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第91話

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~ハルが異世界召喚されてから15日目~ 
 
◆ ◆ ◆ ◆ 

「いいですかハルくん?貴方は王国の希望です。もしこの戦争で誰かが危なくなっても、此方の指示以外で第四階級魔法を使用するのは控えて頂きたい」 

「どうしてですか?」 

「今、中央軍にいるのは帝国四騎士の1人シドー・ワーグナーです。彼はきっとうちのイズナ戦士長が追い詰める、或いは戦闘が拮抗すると予想されます。その時に第四階級魔法を放って頂きたい!」 

 ハルは沈黙で先を促した。 

「あの大会でハルくんの存在をおそらく全世界が知りました。なので、いつ第四階級魔法を放つ者が現れるのか、帝国に無言のプレッシャーを与えるのです。そして、ここぞと言う時に!帝国軍に最もダメージを与えられる時に!!放って頂きたいのです!!」 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 ギラバがハルの鼻先まで顔を近付けたのが思い出される。 

 敵将ドルヂとの交戦中、周囲の王国兵が次々に倒れていくのが視界の端々で見て取れた。 

 ハルはドルヂの真のレベルを聞いて怯む。うすうす気付いてはいた。魔法大会での決勝の相手アベルはどう考えてもレベル18なわけがない。ステータスを偽装する手段がある。 

 ハルはその疑念を追い払って、再びドルヂと向き合い、大剣をアイテムボックスから再び出すことはせずにいつでも魔法を撃てるよう素手で構え、大地を踏み締める。  

「来るか!」 

 ドルヂは身構え、いつでも動ける準備をした。 

 ハルが一瞬で間合いを詰め、右ストレートを放つが、ドルヂの握る大剣でガードされた。 

「速ぇのはわかったが単純なんだよ!てめぇの動きは!」 

 ハルの速さにドルヂは反応するもその速さのせいで忘れていたことがある。それはハルが魔法を使えることだ。 

「ドルヂ様!!離れッ──」 

「フレイム」 

 ジュドーの叫びも虚しくドルヂは迸る火炎を諸に食らう。 

「うおおおおおお!!」 

 熱に喘ぐドルヂに対してジュドーが直ぐ様、第二階級聖属性魔法プロテクションヒールでドルヂの抵抗力を上げHP回復を促す。 

 ──今のがフレイムだって!?桁違いの威力だ!? 

 ジュドーはドルヂの様子を窺いハルに向き直った。 

 また、ハルのフレイムを遠巻きで見ていたノスフェルは馬を走らせハルの背後から魔法を唱える。 

 ──今度はフレイム!このガキ危険だ! 

 ノスフェルは第二階級風属性魔法ウィンドスラッシュでハルに攻撃する。 

 ハルは後ろからゾクッと寒気を感じとる。振り返ると風の刃が高速でハルを切り裂こうとしている。 

 ──これ懐かしいな。グリーンドッグのときと一緒だ。 

 ハルは魔力を両手と両足に込め、風の刃を躱しつつ、裏拳や回し蹴りで無数の刃を一気に打ち消した。勿論グリーンドッグの唱えるウィンドカッターより威力はかなり強かった。 

 風の刃を防ぐと、間髪いれず騎乗したノスフェルがハルに長剣を振り下ろす。 

 ハルはアイテムボックスからゴブリンジェネラルの大剣を取り出して、防御した。 

「重っ!」 

 騎兵した帝国兵は魔法士の癖に攻撃がやたら重い。 

 ──ウィンドスラッシュだけでなくこの攻撃も防がれた? 

 ノスフェルが困惑しているとドルヂが後ろから雄叫びのような声を上げてハルに襲い掛かってくる。 

「お"ま"え"!!ま"ぼう"は"ね"ぇだろ"!!男ど男の"勝負に"よ"ぉ!!」 

 今さら卑怯とは云いますまいな、とでも言うのか、ハルがノスフェルの攻撃を受け止めている最中にドルヂは大剣を振り上げ攻撃を仕掛けてきた。 

 その様子を見たジュドーは、ふぅ、と息を吐く。 

 ──一瞬ヒヤヒヤしたがなんとかこれでこの子は倒せそうだ。後はドルヂ様の機嫌をとるのがめんどくさ…… 

 ジュドーが安心したのも束の間、異変が起きる。 

 始めはノスフェルの長剣が消えた、次にドルヂの大剣が少年を叩き斬る直前に消えた。正確には少年の顔を保護する鉄製の兜に触れた瞬間に消えた。 

 目を疑うノスフェルは乗っていた馬が暴れだし、咄嗟に馬から飛び降りると、馬は焼け死ぬ。 

 ドルヂは持っている大剣に重みを感じなくなったと同時に死を予感した。咄嗟に後ろへ飛び、目の前を確認すると。自分の勘が正しかったと確信する。 

 少年の兜は二つに割れ、現れた素顔は見覚えのあるものだった。 

 そう、新聞に載っていた三國魔法大会優勝者の顔だ。 

 ハルは第四階級火属性魔法ヴァーンプロテクトで青い炎を身に纏い危機を脱した。 

 ──ごめんギラバさん! 

───────────────────── 

「ギラバ様!激戦地の右軍に青い炎を纏った少年がいるとのことです!!」 

「右軍にいたか!!イズナ殿!すまないが、兵を2万、借り受ける!」 

「あぁ」
  
 イズナは即答した。4万から2万に中央軍は減少することの意味は、戦争の敗北だ。 

 自分の命、或いは中央軍残り2万の兵の命よりハル1人の命の方が重いとギラバは決断したのだ。 

 だが最後まで足掻くとイズナは決心する。 

───────────────────── 

 ベラドンナは血塗れで倒れているエリンを見下ろす。 

 息を深く吐いて、長い黒髪をかきあげた時に、異変を感じた。 

 遠くに青い光が。 

 ベラドンナは騎乗し、その光源へと馬を走らせた。 

───────────────────── 

「ワーグナー様!ドルヂ軍から伝令!目標のハル・ミナミノを発見し、現在交戦中とのことです!」 

「そこにいたか、お前の読みが外れたな?」 

「はい。そんな貴重な戦力を激戦地に送るようなことなど私にはとても……」 

「しかし見てみろ。王国の中央軍から兵が、ドルヂの元へ向かっている」 

 フォスは開いているのか開いていないのかわからない目をさらに細めてその様子を見た。 

「ハル・ミナミノがドルヂ軍とぶつかっているのは王国側の指示ではないようですね」 

「中央軍を押しきるぞ?」 

「ドルヂさん達は大丈夫ですかね?」 

「おそらくな。それにハル・ミナミノは中央軍に戻るはずだ」 

「?」 

 フォスは今まで何度もシドーに助言を与え、シドーはそれに従っていた。シドーは頼れる男だが、戦闘マニアなだけあって抜けてる所も多い。しかし戦場でのシドーの勘はよく当たる。この発言もきっと現実のものとなるだろう。 

───────────────────── 

「おいジュドー!決闘はなしだ!」 

「はい!」 

 ジュドーはドルヂに攻撃と防御の支援魔法、主に第二階級聖属性魔法を唱えた。 

 その様子を見たハルは考える。 

 ──あの子供おじさんから殺るのがセオリーか? 

 ハルは聖属性魔法を唱えるジュドーに向かってヴァーンプロテクトを纏ったまま正拳突きを放つが、ドルヂが刀身の溶けた大剣を盾にジュドーの前に立つ。ハルの拳が大剣を破壊した。その衝撃により周囲の帝国兵が吹き飛ぶ。その中にはドルヂもいた。 

 吹っ飛んだドルヂを見て、ジュドーは案じた。 

「ドルヂ様!!」 

 またしてもハルがヴァーンプロテクトを発動したままジュドーに攻撃を加えようとするが、 

「アクアレーザー!」 

 ノスフェルが第三階級水属性魔法を放つ。無数の流水が放たれハルを襲った。 

 ハルはヴァーンプロテクトを纏ったままそれを諸にくらってしまう。 

「くっ!」 

 相克である水属性はヴァーンプロテクトの維持を困難にさせた。 

 吹っ飛ばされ着地を決めたドルヂは自分が動けることを確認してからもう一度ハルに向かう。 

 時を同じくして馬に乗ったベラドンナがその場に到着し、ドルヂとは反対側からハルに襲い掛かる。 

 ノスフェルのアクアレーザーがとまり、追い討ちをかけるようにドルヂとベラドンナがハルの前後から攻撃をする。 

 ハルは後ろを向いたままベラドンナの馬上から振り下ろされる攻撃を躱し、ドルヂの拳も間合いを詰めながら躱すと、ドルヂの膝を足場にして跳躍する。ハルは中空で半回転しながらベラドンナに向き合うとアイテムボックスからゴブリンジェネラルの大剣を取り出し、馬に乗ったベラドンナに斬りかかる。 

 ベラドンナは両手に刀身の曲がった長剣を用いてガードするもハルの力が強すぎて、乗っていた馬の脚が折れ、落馬した。 

「また落馬ぁ♪」 

 落馬を確認したハルは大剣をアイテムボックスにしまい、片手をドルヂに向けてフレイムを放った。 

 ドルヂは炎をものともせずに、掻き分けながらハルに襲いかかろうとしたが、ハルは後ろに後退して、距離を取った。 

「きつすぎ!」 

 ハルは嘆いた。 

 起き上がるベラドンナ、中距離から魔法を唱えてくるノスフェル、接近戦を好むドルヂ、聖属性魔法を施すジュドー。 

 ハルは自分のMPを鑑みて、一旦退却をしようとしたが、それを阻もうとノスフェルが先程のアクアレーザーを唱えてくる。 

「第三階級魔法普通に撃ってくるやん?」 

 ドルヂはハルとの距離を詰めようとすると、地響きがした。 

 皆がその地響きの根源である方向を見やる。王国中央軍から約2万の援軍がやってきた。
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