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第112話

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~ハルが異世界召喚されてから1日目~ 

 ハルは久しぶりに不良達と戯れていた。ハルが黙考していると不良達が殴りかかってくる。それを躱し続けた。 

「くそ!当たらねぇ!!」
「なんなんだコイツ!?」 

 まず、気になったことを整理してみよう。 

 モツアルトと呼ばれていた獣人の魔法習得欄には第三階級魔法は記載されていなかった。故にハルと同様テクスチャーかそれに類する魔道具を使っていた可能性がある。 

 あとは、フィルビーの兄ダルトンが何故反乱軍にいたのか、それにレベル31ってそこそこ強い。彼処にいた幹部らしき獣人達よりレベルが高い。 

 ハルはヘロヘロになっている不良が最後の力を振り絞って、大振りに繰り出される拳を躱す。 

 不良は体力の消耗によって踏ん張る力もなく、前のめりとなり、そのまま地面に倒れた。 

「はぁ…はぁ…はぁ……」 

 地面に這いつくばりながら息を整える。不良達がハルから金銭を巻き上げるのを諦めようとしところ── 

「大丈夫か!?」 

 槍使いのランガーがやってきた。 

 ──あぁコイツのこと忘れてた。でもコイツがいないと帝国との戦争はなかなか厳しかったな…もういなくても大丈夫だけど…… 

「てめぇ!弱い者いじめは俺が許さねぇ!俺ならいくらでも相手してやるぜ!?」 

 ランガーは槍を構えながらハルにつっかかる。 

 ハルはランガーのことを無視しながら再度今後の動きを考えた。 

 ハルに無視されたランガーは青筋を立てながら言った。 

「この野郎……これでもくらいやがれ!」 

 ハルに向かって槍を突くランガー。 

 ハルは顎に手を当てたままランガーの攻撃を避ける。 

「な!?」 

 ランガーは槍を引き戻した。 

 ──おいおい、いくら加減したからって見もしないで俺の突きを躱すなんて不可能だろ…… 

 ランガーはさっきよりも早い突きで槍技『乱れ突き』を放つ。 

 ランガーの見えない程早い突きとハルの動き、勿論こちらも不良達には見えていない。そんな2人のやり取りを見ていた不良達は走って逃げてしまう。 

 ハルはランガーの突き全て躱しながら考えていた。 

 ──ん~それにしても、思ってるよりもずっと早くこのクーデターは終結してたみたいだな…… 

 クーデター成功の報を聞いたのはハルがクロス遺跡から帰ってきた時だ。 

 つまり、今から5日後にはクーデターは終了し現政権が倒れたことになると思っていたのだが、前回の世界線によると、最後の戦いをしているのは明日、ハルが異世界召喚されてから2日目だ。 

 反乱軍による情報統制がきちん行き届いている。これにより、周辺各国は混乱に陥ったのかと納得した。 

「くそ!なんなんだよお前!!」 

 ランガーは槍技『三連突き』を本気で放つ。 

 ハルはそれらを難なく躱すとランガーの横を通過する。 

 ランガーは一瞬にして懐に入られたので攻撃が来ると悟ったが、ハルはそのまま通りすぎてしまった。 

 ランガーは息をすることが出来なかった。ハルの動きについていけなかったからだ。 

 ハルが去っていくとランガーは膝をついて肩で息をしながら独りごちた。 

「化け物かよ……」 

 ハルはフィルビーの元へは行かず、直接変態貴族の屋敷へと向かった。 

───────────────────── 

 ハルはフィルビーを救出した後、図書館へと向かう。 

「え?テクスチャーでステータス偽装したものを剥がす魔法?そうねぇ…テクスチャーは光属性魔法よね?だから相克の闇属性魔法を被せれば解除されるんじゃないかしら?例えば…第三階級魔法の…」 

「ブラックアウト?」 

 ハルは前回の世界線でフレデリカが触れていた魔法を口にする。そうそれとフレデリカは何故か嬉しそうに反応した。 

 ──子供の頃、よく大魔法の対策を考えてたっけ?まぁ今でもたまに考えるけどね 

 フレデリカの思考は中二病に侵されていた。 

 ハルはテクスチャーで自分のステータスを偽装したあと、ブラックアウトを唱えた。 

 隣の席ではフィルビーがイスにちょこんと座り絵本を読んでいる。というか眺めている。 

ピコン
新しい魔法『ブラックアウト』を習得しました。 

 頭の中で声がするのを感じながら、目の前のステータスウィンドウと自分自身が闇に呑まれる。 

「うお?」 

「ハルお兄ちゃん!?」 

 フィルビーが闇を払おう両腕をパタパタと仰ぎながら、ハルの身体に触れる。フィルビーはハルの腕の感触に安心すると闇は晴れる。 

 ステータスウィンドウを見やると偽装する前の数字を記していた。ちなみに、テクスチャーを施したステータスのまま1日目に戻るとテクスチャーの効果は剥がれてしまう。 

 フレデリカはハルが闇に飲まれるのを目撃した。 

「え?」 

 目を擦りもう一度凝視したが、闇は消えていた。自分の思い過ごしだと納得させ業務を再開する。 

 ──はぁ、やっぱりちょっと働きすぎかも……
 
───────────────────── 

 日は沈み、ルナの帰宅を待つハルとフィルビー。 

 ハルは先程のブラックアウトでテクスチャーの効果が解除されたことを思いだし再びテクスチャーでステータスを書き換える。 

 前回ルナは何故かハルを警戒していた。今回は話し掛けずにルナが通りすぎるのを待った。 

 今回も紫色のドレスを着た女は来ない。何故あの女は襲わなくなったのだろうか? 

 ハルはなんとなくその答えを理解していた。おそらく鑑定スキル持ちなのだろう。いつかの世界線で彼女は騒ぎを起こされるのを嫌っていた。だから、もしここに来る前にテクスチャーでステータスを偽装していたら、彼女は襲ってくるに違いない。 

 あの頃からかなり強くなったハルは一度試しに紫色のドレスの女との戦闘を考えたが、フィルビーがいるのでその考えを隅へ追いやった。 

 通路の奥から足音が聞こえてきた。 

 足音は次第に近づき、ルナが姿を見せる。 

 ハルとフィルビーは黙ってルナが通りすぎるのを見守った。 

 しかし、ルナは立ち止まって2人に言った。 

「あの…おうちは?泊まるところないの?」 

 ルナの優しさに感動した。そうだこの人は、こういう人だった。 

ゴーン ゴーン  

 ハルはルナの優しさに喜びを抱き1日目に戻った。そして先程と同じ時を過ごす。 

「あの…おうちは?泊まるところないの?」 

 2人は教会の孤児院に泊まった。 

~ハルが異世界召喚されてから2日目~ 

 朝になるとハルはルナを呼びフィルビーが獣人族であることを明かした。 

 これからハルは魔法学校の試験を受け、フィルビーを1人にしてしまう旨を伝える。 

 試験を終えると直ぐに孤児院に行きフィルビーを迎えた。 

 2人は見送ってくれたシスターグレイシスに感謝を伝え、獣人国へと急ぐ。
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