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第122話

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~ハルが異世界召喚されてから4日目~ 

 ミイヒルは乱戦を後にし、自軍へと戻った。風が吹き荒ぶ荒野の中、本来凛々しい顔つきの筈が、うつむき、一歩一歩自分の敗北を噛み締めながら歩いていく。 

 ミラに現状を報告した。 

「剣技で敵わなかったと?」 

「はい…まさかあの歳であそこまでの境地に…ルカ様は大丈夫でしょうか?」 

「問題ない、性格に難はあるが仕事はちゃんとこなす奴だ」 

 ミラとミイヒルはルカが少年を倒せるかどうかでなく、しっかりと確保するかどうかの心配をしていた。 

「マキャベリー様は彼を帝国に向かい入れようとしているのですか?」 

「わからない、ただ獣人国を襲ったのは目標であるハル・ミナミノで間違いないと考えているようだ。また、魔法馬鹿のサリエリと共謀している可能性もマキャベリーは考えている」 

「そんな!?まさか?」 

「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」 

 大きな声が遠くから聞こえる。 

「王国の援軍か……」 

 援軍の声とは対照的にミラが平坦な声で呟く。 

 すると乱戦地から青い竜が顔をだし帝国兵達を飲み込んだ。 

 それを目撃したミラの瞳孔が開く。 

「やはり……」 

「あの炎は!?」 

 口元に手を当て、一歩後ろへたじろぐミイヒル。 

「ミラ様!今すぐにルカ様のもとへ行きましょう!!!」 

「あぁ、じゃないと殺してしまう」 

───────────────────── 

 ギラバは自分の送った援軍が乱戦地に向かっているのを城塞都市トランの高台から見ていた。 

 このまま少しずつ、帝国の戦力を削り、トランで防衛をする。食料の備蓄も十分ある。 

 準備は万全だ。しかし、やはり帝国のこの侵略にギラバは疑念を拭いきれない。 

 帝国に利があると思えないからだ。 

 信用を落とすことは、侵略後の民の反感を買うだけでなく、他国の結束を強める働きもある。 

 これを機にヴァレリーとダーマ、或いは獣人国に対帝国の同盟を考えても良い。 

 そのような働きかけを現在王都にいる軍師オーガストに頼んでみようか。 

 ギラバがそう考えていると、戦地から巨大な青い炎が見えた。 

「ぁ、あれは!?」 

───────────────────── 

 ハルは左腕がついていた部分を右手で庇いながら土煙の立つ荒野を地面に座った状態で眺めている。 

「はぁはぁはぁ…」 

 徐々に土煙がおさまり、第五階級魔法が残した痕を見ようとしたハルは驚愕した。 

 白髪で色白の少女がボロボロの服装となり、肌に焦げた痕をつけた状態で煙をたてながら立っていたのだ。 

 少女はうつむいているかと思えば、ハルに視線をおくる。 

 ハルは少女と目が合うと左腕が急に痛みだした。そして身体中に寒気がする。 

「こんの糞ガキがぁぁぁぁぁぁぁ!!」 

 少女らしからぬドスの聞いた声が轟き、ハルの心をへし折る程の殺気が飛ばされる。 

「絶対に許さん!只で死ねると思うなよ糞がぁぁ!!」 

 ハルは、震えの止まらない足で何とか立ち上がり、逃げ出した。 

 自分に向けられる殺意、自分の奥の手が通じなかった。今までにないほど追い詰められた状態に恐怖する。 

「殺す殺す殺す!!」 

 死にかけたことは今まで何回かある。 

 しかしそれは事故のようのものだ。 

 もしくは接戦の末、敗れそうになる経験しかない。 

 しかし自分の持てる100%の力が通じず、これからなぶり殺されることを待つことなんてハルには出来なかった。 

「待て!糞がぁぁ!!!」 

 少女はハルを追いかける。 

 ハルは懸命に走った。恐怖により上手く走れない。夢の中で走っているような感覚だ。 

 援軍に来た王国兵が少女の殺気に当てられ撤退をする。そんな王国兵にハルは追い付いた。 

 王国兵達は少女の殺気により動けない者とハルと同じく逃げ出す者とに別れた。 

 ハルは動けないでいる王国兵を抜かした。 

「ぎゃぁぁぁぁ」 

 ハルが抜かした直後、王国兵は真っ二つに両断される。 

 ハルは叫び声を聞き、後ろを振り返ると少女がすぐそこに迫っていた。 

「ヒッ!」 

 ハルはまた懸命に前を向いて走る。 

 少女はすぐ後ろだ。 

 ハルの前にはハル同様逃げている王国兵がいる。 

 ハルはその王国兵の肩に手を置き引っ張った。 

 王国兵は後にのけ反り転ぶ。ハルは王国兵を引っ張った力で更に早く進む。それに王国兵が少しだけ時間を稼ぐことを期待していた。 

「うわぁぁぁぁ」 

 後ろを振り返るとその王国兵が犠牲になっていた。そしてすぐ後ろから少女が迫ってくる。 

 ──なにか!なにか嬉しいこと!嬉しいことはなんだ!!早くあの場所へ!あの場所へ戻りたい!!そうだ、聖属性魔法だ!! 

「イッ」 

 背中に激痛が走った。ハルは地面に転がった。真っ二つになって死んだのかと思ったが背中の痛みはまだあるし右腕は動く。ハルは少女を見上げる。後退しながら。待ってくれと言わんばかりにその少女に向かって右腕を伸ばしていた。右腕に魔力を込めパニックになりながらも聖属性魔法を唱えようとすると右腕がふっ飛んだ。 

 血が吹き出る。 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」 

 腕に激痛が走った。 

「どうじで!?スキルが発動してない!?」 

 激痛耐性が全く機能していない。 

 痛みの元となる部分を不意に反対側の手で抑えようとしたが、反対側の手は先程切り落とされたばかりなのを忘れていた。 

「聖属性魔法聖属性魔法聖属性魔法」 

 ハルはパニックに陥った。痛みにのたうちまわりながら恐怖の対象である少女を見上げる。ハルは少しでも少女と距離をとろうと後退する。 

「ふぅふぅ…お仕置きじゃ!」 

 怒りを鎮めるように呼吸を整える少女は鎌を振り下ろしハルの左足に攻撃してきた。 

「うがぁぁぁぁ!」 

 左足が切断された。 

 ──早く…早く殺してくれ!早く楽になりたい! 

 ハルはそう思った。いや、口に出したかもしれない。 

 少女は溜め息をついた。 

「お主、わらわの気に入っている服を台無しにしたのじゃ、楽に死ねると思うな?それに自分が助かりたいが為に仲間を犠牲にする愚か者にはまだまだお仕置きじゃ!」 

 振り下ろされた鎌により右足が切断された。 

「ぐぅぅぅぅぅぅ!」 

 声にならない呻き声を漏らす。視界が暗くなり始めた。血を流しすぎたのだ。身体の末端、今は全て失ったが、冷たくなっていく、頭のてっぺんから額まで徐々に冷たくなっていった。 

 ──ようやく死ねる。 

 少女を見ると何か言っていた。もう何も聞こえてこない。 

 少女は鎌を大きく振りかぶった。 

 ──これでやっとこの痛みから…… 

ゴーン ゴーン 

ピコン
新しいスキル『物理攻撃軽減(強)』『激痛軽減(強)』を習得しました。 

 意識が遠退く中、鐘の音とアナウンスがハルの頭の中で聞こえた。
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