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第115話
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~ハルが異世界召喚されてから2日目~
<オセロ村>
ハイエナのような獣人シェンジは昨晩のこと、フュリオサのことを考えながら歩いていた。
すると目の前に人族の少年が現れた。もしかしたら初めからそこにいて、シェンジが気付いていなかっただけかもしれない。
ゾクッと一瞬寒気がしたかと思えば周囲から音が消えた。シェンジは知っている。前にもこんな経験をしたことがあった。怒りや憎しみだけではどうにもならない強さを秘めている者と出会うと今まで聞こえていた音が聞こえなくなる。自分の心音さえも聞こえない。
「この近くに村ってある?」
人族の少年はあっけらかんとしてシェンジに話しかけてきた。
シェンジはその問い掛けには応じず、持っている銛を構えたが、そこに少年の姿はない。
再びゾクッと背後から寒気がする。
「まぁいいか?」
背後から少年の声が聞こえ、シェンジは身体を捻りながら銛で攻撃しようとしたが、自分の身体がひねりを通り越して、くるくると回っていることに気がついた。
まるで腰からしたがないかのように。
「!?」
シェンジは胴を斬られ上半身と下半身に別れて、コマのように回転していた。
──あぁ知ってる。その強さ……あれは俺が母さんのもとから放れて間もない頃だ。尖った耳を頭につけて…語尾に変な癖のある……
『君面白そうだから今後とも仲良くしてほしいにゃ~』
──あれは獣人族の姿をしていたがきっと別のものだ……なんでこんなことを最後に思い出す?…冷たい…身体が……フュリオサ?フュリオサに会いた……
「まだ早かったか……」
ダルトン達、獣人国軍がまだオセロ村に来ていない。ハルはオセロ村を後にしてフィルビーの案内のもと近くにあるダンプ村へと向かった。
<ダンプ村>
「さぁ...もう時間だ、殺してくれ」
「うっ...うっ...」
涙が止まらない。歪んでいたと思っていた世界が更に歪み出す。
ダルトンは短剣を高々と振り上げイアンの首目掛けて振り下ろそうとしたその時──
「お兄ちゃん!!」
フィルビーの声が聞こえる。
ダルトンはピタリとナイフを止めた。
どうしてフィルビーの声が?ダルトンは疑問に思いつつもフィルビーの声によって今自分が実行しようとしていることを冷静に考えることができた。
──俺は…俺は忘れちゃいけないことを忘れていた……
フィルビーの声がそれを思い出させてくれた。
◆ ◆ ◆ ◆
「よぉーーし!俺は英雄になる!!」
ダルトンは自室から飛び出し、フィルビーのいる居間にやって来ると、急に腕立て伏せをし始めた。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「フッ…フッ……俺はいずれここを出て……フッ……凄腕の冒険者に…ウッ……なって……獣人族で最も偉大な英雄になるんだぁ!!」
腕立て伏せがきつくなったのか、最後は叫びながら腕の力で身体を起こした。
「フィルビーも連れてって!!」
「勿論さ!」
腕立て伏せのスピードが先程よりも落ちるダルトン。
◆ ◆ ◆ ◆
ダルトンは忘れていた。あの頃の気持ちを。
少年から大人へと成長していく過程でつらい現実を見すぎたダルトンは自分の心境の変化に気付けないでいた。
最も大事にしなきゃいけないモノ、それは純粋な子供の頃に抱いたあの時の想いだ。
周りが、社会が、戦争が、大人達がその想いを奪おうとしてくる。
それでも決して奪われちゃいけない。
どこからか聞こえてくるフィルビーの声がそれを思い出させてくれた。
ダルトンはその声に感謝するように自分の左腕の組紐を見つめた。
「お兄ちゃん?」
──こんなにも鮮明に聞こえる……
ダルトンは組紐を握った。
「すいません。イアンさん…俺は貴方を殺せません」
そう言ってイアンを見やると、イアンは驚きの表情で、ある一点を見つめていた。
ダルトンもその方向を見るとそこに信じられない者が立っていた。
「フィルビー?」
「お兄ちゃーん!」
フィルビーは屋根の上にいるダルトンとイアンに手を振っていた。
ダルトンは直ぐ様屋根から降りてフィルビーの元へ駆けつけた。
イアンは遅れて屋根から飛び降りる。
ダルトンはフィルビーを抱き寄せた。
2人の目から涙が零れる。
「会いに来たの……」
「フィルビー…ごめんな…お兄ちゃん……あの時お前のことを見捨てて……」
ダルトンはフィルビーが貴族に買われる時、無理矢理にでもフィルビーを奪ってどこか遠くへ暮らそうとも考えていたが、ダルトンにはそんな勇気とフィルビーを守れる自信などなかった。
しかし、こうして今フィルビーから離れ、軍での生活を通して、何故あの時、フィルビーを連れ出す一歩を踏み出さなかったのか後悔していた。
もうフィルビーを手離したりなどしない。
ダルトンはそう胸に誓うと、頭の中でフィルビーとは別の声が聞こえた。
ピコン
限界を突破しました。
システムを変更するため時間がかかります。
「おいダルトン!?どういうことだ?」
遠くからやって来たロバートがダルトンに近づく。
「ダルトン、それがお前の答えか?」
「はい。俺は誰も殺さない」
ダルトンはフィルビーを自分の後ろへ隠すように前へ出た。
「そうか…つまり俺を裏切るってことか?」
ロバートのこめかみに青筋が立つ。
「あなたを裏切るつもりもない。ただあなたの期待に答えることはできない」
「俺にとってその答えは一緒なんだよなぁぁぁぁ!」
剣を振りおろすロバート。
ハルは遠くから一部始終を見守っていた。
ハルはロバートの剣を受け止めようとしたが、それは杞憂におわる。
ダルトンが片手でロバートの、剣を持つ手を抑えていたからだ。
「なんだダルトン?そんな力を持ってたのに戦争で手を抜いてたのか?ア''?そうやって助けることが出来た仲間を見捨ててたのか?」
「違う!俺は妹を!フィルビーを闇に葬ろうとしていた。そしてお前の力を借りてそれを取り戻そうとした!だけどそれじゃあダメなんだ!」
「なに訳わかんねぇこと言ってんだ!?」
ロバートは腰に提げているもう片方の剣を抜き、突き刺そうとするが、ダルトンは身体を捻りながら躱した。そのままダルトンはロバートの懐に入り、抑えていたロバートの腕をとって、柔道の一本背負いのような投げを食らわせる。
再び立ち上がろうとするロバートにダルトンは自分の剣を抜き、切っ先を向けた。
「俺を、俺を見下すんじゃねぇ!!」
ロバートは低い姿勢から、ダルトンの足元を狙ってタックルをしたが、そこにはもうダルトンの姿はなかった。
ダルトンは前屈みになるロバートの背中に手を置き地面へと押し込むように力を加えた。
地面に這いつくばるロバート。
「くそっ!何故だ!?何故お前のが強い!?」
「わからない。フィルビーを抱き締めたときに不思議な力を感じたんだ」
「ウガァ''ァ''ァァ!!」
ロバートは自分がダルトンに手も足も出ないことに嘆き叫んだ。
ロバートの背中に手を当てるイアン。
「ロバート…また一緒に生きよう」
「…俺はお前のことを……」
「良いんだ。ロバート。悪いのは戦争だ」
イアンが優しく声をかける。
ハルはフィルビー達を見た。
そうハルが見たかったのはこの光景だ。
再び抱き合う兄妹に見とれていると。
ゴーン、ゴーン
見覚えのある風景に戻っていた。
ハルは鐘の音を聞きながら考えた。
──ダルトンのあの強さ……
以前ダルトンと相対したときの彼のレベルは31だった。さっきの世界線でのダルトンのレベルは15だったがステータスはレベル31の時よりも高かった。
──何故だ?漫画やアニメではよく怒りや誰かの涙で主人公が強くなる描写があるが、そんな感じか?ダルトンの元の強さはわからないが、あの強さがあればあの内乱でかなり活躍できると思うのだが……
ハルは自分のステータスを何気なく見た。
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 40
【HP】 356/356
【MP】 389/389
【SP】 418/418
【筋 力】 315
【耐久力】 323
【魔 力】 391
【抵抗力】 338
【敏 捷】 356
【洞 察】 351
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 258650/100000
経験値を満たしているがレベルが上がっていない。これが自分の限界レベルなのかと思い、ハルはがっかりした。
<オセロ村>
ハイエナのような獣人シェンジは昨晩のこと、フュリオサのことを考えながら歩いていた。
すると目の前に人族の少年が現れた。もしかしたら初めからそこにいて、シェンジが気付いていなかっただけかもしれない。
ゾクッと一瞬寒気がしたかと思えば周囲から音が消えた。シェンジは知っている。前にもこんな経験をしたことがあった。怒りや憎しみだけではどうにもならない強さを秘めている者と出会うと今まで聞こえていた音が聞こえなくなる。自分の心音さえも聞こえない。
「この近くに村ってある?」
人族の少年はあっけらかんとしてシェンジに話しかけてきた。
シェンジはその問い掛けには応じず、持っている銛を構えたが、そこに少年の姿はない。
再びゾクッと背後から寒気がする。
「まぁいいか?」
背後から少年の声が聞こえ、シェンジは身体を捻りながら銛で攻撃しようとしたが、自分の身体がひねりを通り越して、くるくると回っていることに気がついた。
まるで腰からしたがないかのように。
「!?」
シェンジは胴を斬られ上半身と下半身に別れて、コマのように回転していた。
──あぁ知ってる。その強さ……あれは俺が母さんのもとから放れて間もない頃だ。尖った耳を頭につけて…語尾に変な癖のある……
『君面白そうだから今後とも仲良くしてほしいにゃ~』
──あれは獣人族の姿をしていたがきっと別のものだ……なんでこんなことを最後に思い出す?…冷たい…身体が……フュリオサ?フュリオサに会いた……
「まだ早かったか……」
ダルトン達、獣人国軍がまだオセロ村に来ていない。ハルはオセロ村を後にしてフィルビーの案内のもと近くにあるダンプ村へと向かった。
<ダンプ村>
「さぁ...もう時間だ、殺してくれ」
「うっ...うっ...」
涙が止まらない。歪んでいたと思っていた世界が更に歪み出す。
ダルトンは短剣を高々と振り上げイアンの首目掛けて振り下ろそうとしたその時──
「お兄ちゃん!!」
フィルビーの声が聞こえる。
ダルトンはピタリとナイフを止めた。
どうしてフィルビーの声が?ダルトンは疑問に思いつつもフィルビーの声によって今自分が実行しようとしていることを冷静に考えることができた。
──俺は…俺は忘れちゃいけないことを忘れていた……
フィルビーの声がそれを思い出させてくれた。
◆ ◆ ◆ ◆
「よぉーーし!俺は英雄になる!!」
ダルトンは自室から飛び出し、フィルビーのいる居間にやって来ると、急に腕立て伏せをし始めた。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「フッ…フッ……俺はいずれここを出て……フッ……凄腕の冒険者に…ウッ……なって……獣人族で最も偉大な英雄になるんだぁ!!」
腕立て伏せがきつくなったのか、最後は叫びながら腕の力で身体を起こした。
「フィルビーも連れてって!!」
「勿論さ!」
腕立て伏せのスピードが先程よりも落ちるダルトン。
◆ ◆ ◆ ◆
ダルトンは忘れていた。あの頃の気持ちを。
少年から大人へと成長していく過程でつらい現実を見すぎたダルトンは自分の心境の変化に気付けないでいた。
最も大事にしなきゃいけないモノ、それは純粋な子供の頃に抱いたあの時の想いだ。
周りが、社会が、戦争が、大人達がその想いを奪おうとしてくる。
それでも決して奪われちゃいけない。
どこからか聞こえてくるフィルビーの声がそれを思い出させてくれた。
ダルトンはその声に感謝するように自分の左腕の組紐を見つめた。
「お兄ちゃん?」
──こんなにも鮮明に聞こえる……
ダルトンは組紐を握った。
「すいません。イアンさん…俺は貴方を殺せません」
そう言ってイアンを見やると、イアンは驚きの表情で、ある一点を見つめていた。
ダルトンもその方向を見るとそこに信じられない者が立っていた。
「フィルビー?」
「お兄ちゃーん!」
フィルビーは屋根の上にいるダルトンとイアンに手を振っていた。
ダルトンは直ぐ様屋根から降りてフィルビーの元へ駆けつけた。
イアンは遅れて屋根から飛び降りる。
ダルトンはフィルビーを抱き寄せた。
2人の目から涙が零れる。
「会いに来たの……」
「フィルビー…ごめんな…お兄ちゃん……あの時お前のことを見捨てて……」
ダルトンはフィルビーが貴族に買われる時、無理矢理にでもフィルビーを奪ってどこか遠くへ暮らそうとも考えていたが、ダルトンにはそんな勇気とフィルビーを守れる自信などなかった。
しかし、こうして今フィルビーから離れ、軍での生活を通して、何故あの時、フィルビーを連れ出す一歩を踏み出さなかったのか後悔していた。
もうフィルビーを手離したりなどしない。
ダルトンはそう胸に誓うと、頭の中でフィルビーとは別の声が聞こえた。
ピコン
限界を突破しました。
システムを変更するため時間がかかります。
「おいダルトン!?どういうことだ?」
遠くからやって来たロバートがダルトンに近づく。
「ダルトン、それがお前の答えか?」
「はい。俺は誰も殺さない」
ダルトンはフィルビーを自分の後ろへ隠すように前へ出た。
「そうか…つまり俺を裏切るってことか?」
ロバートのこめかみに青筋が立つ。
「あなたを裏切るつもりもない。ただあなたの期待に答えることはできない」
「俺にとってその答えは一緒なんだよなぁぁぁぁ!」
剣を振りおろすロバート。
ハルは遠くから一部始終を見守っていた。
ハルはロバートの剣を受け止めようとしたが、それは杞憂におわる。
ダルトンが片手でロバートの、剣を持つ手を抑えていたからだ。
「なんだダルトン?そんな力を持ってたのに戦争で手を抜いてたのか?ア''?そうやって助けることが出来た仲間を見捨ててたのか?」
「違う!俺は妹を!フィルビーを闇に葬ろうとしていた。そしてお前の力を借りてそれを取り戻そうとした!だけどそれじゃあダメなんだ!」
「なに訳わかんねぇこと言ってんだ!?」
ロバートは腰に提げているもう片方の剣を抜き、突き刺そうとするが、ダルトンは身体を捻りながら躱した。そのままダルトンはロバートの懐に入り、抑えていたロバートの腕をとって、柔道の一本背負いのような投げを食らわせる。
再び立ち上がろうとするロバートにダルトンは自分の剣を抜き、切っ先を向けた。
「俺を、俺を見下すんじゃねぇ!!」
ロバートは低い姿勢から、ダルトンの足元を狙ってタックルをしたが、そこにはもうダルトンの姿はなかった。
ダルトンは前屈みになるロバートの背中に手を置き地面へと押し込むように力を加えた。
地面に這いつくばるロバート。
「くそっ!何故だ!?何故お前のが強い!?」
「わからない。フィルビーを抱き締めたときに不思議な力を感じたんだ」
「ウガァ''ァ''ァァ!!」
ロバートは自分がダルトンに手も足も出ないことに嘆き叫んだ。
ロバートの背中に手を当てるイアン。
「ロバート…また一緒に生きよう」
「…俺はお前のことを……」
「良いんだ。ロバート。悪いのは戦争だ」
イアンが優しく声をかける。
ハルはフィルビー達を見た。
そうハルが見たかったのはこの光景だ。
再び抱き合う兄妹に見とれていると。
ゴーン、ゴーン
見覚えのある風景に戻っていた。
ハルは鐘の音を聞きながら考えた。
──ダルトンのあの強さ……
以前ダルトンと相対したときの彼のレベルは31だった。さっきの世界線でのダルトンのレベルは15だったがステータスはレベル31の時よりも高かった。
──何故だ?漫画やアニメではよく怒りや誰かの涙で主人公が強くなる描写があるが、そんな感じか?ダルトンの元の強さはわからないが、あの強さがあればあの内乱でかなり活躍できると思うのだが……
ハルは自分のステータスを何気なく見た。
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 40
【HP】 356/356
【MP】 389/389
【SP】 418/418
【筋 力】 315
【耐久力】 323
【魔 力】 391
【抵抗力】 338
【敏 捷】 356
【洞 察】 351
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 258650/100000
経験値を満たしているがレベルが上がっていない。これが自分の限界レベルなのかと思い、ハルはがっかりした。
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