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第82話

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~ハルが異世界召喚されてから14日目~ 

<フルートベール王国領ワーブレー> 

「なぁなぁ、またあの猫達に石投げてやろうぜ?」 

「いいね!アイツら獣人のせいで父ちゃんの仕事がなくなったんだから、俺達が気晴らししても罰当たんないよな」 

「おし!そうと決まればまた石集めようぜ?」 

 子供達はまたしても石を探しに街を散策した。しかし、子供達の目線からでも大人達が騒がしくしているのがなんとなく理解できた。南西にあるヴァレリー法国に獣人達が国境を越え、攻め行ったらしい。 

 それに呼応するかのように、ワーブレーにいる獣人達が暴れるんじゃないかと大人達はピリピリしていた。 

「おい!ここから出るなと言っただろうが!」
「食料が盗まれた!」
「犯人は獣人だろ!?」 

 大人達の声を聞いた子供らは提案する。 

「俺達も獣人達を成敗しようぜ!」 

「「「「おう!!」」」」 

───────────────────── 

「ジェイク!?おいジェイク!!何度言ったらわかるんだ?ここは人族の集まる店だぞ?」 

「わかっている!だけど、食料が足りないんだ!」 

「こっちだって足りないんだ!自分達中心で考えるな!」 

 ジェイクはキャンプ地へと戻った。 

 するとあの人族の子供達がキャンプ地の外でコソコソとしているのを発見した。 

 手には大量の石を持っている。そこそこ大きいサイズだ。 

 子供達はまたしても双子の猫の獣人に向けて石を投げ出した。 

「やめろお前ら!!」 

「うわぁ!」
「でた!」
「逃げろ!!」 

「ったく、悪ガキどもめ……」 

 双子の兄弟の1人に石が命中して怪我をしている。直ぐ様、教会へ行き治療を施してもらおうとしたが、そこに目の下に隈ができた衛兵が立ち塞がった。その兵士の後ろには子供達がニヤニヤしながら隠れている。 

「おい、ジェイク!またあのドラ猫達がこの子らに石を投げたそうじゃないか?」 

「投げてないです!その子らがこの双子に投げていたんだ!現にほら?怪我をしている」 

 ジェイクは証拠と言わんばかりに双子の1人を前へ出した。 

「そんなのは転んで怪我しただけだろ?」 

「違う!俺がこの目で見たんだ!」 

「嘘つけ!ったく獣人は直ぐ嘘をつく」 

「嘘つき」
「ウソつき!」
「うそつき!!」 

 子供達が煽ってくる。 

 ジェイクは怒りが込み上げてきた。拳を握りしめ、自分の顔付近まで上げた。 

「おい、こんなところで手を出すきか?これだから獣人は……」 

 ジェイクは握った拳をおろす。 

 まったく、と言った具合で衛兵が鼻で笑う。 

「「「弱虫♪弱虫♪」」」 

 後ろで子供達が囃し立てる。 

 ジェイクは教会での治癒を諦めキャンプ地へと双子と戻ろうとしたその時、フルートベールと獣人国との国境辺りから煙が上がってるのを目撃する。 

 ニヤリとジェイクは笑い、牙を見せた。 

───────────────────── 

「ったく獣人は息をするように嘘を吐く……」 

 こんな小さな子供達が嘘をつくわけないんだ。昔から人族ってのは特にフルートベール人は嘘を嫌うって歴史書に書いてあるんだ。 

 ──はぁこんなくそ面倒な獣人の世話なんかしてないで、早く酒が飲みてぇ…… 

 キャンプ地へ戻ろうとする獣人ジェイクの背中を見ながら、先程あしらった衛兵は心の中で悪態をついた。 

 しかし、獣人のジェイクはキャンプ地へ戻らずまた此方を振り返り近付いてきた。 

「なんだ?まだなんかあるのか」  

 衛兵は腰に手を当て、突き出た腹を見せつけるようにふんぞり返りながら呆れた表情でジェイクを見やると、その自慢の腹目掛けて、ジェイクの前蹴りが飛んでくる。 

 痛みよりもまず、衝撃が走る。後方へ飛ばされた衛兵は、何が起きたのかわからない。腹にくらった衝撃は激痛へと変わり、何が起きたのかを徐々に理解し始めた。 

「っなんだ!?……こんな……ことを、していいと思うのか?」 

 倒れた衛兵は痛みに言葉を詰まらせる。それでも尚、ジェイクに悪態がつけられるというのは見上げた根性であるかもしれない。それともただ頭が悪いのか、それはわからない。 

 ジェイクは起き上がりかけた衛兵に馬乗りとなって、何度も拳を叩きつける。 

「グボォ…やめ……ゴバァ……」 

 衛兵は顔面の原型がなくなるほど殴られ息絶えた。
 
「今までよく我慢したほうだぜ。自分を誉めてやりたい」 

 ジェイクは顔についた返り血を手の甲で拭いながら言った。 

「おいガキども今死ぬか後で死ぬか選べ……」 

 ジェイクは子供達に向き直る。 

「ぁ……ぇ……ヘブッ!!」 

 軸足の左足のみで立っているジェイク。右足で衛兵に食らわせたように、答えに戸惑った1人の子供の顔面に前蹴りをしたのだ。 

 前蹴りを受けた子供は10メートル程吹っ飛び背中から着地した。そしてそのままの格好で一向に動く気配がない。 

「お前らはどっちだ?それとも俺が決めてやろうか?」 

 恐怖に凍り付いた顔をする子供達。 

───────────────────── 

 ワーブレーを治めている貴族のブッシュはいつもリッチランドの屋敷にいた。 

 ヴァレリー法国が侵攻されたことでブッシュは少し安心していた、何故ならヴァレリー法国を襲ったのだから、獣人族はヴァレリーと敵対することになる。つまりは、フルートベールにまで侵攻して敵を多く作らないだろうとたかをくくっていたのである。 

 だが、獣人国との国境にある関所を襲われ、ワーブレーに侵攻している報を聞いて耳を疑った。 

 直ぐ様、リッチランドからワーブレーに援軍を送り、食い止めようとしたブッシュだがワーブレーの現状を聞かされ背筋が凍る。 

「現在、援軍をワーブレーに送りましたが、ワーブレーの内部にいた獣人が既に暴れ、結束しているとの報告が……」 

「くそ!難民キャンプか!!」 

「更に、関所から更なる獣人達の援軍が向かってきていると……」 

 ──ワーブレーはもうダメだ…… 

「ワーブレーの住人はこのリッチランドに向かうように要請しろ!援軍に向かった兵士達には数刻でもいいからリッチランドまでの侵攻を遅らせろと伝えてくれ!」 

 すると、新たな伝者がブッシュの元へやってくる。 

「急報!!」 

 今度はなんだとブッシュはイラついた。 

「ヴァレリー法国を襲った獣人の大軍が北上し、このリッチランドへ向かっているとのことです!」 

「なんだって!!」 

───────────────────── 

「ヒュ~♪人間ってなんでこんなにいっぱいいるんだ?とりあえずここの人間全員殺すぞ!!」 

 熊のようなガタイの大きな獣人バーンズが両腕にグローブ型の魔道具を身につけて命令している。 

「バーンズ様!」 

「お~ジェイク!久しぶりだな!元気だったか?」 

「はい!お会いできて嬉しいです!」 

 ジェイクは尻尾を振っていた。 

「ガハハハ、それよりもすげえこと考えるよなぁモツアルト様は!!」 

「全くその通りであります!」 

 再開を喜ぶ2人に割って入ろうとするワーブレーにいる兵士がいた。 

「うぉぉぉぉぉ!」 

 その兵士は槍を熊の獣人バーンズに刺すが、刃が硬い皮膚を通らない。 

「背中にやってくんね?ほれ?ここら辺。凝ってんだよなぁ?」 

 平然とした声でバーンズは言う。 

「う、うわぁぁぁぁ」 

 武器を落とした兵士はそのまま逃げ出した。 

 バーンズは背を向けた兵士の背中を追いかけ、両腕に身に付けているグローブのような魔道具を起動させる。 

 キィィィィィンと耳慣れない音が聞こえたので後ろを振り返る兵士。次の瞬間。 

「は!?」 

 バーンズの正拳突きが振り返る兵士の胸に飛ぶ。兵士は吹っ飛びながらバラバラの肉片へと変わっていった。 

「やっぱこれたまんねぇよなぁ」 

 バーンズはジェイクに今の攻撃の威力について何か言ってもらおうと見やると、ジェイクは人間と口論していだ。 

「ジェ、ジェイク!俺達の仲だろ?頼む見逃してくれ!!」 

「貴様ら人間は俺達獣人を仲間だと思ったことがあるのか?」 

「あ、ある!あるよ!」 

「見え透いた嘘を……死んで詫びろ」 

 今までジェイクを軽く扱ってきた者達、それはジェイクが温厚だったからだろう。しかし今のジェイクは身の毛もよだつ恐ろしい表情を浮かべていた。 

「ヒッ!!」 

 ジェイクはその兵士の背後に一瞬で移動した。その兵士の両側頭部に両手を添え、コマを回すよう前後に両手を引いた。 

 バギィ、と首の骨が砕ける音が鳴り響く。 

 一通り殺戮がすみバーンズは伝えた。 

「おおし!ここは粗方すんだ!次はリッチランドって所までいくぞ?先に1万程は俺についてこい!後はジェイク!!」 

「ハッ!後の者は準備ができ次第向かいます!!」
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