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第二章 ゴブリン大増殖編
番外編⑤ 甘いお菓子をプレゼント─後編─
しおりを挟むこの異世界で前世と同じようにクッキーを作ろうと思うと材料集めがなかなかに難しかった。料理を作る前からかなりの労力を消費してしまったがこれでようやくお菓子作りが出来る。
「ユウトさん!お菓子ってどうやって作るんですか?!」
ランちゃんが目をキラキラさせながらエプロンを着てお菓子を作るのを今か今かと待っている。おそらくどうやって作るのかも気になっていると思うが、一番はお菓子を早く食べてみたいというところだろうな。
ランちゃん曰く、この世界ではお菓子というのは高級な食べ物で庶民にはそうそうお目にかかれない代物らしい。それは一度は食べてみたいと思うよな。
今回すずねこ亭の調理場をランちゃんのお父さんにお願いして貸してもらっているのだが、こんなにもスムーズに借りれることになったのはランちゃんのおかげである。だからもちろんランちゃんが食べる分も作るつもりである。
「じゃあまずはアマート以外を全部ボールに入れて混ぜようか」
「はい!」
今回クッキーの材料として用意したのは小麦粉、バターそしてアマートと呼ばれる根菜である。砂糖や卵も探したんだけど、そもそもこの世界だと卵を食べる習慣はないらしいので市場に出回っていなかった。そして砂糖はやはり中世チックなこの世界では高級品だったのでもちろん手に入らなかったのだ。
小麦粉はそもそもどこを見ても小麦粉としてしか売られておらず、鑑定しないと薄力粉か強力粉か分からなかった。まあでも売られてたのは薄力粉しかなかったけれどね。もしかしてこの世界では薄力粉と強力粉の違いは知られていないのだろうか?だからパンもあまりふっくらとしていなかったのかも...
そして今回、砂糖の代わりとして用意したのがアマートと呼ばれる根菜である。これは前世でいうところのてんさいと呼ばれる植物と似たもので煮詰めると砂糖が作れるのだ。上手くいけば...ね。
前世で一人暮らしをしていた時は食費を削るために自炊をかなりしていたので一通りの料理知識はあるのだが、この世界でもその知識は活用できるのかは少し不安なところだがやってみるしかない。
さてと、ランちゃんが一生懸命ボールに入った材料を混ぜている間に俺は砂糖を作ってみることにする。上手くいってくれれば美味しいクッキーが出来上がると思うんだよね。
アマートを小さくサイコロ状に切って鍋で煮詰める。しばらく煮詰めてからアマートを取り除いて残りの汁を強火でさらに煮詰める。アクが出てくるのを取り除きつつ、またしばらく煮詰めていくと残り汁がトロトロとしてきた。
おっ、これは上手くいっているのでは?!
そして火を弱めてさらに煮詰めていくと色が白っぽくなっていった。
火を止めてかき混ぜていくとどんどんと固まっていき、何とかアマート糖の完成である!
思った以上に上手く出来た!
これで一安心である。
それではランちゃんが頑張ってかき混ぜてくれた生地にこのアマート糖を混ぜてさらにかき混ぜていく。よーく混ざったら生地を薄く伸ばしていってクッキーの形へとくりぬく作業をしていく。
「お菓子作りって楽しいですね!」
「そう?それは良かったよ」
生地をこねる作業はランちゃんには大変かなと思っていたのだが全くつかれている様子もなく、今はクッキーの型抜き作業をしている。型抜き器なんてものはないので代わりにコップなどを使って丸い形にしている。
「よしっ、出来ました!!!」
「おっ、綺麗に出来たね!」
初めてにしてはかなり綺麗に形になっているんじゃないだろうか。
これは完成が楽しみだな!
そして型抜きが終わった生地を火魔法で温めておいたかまどに入れて焼いていく。
火加減が分からないのでじっと観察しながら頃合いを見極めていく。
そしてしばらくして良い焼き色になってきたところで完成したクッキーを取り出す。
すると調理場にクッキーの香ばしい美味しそうな匂いが広がっていく。
「うわ~!とてもいい匂い!!」
「うん!これは良い感じに完成出来たね!!」
異世界初の料理、クッキーの完成~!!
本当に美味しそうに出来上がって良かった。
《熟練度が一定に達しました。スキル『料理』がレベルアップしました》
おっ、ここで料理スキルもレベルアップか。
もしかして料理スキルのおかげで上手くいったのかな...?
「ねえ、ユウトさん!これ食べてみていい!?」
「ちょっと待ってね、まずプレゼントする用を別にちゃんと分けるからね」
俺はちゃんとレイナさんへとプレゼントする用を別に分けて置いておく。
実はこのために市場で小さなバスケットと可愛い色合いの布を買っておいたのだ。
「よしっ、じゃあ僕たちの分はこれね」
「わぁ!食べて良いですか!?良いですか!?」
「もちろん食べていいよ!」
「ありがとうございます!!頂きます!!!」
そういうとすぐにクッキーへと手を伸ばし、一つ口へと放り込んだ。
するとすぐに先ほど以上に目を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
「ユウトさん!!!これ、すごく甘くて美味しいです!!!」
「美味しい?それは良かった!」
俺も一つ食べてみたがシンプルなクッキーという感じがして美味しかった。
甘さもふんわりと感じるぐらいでちょうどいい感じに仕上がっていた。
これなら絶対喜んでもらえそうだ!
その後、残りのクッキーはペロリと一瞬でランちゃんが全て平らげていた。
結局俺は一つしか食べれなかったなぁ...
=================
「あれ、ユウトさんどうしてここに?」
「こんばんは、レイナさん。お仕事お疲れ様です」
空が夕日に照らされて真っ赤に染まっている中、俺は仕事終わりのレイナさんに会うためにギルドへとやってきていた。レイナさん達ギルドの職員もあの一件以降、しばらくの間はかなり忙しそうにしていたが最近になってようやく落ち着きを取り戻してきているようだ。
「レイナさん、少しお時間良いですか?」
「あ、えーと...はい!ど、どうかされましたか?」
俺はインベントリにしまっておいた出来立てのクッキーが入った小さなバスケットを取り出す。
突然のことに驚いていたレイナさんは視線をバスケットと俺の顔の間を行ったり来たりしていた。
「あの、これは何ですか,,,?」
「あのーですね,,.、先日の件でレイナさんに大変心配をかけてしまったのでそのお詫びと日頃のお礼にと」
そう告げると俺はバスケットをレイナさんへと手渡す。
今更になって少し恥ずかしくなってしまったので言葉が上手く出てこない。
大丈夫かな...ちゃんと伝わってるかな?
「そ、そんな!こちらこそユウトさんに変に気をつかわしてしまってすみません...!」
「いえいえ、実際に心配をかけてしまったことは事実ですし。それに日頃お世話になっているお礼も兼ねているのでぜひもらってください!」
「あ、ありがとうございます...!私、とても嬉しいです!!!」
するとレイナさんの目から一筋の涙がポロッと流れ落ちる。
その予想外の光景に俺は少しパニックになってしまう。
「れ、レイナさん?!大丈夫ですか?!」
「す、すみません...何だが嬉しくて、涙が勝手に...」
俺は涙を流しているレイナさんを介抱しながら、少し落ち着けるように近くのベンチへと移動した。ポロポロと涙を流していたレイナさんだったが、しばらくして落ち着いてきたようだ。
「すみません...迷惑かけてしまって」
「いえいえ、全然迷惑じゃないですよ」
「...ありがとうございます。やっぱりユウトさんは優しいですね」
その時レイナさんが見せた笑顔に俺は思わずドキッとしてしまった。
本当にこの人は可愛すぎやしないか...?
「あ、そういえばこれ開けてみてもいいですか?」
「もちろん!」
レイナさんは俺が渡した小さなバスケットの中にある水色の布を広げていった。するとインベントリ内で焼き立てのまま時間が止まっていたので、布に包まれていたクッキーから香ばしい匂いが二人を包み込んでいった。
「こ、これって...」
「お菓子用にアレンジしたクッキーです。僕が作ったものですけど、味は保証しますよ」
「えっ?!これをユウトさんが...」
ぐぅ~。
それはそれは小さくて可愛らしいお腹の音がレイナさんから聞こえてくる。
突然の生理現象にレイナさんは顔を赤らめて恥ずかしそうにお腹を押さえて俯いている。
「さ、さあぜひ食べてみてください!」
「あ、ありがとうございます!では、頂きます」
レイナさんはバスケットの中から一つクッキーを取り出し、躊躇うことなく口へと持っていく。しばらく口をモグモグと動かしていたが、すぐに一つ目を食べ終えると驚き交じりの笑顔を浮かべてこちらの方を向いた。
「ユウトさん...これ、とても美味しいです!!!」
「喜んでもらえて良かったです!」
「ユウトさんって、料理までお上手なんですね。それにこれって甘さがありますけど...お砂糖ですか?もしかしてこれ作るのにお金たくさんかかったんじゃ...」
砂糖という言葉を口にしてからレイナさんの表情が曇ってしまった。
俺は早々にこの誤解を解かねばと必死に訂正をする。
「実は今回使ったのは砂糖は砂糖でもアマートから自分で作った砂糖を使っているので全くお金はかかってないんですよ」
「アマートから砂糖が作れるんですか?!それは初耳です...!」
「だから安心して食べてください!これは僕からの気持ちですから」
「そうですね、ありがとうございます!それでは遠慮なく...!」
そうしてレイナさんはとても幸せそうに残りのクッキーを食べてくれた。
横でこうして自分が作ったものを幸せそうに食べてくれるのってなんだか嬉しいな。
「ユウトさん、もし良かったら...いつかまたこのクッキーみたいな甘いお菓子作ってもらえませんか?」
「ええ、もちろん!僕が作れるものなら作りますよ」
こうやって自分が作ったものを喜んで食べてもらえる幸せ。
前世では知ることが出来なかったこの感覚をいつまでも感じていたい、そう思ったのだった。
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