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第125話
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~ハルが異世界召喚されて2年165日目~
フェルディナンが奴隷になってからも恒星テラは変わらず人々を照らしていた。
フェルディナンはテラの日差しがとても好きだった。今日も生きていると実感できる。
おかげで畑仕事にもせいがでる。鍬で畑を耕す手が軽やかだ。気持ちの良い汗がでる。これであの少年奴隷も心を開いてくれれば最高の奴隷生活だ。フェルディナンはチラリと同じ畑で仕事をしている少年奴隷を見た。
「んなぁーー!もう1ヶ月になんぜ?」
フェルディナンは沈黙に我慢できず、鍬を地面に突き刺し、柄の部分に自分の願望と体重を乗せながら言った。
「名前ぐらい教えてくんねぇかな?」
「……」
少年奴隷は無言のままだ。
この1ヶ月フェルディナンは少年と一緒に木を切り倒し、土を耕し、麦を育てた。今まで嫌だった農民生活がここへ来て役に立っている。
少年奴隷は全く喋らず、相変わらず死んだような目をしているが、フェルディナンの指示にはきちんと従っていた。
まだまだ荒れた畑だがここが一面綺麗な麦畑になっているのをフェルディナンは夢見ていた。まだこの広大な土地のほんの一部しか開墾していないため、その道のりは程遠いが、人に騙され、奴隷の身となった今ではそんな夢を見るのも悪くはない。
夕方になり、二人は小屋に戻るとフェルディナンは藁の上で横になり今日の疲れを癒した。そして少年に話しているような感じで独り言を呟いた。いつものことだった。
「ここは天国みたいなところだぜ?ご主人様は俺達奴隷なのに1人の労働者として見てくれる。それだけじゃなくて、暖かい寝床や食事、それに給金も…ずっとここで奴隷になってたほうが幸せかもな……」
「……」
フェルディナンはふぅと一息ついた。少年は無言だが言われたことはよくやってくれるし、飲み込みも早い。いつかフェルディナンは年上の奴隷の先輩に少年のことを聞いてみたことがあった。
『アイツの名前はなんて言うんですか?』
『しらね。アイツ、口が聞けないんじゃないか?旦那様はアイツを気遣って同年代のお前を雇ったってのに感謝の一言もねぇっつって他の奴隷仲間からよく思われてねぇんだ。だからお前もアイツにそこまで関わんねぇほうがいいぞ?それにここだけの話、旦那様がお前らに肩入れしてることに腹が立ってる奴もいるんだ。気をつけておけよ?』
先輩奴隷ロペスから聞いたことを掻き消すように寝返りをうつフェルディナン。
「明日も頑張ろうぜ?」
「……」
フェルディナン達が眠りについたその時、青年奴隷カレーラスとクワトロによる秘密の作戦が実行されていた。
「こっちだ!!」
「よし!おびきだせ!!」
ガァァァァ、と魔物ハウンド・ベアの声が夜の闇に響き渡る。
「まぁこんなもんだろ?」
青年奴隷、カレーラスとクワトロは自分達の作戦に満足して納屋へと帰った。
「大丈夫だったか?こんなんで怪我でもしたら大変だぞ?」
青年奴隷ロペスは帰ってきた二人に注意を促した。
「大丈夫だって!俺達は別に魔物をけしかけてアイツらを襲わせるとかまでは考えてないんだから」
「そうは言っても…お前らが魔物をおびきだしたせいでそうなるかもしれないだろ?」
「俺らはアイツらの畑が荒らされればそれで良いくらいのことしかやってないし、その確率もかなり低い。これで俺らの気がおさまるんだから別に良いだろ?」
はぁと溜め息をついてからロペスは明日の労働の為に眠った。
~ハルが異世界召喚されてから2年166日目~
翌朝、フェルディナン達が麦畑の様子を見に行くと畑がぐちゃぐちゃに荒らされていた。
「なんだよ…これ……」
「……」
大型の魔物の足跡がある。
この島には数種類の魔物が生息している。しかし、フェルディナン達の持ち場にはやってこないように頑丈な柵と自警団による見回りを行っている。
「こんなところにいる。魔物じゃないだろ?」
フェルディナンはその大型の魔物がまだ近くにいるのではないかとビクビクしながら、どうやってその魔物が迷い混んできたのかその痕跡を辿る。
すると森の奥で魔物の足跡とフェルディナン達以外の人間の足跡が2種類あるのが発見された。柵も一部が壊されていた。それも人工的に。
冒険者をやっていた経験が役に立った。
そしてその経験が警鐘を鳴らす。
魔物の足跡の残り方、畑の奥の森から来る空気はまだその大型の魔物が近くにいることをフェルディナンのセンサーに訴える。
フェルディナンは畑に戻り、少年奴隷に言った。
「……おい!ここから離れて自警団に来てもら……」
バキバキと木々が薙ぎ倒される音をフェルディナンの右耳が察知した。大型の魔物ハウンド・ベアがフェルディナンともう一人の少年奴隷の前に現れる。
「マジかよ…洒落になんねぇだろ……」
咆哮をあげるハウンド・ベア。その黒い毛並みと赤黒い眼光はフェルディナンに尻餅をつかせる。ハウンド・ベアの高い視線から消えたせいかフェルディナンではなくもう一人の少年奴隷に向かってその魔物は突進した。
「逃げろ!!」
フェルディナンは叫んだが、少年奴隷は動こうとしない。恐怖や怖じ気というものを全く少年から感じない。まるで自ら死を望んでいるかのようだった。
ハウンド・ベアが攻撃しようと鋭い爪を立て、少年奴隷に襲いかかろうとした。しかし、ハウンド・ベアは少年と一定の距離に近づくと突進をやめ、その場で動かなくなった。そして、あろうことかその場でうずくまり、何かに怯えるように震えだした。少年奴隷が一歩前へ踏み出すとハウンド・ベアは背を向けて逃げていった。
「……どうしたんだ?……アイツがなんかしたのか?」
動こうとしない少年奴隷に恐る恐る近寄ったフェルディナンは少年の手をひき、その場から離れた。
「お前……なんかしたのか?」
少年奴隷に問い質すも例の死んだよう眼は変わらない。
フェルディナンの質問には答えなかった。
そして2人は今回の事件の犯人とおぼしき者達の元へと向かった。
フェルディナンが奴隷になってからも恒星テラは変わらず人々を照らしていた。
フェルディナンはテラの日差しがとても好きだった。今日も生きていると実感できる。
おかげで畑仕事にもせいがでる。鍬で畑を耕す手が軽やかだ。気持ちの良い汗がでる。これであの少年奴隷も心を開いてくれれば最高の奴隷生活だ。フェルディナンはチラリと同じ畑で仕事をしている少年奴隷を見た。
「んなぁーー!もう1ヶ月になんぜ?」
フェルディナンは沈黙に我慢できず、鍬を地面に突き刺し、柄の部分に自分の願望と体重を乗せながら言った。
「名前ぐらい教えてくんねぇかな?」
「……」
少年奴隷は無言のままだ。
この1ヶ月フェルディナンは少年と一緒に木を切り倒し、土を耕し、麦を育てた。今まで嫌だった農民生活がここへ来て役に立っている。
少年奴隷は全く喋らず、相変わらず死んだような目をしているが、フェルディナンの指示にはきちんと従っていた。
まだまだ荒れた畑だがここが一面綺麗な麦畑になっているのをフェルディナンは夢見ていた。まだこの広大な土地のほんの一部しか開墾していないため、その道のりは程遠いが、人に騙され、奴隷の身となった今ではそんな夢を見るのも悪くはない。
夕方になり、二人は小屋に戻るとフェルディナンは藁の上で横になり今日の疲れを癒した。そして少年に話しているような感じで独り言を呟いた。いつものことだった。
「ここは天国みたいなところだぜ?ご主人様は俺達奴隷なのに1人の労働者として見てくれる。それだけじゃなくて、暖かい寝床や食事、それに給金も…ずっとここで奴隷になってたほうが幸せかもな……」
「……」
フェルディナンはふぅと一息ついた。少年は無言だが言われたことはよくやってくれるし、飲み込みも早い。いつかフェルディナンは年上の奴隷の先輩に少年のことを聞いてみたことがあった。
『アイツの名前はなんて言うんですか?』
『しらね。アイツ、口が聞けないんじゃないか?旦那様はアイツを気遣って同年代のお前を雇ったってのに感謝の一言もねぇっつって他の奴隷仲間からよく思われてねぇんだ。だからお前もアイツにそこまで関わんねぇほうがいいぞ?それにここだけの話、旦那様がお前らに肩入れしてることに腹が立ってる奴もいるんだ。気をつけておけよ?』
先輩奴隷ロペスから聞いたことを掻き消すように寝返りをうつフェルディナン。
「明日も頑張ろうぜ?」
「……」
フェルディナン達が眠りについたその時、青年奴隷カレーラスとクワトロによる秘密の作戦が実行されていた。
「こっちだ!!」
「よし!おびきだせ!!」
ガァァァァ、と魔物ハウンド・ベアの声が夜の闇に響き渡る。
「まぁこんなもんだろ?」
青年奴隷、カレーラスとクワトロは自分達の作戦に満足して納屋へと帰った。
「大丈夫だったか?こんなんで怪我でもしたら大変だぞ?」
青年奴隷ロペスは帰ってきた二人に注意を促した。
「大丈夫だって!俺達は別に魔物をけしかけてアイツらを襲わせるとかまでは考えてないんだから」
「そうは言っても…お前らが魔物をおびきだしたせいでそうなるかもしれないだろ?」
「俺らはアイツらの畑が荒らされればそれで良いくらいのことしかやってないし、その確率もかなり低い。これで俺らの気がおさまるんだから別に良いだろ?」
はぁと溜め息をついてからロペスは明日の労働の為に眠った。
~ハルが異世界召喚されてから2年166日目~
翌朝、フェルディナン達が麦畑の様子を見に行くと畑がぐちゃぐちゃに荒らされていた。
「なんだよ…これ……」
「……」
大型の魔物の足跡がある。
この島には数種類の魔物が生息している。しかし、フェルディナン達の持ち場にはやってこないように頑丈な柵と自警団による見回りを行っている。
「こんなところにいる。魔物じゃないだろ?」
フェルディナンはその大型の魔物がまだ近くにいるのではないかとビクビクしながら、どうやってその魔物が迷い混んできたのかその痕跡を辿る。
すると森の奥で魔物の足跡とフェルディナン達以外の人間の足跡が2種類あるのが発見された。柵も一部が壊されていた。それも人工的に。
冒険者をやっていた経験が役に立った。
そしてその経験が警鐘を鳴らす。
魔物の足跡の残り方、畑の奥の森から来る空気はまだその大型の魔物が近くにいることをフェルディナンのセンサーに訴える。
フェルディナンは畑に戻り、少年奴隷に言った。
「……おい!ここから離れて自警団に来てもら……」
バキバキと木々が薙ぎ倒される音をフェルディナンの右耳が察知した。大型の魔物ハウンド・ベアがフェルディナンともう一人の少年奴隷の前に現れる。
「マジかよ…洒落になんねぇだろ……」
咆哮をあげるハウンド・ベア。その黒い毛並みと赤黒い眼光はフェルディナンに尻餅をつかせる。ハウンド・ベアの高い視線から消えたせいかフェルディナンではなくもう一人の少年奴隷に向かってその魔物は突進した。
「逃げろ!!」
フェルディナンは叫んだが、少年奴隷は動こうとしない。恐怖や怖じ気というものを全く少年から感じない。まるで自ら死を望んでいるかのようだった。
ハウンド・ベアが攻撃しようと鋭い爪を立て、少年奴隷に襲いかかろうとした。しかし、ハウンド・ベアは少年と一定の距離に近づくと突進をやめ、その場で動かなくなった。そして、あろうことかその場でうずくまり、何かに怯えるように震えだした。少年奴隷が一歩前へ踏み出すとハウンド・ベアは背を向けて逃げていった。
「……どうしたんだ?……アイツがなんかしたのか?」
動こうとしない少年奴隷に恐る恐る近寄ったフェルディナンは少年の手をひき、その場から離れた。
「お前……なんかしたのか?」
少年奴隷に問い質すも例の死んだよう眼は変わらない。
フェルディナンの質問には答えなかった。
そして2人は今回の事件の犯人とおぼしき者達の元へと向かった。
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