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第五章 王都魔物侵攻編
第104話 イルーラ vs カーニバルトレント 前編
しおりを挟む「はあっ!!!」
無数に突き刺してくる鋭い枝をイルーラは巧みに剣で捌いていた。威力もスピードも桁外れであり、イルーラも反撃するタイミングをうまく図れずにいた。
「くっ!!」
このままでは埒が明かないと考えて一度カーニバルトレントから距離を取る。しかしさながらホーミングのように鋭い枝がさらに伸び、イルーラへと襲いかかる。
「これならどうかしら!」
イルーラは風魔法カタストロフトルネードを向ってくる枝に放ち、地面を抉り上げながら全ての枝を木っ端微塵に粉砕した。
その瞬間、今までの嵐のようなカーニバルトレントイクシードの攻撃に隙ができた。その一瞬の好機をイルーラはもちろん逃さずに一気に攻勢に出た。
「はあああああ!!!!!」
イルーラが風魔法で速度をブーストし一瞬にしてカーニバルトレント・イクシードとの距離を詰めていった。そして懐に入ったイルーラはその剣に風を纏わせて強烈な一撃を放つ。
が、しかし何か異変を察知したのかイルーラはその一撃を放つ前にカーニバルトレント・イクシードから距離を取った。
すると先ほどまでイルーラがいた場所の地面から鋭利な根がイルーラを突き刺すように伸びていた。おそらくあのまま攻撃していればイルーラはあの根によって貫かれていただろう。
「...枝だけではなく根も厄介なようね」
枝と根の両方を意識して戦うのはいくらイルーラでも困難を極める。それに枝ならまだしも根に関しては突然地中から攻撃を仕掛けられるため枝よりも反応が遅れてしまう。
それに問題は枝や根の攻撃だけではない。
先ほど風魔法で木っ端みじんにしたはずの枝がすぐに再生していたのだ。この超越種は彼女の知っているカーニバルトレントよりも何倍もの再生力を持っているのだろう。これでは枝や根をいくら切断しようとも無意味である。
「これが超越種なのね...」
イルーラは改めて超越種の桁違いなその強さを体感していた。
流石にあれを使わずして勝てる相手ではなさそうだ。
彼女はカーニバルトレント・イクシードが様子をうかがっているのを確認して目を閉じ深く息を吸った。雑念を払い、意識を整えて目の前の出来事に集中をする。
「...未来視の魔眼!」
両目を大きく見開いて彼女は未来視の魔眼を発動させた。
それと同時に剣を構えて力強く地面を蹴り走り出す。
「キィィィィィィ!!!!!」
甲高い叫び声を上げながらカーニバルトレント・イクシードが再び迫ってくるイルーラに対して無数の鋭い枝を凄まじい勢いで突き刺していく。しかし先ほどまでと違い、それらの枝をイルーラは最小限の動きで余裕で交わしていた。
未来視の魔眼によってどこに枝や根が突き刺さるのかが分かっているため彼女は避けるということをしていないのである。魔眼を発動させた彼女にとって今やカーニバルトレント・イクシードの枝や根は単に元から存在する障害物に過ぎないのだ。
「はああああああ!!!」
再び一気に距離を詰めていったイルーラは幹に向けて強烈な一撃を放つ。カーニバルトレント・イクシードはすぐ下にある太い強靭な根を盾代わりにしてその攻撃を防ごうと試みた。
しかしイルーラはそのことも織り込み済みでその太い根を切断したままの流れで、まるで踊っているかの如くスムーズな流れで再び幹にその刃を向けた。
「ギヤアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
強烈な叫び声と共にカーニバルトレント・イクシードはその幹を真っ二つに切断された。そのまま斧で切り倒された普通の木のように横に大きな音を立てて倒れていった。
イルーラの身長以上の太さを持つ巨木を軽々とその細い手に持っている細長い剣で一刀両断する光景は実際に見た者でもなかなか信じられないものである。これこそが彼女が王国最強のSランク冒険者である所以である。
「...ふぅ。超越種、討伐完了です」
イルーラは剣を腰の鞘にしまって一息つく。
以前戦ったことのあるカーニバルトレントはよりは超越種であることで多少強かったと感じていた。ただ、想像していたのがこれ以上の化け物だったので少し拍子抜けであったようだ。
本当にこれで終わりなのかと心配になり、カーニバルトレント・イクシードの方へと視線を向ける。しかし倒れた幹は生気を失い、風でその枝についた葉がザワザワと音を鳴らしているだけだった。
それに未来視の魔眼でも確かめてみたが再び動き出す気配は全くなかった。
「...終わり、のようね」
イルーラはそう判断して魔眼を解除した。このまま一人先行してドラゴンゾンビの元へと向かっても良かったのだが、他の超越種と戦っている者たちの戦況が全く分からないので万が一のことも考えて加勢するためにも急いでその場を後にしようとした。
「?!」
すると走り出そうとしたその時、突然イルーラの手足に蔦(つた)のようなものが絡みついてきた。イルーラが気づくことの出来なかったそれらは彼女のすぐ下、地下から伸びていた。
「あいつ...まだ生きて...!」
振り返るとそこには先ほどまでと同じように斬られた切り株と倒れた幹が地面に横たわっているだけであった。しかしながらその切り株の方から伸びている根が僅かに動いていた。
するとカーニバルトレント・イクシードの切り株は斬られたところから驚異的な勢いで再び幹が生えてきて、十数秒後には再び以前の巨木となってそこに在った。
「くっ、カーニバルトレントの比じゃない生命力ね...」
普通のカーニバルトレントであれば幹を切断すればその大方の生命活動が停止するので討伐したこととなる。ただそれでも何年もその切り株をそのままにしておけば再びカーニバルトレントが再生するので、残った切り株は時間をかけてしっかり処理をすることが通例となっている。
イルーラは先ほども念入りに復活の兆しがないことを確認したので通例通りに戦いが終わってからしっかりと切り株を処理すればいいだろうと考えていた。しかしながら、この超越種は数年かかるところを僅か十数秒で復活するという規格外の存在であったのだ。
すぐに手足に巻き付く蔦からの脱出を試みたがなぜか上手く魔法が発動できなかった。それもそのはずでカーニバルトレント・イクシードはその蔦からイルーラの魔力をじわじわと吸収していたのである。
魔法を発動しようとするそばからその魔法に使うはずの魔力を吸い取られていた。
「まっ、魔力を...!」
このままではすべての魔力を吸い取られてしまいかねない。
イルーラは一気に膨大な魔力を集めて解き放つ。
「......はああああ!!!」
蔦が一度に吸収しきれない量の魔力を使うことによって吸い取られない余剰分で巻き付いている蔦を粉々に切り刻み脱出することに成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ......」
予想よりも多くの魔力を消費してしまったためにかなりの疲労感がイルーラを襲っていた。彼女はすぐに腰にあるポーチから魔力回復ポーションを取り出して口へと流し込んだ。
じわじわと魔力が回復していくにつれてイルーラの疲労感も少しずつ回復していく。
回復ポーションと二本ずつ計四本しか携帯用としては持っていないため本来の予定では最終決戦に挑む際に一本ずつ飲み、何かあった場合の予備としてもう一本ずつをもっていたのだ。
「魔眼で確認した時には復活する気配なんてなかったというのに...」
イルーラは何か不気味な感じがしてさらに警戒心を一層強める。苦虫を嚙み潰したような顔でカーニバルトレント・イクシードを見ていると一瞬だがやつの大きな口が笑ったように口角が上がったように見えた。
「ま、まさか意図的に復活を遅らせた...?!私の油断を誘うために...?!」
元々カーニバルトレントには知能と呼べるほどの知力は存在しない。餌がやってきたら捕食し、日の光を浴びるために日当たりのいいところに移動したりする程度であるはずだ。
それがこのような知略を巡らせるほどの知能を持つだなんてイルーラには予想外の事であった。これではまるでトレントを相手しているのではなく別の何かを相手にしているようである。
「......知能も別物、再生能力も元と比べ物にならない、か。超越種というのはこれほどまでに理不尽な存在なのね。けれども私は負けるわけにはいかない、イーストウッド最強のエルフとして誇りをかけて戦うわ!!」
イルーラは決意を新たに、そして纏う魔力がより一層強く濃くなっていく。彼女から発せられるプレッシャーがさらに強く、さらに重くなった。
「さあ超越種、私イルーラ・エレガ・イーストウッド全身全霊で相手します」
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