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第四章 極寒山脈の凶龍編

第78話 北方山脈へ

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ニーベルン村に到着した翌日、早くもなく遅くもないちょうどいい時間に目覚めた俺は宿屋でゆっくりと朝食を食べる。そして食べ終わるとすぐに北方山脈に関する情報収集を開始した。


「あぁ、北の山脈のことかい?最近物騒な話をよく聞くね。ここはまだ被害はないけれど、この村よりももっと山脈の近くにあった村はワイバーンに襲われて壊滅したって話だよ。ここも少し離れているとはいえ、いつか襲われるんじゃないかってみんな怖がってるよ」


「ワイバーンに襲われて生き延びたやつの話によると、ワイバーンが来る少し前ぐらいから周辺の森でいつも見かける動物たちが急に姿を見せなくなったことがあったって言ってたな。今思うとそれが異変の前触れだったのかもな」


「北方山脈は5つの大きな山の集まりなんだけど、その中でも中央にそびえるひときわ大きな山には大昔から生き続けている古龍が住んでいるっていう伝説があるんだよ。だからもしかしたら誰かがその古龍を怒らせたせいでワイバーンたちが近くの村を襲ってるんじゃないかって噂があるな」


昼過ぎごろまで計10人ほどの村人に話を聞きまわってみると多くの人たちがこのようなことを話してくれた。聞くところによるとすでにいくつもの村がワイバーンたちによって壊滅しており、残っている近隣の村の人たちも逃げ出す人が後を絶たないのだそうだ。

早くこの問題を解決しなければいずれはこの村にもワイバーンが襲ってくる可能性は大いにあるだろう。ワイバーンたちを討伐したら一応襲われる心配をなくすことは出来る。しかしなぜワイバーンたちが住処を離れて急に村々を襲い始めたのかの原因を探って根本的なものを解決しなければワイバーン以外の問題が発生してしまう恐れもあるだろう。


とりあえずこの村で得られる情報はこれぐらいしかなさそうなので一回あの北方山脈に行ってみるしかなさそうだ。俺は情報収集を終えると一度昼食を食べて今後の方針について頭の中でまとめる。

徐々に山脈に近づいて周辺の探索および強力な魔物の討伐。それに行けそうであれば最終的に北方山脈の中央にそびえる巨大な山の頂上を目指してみる。おおよその方針はこんな感じだろう。


そういえば伝説にある山頂に住まう古龍の存在はかなり気になるが出来る限り無用な戦いはしたくないので、その古龍が本当に実在するのであれば出来る限り刺激しないように探索をするべきだろう。

しかしもし仮にその古龍が今回の事件の原因で戦って勝てそうなら討伐し、勝てそうになければ手を出さずに即離脱してグランドマスターに報告する。そこで無理に命を懸ける必要はない。今や俺の命は俺だけのものではないから...


俺は昼食を食べ終えると早速北方山脈へと向かうべく村を出発する。


村から北方山脈の中でも一番近い山の麓へと辿り着くのに徒歩だとおそらく俺でも2,3日はかかってしまうだろう。だがしかし、ここから北方山脈のある場所まではいつどこでワイバーンやその他の山から下りてきた魔物と遭遇するか分からないため馬車では進めない。

そこで俺は密かに練習していたとある魔法を使ってみることにした。


「セラピィ、ちょっと来てくれるか?」


俺は村から1kmほど離れた人気のない森の中でセラピィを呼ぶ。すると数秒後、目の前に空気の渦が現れた。渦の勢いが徐々に弱まっていくとその渦の中心から少女の姿が見えてきた。


「ユウト、来たよ~!どうしたの?」


少女の姿をしたセラピィが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
その疑問に答えるように俺は彼女に今からやろうとしていたことを伝えた。


「なるほどね!じゃあセラピィは見てアドバイスすればいいの?」

「ああ、少しでも気づいたことがあればどんどん言って欲しいんだ。お願いできる?」

「うん!任せて!!」


セラピィは嬉しそうに満面の笑顔で答える。
そんな彼女を見ていると何だか無性に頭をなでたくなる。

...これが父性というものなのだろうか。

俺は欲求に耐え切れず少しだけセラピィの頭を撫でる。すると最初は少し驚いていた彼女も次の瞬間には自分から頭を差し出してもっとと言わんばかりの笑顔をしていた。


しばらく頭を撫でて互いに満足するとようやく魔法の準備に取り掛かる。
我ながら緊張感がないなと少し心の中で反省をした。


「さあセラピィ、準備はいい?」

「セラピィはいつでもいいよ!」


俺はセラピィに確認をしてから魔法を発動させる。
ゆっくりと俺の周りに風が吹き始める。


「......フライト!」


すると俺の体は次第に浮き始め、次第に周囲の木々の高さを超えてついには地上から約20mほどのところまで上昇した。そして徐々に減速しその場で静止することに成功した。


「よしっ、安定してるな」

「うん、大丈夫そうだよ!」

「じゃあこのままあの目の前の山の近くまで行ってみるよ」


そう言うと俺は少し前傾姿勢をとり、前方方向へと徐々に加速を始める。そして前世で言うところの車ほどの速さで飛行することに成功した。心配していたようなことにはならず非常に安定して飛行している。


「セラピィ、どうかな?結構いい感じだと思うんだけど」

「うん!完璧だよ!!練習の成果ばっちりだね!」


この魔法は風属性の魔法を応用して開発した飛行魔法『フライト』である。いろんな魔法を試行錯誤しているときに飛べると便利なこともあるだろうと考えたものなのだが、想像以上に難しく自分だけではかなり失敗していたのだ。

そこで俺は風属性精霊のセラピィにこの魔法の仕組みと意図を伝えて開発を手伝ってもらうことにしたのだ。俺以上に風に関して精通している彼女の力があれば夢の空中飛行も可能になるのではないかと思った。


そして練習の成果を完璧に発揮して、俺は今空を自由自在に飛んでいるのだ。


ようやくこの魔法を完成することが出来た達成感と空中飛行の爽快感で俺は興奮を抑えることが出来ずにいた。左右に移動して飛んでみたり、上昇したり下降したりといろんな飛び方をしてみてみる。もちろんただただ興奮しているだけではなく、いろんな飛び方の練習も兼ねている。


「セラピィ~!空を飛べるって気持ちいね~!!」

「そうでしょ?いいよね~!!」


俺の隣でセラピィも気持ちよさそうに空を飛んでいる。彼女はそもそもこの飛行魔法がなくとも飛べるので最悪の場合には助けてもらおうと思っていたのだ。しかしそんな必要はもうなくなり、こうして一緒に空を散歩することが出来ている。


「じゃあ、このままあの山の麓まで行こうか!」

「うん!」


そうして俺たちは一気にスピードを上げて先に見える山の麓へと向かって飛んでいった。このスピードだとあと10分くらい飛べば到着するだろう。こんなにも時間短縮できそうだなんて、本当にこの魔法を練習しておいてよかったと過去の自分に感謝するのだった。
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