上 下
128 / 146

第127話

しおりを挟む
 馬の歩く小気味良いリズムと蹄を大地に沈める感触を味わいながら自警団団長のラハブは元々硬い口元を更に引き締めながら考えていた。 

 ──アイツら…がらは良くないが個々の実力はそれなりにある。しかし、連携となるとまだまだだ…… 

 自警団団長ラハブは休憩時間の終了を団員達に伝える道すがらにいた。 

 ──乱戦になれば隊列なんてのは関係なくなる。初めの隊列は斜陣がけ等の分かりやすいものにすべきだろうか?一度乱戦になるとアイツらは再び隊列を組み直せないし、ましてやこっちの命令にも従わないだろう 

 腕を組ながら馬上で熟考するラハブは休憩場が近付くにつれ、その場がいくらか騒がしいのに気が付いた。 

 ──アイツらまた騒ぎやがって…… 

 休憩所に接近するにつれ、その声が大きくなるどころか小さくなっていった。 

「?」 

 ようやく肉眼で何をしているのか確認できる頃には殆どの者が固唾を呑んで中央にいる二人を見守っていた。 

 ──あれは…決闘か?いや、木剣を振り回しているのは明らかにうちの団員だが無抵抗でやられているのは……ここの奴隷だ! 

 ラハブは直ちに馬を走らせ、二人の間に入り決闘、いや虐待を止めようとしたが、遅かった。 

 本来団員同士の決闘や試合では頭部の攻撃は命を落としかねないため例えそれが木剣でも禁止されている。しかし渾身の一撃が少年法奴隷の脳天に入った。 

 ラハブはそれを目前にして止められなかった。そして直ぐ様、団員であるモヒカン男の腕を馬上から掴み、馬から飛び降りてモヒカン男に乗っかる形で組伏せた。 

「一体なんてことをしているんだお前らは!!」 

 ラハブは一喝すると組伏せているモヒカン男から他の団員達にギロリと目をうつした。 

 団員達は呆気にとられている。 

 戸惑いの視線をラハブに送っていた。 

「ここにいる奴隷はサムエル様の所有物だぞ!それを殺したらどうなること…か……」 

 ラハブは団員達を叱りつけながら脳天を割られたであろう奴隷の少年を見た。そこには立ったままラハブを死んだよう眼で見つめている少年がいた。 

「バカな……」 

 ラハブはしかと目撃していた。自分の団員が少年の脳天を割るにたる勢いで攻撃していたのを、ここは少年が生きていたことを喜ぶべきなのだが、歴戦の猛者であるラハブにとっては驚愕せざるを得なかった。 

 あの一撃をものともしないその強度は自分よりもレベルが上である強者のみだからだ。 

 ラハブは気をとりなおして、団員達に命令する。 

「何があったかは訓練後に聞く。さっさと準備しろ」 

 そう言うとラハブは木剣を握っている少年の前に立つ。 

 するとラハブは何を思ったか、腰に提げている真剣を一気に抜き、少年に斬りかかった。 

 団員達と側にいるもう一人の少年奴隷フェルディナンは驚いた。  

 しかし、少年はその剣速よりも速く身体を動かしラハブの攻撃を躱す。 

 その光景を見た団員達はまたも動けずにいた。 

「おらお前ら!さっさと準備しろ!」 

 少年に向き直るとラハブは続けた。 

「……君は一体何者なんだ?」 

「……」 

 少年奴隷の死んだような眼の瞳孔が少しひらいた気がした。 

 それはラハブの攻撃に驚いたのではなく、自分がその攻撃を避けたことに対しての驚きのようだった。 

 フェルディナンは今までの光景にみいっていたがようやく我に返り、少年の元へ駆けつけた。モヒカン男にやられた肩の痛みはもうなくなっていた。 

「大丈夫か…?」 

 少年奴隷に声をかけた。 

「コイツ喋れないんです」 

 フェルディナンは少年奴隷の身体を気遣い、自警団団長のラハブに事情を説明した。 

「喋れない?」 

「はい…自分もまだご主人様の奴隷となって1ヶ月ですけどコイツが喋ったところ見たことなくて……」 

「そうか……私の団員がすまないことをしたようだ…申し訳なかった」 

 フェルディナンは自分が奴隷という身分にも拘わらずきちんと謝罪をするラハブに好感をもった。 

 ことの顛末をラハブに話したフェルディナンは、訓練場をあとにし少年と一緒に小屋へと戻る。 

 少年は無言でいつものように横になる。 

 フェルディナンはチラと少年を見ては、考え込んだ。 

 意を決したフェルディナンは横になってる少年に向かって言った。 

「ごめん!」 

「……」 

「俺、お前が正直邪魔だった…。お前がいるから畑が荒らされたし、自警団達にバカにされたんだって思った。だから俺がやられた後にお前に剣を持たせたんだ。お前もやられちまえって感じで……」 

「……」 

「お前が一発入れられた時にスカッとしちまった…でも違った。何度も何度もやられてるお前を見て俺が求めてるのはそんなんじゃないって気付いた。でももう止められなかった。怖くなったよ…お前が死んだらどうしようって……」 

 フェルディナンは考えが上手く纏まらず、思いの丈をぶつけるようにして言っていた。 

「…」 

「それによ…お前がいなかったらそもそも俺はここに雇ってもらえなかったみたいだしな…。こうやって奴隷なのに幸せな生活はできてなかったってわけだ……」 

「……」 

「なんて言っていいかわかんねぇけど、俺がバカで愚かだった。ごめん……許してくれ!!」 

 フェルディナンは再び頭を下げた。 

「…ハ…ル……」 

「え?」 

「ゴホッ…ゴホッ」 

 少年が咳き込んだ。そして微かに声が聞こえる。 

「…ハル……」 

「ハル?…え?」 

 フェルディナンは少年が声を出したことに驚いた。 

「ナ…マエ……」 

「そ、そうか!お前ハルって言うのか!ごめんな!ハル!これからも宜しく頼むよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

水無土豆
ファンタジー
 ヴィルヘルムにガレイトあり。  世界最大の国家、ヴィルヘルム帝国有する騎士団〝ヴィルヘルム・ナイツ〟  その騎士団にひとりの男がいた。  男の名はガレイト・ヴィントナーズ。  彼は出自こそ華やかなものではなかったが、皇帝にその才を見出され、騎士団に入団。  団内でもその才を遺憾なく発揮し、やがて、当時の団長を破り、新たな団長となった。  そして時は流れ――戦中。  ガレイト・ヴィントナーズは敵国の策に嵌り、行方知れずとなってしまう。  団長を失い、戦力を大幅に削られたヴィルヘルム帝国。  もはや敗戦必至かと思われたが、結果は帝国側の圧勝。  その上、行方不明だったはずのガレイトの帰還が重なり、帝国内は一気に祝勝ムードに。  ……だが、ガレイトはひとり、浮かない表情のまま。  彼は勝利に酔いしれる人々を尻目に、一路、王の待つ玉座へ。  そして、誰もが耳を疑うような発言をする。 「王よ! どうか私の、この誉れある騎士団を辞する愚行をお許しいただきたい!」  ざわざわ……!  城内にいた騎士たちだけでなく、付き人や兵たちからもどよめきが上がる。  そんな中、玉座にて頬杖をついていたヴィルヘルム王が、口を開いた。 「……ふぅん。ちなみに、団長辞めてなにすんの?」 「りょ、料理人に、なりたい……です……!」  人々のどよめきがさらに大きくなる。 「へぇ、コックか。いいね、素敵だね。いいよ、なっても」  即答。  ここで、人々のどよめきが最高潮に達する。 「あ、ありがたき幸せ……!」  こうしてガレイトは呆気なく、世界最強の騎士団、その団長という称号を捨てた。  彼はここより心機一転、料理人として新しい人生を歩み始めたのである。  帝国はこの日、ガレイトの新しい門出を祝う者。  放心する者。  泣き崩れる者。  軽蔑する者。  発狂する者たちとで、混迷を極めた。  そして、さらに時は流れ――帝国中を巻き込んだ騒動から数年後。  ガレイトは見知らぬ国の、見知らぬ土地。  そこの底辺冒険者たちの付き人として、こき使われていた。  この物語は今まで剣を握り、プレートアーマーを身に纏っていた男が、包丁を握り、エプロンに着替えて、数多の食材たちと戦う(主に悪戦苦闘する)物語である。 ※この物語の登場人物は基本的に全員ふざけています。

のろま『タンク』と言われ馬鹿にされた「重戦士」───防御力をMAXにしたら「重戦車」(ティーガーⅠ)に進化した

LA軍@9作書籍化(@5作コミカライズ)
ファンタジー
勇者パーティで壁役(前衛タンク職)のアルガスは、不遇な扱いを受けている。 中堅冒険者で年長でありながら、肉壁タンクになれといわれてしまい、貴重なポイントを無理やり防御力に極振りさせられた。 そのため、足は遅く、攻撃力は並み。 武器も防具も、「タンク」のための防御一辺倒のクソ重い中古品ばかり。 ある日、クエストの大失敗から魔物の大群に飲み込まれたパーティ。 リーダーはアルガス達を置き去りに逃げ出した。 パーティのために必死に防戦するアルガスであったが、囮として捨てられた荷物持ちの少女を守るため孤立してしまう。 ただ一人、少女を守るため魔物に集中攻撃されるアルガス。 彼は最後の望みをかけて、残ったステータスポイントを防御力に全て注いでマックスにした──────。 そのとき、奇跡が起こる。 「重戦士」から進化、彼は最強の存在…………「重戦車」にランクアップした。 唸る700馬力エンジン! 吼える88mm戦車砲!! ティーガーⅠ化したアルガスが魔物をなぎ倒し、最強の戦車に変身できる強者となって成り上がる物語。

異世界に召喚されて、レアスキルもらったのでヤリたい放題したいと思います。

きつねころり
ファンタジー
ノクターン版が、な、なんと!100万Pv達成してました!皆様、有難う御座います! すみません、嬉しくてつい! 注意:性的な表現、残酷な描写などが御座います(R18) |水上《みなかみ》 |葵《あおい》は、帰宅途中に異世界に召喚された。 異世界からの召喚者は皆、特別なスキルを持っている。 そのスキルに一抹の望みを託し、召喚の議を行った王が居た。 王は、自分の大事な一人娘を救うスキルを求め、藁をも掴む思いだった。 アオイは偶然にも、一人娘を救うことが出来るかも知れないスキル『奇跡』を所持していた。 しかし、そのスキルの発動条件は……自身の生命力1億。 使ったが最後、自らの生命力では補えず、しかし発動した奇跡は止まらない。 それでも王の一人娘を助ける為に、アオイは奇跡の力を使う事になる。 そして何とか王の娘を救う事が出来たのだが…。 アオイは助けた王の娘と恋仲になり、その側付きのメイドとも恋仲に…。 そして娘と結ばれる為に、偉大な功績を残す事を条件に出されたアオイは、その条件をクリアする為に冒険の旅に出る事になる。 王の娘からは自分以外にも数人の嫁がいてもいい。という許可と、一夫多妻制が認められた国だという事実。 複数人と関係を持つ事は咎められない状況。 さて、一体何人の嫁候補が現れるのか。 王が望む偉業を達成する事は出来るのか。 アオイの冒険が始まる。 (早く冒険に行け) 注:物語のテンポが遅く、読むのが苦行になる場合が御座います。 主に作者の力量不足が原因です。ご注意下さい。 (早く…壮大な冒険に出ないと…読者様たちのストレスが…) 徐々に読みやすくなる筈です…… ―ノクターン(R18)・ノベプラ(R15)でも掲載しておりますが、内容は少し違うものになる予定です―

おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち
ファンタジー
農業法人に出向していたカズマ(名前だけはカッコいい。)は、しょぼくれた定年間際のおっさんだった。 ある日、トラクターに乗っていると、橋から落ちてしまう。 気がつけば、変な森の中。 カズマの冒険が始まる。 「なろう」で、二年に渡って書いて来ましたが、ちょっとはしょりすぎな気がしましたので、さらに加筆修正してリメイクいたしました。 あらすじではない話にしたかったです。 もっと心の動きとか、書き込みたいと思っています。 気がついたら、なろうの小説が削除されてしまいました。 ただいま、さらなるリメイクを始めました。

俺の部屋が異世界に転移したみたいだ‼

モモん
ファンタジー
俺の家(借家)が世界の狭間に落ちてしまった。 会社に遅刻するじゃねえか! ……ある日、扉を開けると森が広がっていた。 ネコのクロウとサクラを連れた俺の異世界ライフが始まる。 いや、始めちゃダメだ。会社に行かないと……

処理中です...