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第四章 極寒山脈の凶龍編
第81話 白の景色と元凶
しおりを挟む野宿をした翌朝、非常にいい天気...とはいかず空模様はかなりの曇天が広がっていた。幸いにも雨や風は全くなかったので今日はこのまま予定通りに北方山脈の中央の山へと行ってみようと思う。
朝食を終え、テントの片づけや焚火の後始末などを済ませていよいよ出発の準備が整った。
「セラピィ、準備はいい?」
「うん、大丈夫だよ!」
「何があるか分からないから気を付けて行こう」
俺はセラピィに注意を促す。
するとセラピィも真剣な表情でこちらを見て頷いた。
「さあ、行こうか」
そうして俺は飛行魔法を使って空へと飛びあがった。
上空も特に気流の乱れとかはなくしばらくは安全に飛べそうだ。
セラピィも実体化を解いて光の玉状態で俺の方へとやってきた。流石に人の姿のままだと強力な魔物に狙われてしまうかもしれないと先ほど話し合い、出来る限り気づかれにくいこの状態で俺についてきてもらうことにした。
と言っても特殊な能力を持った魔物がこの先に存在していればこの状態のセラピィを認識できてしまうので絶対に安全という訳ではない。なのでもしセラピィ自身に危険が迫ったらなりふり構わずにセレナのところへとスキルを使って移動してほしいと言ってあるのだ。
実は以前に少し聞いていたのだが、どうやらセラピィには一日一回だけだが契約者のもとへと一瞬で移動できるスキルがあるらしい。セレナと契約して実体化に成功した時に得たもののようだが、いつもは念話で呼ばれた際すぐに俺やセレナに会いに行くために使っているらしい。
それが本来の使い方なのかはさておき、今回もしどこかで危険な状態に陥った際にはこのスキルはかなり有用な避難用スキルとなる。しかし一日に一度しか使えないので途中でセラピィがセレナのところへと避難してしまえば俺はセラピィの支援が受けられなくなる。
だけれどもセラピィには自分の身の安全を最優先してほしい。
例え俺が窮地に陥るかもしれないとしても...
まあこれで俺も安心して戦えるし、万が一の時には自分の命を最優先に行動することもできるっていうメリットももちろんある。しかし俺もセラピィのように瞬間移動のようなことが出来たらな~と少し中二心をくすぐられてしまう自分がいる。この依頼が終わったら瞬間移動みたいな魔法も開発してみようかな...
出発して約5分後、中央の山の麓へと到着した。
この山に近づていくにつれて何だか異様な雰囲気が漂ってきているように感じていた。
「もしかして、これが昨日セラピィがあのワイバーンに感じてた違和感か?」
「うん、こんな感じだった。それにあの時よりも強いよ」
これで確実にワイバーンの異常行動の原因がこの山にあることが分かったな。ということはあのワイバーンたちでさえ逃げ出すような問題、あるいは存在がこの山にあるということだろう。
「じゃあこの異様な雰囲気の出どころに向かっていこうか」
「了解」
俺とセラピィは恐る恐る異様な気配が漂う山の頂上へと向かい飛び出した。
おそらくあの雲で隠れた山の上側に何かがあるのだろう。
まずは山の下側の様子も見て回ってみる。
これもやはり他の山と同じように全く動物や魔物の気配が感じることが出来なかった。
一通り確認し終えた後、ようやく本命である中央の山の雲で隠れている山頂付近へと向かうことにした。だが少し向かう前に俺は一度頬を軽く叩いて気合を入れ直す。これはSランクの依頼だということを心がけるためだ。
「よしっ!」
そうして俺たちは得体のしれない中央の山頂へと向かっていった。
========================
雲の厚い層を突き抜けて視界に眩しい光が入り込む。
するとそこには一面真っ白な雪が降り積もったきれいな景色が広がっていた。
俺たちは雲を通り抜けて来たのだが、このさらに上空に真っ黒な雨雲が存在していた。もちろん高度も高いため気温はかなり低く、雨ではなく雪が一年中降り積もっているようだ。
「わぁ!綺麗な景色だね」
「そうだね、でも油断はしないようにね」
俺もこんな景色を実際には前世も含めて見たことはなかったので少し目を奪われていた。それに思っていた以上にこの中央の山は横にも大きく、かなり上空へと来たはずなのに一つの町が入りそうなぐらいの平地も山の所々に見ることが出来る。
すごいなぁと辺りの景色を見ていると突然近くに何かの気配を感じた。
「何だあれは?」
すると気配がした先には目が真っ赤に光った白い狼のような魔物が5体、こちらを攻撃しようと必死にジャンプしたり近くの木によじ登ったりしていた。
彼らの様子は明らかにおかしいことが見た目からもはっきりとわかる。息を荒くして唸り声を上げ、我が身が傷つくのも構わず一心不乱にこちらを攻撃しようとしている。
俺はすぐに鑑定をして狼たちのステータスを見てみる。
彼ら『スノーウルフ』たちはなぜか『狂乱』という状態異常に陥っていたのだ。
「何かに影響を受けて狂乱状態になった...と考えるのが妥当か」
このままこの狂乱狼たちを放置しておけば、次第に山から下りて行って手当たり次第に人を襲ってしまうかもしれない。ここで倒しておかなければ...!
「ファイアランス」
俺は空中で炎の槍を同時に複数生成した。
そしてそれらを狂乱しているスノーウルフたちに向けて発射する。
すると彼らは俺の魔法を見ても回避することなく、ずっと俺に向かって攻撃しようとし続けていた。その結果、目の前にいたスノーウルフたちは一匹残らずファイアランスに貫かれることとなった。
なるほど、これが狂乱状態なのか...
俺たちは地上へと降り、息絶えたスノーウルフたちをインベントリへと収納していった。回収した死体をインベントリ内で解体して入手できた素材たち、もちろん魔晶石にも特に異様なところは見当たらなかった。今回の異変の原因は身体にまで影響を及ぼす類のものではないのだろう。
「これは他にも影響されている魔物がいるかもしれないけど、早くこの異変の原因を確かめないとな」
「そうだね、何でこんなことになっちゃってるんだろう...」
そうして俺たちはさらに山の上の方へと進んでいくことにした。途中まで少しだけ雪が降っているだけだったのだが、次第に雪が強くなってきてもう少しで山頂だという頃には猛吹雪で1m先も見にくい状態になってしまっていた。
ここまで雪も風も強いと流石に風魔法をもとにして開発した飛行魔法を使うのは練度もあまり高くないので不安定になってしまう。残り少しだがここからは歩いて山頂へと向かうことにした。
もう少し飛行魔法についても練度を上げて周囲の環境に影響されずに使用できるよう対策を考えないといけないだろう。これは帰ってからの課題だな...
そうして猛吹雪の中、飛べない分かなり時間を要してしまったがついに山頂へと到着した。吹雪で視界が不明瞭であり、辺りの様子があまり確認できないのだが何かが少し先にいる気配がしている。
その存在からは先ほどまで感じていた異質で不気味な気配が強く漂っている。
これはこいつが異変の原因ということで間違いないだろう。
すると次の瞬間、その存在が俺たちに気づいたのか周囲に大きな地鳴りが響き渡り始めた。
「グオオオオオオォォォォ!!!!!!!!!!!」
前方から大きな咆哮と共に強烈な衝撃波が轟く。
それと同時に非常に巨大な影が徐々に吹雪の中から姿を現した。
「なっ...!」
俺はその巨大で禍々しい存在に思わず息をのんだ。
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