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第五章 王都魔物侵攻編

第109話 死の権化

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ローガンスの命令で動き出した腐竜は大きな朽ちた両翼を広げた。
するとその翼を勢いよく羽ばたかせて俺たちに向かって強風を発生させる。

俺とグランドマスターはすぐさま防御姿勢を取って吹き飛ばされないように踏ん張るが、想定外の風の強さに二人とも後方へと大きく吹き飛ばされてしまった。


「くっ!?」


俺たちはかなり吹き飛ばされたがダメージなく着地に成功したが、ローガンスが見えなくなるほどの距離まで吹き飛ばされていた。このドラゴンゾンビ・イクシードは以前のドラゴン・イクシードだった時とは見た目や種族はもちろんだが、ステータスも比にならないくらい強くなっているようだ。

何とか着地に成功した俺たちが顔を上げると遠くから空を飛んで移動してきているドラゴンゾンビ・イクシードの姿が見えた。あんなボロボロの翼でなぜあれほどの巨体を持ち上げられるのか不思議である。


俺たちが着地してから数秒ほどでドラゴンゾンビ・イクシードもこちらへやってきた。どうやらこのドラゴンゾンビ、意図して俺たちをローガンスから引き離したようだ。

こいつはローガンスを守るという意思があるのかあるいは完全にローガンスの支配下にあるのかもしれない。どちらにせよローガンスを倒すためには必ず先にこいつを倒さなければいけないということだ。


「ゴオオオォォォ」


ドラゴンゾンビ・イクシードは俺たち二人を睨みつけながら体から薄黒い霧のようなものを発生させていた。鑑定によるとどうやらこの霧は腐毒霧という触れたものを腐敗させ、強力なデバフ効果と状態異常をもたらすドラゴンゾンビ特有のスキルのようだ。

俺は健康体スキルによってこの霧の効果は無効化できるが、グランドマスターはここにいてはやばいかもしれない。


「グランドマスター!離れてください!!この霧は危険です!!!」


俺が急いでこの場から離れるようグランドマスターに注意を促すが、彼は焦る俺とは違って余裕そうな表情でこちらを見る。すると突然、何もない空間から綺麗な宝石のようなものが付けられているネックレスを取り出して首にかけた。


「これは以前、勇者様たちと共に戦っていた時にいただいた魔道具と魔剣なんだ。ネックレスは装着した者をあらゆる状態異常やデバフから守ってくれるものでね。これがあればあの腐毒霧であろうとも大丈夫だよ。それよりも君は大丈夫なのかい?」

「...僕はスキルで状態異常は無効化できますので問題ありません」

「へぇ、すごいスキル持ってるんだね」


たしかに俺の健康体というスキルはイリス様にお願いをして頂いたかなり特殊なスキルだ。しかしそれと同じような効果を持つ魔道具があるだなんて驚いた。それ以上にそんな貴重なものをグランドマスター個人が所有していることにも驚きである。

だが今はグランドマスターが持っていてよかった。
これで二人で戦える。


「ユウト君、この魔物は先ほどまでの超越種もどきたちとは一味違うようだ。おそらく私も全力で当たらないと厳しいかもしれない。君もくれぐれも注意するように」

「もちろんです。全力で倒します!」


俺たちはそれぞれ手に魔剣を構え、意識を目の前のドラゴンゾンビ・イクシードに集中させる。一呼吸置いた次の瞬間、俺とグランドマスターは地面を蹴り出してドラゴンゾンビ・イクシードに攻撃を仕掛けた。


「はああっ!」

「はあっ!」

「グオオオオッ!?」


俺たちの魔剣は瞬きをするほどの僅かな時間でドラゴンゾンビ・イクシードの両翼を根元から切り落とすことに成功した。俺たち二人は一切の手加減などなく、最初から全力の一撃を放った。

その結果としていとも容易くドラゴンゾンビ・イクシードの翼は地に伏すこととなった。

どんな姿になろうともドラゴンの厄介なところは大きな巨体をも浮かび上がらせることのできるその翼である。だからこそそれを真っ先に潰すのは定石である。俺とグランドマスターも一切相手に花を持たせてやるつもりなどない。


「ギアアアッ!!」

「っ!」


すると両翼を切り落とされたにもかかわらずドラゴンゾンビ・イクシードはそれを気にすることもなく俺たちに強力な前足による払い攻撃を仕掛けてきた。俺たちはその攻撃を難なく避けることには成功したが、前足によって振り払われた後の地面は腐毒霧によって腐っているような溶かされているようなそんなひどい状態になっていた。

これを生身で受けると状態異常やデバフは無効化されるとはいえ、ただでは済まないだろう。


「何だあれ...?」


その時、グランドマスターがドラゴンゾンビ・イクシードを見て困惑しているような表情でそのように呟いた。俺もドラゴンゾンビ・イクシードの方へと視線を向けるとそこには不思議な光景があった。


「翼が戻っていく...?!」


先ほど俺とグランドマスターで切り落としたはずの両翼がまるで念力で動かされているようにふわりと浮かんで元の位置に戻っていったのだ。その翼は切断部分に綺麗に戻っていきまるで時が巻き戻るかのように完全に斬られる以前の姿へと戻っていた。


「あれは超再生...?」

「いや、あれは再生という感じではなさそうだ。何か特殊なスキルでも持っているのか?」


俺はすぐさまドラゴンゾンビ・イクシードのステータスを確認する。
すると見たこともない数値とスキルがそこにはあった。



=========================



種族:ドラゴンゾンビ・超越種(イクシード) Lv.195
状態:不完全な隷属

HP:522500 / 524500
MP:154860 / 154860


攻撃力:116380
防御力:90450
俊敏性:9690
知力:85
運:15


称号:
種を超えし者 暴虐を尽くせし者 同胞を滅せし者 死を纏う者


スキル:
火属性魔法Lv.7 風属性魔法Lv.6 雷魔法Lv.5 闇魔法Lv.6 物理攻撃耐性Lv.8 魔法攻撃耐性Lv.8 魔力操作Lv.8 急所特攻Lv.7 威圧Lv.9 不浄 完全復元 腐毒霧 死物の概念化



=========================



ステータスの数値は以前の数倍、それに既存のスキルのレベルが上がっていたり新たなスキルが増えていたりと別物のように強くなっている。やはり以前のドラゴン・イクシードの時よりも大幅に強くなっていると思ってはいたがここまでとは。

それにユニークスキルに気になるものがいくつかある。
俺はそれらの効果を詳しく鑑定してみた。


「...グランドマスター」

「どうかしたかい?」


俺は高レベルの鑑定スキルを保有していること、そして鑑定で見えたスキルの効果を全てグランドマスターに伝えた。するとグランドマスターは苦虫をかみつぶしたような表情で言葉を紡ぎ出す。


「つまりはユニークスキル『完全復元』でドラゴンゾンビ・イクシードは体に損傷を受けた場合、即座に損傷を受ける前の状態まで復元してしまう。そして『死物の概念』で状態自体が死亡で固定されているからHPを削り切ったところで倒すことはできない。ましてや『不浄』で神聖魔法での浄化も通用しない、か...」

「はい、鑑定でそのように見えました」

「それは...私たちでは、というより倒す方法がないじゃないか...」


グランドマスターの言う通り、この二つのユニークスキル『完全復元』と『死物の概念』、そして『不浄』のコンボは計算され尽くしているかのように俺たちの勝ち筋を全て壊しているのだ。


ドラゴンゾンビ・イクシードの体を二度と立ち上がれないほどに斬り刻んだとしても『完全復元』で損傷を受ける前の状態に即座に戻る。それならと今度はHPを削り0にすることでドラゴンゾンビ・イクシードを倒そうとしても『死物の概念』でそもそも今の状態が死亡状態なのでHP0にしても意味がないということになる。

そして死者を浄化することが出来る光魔法、いわゆる神聖魔法でさえもこのドラゴンゾンビ・イクシードは『不浄』の効果で無効化することが出来ている。


正直に言うと、打つ手がない。



「...あの男が最高傑作というだけある。本当にあの魔王と近しいほどの絶望の権化じゃないか」

「グランドマスター、どうしましょう...」


俺は必死にこいつの対応策を捻りだそうと思考を巡らせる。ただ倒せない、殺せない、浄化できないなんて馬鹿げたゾンビをどうにかできる気が全くしない。


するとそんな時にグランドマスターが意を決したような、そんな表情で呟いた。



「......一つだけ、策がある」




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