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第一章 冒険者新生活編

番外編② ある穏やかな休日の出来事 ─前編─

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この町、サウスプリングでの生活も14日目に突入した。

今日は冒険者としての仕事を始めてから2度目のお休みに決めた日なのである。新しい体やスキルのこともあって1週間に1度の休みでもかなり快適に生活することが出来ているのだ。それに冒険者として依頼を受けることは俺にとっては趣味と同じような感じでとても楽しいのだ。


冒険者としての稼ぎもそこそこ安定してきて、現在もすずねこ亭にてお世話になれるほどには懐も徐々にではあるが潤ってきている。おそらくこの町にいる間はここ以上に過ごしやすい場所はないだろうと思っている。


それに最近ではあの猫耳の店員さん"ランちゃん"とよくお話をするくらいには仲良くなったのだ。以前カウンターにいた寡黙な男性がやはりランちゃんのお父さんだったらしく、母親が3年前に病気で亡くなってからは接客が苦手なお父さんに代わってお店をお手伝いしているのだそうだ。

彼女はこんな小さな子がお店で働いているのだから何か事情があるのだろうなと思っていたことを話すと、「これでも13歳だよ!もう立派な大人だもん!!」と少し拗ねてしまった。その後、ランちゃんの機嫌を取るのに苦労したのは言うまでもない。

しかし13歳でもまだ子供だと思うけど...
この世界でも成人は15歳かららしいのでこの世界の常識でも彼女はまだ子供...と言ったらたぶんまた拗ねてしまうだろうから心の中に留めておくだけにしておいた。


まあ俺も元35歳とはいえ、現在は15歳の男の子である。
この世界では成人認定されているけれども前世の感覚からすればまだ子供である。今の俺だと人のことを子供だとは言えないかもしれないな。



「あっ、ユウトさん!おはようございます!!」


今日も部屋から1階の受付前に降りるとそこにはすでに店のお手伝いを始めているランちゃんがいた。いつも彼女は俺に気づくとすぐに笑顔で挨拶をしてくれる。本当に出来た娘だ~!!


「おはよう、ランちゃん。今日もお仕事頑張ってるね」


俺はもうランちゃんのことを完全に姪っ子を見るような感じで見てしまっている。前世の年齢からすればこのくらいの姪がいてもおかしくないのだ。なぜ娘じゃないのかというと、自分が結婚して娘が出来るっていうことが想像でもあり得ないと思ってしまっているからだろう。前世では完全に諦めていたが、今世では恋愛して結婚...なんてのも夢見ていいかな?


「ありがとうございます!今日も冒険者のお仕事ですか?」

「いや、今日は依頼は受けずに休みにしようと思って」

「お休みですか!体を休めることも冒険者にとって大事だって常連の冒険者さんからも聞いたことがあります!!」


こんなことまで知ってるんですよ!と言わんばかりにどや顔で答えるランちゃん。こういうちょっとした仕草や言動が13歳らしい幼さを感じられて愛らしいんだよな。本人に行ったらまた拗ねそうだけれども。


「そうなんだよ、体が健康じゃなかったら冒険者としてやっていけないからね。だから七日に一回は休むことにしてるんだよ」

「七日に一回ですか、珍しい間隔ですね」


へ...?

俺は予想していなかった返しに思わずランちゃんの顔を見つめる。
ランちゃんも「何で七日なんですか?」と頭にはてなマークを浮かべながらこちらを見ている。


「いや、一週間に一度のペースだから特に変でもないと思うけど...」

「へ?一週間って七日じゃなくて五日、ですよね?」


え...?

またしても予想外の返しに思わずお互い見つめあう形となってしまった。なんとこの世界では日にちの概念が違うのか!!いや、普通に考えたら異世界なんだから違ってても何もおかしくない。むしろ同じだと思って何も疑っていなかった俺の方がおかしいのかもしれない...


「ち、ちなみに確認したいんだけど...一週間とか一か月ってどうなってるの?」

「えーっと、一週間は火・水・土・風・休息日の五日間で、それが4回でひと月じゃないですか。そしてそれをまた15回繰り返してようやく1年ですよ」


まさかの新事実が今更発覚したのだ。まさかここまで一年の構成が違うとは思ってもみなかった。一週間が五日間で、一か月が4週間、そして一年が15か月もあるのか。でも結果的には1年は300日しかないという計算になるな。前世での約8割程度の日数しかないのか。

つまりはこの世界での年齢は前世での約8割ほどの年齢ということ?!
じゃあ俺は今ここでは15歳だから...12歳?!12歳でこの世界は成人ってことになるのか!!
つまりランちゃんは...10歳か。小学校4年生ほどの年齢という訳だな。

でもその割にはこの世界の人の見た目は年相応というか、ランちゃんも中学生ぐらいの外見をしている。もしかしてこの世界の人は成長が早いんだろうか?だからこそ15歳でもう成人と見なせるということなのかもしれないな。


「ユウトさん、どうかしましたか?も、もしかして記憶がなくなっちゃった...とか?」


あ、いけない。考え事に集中していたらランちゃんがすごく心配そうな顔でこちらをのぞき込んでいた。しかし確かに一週間のことなどを知らないっていうことになると記憶喪失だと疑われても仕方がないのかもしれない。ここはどうにかして上手い返しをしなければ変な誤解を招いて心配されてしまう可能性がある。さて、どう言い訳したものか...


「いやー、実は僕が前に住んでいたところだと一週間は7日だったんだよ。まさかそれが僕のところだけだったとは知らなかったなー。教えてくれてありがとう、ランちゃん」


我ながら演技力皆無な、まさにお手本のような棒読みになってしまった。
これだと誤魔化すどころかさらに変な目で見られてしまうかも...

俺は頭を搔きながらチラッとランちゃんの方を見てみる。するとそこにはまさかのすごくキラキラした目でこちらを見ているランちゃんの姿があった。


「そうだったんですか!そういうことだったら私に任せてください!ユウトさんの知りたい事なら何でも教えますよ~!!」


えっへん!と胸を張って自らの頼もしさをアピールしている。何とも可愛らしい光景である。おそらく年上の俺に頼られることが嬉しいのだろう。守りたい...!この笑顔!!


「ありがとう、頼りにしてるよ!」


俺がそういうとさらに嬉しそうな顔になりながら「もちろんです!」と元気のいい返事を返してくれた。とても上機嫌なご様子である。では早速ではあるが、ランちゃんに聞きたいことがあるので頼らせてもらうことにしよう。


「ランちゃん、早速教えて欲しいことがあるんだけどいいかな?」

「もちろんです!何でも聞いてください!!」

「実は今日ね、この町を見て回ろうと思ってるんだけどどこかオススメの場所とかあったら教えてくれないかな?」

「オススメの場所ですか?そうですね...」


ランちゃんは頭を傾げながら考えていたが、しばらくしていくつか思いついたようで俺は彼女からこの町のオススメを教えてもらうことが出来た。ランちゃんが教えてくれたところはどれも俺の好きそうな場所や冒険者として知っておいた方が良い場所など、非常に思いやりの感じられるチョイスだった。このことからも彼女の優しさを感じることが出来る。本当にいい子だ。


俺はランちゃんにお礼を言うと、朝食を頂いてから早速その場所へと行ってみることにした。オススメされた場所は合計5か所なので早くいかないと日が暮れてしまう可能性がある。せっかく教えてもらったのだから全部見て回りたい。もしかしたらこの5か所以外にも良さげなところが見つかるかもしれないしな。


俺は宿屋から出るとランちゃんに簡単にではあるが描いてもらった地図を頼りに町を散策してみる。地図化のスキルと見比べながら歩いているのでランちゃんの簡易地図でも目的地には迷うことなくたどり着くことは出来るだろう。


町の中を歩いていると改めて気付くことや新発見など今まであまりちゃんと見ていなかったんだと思わされる。レンガの道に魔石で出来た街灯、それに石や木で出来た建物。どれもこれも前世ではあまり目にしたことがないようなものばかりであった。こうやってしっかりと町を見ていると異世界に来たんだな~と再度実感する。それと同時にもうあのコンクリートや鉄筋で出来た建物たちはもう二度と見ることはないんだなと少しだけ寂しさに似た何かが心の中を一瞬だけよぎる。


そんなことを考えているうちに最初の目的地である道具屋『マーカス商店』に到着した。

ここでは治癒のポーションや魔力回復のポーション、それに冒険や日常に必要な道具が数多く揃っているらしい。ランちゃん曰く、何でもそろっているから「通称;なんでも屋」と呼んでいるらしい。多分そんな風に呼んでいるのはランちゃんだけだと思うけど...


外からも中の様子が分かりやすいように入り口が広くなっており、店の中には様々な商品が棚や机の上などに綺麗に整列して置かれているのが見える。それにお店の清潔感や色合いのおかげでとても入りやすい雰囲気が漂っている。このお店の店主はとてもお客に対する気配りが出来るいい商売人なんだろうと思う。


「いらっしゃいませ!」


店内に入ると正面奥にあるカウンターから店員さんらしき女性が笑顔で挨拶をしてくれた。こういうのってお店の最初の印象ってとても大事だと思う。その点ですずねこ亭も装備屋もこのお店もとても好印象だ。俺が行くお店全て第一印象が最高のところばかりなんだけど、この町自体がそういうお店ばかりなのかな?こうなったら逆にめちゃくちゃ印象の悪いお店とか探してみたくなる。まあ探さないけれど。


俺は店員さんに軽く会釈してから店内に置かれている商品を見て回った。

一番安い低位の治癒ポーションが銅貨10枚で低位の魔力回復ポーションが銅貨15枚であった。そこそこ良いお値段するがいつも危険と隣り合わせの冒険者にとってポーションは重要なものだろうし、何かあったときのために俺も用意しておくべきだろう。そう思い、低位の治癒ポーションを5個、そして低位の魔力回復ポーションを3つ購入しておくことにした。

それ以外にも状態異常回復ポーションや魔物除けポーションなどの冒険に必要なもの、あとはお皿や鍋、あとは照明用魔石などの日用品まで本当にいろんなものが置いてあった。一番驚いたのはなんと馬車まで売っていたのだ。流石に店内には入らないので棚に商品説明や値段などが書かれた木の板が置いてあっただけなのだが、その値段がなんと金貨1枚~と書いてあったのだ。日本円にして約100万円~という超高額商品だった。まあ前世の車と同じと思えばそれぐらいするかと納得したけれど、俺はたぶん買わないだろうなと思った。


一通り店内を見て回って、結局先ほどの2種類のポーションだけを購入することにした。カウンターで会計を済ませると俺はお店を出て、次の目的地へと向かうことにした。


時間的にはもうすぐお昼に差し掛かろうとしている頃合いであった。
少し道具屋に長居しすぎたなと反省し、次からはもっと素早く見て回ろうと心の中で決意する。


「あっ、ユウトさん!」


次のお店へと向かって歩いている途中、急に後ろの方から声をかけられる。声で何となくあの人かな、という予想を立てたうえで振り返ってみる。するとそこには見知らぬ女性が小走りでこちらへと近づいてきていた。


えっ、誰だ?


俺は一瞬だが、本当に誰か分からなかった。しかしその人物が俺に近づいてくるにつれて頭の中に先ほど思い浮かべていた人物の面影を感じ始めていた。その女性が完全に俺の目の前までたどり着くと俺の予想が正しかったのだと確信した。


「まさかこんなところで会えるとは思ってませんでしたよ!こんにちは、レイナさん」

「私も偶然お見かけしたもので、つい声をかけてしまいました」


まさかの私服姿のオフ状態レイナさんに出会うとは驚きである。いつも見ていたギルド職員用の服じゃなく白いシャツに薄黄色のロングスカート、そして髪を後ろでくくってポニーテールをしている。これでは一瞬誰か分からなくても仕方ないだろう。

...うん、とても可愛い!


まさかお休みの日にこんな嬉しい偶然の出会いがあるなんて思いもしなかったな。今日は何だかこの後も良いことが起こりそうな予感がする!!


俺は周囲を流れる春の温かな風が体と心を優しく包み込んでいくような感覚を感じた。
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