人気にならないのはおそらくこの外観のせいだろう。もっと綺麗にすればお客もたくさん来るだろうに。おそらくここの店主は数回見ただけだが、売るよりも薬を作る方が好きな職人タイプの人なのだと感じた。


カランコロンッ


ドアを開けるとドアに付けられベルの音が店内に響き渡った。見た感じ俺たち以外の客はいなさそうであるが、それと同時に店の人の姿も見えない。


「すみません~!エイアさんいますか?」


ルナはおそらく店主であろう人物の名前を大きな声で呼んだ。すると少し間があった後、店の奥からガサゴソと物音がし始めた。


「はいはい、どちら様~?」


店の奥から少し汚れた白衣のような服でメガネをかけ、そして物凄く長く伸びたボサボサ髪の若い女性が出てきた。彼女は伸びをしながらカウンターに出てくるとルナの姿を見てにこやかな笑顔になった。


「お~、ルナちゃん!いつもの?」

「はいっ!今日も材料採ってきたのでお願いします!」

「はいよ~」


何だか緩さを感じる雰囲気を漂わせる店主だったが、ルナから養魔草を受け取るとそれをじっくりと観察し始めた。しばらく見てにっこりと笑い、ルナに話しかける。


「いつも君の採ってくる素材は良いものばかりで助かるよ~!ありがたく頂戴するね」

「ありがとうございます!!」

「で、あの薬だね。ちょっと待っててね」



と言うと店主はお店の奥へと戻っていった。
しばらくして店主は何個かの液体の入った瓶を持って帰ってきた。


「はい、いつものね」

「お代はいつもと同じで大丈夫ですか?」

「いいよ~」


ルナは懐から金貨を1枚おいて店主から5つの瓶を受け取った。
それらをルナは収納魔法で異空間に閉まって店主にお礼を言う。


「いつもありがとうございます!」

「毎度あり...ってあんたは?」


すると今更ながら俺の存在に気づいた店主がこちらを指で刺してルナに尋ねる。てかこの人、何度もこの店に来てる俺のこと覚えてないのか...?


「この方はオルタナさんと言ってSSランクの冒険者です。今は諸事情で私とパーティを組んでくださっているんです」

「ほう、あんたがあのSSランク冒険者...」


SSランクだと分かった瞬間、店主はじっとカウンターから身を乗り出して俺のことをじっくりと観察し始めた。


「何だか、不思議なやつだね」

「俺も何度かこの店で買い物をしてるんだが覚えていないのか?」

「そんないちいち客の事なんか覚えてるわけないでしょ?」


じゃあ何でルナのことは覚えてるんだよ...って突っ込みたくなったがその言葉を呑み込んだ。今はオルタナなんだ、キャラブレは良くない。


「実は、エイアさんは私のお母さんと昔からのお友達なんだそうです。なのでエイアさんには昔からずっとこうしてお世話になっているんです」


俺の心の声が聞こえているのかと思うぐらいピッタリなタイミングでの話題に少し驚いた。ルナは人の心を察する能力が高いのかもしれない...などと少し感心する。


「まあね。ルナちゃんのお母さんとは学生の頃からの長い付き合いだからっていうのもあるけど...ルナちゃんは大人しくて~賢くて~可愛い~から私の子もどうぜんよね~!!」


最初は照れくさそうに話していた店主だが、ルナのことを褒め始めると彼女の頭をニヤニヤしながら撫でていた。その時の店主は外見は綺麗なお姉さんという感じなのに中身はおっさんなのではないかと思うような目つきをしていた。


「で、あんたは何か用があるの?この子の付き添い?」

「まあ付き添いでもあるが、この店の新しい商品を見ようと思ってな。ここの商品は他とは違った画期的な物が多いからな」

「ほう、あんた見る目があるね~!」


店主がドヤ顔でこちらを見てくる。
...ちょっと顔が近い。


「オルタナさん、何かいい物ありました?」

「そうだな、珍しい物はいくつか見かけたが少し効能がマニアック過ぎてな」

「だからこそいいんじゃない!ありきたりなものばかり作っても面白くないの」


まあその気持ちは分からんでもないが、店の商品としては少しどうかとは思う。外観からも感じるが、この人...店の経営というものにあまり興味ないんだろうな。


「まあ、だがこの商品はとても興味深い。一つ貰おうか」

「ほほ~う。その商品に目を付けるとは、流石はSSランクの冒険者様だわ」


俺はとある商品を一つ商品棚から取って店主の目の前に代金を置く。彼女はそのお金を受け取ると「毎度あり~」と嬉しそうな笑顔で答えた。

どうやらこの商品が売れたのがかなり嬉しいようだ。


「エイアさん、これは何の薬なんですか?」

「それはね、薬というより生物を殺す毒と言った方が近いかな」

「えっ?!毒ですか?!」


物騒な説明のせいでルナが怖がって俺から少し距離を取った。その様子を見た店主は我慢しきれずに笑い始めた。


「いやいや、人とかそういう大きな生き物を殺せるものじゃないよ。まあ流石に大量に飲めば死ぬかもだけど」

「や、やっぱり...」

「でもルナちゃん、それは他の薬も同じことだよ。薬って言うのは使い方を間違えれば毒にもなる。だからちゃんと正しく使わないといけないんだよ」


店主は優しく、まるで母親のようにルナに話しかける。その様子を見たらもしかして今のルナにとって店主は彼女の母親代わりのような存在なのかもしれないと感じた。


「で、その液体は目に見えない小さな生物を殺す薬の試作品だね。まだ仮説なんだけど魔法で治せない病気とかの原因がそういう小さな生物だというのが最近少し言われているんだよ。まあ目に見えないほど小さいっていう話だから魔法薬や病気の研究者たちも信憑性がないって異端扱いされてるらしいけどね。その話を聞いてちょっと試しに作ってみたってわけ。あっ、ちなみにまだ試作品だし理論も仮説段階だから効果は保証しないよ」

「そ、そうなんですね...」


ルナはどこか安心したようにゆっくりと俺の近くへと帰ってきた。そんな彼女の様子を少しニヤニヤしながら店主は見守っていた。


「で、あんたはどうしてそれに興味が?」

「まあ、簡単に言えば俺はその仮説が正しいと思っているからだな。店主もそうなんじゃないのか?」

「...まあ今はノーコメントかな」


何だか煮え切らない反応だが気になるな...
それに試作段階の薬品という割になぜ商品として出していたんだ?

何だか彼女も少し訳アリという感じがする。


そんなこんなしているうちに日が暮れかけていたので、俺たちは薬屋を後にした。帰り際に店主が俺の肩を掴んで「また来なよ」と少し気味の悪い笑顔で念押しされ物凄く圧を感じた。

まあでもあの人の作る薬には確かに興味はあるから定期的に行ってみたい気持ちがあるのは確かである。



店を出て少し歩いたところに大きな噴水のある広場にやってきた。ここは4つの大通りが交差するところで町の中心地とも言えるだろう。

この時間帯になるといつものような多くの人の流れはなく、家路を急いでいる人たちがポツリポツリと見かけるぐらいとなっていた。


「ではオルタナさん、私はこっちですので。今日はお疲れさまでした!明日もよろしくお願いします!!」

「ああ、お疲れ。また明日」

「はいっ!」


互いに挨拶を交わしてそれぞれ別の方向へと行ことしたその時、俺たちの元に遠くから小さな男の子が走ってきているのが見えた。


「えっ、ブラン...?!」

「お、お姉ちゃん!!!」


どうやらルナの弟らしいその男の子は必死の形相でルナの元へとやってきた。彼の目には少し涙も浮かんでおり、ただならぬ様子だというのが見て分かる。


「一体どうしたの?!」

「はぁ、はぁ...た、大変なんだ!お母さんが...お母さんが!!!」


ルナは弟の様子から何かを察し、顔がどんどんと青ざめていった。俺も彼女の母親のことは詳しくはないが、病気を患っているということは聞いているので何となくではあるが察した。

ルナは慌てて走り出そうとするが、一歩踏み出した時点で息切れしている弟の姿に気づき踏みとどまった。体力の限界を迎えていた弟を残して先に行くわけにはいかない、けれども早く母親の元へ行きたいという二つの気持ちがいま彼女の中でせめぎ合っているのだろう。


「ルナ、俺も行こう。君の弟は俺が連れていく」

「お、オルタナさん...」


ルナは俺の申し出をすぐに受け入れた。普段なら「申し訳ないです!」とか「すみません」などのやり取りがあるだろうが、今の彼女にはいろいろと考える余裕すらないのだろう。

まあ、個人的にはいつもこれぐらいすぐに受け入れてくれるとありがたいけれど。

とりあえず俺たちは急いでルナたちの家へと向かう。
何とか取り返しのつかないことにならないといいが...
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