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第三章 王都誘拐事件編
第49話 邪神教
しおりを挟む「改めまして、自己紹介を。私はロードウィズダム公爵に仕えておりますメイドのマリアと申します。この度は大変ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」
「ご丁寧にありがとうございます。改めまして、僕はDランク冒険者のユウトと申します」
どこかの貴族のメイドさんだとは思ったけどまさか公爵家のメイドだったとは驚いた。ということは先ほど黒ローブの男が抱えていた女性は公爵家の人間ということか。お嬢様って言っていたから公爵令嬢ってところかな?
「とりあえず話を整理すると、マリアさんは何者かによって連れ去られてしまったお嬢様を救出するために王都のあちこちを探し回っていたと。そこで僕が薄暗い路地裏で怪しいことをしていたから関係者だと思って攻撃した、これで合ってますか?」
「...はい、その通りです」
「で、僕はさっき説明した通りで人の少ない静かな裏路地で散歩しているところを黒ローブの男たちと遭遇してしまい戦闘になった。そして倒した奴の情報を得るために持ち物を物色しているところをマリアさんに突然攻撃された、と」
「...」
...今までの状況を整理していただけなのだが意図せずマリアさんを責めている感じになってしまった。マリアさんの表情がすごく悲しそうで今にも泣き出しそうである。こ、これはどうにかしてフォローしなければ...!!
「まあ、起きてしまったことは仕方ないですし。それに僕はもう気にしていませんので気を落とさないでください」
「あ、ありがとうございます...」
う、うん...慰めるの下手なのかな、俺。
い、今はとりあえず攫われたそのお嬢様を助けに行かないとだな。
「さてと、早くマリアさんのお嬢様を助けに行かないとですね」
「えっ、ご協力いただけるのですか?!」
「まあ、乗り掛かった舟ですし。それにこのまま何もせず帰ったら後味悪いですからね」
先ほどまで落ち込んでいたマリアさんの表情がぱあっと明るくなる。
するとマリアさんは頭を下げて俺に感謝を告げる。
「ご協力感謝します、ユウト様」
俺はすぐにでもあの黒ローブを追いかけるためにインベントリにしまっておいた剣を取り出す。ちゃんと怪しまれないようにバッグの中から取り出したように見せかけた。これで追いかける準備が整った。
「それでは向かいますか」
「む、向かうってセレナお嬢様の居場所が分かるんですか?」
攫われた公爵令嬢はセレナっていう名前なのか。というのはさておき、実は先ほど黒ローブの男と戦闘になる前にドレスの女性を地図化スキルでマーキングしておいたのだ。一度対象となる人物の魔力さえ把握すれば俺の地図化スキルの対象範囲内であれば追跡することが可能なのだ。
俺はマリアさんにスキルで令嬢の位置を把握していることを伝える。
もちろん具体的なスキルの説明は省いたけどね。
「先ほど手合わせした時から感じていましたが、ユウト様は本当にDランクなのですか?」
マリアさんが不思議そうな顔でこちらを見つめてきた。
まるで品定めでもするかのようだ。
「あ、変な意味ではなくてですね。明らかに実力が普通のDランク冒険者のそれではなかったので」
「もちろん本当にDランクですよ。冒険者になったのが最近の事なので...違和感の正体はそのせいだと思います。けれど、それを言えばマリアさんだって本当にただのメイドですか?さっきの誘拐犯よりも明らかに強いと思うんですが...」
俺がマリアさんにそう聞き返すと少し微笑みながら俺の疑問に答えてくれた。
「実は私、ロードウィズダム公爵でメイドをする前はAランクの冒険者をしておりました。今ではその時の経験を生かしてセレナお嬢様の専属メイド兼護衛を務めております」
なるほど、元Aランク冒険者だったら納得の強さだ。
それにしても何でAランク冒険者だったマリアさんが公爵家のメイドなんかになったのだろう?
まあそれはいろいろ事情があったんだろうし、今聞く話じゃないか。
「他にも聞きたいことはありますが、急いだほうが良さそうなので向かいながらにしましょうか」
「はい、そういたしましょう」
そういう訳で俺は公爵家のメイド、マリアさんと共に公爵令嬢を救出すべくともに行動することとなった。スキルによればあのまま町を出て近くの森の中へと向かっているようなので急いで向かうことにする。
「それにしても、公爵家の令嬢が攫われたのに何でマリアさん一人で追っているのですか?」
「いえ、私以外にも公爵家の騎士様たちと王都の騎士団がセレナお嬢様の捜索をしております。私は他の方々に先んじて情報収集や怪しい人物の捜索、そしてあわよくば救出をということで動いております。もちろん公爵様のお許しは頂いております。今回の件は私がお側にいられなかった僅かな隙に起きてしまい、自分がとても不甲斐なく...居ても立っても居られないのです」
そうだよな、普通だったら公爵家ぐらい地位のある人間だったら警備なんて厳重だろうし。そんな中で連れ去られてしまったのだからその令嬢の専属メイドならなおさら悔しいだろう。
それに何か事情があってそばを離れた隙に連れ去られるってそれ、外部の人間じゃ難しいのでは?もしかして公爵家の人間の中に内通者でもいるんじゃ...
そんなことを話しているうちに俺たちは王都を離れてもうすぐで森の中へと突入しようというところまで来ていた。王都を出る際に門に常駐している兵士に騎士団へと言伝を頼んだので時間がたてば応援もやってくるだろう。ただ応援が来たとしてもかなり時間がかかりそうだから、それまでに何とかして令嬢の安全は確保しなくてはいけない。
それにしても俺のこのスピードについてこれるってマリアさん、相当な実力の持ち主だな。さすが元Aランク冒険者だったっていうだけある。予想していたよりも早くに追いつけそうだ。
「ちなみにお嬢様を攫った奴らに心当たりってあるんですか?」
「...確証はありませんが今回の誘拐を手引きした者の証言から推測するに、おそらく奴らは『邪神教徒』でしょう」
「邪神教徒...?」
何だ、その物騒な宗教は。
そんな連中が何で公爵令嬢を誘拐するんだ?
「奴らは過去に勇者によって封印されたとされる邪神を復活させようと目論んでいるらしいのですが、今回の件はそれに関係しているのではないかと思われます」
「邪神復活と公爵令嬢がどういう関係性が...」
「これも推測になりますがおそらく...」
マリアさんが少しバツの悪そうな顔をして言葉を詰まらせる。
夜の森の不気味さと相まって何だか只ならぬ雰囲気を感じる。
「...お嬢様の持つ魔眼が目当てだと思われます」
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