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第四章 極寒山脈の凶龍編

第84話 少女の正体

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「すぅ......すぅ......」


何とか一命をとりとめた少女は目の前で穏やかな寝息を立てながら眠っている。
俺はインベントリの中から毛布を一枚取り出して彼女の上に被せた。


「良かった...これで一安心だな」


俺は一息つくとインベントリから魔力回復ポーションを取り出してそれを一気に飲み干す。思った以上にこの娘の治療に魔力を消費してしまったのだ。普通なら即死レベルのダメージを負っていたのにもかかわらずこれまでずっと生きながらえていたのは非常に驚きである。


こんなところに一人でいることからもただ者ではないということは分かるが、その尋常じゃない生命力からもかなりのステータスの持ち主であることが伺える。

俺は失礼を承知で彼女のステータスを鑑定で見てみることにした。


「なっ!?」


俺は彼女のステータス画面を見るや否や驚きのあまり絶句してしまった。
ただの人ではないとは思っていたが、まさか人族ですらないとは...


「ドラゴン...それも古龍、なのか」

「えっ、この子が古龍なの?!」


俺の言葉にセラピィも驚きの声を上げる。
そのままセラピィは人化してじっくりと観察し始めた。

一瞬ステータス偽装を疑ったのだが、少女にしてはあり得ないほどの高いステータス数値はまだしも自らの種族を古龍種と詐称する意味が分からない。それに俺のスキル、鑑定Lv.10でさえも見破れない偽装スキルがこんな少女が持っているとも思えない。

そんなことを踏まえると総じてこの子が本当に古龍である可能性が高いだろう...


俺はスヤスヤと寝息を立てて寝ている古龍っ娘を見ながら考えを巡らせる。


村の人が言っていたこの山に住む伝説の古龍ってこの娘のことなのだろうか?
それにどうして古龍がこんな人間の女の子の姿をしているのだろうか?

いろいろと疑問は湧いて出てくるが本人の意識が戻るまでは考えたって仕方がない。
まあ今はとりあえず目が覚めるまで見守っておこうか。


そうして俺たちは古龍っ娘の容体を見守りながらこの洞窟で再び休息を取ることにした。






「ユウト!ユウト!!」


ふと気が付くとセラピィが大きな声で俺のことを呼んでいる声が耳に入ってきた。
どうやら俺はしばらくの間眠っていたようだ。


「セラピィ、どうした?」

「この子が!」


セラピィが指をさす方へと視線をやると例の古龍っ娘が薄っすらと閉じていた目を開けようとしていた。どうやらまだ意識は虚ろなようで完全には程遠い様子であった。


「君、大丈夫か?」

「......」


俺は近づいて呼びかけてみるが返答はない。
しかしこちらへとゆっくり視線を向けたので聞こえているようだ。


「俺は冒険者のユウト、偶然この洞窟に入ったら傷を負った君がいたので治療をしたんだけれど...」

「......」


俺は彼女に対して非常に簡潔に状況を説明する。
説明を終えるとしばらく目を閉じて何かを考え始めた。


「そうか、思い出してきた」


目の前の少女はそのように呟くとゆっくりと上半身を起こした。
彼女が突然起き上がったので俺は心配になりすぐにでも休ませようと手を伸ばす。

しかしよく見るとつい先ほどまであまりよくなかった顔色がすっかりと血色の良い様子になっており、彼女の瞳にもかなり力強い意志が感じられた。


「...もう体は大丈夫なの?」


セラピィが少女に怪我の具合を心配そうに尋ねる。
すると優し気な表情でセラピィの方を向いて答える。


「ああ、心配ありがとう。精霊族の少女よ」

「...」


なんとこの少女、セラピィの正体を精霊であると一瞬で見抜いた。
可視化状態のセラピィは見た目だけでは完全に人族の少女と見分けがつかない。

それに隣に人族の俺がいるこの状況ではセラピィも人族であると推測することが普通だろう。それを一目見ただけで正確に精霊族であることを見抜くなんて、本当にこの子は...


「私たちは先ほど説明した通り、この山を調査しに来た冒険者です。私はユウト、そしてこの子がご存じの通り精霊族のセラピィ。二人でこの山周辺で起こっているワイバーンたちの異常行動を調べていたら原因と思われる山頂のドラゴン・イクシードと遭遇してしまったんです。奴の攻撃でこの谷底に落とされてしまったんですが...あなたはなぜここであのような状態になっていたんですか?」


俺は言葉を改めて目の前にいる彼女に理由を尋ねる。
すると少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。


「お主は...そうだな、まずは礼を言おう。わしに治療を施してくれたこと感謝する。わしは元々この山を住処にしていた古龍族、アンシエンデグラスという。簡潔に言おう、わしはお主も言っていた先ほどの龍、山頂に突然やってきたあの忌々しい龍に不意を突かれて致命傷を負ってしまったのだ。そのままでは命を落としかねない状態だったのでこのような姿に変化することで消費するエネルギーを最小限にし残り全てのエネルギーを以って体を保護していたのだ」


なるほど、確かに巨大な龍の姿よりも小さな人族の子供の姿になっていた方が消費するエネルギーはかなり小さい。しかし巨体から子供に変化するためにも魔力が必要なだけあってその方法はそうとうな賭けだったのではないだろうか。

この古龍はそれほどまでに追い詰められていたということか。


「そんなところにお主と出会えたのはまさに僥倖。お主の治療がなければわしはじわじわと命を擦り減らしていくだけだっただろう。命の恩人に心より感謝を」


すると古龍はこちらへと深々と頭を下げて謝意を表してきた。

見た目は可愛らしい少女なのだが中身は強大な力を持つ古龍なのだ。
この見た目に騙されて接する態度を間違えてしまいそうになるので改めてちゃんと認識しなくては。


「いえ、頭を上げてください。私たちも出来ることをしたまでですし、それに良ければあの例の龍についてもっと教えていただくことは出来ますか?」


俺がそのようなことを言うと古龍は少し驚いたような表情をした。
すると神妙な面持ちでこちらを見つめてくる。


「もしかしてお主、あやつとやり合うつもりか?」

「ええ、もちろんです。確かに依頼の名目は調査ですが、可能であればその原因の排除も私のような冒険者の役目ですから」

「...止めておけ。確かにお主も相当な手練れだとは思うが、あれは人族などが一人で敵うような相手ではないぞ。命の恩人をみすみす犬死させるわけにはいかん」


彼女は真剣に俺を引き留めようとする。たしかにこの古龍すら不意打ちとはいえ致命傷を負わせるレベルの魔物だ。普通に考えれば相手をするだなんて無謀にも程があるだろう。

しかし俺もそこまで馬鹿じゃない。
勝てない相手に特攻するほど命を粗末に扱う気も毛頭ない。


「私もあの龍の力は重々承知しています。だからこそ立ち向かうのです」

「...勝つ算段があるとでも?」

「ええ、本気なら負けるとは思っていません」


俺と古龍は互いに真剣な眼差しで見つめ合う。
テレパシーなどないのに互いに何を考えているのかが自然と伝わってくる。


「そうか、そうか!」


するとじっと俺の目を見つめていた古龍はにこっと笑って何か納得したようだ。
そうして再び俺の方を見つめて真剣に、今度は笑顔でこちらへ話始める。


「ならばわしも協力してやろう!」





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