77 / 122
第四章 極寒山脈の凶龍編
第69話 Sランク依頼
しおりを挟む「えっ?教団が?!」
俺はまさかの発言に少し声が大きくなってしまった。
声を出した瞬間、自ら気が付いてすぐ抑えめにしたがそれは一体どういうことなのだろうか?
「少し前からこの依頼が来ていたのだが、アースルドたちからあの話を聞いてから改めてこの依頼関連の情報を確認してみると少し気になる点があってね」
「気になる点、ていうのは?」
俺は少し前のめりになってグランドマスターの話を聞く。Sランクになることには消極的だが教団が関わっている可能性があるというのは正直無視できない。もちろんお嬢様のことが心配であるということも理由の一つであるが、一番大きな理由は彼らの目的である。
あのジェラという男が言っていた『マモン』とやらの復活に成功されることがあれば、聞いた話が本当であれば間違いなくこの世界が文字通りの地獄と化してしまう。そんなことになれば俺のスローライフどころではなくなるだろう。
「実はこの依頼書にもあるように現在、王都の北方にあるコキュートン山脈周辺でワイバーンたちが生息地を大幅に外れて暴れまわっているみたいでね。周辺の村々でそのワイバーンによる被害が多発していると聞いているんだ。だからその原因調査とワイバーンの撃退が依頼として来たんだけど...」
「その村に住んでいる者の目撃証言によると、山脈の山頂付近で黒い靄を纏った謎の飛行生物がいたと言うんだよね」
「黒い靄を纏った飛行生物?」
俺は黒い靄と聞いて何か引っかかるような気がした。
そこで教団関連の記憶の中で何があったかを必死に思い出してみる。
「あっ、そういえばあの時ジェラが持っていた魔力水晶も黒い靄が溢れていたような...」
「ああ、黒い靄を纏った生物と言えば私も心当たりがある...」
「「...マモン」」
俺とグランドマスターは息を合わせたかのように同じ言葉を発する。グランドマスターはまるで実際に黒い靄を見たことがあるかのような口振りだった。
「グランドマスター、もしかしてマモンをご存じなのですか?」
俺はそう尋ねると気難しそうな顔をしてしばらく下を向いて黙ってしまった。そして何か嫌な思い出でも思い出していたのか頭を振り払うように顔を上げる。
「ああ、知っていると言えば知っている...かな。詳しくは言えないけれどね」
「そう、なんですか」
俺は何となく重い雰囲気を感じてそれ以上聞くことはやめておいた。今はその依頼のことに集中するとしよう。
「で...その黒い靄を纏った生物がもしかしたら教団が関係していて、そいつが原因でワイバーンたちも生息域を追い出されたということですかね...?」
「ああ、私もそのように考えてるんだ。だからこそ今回の依頼はその黒い靄を纏った生物の調査も併せて行ってほしいんだよ。それに...実はそのような生物が確認されているのはここだけじゃないんだ」
まさか、この山脈以外の場所にも黒い靄の生物が?一体何が起ころうとしているんだろうか...とても嫌な予感がする。
「他の場所の調査にはSランク冒険者たちを向かわせているんだけれど、ぜひこの山脈の件を君に頼みたいんだよ。お願いできるかい?」
こんな話を聞いてしまっては断るわけにはいかないよな。俺にも全く無関係な話ではないからな。
「分かりました。この依頼、受けさせていただきます」
「ありがとう。何が起こるか分からないから十分に気を付けてくれ」
俺はグランドマスターから依頼に関する他の細かい情報を聞き話し合った結果、十分に準備をしてから向かうべきだということに落ち着いたので出発は2週間後ということになった。コキュートン山脈近くの村までの移動手段はグランドマスターが用意してくれるらしい。
そうして俺はグランドマスターとの相談もひと段落したところで応接室を後にする。二階の窓からはもうすでに夕日が差し込んでおり、想った以上に時間が経っていたことに気が付く。
とりあえずギルドの一階へと降りるとそこではテーブルを囲みながら長椅子に座っているレイナさんとセレナお嬢様、そしてその側で立っているマリアさんの姿があった。もしかしてずっと待っていてくれたのだろうか?
「お待たせしました!」
俺は急いで彼女たちの元へと駆け寄って声をかける。すると俺が下りてきたことに気づいたお嬢様が退屈そうな表情を一変させて急いで椅子から立ち上がり駆け寄ってきた。
「お待ちしておりました、ユウトさん!かなりお話しが長かったですね?」
「ええ、とある依頼を受けることになりましてその相談をグランドマスターとしていたんですよ」
俺は教団関連の情報は伏せてコキュートン山脈での依頼について3人に話した。するとレイナさんとお嬢様がSランク相当の難易度の依頼だということもあってかなり心配してくれたのだが、マリアさんの説得もあって少し不安そうな感じではあったが最後には応援してくれていた。
マリアさんは一度俺とある意味事故的な感じではあったが手合わせしたこともあるので俺の実力をかなり高く評価してもらえているようだ。それに先ほどのグランドマスターとの手合わせの件もあってSランクに任命されたことも何ら不思議に思っていないらしい。
「そ、そういえばユウトさん。私はどうしましょう?」
俺の依頼についての説明と説得がひと段落したところでレイナさんが俺にそのようなことを聞いてきた。確かに俺の付き添いで王都まで来てくれたのだが、流石に俺が依頼から帰って来るまで待っててもらう訳にもいかないだろう。
「そうですね...レイナさんのお仕事も終わったことですし先にサウスプリングに帰ってもらっても大丈夫ですよ」
「...そうですよね」
何だか少し悲しそうな表情に一瞬なった気がしたが気のせいだろうか?
するとそんな俺たちの会話を聞いていたお嬢様が突然ある提案をしてきた。
「レイナさん、もしよければユウトさんが依頼から帰ってこられるまで私たちの屋敷に泊まりませんか?」
そんな突拍子もない提案にレイナさんは慌てふためく。
「そ、そ、そ、そんな!お世話になるわけには...!!!」
「いえ、私がレイナさんともっと一緒にお話ししたいんです。それに...」
するとレイナさんの耳元へと顔を近づけて小声で話しかける。
小さすぎたので俺にはなんて言っているかはっきりとは分からなかった。
(....んとの関...ても少.....たい....こち.......きますか?)
「えっ?!そっ、それは...」
レイナさんが先ほどまで以上に動揺した感じになり、それに耳まで赤くなるほどに顔を赤らめていた。一体お嬢様はレイナさんに何を言ったんだろうか?
「わ、分かりました...お、お言葉に甘えてお世話になります」
「では、決まりですね!ユウトさんもレイナさんのことは私たちにお任せください!」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
俺は状況をよく理解できていなかったが、とりあえずレイナさんのことはセレナお嬢様やマリアさんにお任せすることにしよう。
そうして俺たちは今後の方針も定まったところで夕食を一緒に食べることに決めた。しかし、さすがに公爵家令嬢をそこら辺の料理屋に入らせるわけにもいかず絶対に行く機会のなかった高級レストランで夕食を頂くことになった。
もちろん俺とレイナさんも高級な料理を食べることになったのだが、緊張で全く味の分からないという状況になっていた。そして15歳の少女であるお嬢様に奢ってもらうのも何だか気が引けたので俺がお代を払うことにしたのだが、あり得ないほどの金額が飛んでいってしまったのは言うまでもないだろう...
14
お気に入りに追加
3,238
あなたにおすすめの小説
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
異世界転生したので、のんびり冒険したい!
藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。
実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。
そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。
異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。
貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。
ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。
いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して!
……何時になったらのんびり冒険できるのかな?
小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる