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第114話

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~ハルが異世界召喚されてから2日目~ 

 ハルとフィルビーはオセロ村へと到着したが、そこでは既に反乱軍と獣人国軍の戦闘が始まっていた。 

 ハルとフィルビーは隠れながらその戦況を見守っていたが、獣人国軍の兵の数が少ない為、押されているように見えた。しかし、木々の間から見える木造家屋から反乱軍の兵士が壁を破って飛び出してきた。 

 大きく空いた穴からダルトンが全身血だらけの姿で現れる。 

 ダルトンには目立った外傷がないためそれが返り血だと判断できた。 

 フィルビーはその姿を見て驚いたが、直ぐ様茂みから飛び出し、兄ダルトンの元へ走った。 

 ハルはダルトンがあの状態でフィルビーと会って良いものかと思ったが、様子を見守る。 

───────────────────── 

 ダルトンは怒りと憎しみに支配されていた。イアンを殺してから視界にうつるもの全てを破壊したいそんな想いにかられる。 

 念願かなって帰ってきた自分の部屋に入った。そこに居合わせた反乱軍兵士を殴り飛ばし壁に叩き付ける、そのままその者の腹を鋭い爪で十字に切り裂き大量の血を全身に浴びた。そして自分の部屋から出ていけと言わんばかりに前蹴りをくらわす。反乱軍の兵はダルトンの部屋の壁を突き破り屋外へと飛ばされた。 

 ダルトンは壁にできた大きな穴をくぐり抜けて外へ出ると、照りつける日射しがダルトンを襲う。 

 目を細めるダルトンは自分の足が何かを踏んだ感触がする。 

 足に気をとられたダルトンに小さな獣人が向かってくる。 

 ダルトンは歯を食い縛り、その向かってくる者に爪を突き付けようとすると── 

「お兄ちゃん?」 

 ピタリとダルトンは止まる。 

 ハルはフィルビーに攻撃を仕掛けようとするダルトンを見て止めようと動いたが、間一髪のところでダルトンは静止した。 

 ダルトンの視界が段々とはっきりしてくる。 

「フィルビー……」 

 そう呟くダルトンは頭に激痛が走る。 

「ぐわぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」 

 あまりの痛がりように周囲の戦闘も止まり、皆がダルトンの様子を見た。 

「おにい…ちゃん?…大丈夫?」 

 フィルビーがダルトンに近付こうとすると、ダルトンはそれを拒んだ。 

「くっくるなぁぁ!!来ないでくれぇ!!」 

 頭をおさえるダルトン。 

『俺は英雄になるんだ!』
『イアンを殺せ!』
『ダルトンか...良いぞ...俺を殺せ』 

 血に染まる短剣と屋根から落ちていくイアンの記憶がよみがえる。 

「ぐぁ"ぁ"…俺は…俺は悪くない!!」 

 ダルトンはフィルビーから後ずさる。 

 その時、自分が先程足で踏んだモノの正体がわかった。 

『ミストフェリーズの冒険譚怪物退治編』がボロボロになっていた。 

 ダルトンが子供の頃、いや今からたった2年前の自分が大切にしていたモノを思い出した。 

『英雄になりたい』 

 再び激痛が走る。 

 膝をついて顔を地面につけながら痛みをあるいは痛みの原因になっている何かを擦り付けるダルトン。 

「仕方がながっだんだ!!」 

 ダルトンはその姿勢で痛みがやわらがなかったのか、今度は両膝で立ち、身体をこれでもかと反らした。 

 そして右手で頭を抑えながら何かを振り払うかのように左腕を振った。振った手を見るとその手は血で赤く染まり、フィルビーから貰った組紐が無くなっていることにようやく気が付いた。 

 そしてフィルビーを見やると、そこには確かに妹フィルビーの姿が確認できる。 

 ダルトンはフィルビーから逃げるようにオセロ村から去っていった。 

 ハルはうつむくフィルビーへと近付いた。 

「フィルビー…悪い子だったから…なの?お兄ちゃん…フィルビーに…会いたくなかったの?」 

 ハルはしゃがんでフィルビーの頭を撫でると、フィルビーはハルの胸に顔を埋めて涙を零した。本来だったら兄の胸に飛び込む筈だったのに。 

 ハルはフィルビーを強く抱き締めた。 

 悲しみで冷えた心を暖めるように。 

ゴーン ゴーン 

 いつもの鐘の音が聞こえる。 

 誰かを慰める。誰かを心配する。そんな経験はハルにはあまりなかった。そして両親にも唯一の兄からも見捨てられたような子に対して自分しかあの子を守ってあげられない。 

 その時、胸に去来する想いはどこか暖かいものだった。 

 これを喜びと言うのは違う気もするが、フィルビーにはもうハルしかいなかった。人から頼られること、自分より弱い存在を守っていこうという想いは確かに前向きなモノではあった。 

 フィルビーの兄ダルトンが何故ああなってしまったのか、最早今から獣人国へ行っても、ダルトンは既にあの状態なんじゃないかと思いながらフィルビーを変態貴族から救い、孤児院に泊まる。 

~ハルが異世界召喚されてから2日目~ 

 魔法学校の試験を終え、獣人国に入りフィルビーをいつもの崖の上に置いた。ハルは戦地へと赴き、戦況を眺めながら唱えた。 

「フレアバースト!!」 

 反乱軍討伐RTAが始まった。 

───────────────────── 

<反乱軍の左軍> 

 ヂートは乱戦を見つめている。よく見えるように手でひさしを造るようにして眺めていた。 

「誰か強い奴いないかなぁ?」 

 ヂートは主人から貰った魔道具をまだ全力で相手に使ったことがなかった。 

 一度全力で移動してみたが、自分でも驚くほどのスピードがでたのを覚えている。これで相手に飛び蹴りをしたら、いくらバーンズやルースベルトでも一発で倒せると思えた。そしてあまり大きな声で言えないのだが、主人よりも強いのでは、と思えてきたのだった。 

「とりあえず乱戦に入ってレベルあげっか?たぶん上がんないと思うけど……」 

 そう呟いて、一歩足を踏み出したその時、巨大にして強大な青い竜がヂート達を襲った。 

「なっ!!?」 

 その竜は反乱軍を次々と飲み込み、ヂートは自慢の脚で逃げようとするが魔道具が上手く作動しない、そう言えばなんだか熱い。身体が動かない。 

 ヂートは眼前に迫る竜の口に飲み込まれ絶命した。 

<両中央軍> 

 ルースベルトは主人から授かった魔道具を見やる。 

 この魔道具はハンドアックスとしても使えるが魔力を込めると炎を纏う。 

 始めはこの炎に慣れず、自分にダメージが入ることもあった。 

 それを見かねてか主人は火属性の耐性をつけさせようとルースベルトを訓練した。 

 あの時は苦しくもあったが、主人が直々に訓練をつけてくれたことに感動していた。こんなことはバーンズにもヂートにもしていない。ルースベルトは他の側近2人よりも自分に主人は期待を寄せているのだと感じた。 

 その期待に応える為にルースベルトは修行し耐性を付けた。 

 第二階級火属性魔法耐性(弱)を習得した。その時の主人の喜びようをルースベルトは今でも覚えている。 

 フレイムを唱えようと、第三階級魔法のファイアーストームでさえもルースベルトを一撃で倒すことなどできない。 

 どんな炎であろうと自分を焼くことなど出来はしない。ルースベルトは近々行われるフルートベール王国との戦争で主人がえらく気にかけていたファイアーストームを唱えられるアマデウスを倒すことを誓った。 

 また、この魔道具さえあれば魔法抵抗力の低いヂートやバーンズを容易に倒すことができるだろう。いや、焼き殺すことができるだろう。 

 ルースベルトは魔道具に魔力を込め炎を纏った。 

 しかし、いつもより熱を感じる。 

 ──おかしい…何故こんなにも熱を感じるのだ? 

 込めていた魔力を少し抑えて炎を小さくしたが、感じていた熱は更にルースベルトを焦がす。 

 ──おかしい!何故だ!? 

 ふと左軍方面を見やると、巨大な青い竜がルースベルトを飲み込もうとしていた。 

「熱いぃぃぃぃぃ!!!」 

 ルースベルトは焼死する。 

<反乱軍の右軍> 

 バーンズは獣人族の中で自分が最も強い── 

 バーンズの思考は問答無用に遮られフレアバーストにより絶命した。 

───────────────────── 

 サリエリは帝国では肩身の狭い思いをしていた。帝国四騎士という地位にありながら、実力は最も下だからだ。もっと言えば、他の四騎士の下ついている側近たちよりも弱い。 

 しかし、最も古参であるサリエリはその地位に留まった。俗にいう年功序列だ。唯一功績があると言えば魔道具の開発くらいだが、レベル30を超える者達の前ではその魔道具も只の玩具に過ぎない。
 
 昔はサリエリとアマデウスで魔法詠唱者の二強として名高かった。しかしいつからか帝国で第三階級魔法を唱える者が増加したのだ。 

 全てはあのマキャベリーが軍事総司令に就いてからだ。 

 マキャベリーの出生には噂が絶えない。元帝国の兵士だったとか、ドレスウェル王国の王族だとか、はたまた未来から来たと噂されている。 

 いくら調べてもその出生に関しての情報は出てこなかった。 

 マキャベリーが台頭してくる頃に、現四騎士のミラ・アルヴァレスやその部下ルカ・メトゥスも出てきた。一体帝国に何が起きたのか、サリエリは理解が出来なかった。 

 こうして、実力のない自分は獣人国へ左遷された訳だが、ここでの生活は実はそこまで悪くはない。 

 皆が自分を崇め、戦闘能力もサリエリが一番上だからだ。 

 ここでワシtueeeをやっていたサリエリ。今日で決着がつくのを少し寂しく思う。この仕事が終わったら魔法研究を存分にやらせて貰えるようマキャベリーに頼もうと考えながら歩みを進め、遠くに中央軍が見えてくると、青い竜が左軍方面からやって来て中央軍を飲み込む。そしてそのまま右軍へと向かって行った。 

「…あれは……第五階級魔法の……フレアバースト……」 

 味方である反乱軍は焼失し、そこには何も残っていないと遠目からでもわかった。
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