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第一章 冒険者新生活編
第8話 初納品、そして宿屋へ
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西の山脈にあと1時間ほどで日が沈みそうな頃、俺は初依頼をこなして町へと戻ってきた。
行きは走って1時間半ほどだったが、レベルアップでのステータスアップの影響なのか帰りは1時間ほどで帰ってくることが出来た。それに行きよりは限界ギリギリという感じではなく少しだけ体力に余裕があった。レベルアップの恩恵凄いな...!
町に戻ってすぐに依頼品を納品するためにギルドへと向かう。
ギルドは相変わらずにぎわっており、俺と同じように依頼達成報告をしている冒険者たちがたくさんいた。俺はレイナさんのカウンターに出来ている列に並ぶことにした。意外と冒険者ってこういう待機列みたいなのってちゃんとしているんだな...
10分ほど待ったのちに俺の番が回ってきた。レイナさんがこちらに気づくとにこっと微笑んで出迎えてくれた。
「おかえりなさい、ユウトさん。依頼の納品ですか?」
「はい、これで大丈夫ですか」
俺は腰掛けバッグの中に手を突っ込み、インベントリの中からレコベリ草20本とコンデの実20個をカウンターの上へと並べた。実際にはもっと取ってきたが一度に大量に納品すると、おそらく俺の予想だと変に目立ってしまいやばい奴らに目をつけられる可能性がある。それは面倒なのでそれぞれ20ずつで様子見をしてみることにした。
「えーと、レコベリ草が20本にコンデの実が20個ですか!すごい大収穫ですね!!」
「はい、偶然にもいっぱいある場所を見つけたので。運が良かったです!」
「では、ギルドカードを提出して頂けますか?」
言われた通りにギルドカードを提出するとレイナさんは板状の魔道具を用意し、ギルドカードをその上に置いた。おそらくは依頼結果を記録するための魔道具なのだろう、他の受付の方も同じものを使って冒険者のギルドカードに何かを行っている。
それにしても依頼書の指定数の2倍で大収穫とびっくりされたのだから本当に納品する量をセーブしておいてよかった。実際の量を全部納品していたらいったいどんな反応をされたのだろうか、少し興味はあるがほぼ確実に面倒な事態になると思うのでこれからもセーブしていこう。
それにインベントリ内にあるアイテムは時間が停止しているので鮮度も保たれるから置いておいても全く問題ない。ちなみに時間停止以外にもいろんなサブ機能があるのでインベントリにはこうご期待!!
「納品ありがとうございます。依頼達成状況の記録も完了いたしました。...それではこちらが今回の依頼の報酬となります」
レイナさんがカウンターの上に銅貨のタワーを4個並べていった。一つのタワーが銅貨10枚なので合計で銅貨が40枚が今回の依頼の報酬らしい。日本円にして約4000円だ。まあFランクの簡単な依頼にしてはこんなものか。
「今回ユウトさんに納品して頂いたものを鑑定いたしましたところ、かなり状態のいいものでしたので普通はレコベリ草もコンデの実も2つで銅貨1枚なのですが、今回は1つで銅貨1枚とさせていただきました。すごいですねユウトさん!なかなか初心者の方でこんなに状態のいいものを納品される方はいませんよ」
普通は採取してから町に戻って納品するまでに時間がかかったり保管状態もそこまでよくないから質が落ちる。その点、俺は採取してすぐにインベントリに保管していたから納品したものは採取してすぐの状態で保たれているんだよな。
「ありがとうございます。早めに帰ってきたのでそれがよかったのかもしれませんね」
「では、ギルドカードをお返ししますね。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました!また来ます!!」
依頼の報告もでき報酬ももらえたので俺はギルドを後にする。ちなみに危なく忘れかけていた宿の場所を最後にギリギリ思い出したのでレイナさんに聞くことが出来た。この町にはいくつかの宿屋があるらしいがレイナさんオススメの宿屋があるとのことなのでそこへ向かうことにした。
ギルドから5分ほど歩いたところにその宿屋はあった。その宿屋周辺は他の通りよりも比較的に静かで過ごしやすい雰囲気だった。
看板にはすずねこ亭と書かれており、文字の横には猫の肉球マークが記されていた。レイナさんに聞いた名前と同じで間違っていない確信を得て、俺は中へと入っていく。
「いらっしゃいませ~!!ようこそ、すずねこ亭へ!!」
お店に入るとすぐに迎えてくれたのは薄い茶色のロングスカートに白いエプロンを来た女の子、しかもその子には猫の耳としっぽがあったのだ!もしかして...もしかしなくてもこれは...異世界初めてのケモミミ娘というやつですか!!!
「ん...?お客さん、どうかしましたか?」
「あっ、何でもないですよ!」
「......お客さん、もしかして獣人はお嫌い...ですか?」
目の前の女の子が悲しそうな目でこちらを見ている。
俺は慌てて言い訳を考える。
「いえ、違います!!むしろその逆です!!!初めて獣人を見たものですから感動してしまいまして。不快にさせてしまって本当にすみません...」
俺は誠心誠意謝罪した。
それはもう深々と頭を下げて。
すると店員の女の子は慌てて俺のところへと駆け寄ってきた。
「あ、謝らないでくださいお客さん!!こちらは大丈夫ですよ!!この国では獣人差別が少ないとはいえたまにそういう方がいらっしゃるので...こちらこそ勘違いしてすみませんでした!!」
「安心してください、俺は獣人差別なんてしませんよ。むしろ獣人ウェルカムです!大好きです!!」
獣人ってかっこいいし可愛いしでどこに嫌う要素があるのか俺には分からない。今、目の前にいる猫の女の子は可愛いそのものじゃないか!
...っと少々熱くなりすぎたが、つまりは俺は獣人だろうが亜人だろうが魔王だろうが『可愛いは正義』というスタンスで生きている。
その女の子は一瞬キョトンとした表情になったかと思いきや次の瞬間にはクスクスとこらえながらも笑っていた。
「ふふふっ、お客さんって面白い人ですね!改めましていらっしゃいませ、すずねこ亭へようこそ!」
「冗談じゃないんですけどね...部屋って空いてますか?」
「空いておりますよ!何泊されますか?」
「えーと、ちなみに1泊どれくらいしますか?」
「1泊食事付きで銅貨10枚になります!!」
えっ、1泊食事付きで約1000円?!安くない???
いや、これくらいがこの世界での相場なのかな...
「じゃあとりあえず3泊でお願いします」
「ありがとうございます!ではお部屋にご案内しますね!!」
俺は銅貨30枚をその元気のいい猫耳店員さんに渡し、部屋へと案内してもらった。
この宿は真ん中に受付があり、そこから左右に部屋が5部屋ずつ並んでいるという構造になっていた。俺が案内されたのは2階の一番右端の部屋だった。中はベッドが1つあり、その横には机といすが1つずつという構成になっており、机の横の壁には窓もあり普通にシンプルでいい感じの部屋だった。
「お食事は言って頂ければすぐにご用意できますがどうされますか?」
「あっ、ではお願いします」
「了解しました~!では後ほど部屋にお持ちしますので少々お待ちください!」
そういうと猫耳店員さんは嵐のように去っていった。本当に元気のいい人だったな...
着ていた装備をインベントリにしまうとすぐにベッドに飛び込んだ。あまり質のいいベッドではなかったが肉体的にも精神的にも疲れていたので非常に気持ちよく感じた。しかしもうすぐ食事を持ってきてもらうので寝てしまうわけにはいかない。
ふとベッドの横にある机に目を向けると、机の上にはランプのような透明なケースの中に約15㎝ほどの薄い赤色のクリスタルのようなものがあった。おそらく見た目通りなら照明のようなものだろうが一体どうやって使うのだろうか?全知辞書さんに尋ねてみると、少しだけ聞きたかったことと違った情報が返ってきた。
《これは火属性の魔石です。魔石というのは魔力が結晶化したもので魔力源として使用されます。特定の魔法刻印を刻み、それに魔力を外部から流すことによって魔石の魔力が尽きるまで刻まれた魔法の効果を発揮し続けることが出来ます》
このクリスタルの説明かな。推測するにこの器具は何かの魔法が刻印された魔石が入っていて、おそらく光を発する感じの魔法だと思うけど、そしてこれに魔力を流すと効果を発揮するという訳か。
...なるほどね、魔力か。
ということは魔力を操れるようにならないといけないのかな。
とりあえずそのランプを調べてみようとランプの土台に手を伸ばす。すると土台に触れた瞬間、ランプの魔石が光を発し始めた。不意のことに驚いて目を一瞬瞑ってしまったが、すぐに目を開けると部屋一面がそのランプによって照らされて快適な明るさになっていた。
あれ...?土台に触っただけで魔力が流れたのか?
それともそういう仕組みの魔道具なのだろうか?
結局仕組みについては分からなかったが、おそらくは土台がスイッチのような役割をしていることは分かった。一応明かりの点け方と消し方は分かったのでよしとしよう。
それにしても魔法か...
いつか使ってみたいなと夢見てたんだよな~。
そこで俺はいい機会なので異世界転生出来たらぜひともやってみたかった「魔法」の習得を目指してみようと思う。
そこで全知辞書さんに魔法のことについて尋ねてみた。かなり難しい説明をされたがまあ簡単に説明するとこんな感じであった。
──魔法とは、魔力を用いて自然現象を人為的に引き起こすことである。魔法には4つの基本属性(火・水・風・土)と2つの特殊属性(闇・聖)、そして例外属性として無属性が存在している。
さらに各属性(無属性以外)には初級・中級・上級というように効果や消費魔力によって魔法が分類されている。実際には上級以上の魔法も存在しているが、基本的には一人では消費魔力が多すぎて発動できないのであまり知られていない
そして魔法を使うには魔力操作というスキルが必要で、これは体内に存在する魔力の制御訓練をすることによって誰でも得られるもので習得までには早くて1週間、長くて半年ほどかかるのだという。
半年か...おそらく俺にはイリス様から頂いた称号の効果もあるから比較的早めに習得できるだろうとは思うけど、でも念願の魔法が今目の前まで来てるんだ。絶対に習得してやるぞ!
ということで早速、魔力操作の練習をしてみますか。
全知辞書さんによるとまずは体内にある魔力を感じるところから始めるらしい。前世で気功を独学だが少しだけ勉強していたのでその要領でいいのかな......
...もしかしてこの体の中に流れている温かなモヤモヤが魔力?
これを心臓に集めるイメージで......
それで心臓から血管を通して全身へとそのモヤモヤを巡らせるイメージ......
こ、こんな感じで合ってるのだろうか。
《熟練度が一定に達しました。スキル「魔力操作」を取得しました》
えっ、もう?!始めてから1分ほどしかたってないけど...
魔力操作を取得したことによってはっきりとわかった。先ほど魔力なのかと思っていた温かなモヤモヤは魔力で合っていたようでその動かし方もさっきの手探り状態の時よりもはっきりと意識して制御することが出来る。
すごくあっけない感じにはなったけど、これで俺も念願の魔法を使えるようになったのか~!!早く魔法を使ってみたいな。じゃあこの勢いのまま魔法の習得までやっちゃいますか!!
「お待たせいたしました~!!お食事をお持ちしました!!!」
と、ちょうどタイミングが良いのか悪いのか先ほどの猫耳店員さんが食事を持って来てくれた。せっかく魔力操作も出来るようになったので早く魔法を覚えてみたいという欲はあるが、とりあえず今は後回しにして食後にでも再度、魔法習得に挑戦することにしよう。
「ありがとうございます」
「いえいえ~!食べ終わったら廊下に出しておいてくださいね!ではごゆっくり~」
俺は異世界初の食事を頂く。内容はいたって質素な感じでパンに野菜のスープ、牛肉っぽい焼肉が5切れにリンゴのような果物の4等分の一切れ、そして水。何を使っているのかは鑑定をすれば分かるのだが知らない方が世の中良いこともあると思うので鑑定はしなかった。
空腹や疲労もスパイスとなってかなり美味しく宿の食事を頂くことが出来た。
俺は食べ終わると食器がのったトレイを部屋の外に置くともう一度ベッドに座り、くつろぐことにした。そういえば、この世界にはスマホもゲームもないので特にやる事がないな。
よしっ、さっき出来なかった魔法の習得を再開するとしようか!!!
行きは走って1時間半ほどだったが、レベルアップでのステータスアップの影響なのか帰りは1時間ほどで帰ってくることが出来た。それに行きよりは限界ギリギリという感じではなく少しだけ体力に余裕があった。レベルアップの恩恵凄いな...!
町に戻ってすぐに依頼品を納品するためにギルドへと向かう。
ギルドは相変わらずにぎわっており、俺と同じように依頼達成報告をしている冒険者たちがたくさんいた。俺はレイナさんのカウンターに出来ている列に並ぶことにした。意外と冒険者ってこういう待機列みたいなのってちゃんとしているんだな...
10分ほど待ったのちに俺の番が回ってきた。レイナさんがこちらに気づくとにこっと微笑んで出迎えてくれた。
「おかえりなさい、ユウトさん。依頼の納品ですか?」
「はい、これで大丈夫ですか」
俺は腰掛けバッグの中に手を突っ込み、インベントリの中からレコベリ草20本とコンデの実20個をカウンターの上へと並べた。実際にはもっと取ってきたが一度に大量に納品すると、おそらく俺の予想だと変に目立ってしまいやばい奴らに目をつけられる可能性がある。それは面倒なのでそれぞれ20ずつで様子見をしてみることにした。
「えーと、レコベリ草が20本にコンデの実が20個ですか!すごい大収穫ですね!!」
「はい、偶然にもいっぱいある場所を見つけたので。運が良かったです!」
「では、ギルドカードを提出して頂けますか?」
言われた通りにギルドカードを提出するとレイナさんは板状の魔道具を用意し、ギルドカードをその上に置いた。おそらくは依頼結果を記録するための魔道具なのだろう、他の受付の方も同じものを使って冒険者のギルドカードに何かを行っている。
それにしても依頼書の指定数の2倍で大収穫とびっくりされたのだから本当に納品する量をセーブしておいてよかった。実際の量を全部納品していたらいったいどんな反応をされたのだろうか、少し興味はあるがほぼ確実に面倒な事態になると思うのでこれからもセーブしていこう。
それにインベントリ内にあるアイテムは時間が停止しているので鮮度も保たれるから置いておいても全く問題ない。ちなみに時間停止以外にもいろんなサブ機能があるのでインベントリにはこうご期待!!
「納品ありがとうございます。依頼達成状況の記録も完了いたしました。...それではこちらが今回の依頼の報酬となります」
レイナさんがカウンターの上に銅貨のタワーを4個並べていった。一つのタワーが銅貨10枚なので合計で銅貨が40枚が今回の依頼の報酬らしい。日本円にして約4000円だ。まあFランクの簡単な依頼にしてはこんなものか。
「今回ユウトさんに納品して頂いたものを鑑定いたしましたところ、かなり状態のいいものでしたので普通はレコベリ草もコンデの実も2つで銅貨1枚なのですが、今回は1つで銅貨1枚とさせていただきました。すごいですねユウトさん!なかなか初心者の方でこんなに状態のいいものを納品される方はいませんよ」
普通は採取してから町に戻って納品するまでに時間がかかったり保管状態もそこまでよくないから質が落ちる。その点、俺は採取してすぐにインベントリに保管していたから納品したものは採取してすぐの状態で保たれているんだよな。
「ありがとうございます。早めに帰ってきたのでそれがよかったのかもしれませんね」
「では、ギルドカードをお返ししますね。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました!また来ます!!」
依頼の報告もでき報酬ももらえたので俺はギルドを後にする。ちなみに危なく忘れかけていた宿の場所を最後にギリギリ思い出したのでレイナさんに聞くことが出来た。この町にはいくつかの宿屋があるらしいがレイナさんオススメの宿屋があるとのことなのでそこへ向かうことにした。
ギルドから5分ほど歩いたところにその宿屋はあった。その宿屋周辺は他の通りよりも比較的に静かで過ごしやすい雰囲気だった。
看板にはすずねこ亭と書かれており、文字の横には猫の肉球マークが記されていた。レイナさんに聞いた名前と同じで間違っていない確信を得て、俺は中へと入っていく。
「いらっしゃいませ~!!ようこそ、すずねこ亭へ!!」
お店に入るとすぐに迎えてくれたのは薄い茶色のロングスカートに白いエプロンを来た女の子、しかもその子には猫の耳としっぽがあったのだ!もしかして...もしかしなくてもこれは...異世界初めてのケモミミ娘というやつですか!!!
「ん...?お客さん、どうかしましたか?」
「あっ、何でもないですよ!」
「......お客さん、もしかして獣人はお嫌い...ですか?」
目の前の女の子が悲しそうな目でこちらを見ている。
俺は慌てて言い訳を考える。
「いえ、違います!!むしろその逆です!!!初めて獣人を見たものですから感動してしまいまして。不快にさせてしまって本当にすみません...」
俺は誠心誠意謝罪した。
それはもう深々と頭を下げて。
すると店員の女の子は慌てて俺のところへと駆け寄ってきた。
「あ、謝らないでくださいお客さん!!こちらは大丈夫ですよ!!この国では獣人差別が少ないとはいえたまにそういう方がいらっしゃるので...こちらこそ勘違いしてすみませんでした!!」
「安心してください、俺は獣人差別なんてしませんよ。むしろ獣人ウェルカムです!大好きです!!」
獣人ってかっこいいし可愛いしでどこに嫌う要素があるのか俺には分からない。今、目の前にいる猫の女の子は可愛いそのものじゃないか!
...っと少々熱くなりすぎたが、つまりは俺は獣人だろうが亜人だろうが魔王だろうが『可愛いは正義』というスタンスで生きている。
その女の子は一瞬キョトンとした表情になったかと思いきや次の瞬間にはクスクスとこらえながらも笑っていた。
「ふふふっ、お客さんって面白い人ですね!改めましていらっしゃいませ、すずねこ亭へようこそ!」
「冗談じゃないんですけどね...部屋って空いてますか?」
「空いておりますよ!何泊されますか?」
「えーと、ちなみに1泊どれくらいしますか?」
「1泊食事付きで銅貨10枚になります!!」
えっ、1泊食事付きで約1000円?!安くない???
いや、これくらいがこの世界での相場なのかな...
「じゃあとりあえず3泊でお願いします」
「ありがとうございます!ではお部屋にご案内しますね!!」
俺は銅貨30枚をその元気のいい猫耳店員さんに渡し、部屋へと案内してもらった。
この宿は真ん中に受付があり、そこから左右に部屋が5部屋ずつ並んでいるという構造になっていた。俺が案内されたのは2階の一番右端の部屋だった。中はベッドが1つあり、その横には机といすが1つずつという構成になっており、机の横の壁には窓もあり普通にシンプルでいい感じの部屋だった。
「お食事は言って頂ければすぐにご用意できますがどうされますか?」
「あっ、ではお願いします」
「了解しました~!では後ほど部屋にお持ちしますので少々お待ちください!」
そういうと猫耳店員さんは嵐のように去っていった。本当に元気のいい人だったな...
着ていた装備をインベントリにしまうとすぐにベッドに飛び込んだ。あまり質のいいベッドではなかったが肉体的にも精神的にも疲れていたので非常に気持ちよく感じた。しかしもうすぐ食事を持ってきてもらうので寝てしまうわけにはいかない。
ふとベッドの横にある机に目を向けると、机の上にはランプのような透明なケースの中に約15㎝ほどの薄い赤色のクリスタルのようなものがあった。おそらく見た目通りなら照明のようなものだろうが一体どうやって使うのだろうか?全知辞書さんに尋ねてみると、少しだけ聞きたかったことと違った情報が返ってきた。
《これは火属性の魔石です。魔石というのは魔力が結晶化したもので魔力源として使用されます。特定の魔法刻印を刻み、それに魔力を外部から流すことによって魔石の魔力が尽きるまで刻まれた魔法の効果を発揮し続けることが出来ます》
このクリスタルの説明かな。推測するにこの器具は何かの魔法が刻印された魔石が入っていて、おそらく光を発する感じの魔法だと思うけど、そしてこれに魔力を流すと効果を発揮するという訳か。
...なるほどね、魔力か。
ということは魔力を操れるようにならないといけないのかな。
とりあえずそのランプを調べてみようとランプの土台に手を伸ばす。すると土台に触れた瞬間、ランプの魔石が光を発し始めた。不意のことに驚いて目を一瞬瞑ってしまったが、すぐに目を開けると部屋一面がそのランプによって照らされて快適な明るさになっていた。
あれ...?土台に触っただけで魔力が流れたのか?
それともそういう仕組みの魔道具なのだろうか?
結局仕組みについては分からなかったが、おそらくは土台がスイッチのような役割をしていることは分かった。一応明かりの点け方と消し方は分かったのでよしとしよう。
それにしても魔法か...
いつか使ってみたいなと夢見てたんだよな~。
そこで俺はいい機会なので異世界転生出来たらぜひともやってみたかった「魔法」の習得を目指してみようと思う。
そこで全知辞書さんに魔法のことについて尋ねてみた。かなり難しい説明をされたがまあ簡単に説明するとこんな感じであった。
──魔法とは、魔力を用いて自然現象を人為的に引き起こすことである。魔法には4つの基本属性(火・水・風・土)と2つの特殊属性(闇・聖)、そして例外属性として無属性が存在している。
さらに各属性(無属性以外)には初級・中級・上級というように効果や消費魔力によって魔法が分類されている。実際には上級以上の魔法も存在しているが、基本的には一人では消費魔力が多すぎて発動できないのであまり知られていない
そして魔法を使うには魔力操作というスキルが必要で、これは体内に存在する魔力の制御訓練をすることによって誰でも得られるもので習得までには早くて1週間、長くて半年ほどかかるのだという。
半年か...おそらく俺にはイリス様から頂いた称号の効果もあるから比較的早めに習得できるだろうとは思うけど、でも念願の魔法が今目の前まで来てるんだ。絶対に習得してやるぞ!
ということで早速、魔力操作の練習をしてみますか。
全知辞書さんによるとまずは体内にある魔力を感じるところから始めるらしい。前世で気功を独学だが少しだけ勉強していたのでその要領でいいのかな......
...もしかしてこの体の中に流れている温かなモヤモヤが魔力?
これを心臓に集めるイメージで......
それで心臓から血管を通して全身へとそのモヤモヤを巡らせるイメージ......
こ、こんな感じで合ってるのだろうか。
《熟練度が一定に達しました。スキル「魔力操作」を取得しました》
えっ、もう?!始めてから1分ほどしかたってないけど...
魔力操作を取得したことによってはっきりとわかった。先ほど魔力なのかと思っていた温かなモヤモヤは魔力で合っていたようでその動かし方もさっきの手探り状態の時よりもはっきりと意識して制御することが出来る。
すごくあっけない感じにはなったけど、これで俺も念願の魔法を使えるようになったのか~!!早く魔法を使ってみたいな。じゃあこの勢いのまま魔法の習得までやっちゃいますか!!
「お待たせいたしました~!!お食事をお持ちしました!!!」
と、ちょうどタイミングが良いのか悪いのか先ほどの猫耳店員さんが食事を持って来てくれた。せっかく魔力操作も出来るようになったので早く魔法を覚えてみたいという欲はあるが、とりあえず今は後回しにして食後にでも再度、魔法習得に挑戦することにしよう。
「ありがとうございます」
「いえいえ~!食べ終わったら廊下に出しておいてくださいね!ではごゆっくり~」
俺は異世界初の食事を頂く。内容はいたって質素な感じでパンに野菜のスープ、牛肉っぽい焼肉が5切れにリンゴのような果物の4等分の一切れ、そして水。何を使っているのかは鑑定をすれば分かるのだが知らない方が世の中良いこともあると思うので鑑定はしなかった。
空腹や疲労もスパイスとなってかなり美味しく宿の食事を頂くことが出来た。
俺は食べ終わると食器がのったトレイを部屋の外に置くともう一度ベッドに座り、くつろぐことにした。そういえば、この世界にはスマホもゲームもないので特にやる事がないな。
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