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第五章 王都魔物侵攻編
第102話 ヴェスティガ vs リッチ・イクシード 前編
しおりを挟む「ほうほう、なかなかやるではないか」
ヴェスティガはリッチ・イクシードが放ってくる全ての火炎弾に水魔法を当てて相殺しながら相手の力量を観察していた。ほぼ同時に複数の火魔法を連発しているリッチ・イクシードもそうだが、その悉くをいとも容易く魔法で相殺させているヴェスティガの技量は相当なものである。
王国には賢者と呼ばれるセレナの父親であるアルバート・ロードウィズダムがおり、彼も魔法の知識および技術に関しては超一流である。だがしかしこのヴェスティガ・ウィークラフはそれをも超える大賢者の二つ名で呼ばれている。
賢者と呼ばれる賢者アルバート・ロードウィズダムでさえも彼を尊敬し、魔法に関してはアルバートに「私の実力では足下にも及ばない」と言わしめるほどの実力を持っており、王国で魔法に関してヴェスティガの右に出る者はいないと言われているのである。
「ゴォォ......」
リッチ・イクシードは自身の攻撃をいとも容易く相殺してくるヴェスティガを睨みつける。リッチもまたヴェスティガの実力の程度を図っているようであった。
「...ゴォ」
火炎弾での攻撃をやめたリッチ・イクシードは地面に手を置いた。すると土魔法を発動してものすごい勢いでヴェスティガの方向へと地面から鋭く硬い棘が生成されていった。
「ほいっ」
ヴェスティガも応戦するようにリッチ・イクシードの方向へ向かってすさまじい勢いで地面から鋭い氷の棘を生成して相手の魔法にぶつける。ちょうど彼らの間中央辺りで両者の魔法がぶつかり合い、氷の棘と土の棘が互いに相殺し合った。
「ほうほう、火の次は土か。威力も申し分ないのう」
「......」
次なる魔法も簡単に相殺されてしまったリッチ・イクシードは目の前の生物への認識を変えたのだろうか、先ほどまでとは雰囲気を一変させた。するとリッチ・イクシードゆっくりと骨の口をゆっくりと開いた。
「汝は、何者だ?」
「ほう、お主言葉が話せるのか」
ヴェスティガは突然リッチ・イクシードが人の言葉を話し始めたことに驚いた。リッチという魔物は魔法を使えることや元は人の死体であることから知力は高いということが知られているが、人の言葉を話したということは一度も報告されていない。
理由はいくつか説が挙げられているが、有力とされている説としては死体に負のエネルギーが集まって生まれた魔物なためそこには明確な意識など存在せず生きとし生けるものを殺すということだけを目的としているというものである。
だがしかしヴェスティガの目の前に存在しているリッチ・イクシードは明確に意思というものを持っており、なおかつ人の言葉までを話すことが出来ている。つまりはこの魔物に関してだけは先ほどの説は通用しないということだ。
「汝は、何者だ?」
「わしはヴェスティガ、魔法を愛し魔道を極める者じゃ」
「...我を、倒すつもりか?」
「もちろん、そのつもりじゃよ」
その返答を聞いたリッチ・イクシードは少し黙り込む。
するとしばらくして両手を横に大きく広げ始めた。
「愚かな者よ、自らの無力さを思い知るがいい!!」
その次の瞬間、リッチ・イクシードから強烈な黒い風がヴェスティガに押し寄せる。その風はただの風ではなく直接接触したヴェスティガに恐怖というデバフを施すこととなる。
「こ、これは...!」
ヴェスティガはもちろん魔法技術だけではなく高レベルの魔法攻撃耐性や精神攻撃耐性も持ち合わせていたのだが、このリッチ・イクシードのデバフは完全に無効化することが出来なかった。多少の恐怖心の芽生えや少しの手足の震え程度ではあるが彼は長年受けることのなかったデバフを受けてしまったのだ。
だがこの程度のデバフなどヴェスティガが解除できないはずもなく次の瞬間にはすぐに解除することに成功した。ただこのわずかな隙が彼らのような強者同士の戦いとなると戦況を大きく左右することになる。
「!?」
先ほどまで十分距離を取っていたはずのリッチ・イクシードが一瞬で手前2mほどの位置まで接近していた。もちろんデバフを解除する僅かな合間もやつからヴェスティガは目を離すことはなかったはずなのにも関わらず一瞬の間に距離を詰めてきた。
しかもリッチ・イクシードの手には巨大な大鎌が握られており、魔法攻撃を想定しているリッチがまさかの物理攻撃を仕掛けて来ていた。
「はぁぁ!!!」
ヴェスティガはすぐに大鎌と自身の間に強固な岩石の壁を土魔法で生み出す。それと同時に風魔法を使ってリッチ・イクシードから距離を取ろうと動き出した。
しかしながらその大鎌は生み出された岩石の壁をそこには何もないかのようにすっとすり抜けてそのままヴェスティガの元へと迫ってきたのだ。
「ぐぁっ!?」
予想外の展開にヴェスティガは回避が僅かに間に合わずに大鎌の攻撃を左腕に受けてしまった。その攻撃によって強烈な痛みが彼の左腕を襲い、回避着地後に思わず左腕を抑えて膝をついてしまった。
リッチ・イクシードはこの好機に追撃を加えて来るかと思いきや大鎌を構えたまま動くことはなかった。まるでもう戦いは終わったかのような立ち振る舞いであった。
ヴェスティガは追撃を気にしながらも必死に思考を巡らせる。左腕の強烈な痛みに思考をかき乱されながらもこの目の前で起こった予想外の出来事に対して理解を進めようとしていた。
(あの鎌、わしが作った壁をすり抜けた...それにリッチには魔法による攻撃力はあっても物理での攻撃力はあまりないはずじゃ...いくら超越種じゃからとてわしの防御力を上回りこれほどのダメージを与えるなどあり得ん...)
理解をしようとすればするほど疑問がさらに増すばかりであった。その時、現状を把握しようと強烈に痛む左腕へと視線を向けるとそこにはまたもや予想外の状況が広がっていた。
「なっ、傷が無いじゃと?!」
そう、彼の左腕には確かに腕を斬り裂かれたかのような強烈な痛みが走っているのにもかかわらずそこには血の一つもついておらず全くの無傷そのものだったのだ。その現状を見てさらにヴェスティガは混乱する。
(一体、あの鎌は何なんじゃ。壁をすり抜け、相手には確実にダメージを与えるにも関わらず傷一つ負わせない。そんな攻撃...)
そこでヴェスティガはおかしなことに気づいた。普段であればこのような未知の現象に出くわすことがあれば混乱するどころか喜んでその謎を解明しようとワクワクしていたはずだ。
それなのに今は焦っている、混乱している、恐怖している。
(...まさか)
ヴェスティガは思い浮かんだ仮説を証明するために自身に超級の解呪魔法を使用した。すると次第に先ほどまでの焦りや混乱、恐怖などが消えていった。しかし左腕の痛みは和らぐことはなかった。
「なるほど、そういうことか」
ヴェスティガはゆっくりと立ち上がってリッチ・イクシードの方へと視線を向ける。リッチ・イクシードもまた立ち上がったヴェスティガの方を見つめる。
「お主の鎌、呪いを具現化したものじゃろ。だからこそ物体をすり抜け、肉体を傷つけることはなかった。じゃが呪いの塊を受けた生命はその精神に多大なる影響を受ける。厄介なものを持ってるのう...」
「ほう、今の一撃でそこまで理解できるとは。これはユニークスキル『呪魂の大鎌』、我の呪いで構成されたものだ。これに触れた生命体はその精神を冒され魂が傷つけられる」
リッチ・イクシードは淡々と自身の武器の説明をする。
知ったところでどうにもできないという風に考えているのであろう。
「魂を傷つける、か。じゃから傷一つないのにわしの腕は強烈な痛みを発しているのか。防御不可能の魂に直接攻撃、そして超級でないと解けない強力な呪い付き。まるで死神そのものじゃのう」
「その通り、我の前に現れた生命は全て死を迎える。それは例外なく必然なのだ」
ヴェスティガは目の前に存在している魔物が死そのものであるとそう感じていた。しかしながら彼は恐れるどころか好奇心がくすぐられる思いに駆られていた。
「では、お主の初めての例外となってやろう。死を超えることなぞ魔道を極める者にとって、いつかは越えねばならぬ壁じゃからのう!」
「哀れな人族よ、あの世でその愚かさを悔いるがいい」
ヴェスティガの表情が真剣なものへと変わる。
それと同時に彼の放つ雰囲気も強く重くなっていった。
リッチ・イクシードも強烈なプレッシャーを放ちヴェスティガの様子を窺っている。様子見から始まった彼らだったがついに倒すか倒されるか本気の戦いが始まろうとしていた。
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