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第78話
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~ハルが異世界召喚されてから13日目~
大炎にあてられた観客達は、その熱に浮かされていた。
「ねぇどっちが勝つと思う?」
「第三階級魔法を唱えればもう勝ちじゃね?」
若い男女が隣で話している。
──フン、これだから若い者は……
白髪をくたびれさせたような色の髪をセンター分けにし、額にはハチマキを巻いているロンシャンシャンは髪色と同じ顎髭をいじりながら、この決勝戦がどうなるのか予想していた。
武では1枚も2枚も上手なアベル。武はそこそこにして魔法に長けたハル。
──この一戦は今後の世界情勢をも巻き込む歴史的なモノになるだろう……
眼を光らせるロンシャンシャン。
──因みにワシはただの格闘技好きのオッサンじゃ
『それでは決勝戦!ダーマ王国国立魔法高等学校1年!アベル・ルーグナー!対フルートベール王国王立魔法高等学校1年!ハル・ミナミノ』
リングに上がる道中、2人はそれぞれの試合を観客席から見ていた記憶を辿っていた。
──あの身のこなしとさっきの第三階級魔法……
──あの体術と魔法の剣……
2人はリング上へあがり同じ問いを自分にかける。
──どうする?
──どうする?
「ハルーーー!!」
「アベルーーー!!」
ここへ来てホームであるフルートベール王国代表のハルと同じくらいアベルの声援も聞こえてきた。
『始めぇぇぇぇ!!』
ハルとアベルは一歩も動こうとしなかった。
「え?なんで!?立ったまま?」
女が隣にいる彼氏に聞く。
「なぁ!?なんで始めないのかな?」
彼氏もその意見に同意した。
「いや、もうすでに始まっている……」
ロンシャンシャンは隣にいる男女の会話に入るように呟いた。
「え?誰この人?」
ハルが初めに動いた。
「錬成……」
超速でアベルの前へ行きそのままのスピードで右ストレートを顔面に当てようとする。
アベルはそれをまるで狭い通路を通るように身体を横にして躱した。
──あたったら死ぬな……
ハルは右の拳を引かずに振り抜き、前のめりになった体勢を右足を出して踏ん張った。それを軸にして左足で後ろ回し蹴りを放つがそれも空をきる。
空を切った左足を着地させその足で飛び上がったハルはそのまま回転しながら右足でアベルの顔面目掛けて蹴りを入れるがそれも躱されてしまう。
アベルは最後の蹴りを見切り、ハルが着地する前の空中で掌底をハルの胸に放とうとしたが、そのアベルの掌底を狙らいすましたかのように、ハルが拳をぶつけてこようとしたので咄嗟に掌底を引っ込める。
ハルは無事に着地した。
アベルは素手で戦わない方がいいと判断し、ファイアーボールを唱えながら距離を詰める。
ハルは迫る火球を躱す素振りを見せない。諸にヒットするが、その後ろを走るアベルを見据えたままだ。
──耐性か?
アベルはそう当たりをつけ、魔法の剣をだして斬りかかる。
ハルはそれを綺麗に躱した。
レナードとレイは二人の試合を見ていた。
「なぁレイ?あの二人、全然本気じゃなかったんだな……」
「そうだな……」
静かに相づちを打つレイ。
「それにアベルの持ってる魔法の剣……」
「あぁ、実に理想的だ」
ヴァレリー法国議長ブライアンは二人の試合を全く目で追えない。残像がいったり来たりしているだけだ。
「い、いったい。何が……」
シルヴィアとエミリアはブライアンを無視している。試合に集中しているようだ。
ダーマ王国宮廷魔道師アナスタシアは自分よりも二人の方が強いことに最早悔しさすら出て来ない。隣にいる騎士団長バルバドスは違うようだった。
「ぐっ……」
握っている落下防止の柵に力が入るバルバドス。
宰相トリスタンは考えた。
──これが帝国とフルートベールの戦力。しかし、このハル・ミナミノはフルートベールでも戦力的にかなり上の存在だろう……ただアベルは帝国での戦力位置はおそらく中間辺りだ。隠れた戦力であるのは間違いないが、帝国四騎士の1人シドー・ワーグナーの息子、シドーはそれより強いか最低でも同等だろう。もしアベルが帝国の最終兵器ならばこんな三國魔法大会などで披露するのは考えられない。これは私やこの会場にいる帝国密偵への警告でもあるのだろうか……
ハルの強さは知っていた。レッサーデーモンを1人で抑えられる強さだ。スタンは二人の攻防を眺めていた。
──アベルは、あれから更に強くなったのか……
スタンは指を組んで観戦していた。
アベルとハルの攻防に更なる動きが。
「撃ってこい。第三階級魔法」
「そんじゃそうするよ」
ハルはアベルと距離をとった。
「来るか?第三階級魔法……」
オデッサ含め誰もがそう思った。観客全員が前のめりになる。
「何故だ!!?何故それを唱えさせないよう間合いを詰めない?」
格闘好きのロンシャンシャンは疑問を口にしたが、もう遅い。ハルは背部へ下げた両腕を前へ押し出しながら唱えた。
「ファイアーストーム!」
レイとの試合同様、炎の渦がリングを埋め尽くす。
アベルはその場で仁王立ちし、魔法の剣を右手で持ち、切っ先をしたに向けている。まるでファイアーストームを待っているかのようだ。
レイは自分がやられたこの魔法を客観的に見て対策を考える。
「この魔法をこのリング内で唱えられたら終わりだよな」
レナードがそう呟いた。
「アベルーーーー!!」
アベルの潜入しているダーマ王国魔法学校で同じクラスのコゼットが身を案じる。
迫り来る深紅の炎。アベルは動かない。どこか集中している様子だ。
炎がアベルの間合いに迫ってきた、その時、魔法の剣をクルクルと回転させ炎を切り刻む。
「剣技、炎舞……」
まるで舞を踊っているかのように、炎を斬っていく。
本来剣技の炎舞は自身が炎のように揺らめき、炎を纏いながら攻撃する技だが、アベルは炎を纏わず、周りを取り囲む炎の一部となり、火と火の間(そんなものがあるらしい)に剣を差し込み火を掻き消している。
「なるほど……」
オデッサは声が漏れでた。
──そうやって回避する方法があるのか。これでうちの国の小僧に勝機はなくなったか……
「あれは、あれは!?何をしている?」
宰相トリスタンは訊いた。
バルバドスが戸惑いなから答える。
「あれは…剣技の炎舞…あれで第三階級魔法を掻き消す気です……だがそんなことできるのか?」
「そんな!?最強の第三階級魔法を!?」
アナスタシアは自身が唱えられない憧れのファイアーストームが打ち破られる可能性に反応する。
「綺麗……」
エミリアは炎の中にいるアベルの影が揺らめいているのにただ見とれていた。
「お手本のような炎舞だ……」
シルヴィアもそれに賛同する。
「まさか、第三階級魔法を打ち消すなど……」
アマデウスは呟いた。
「「アベルー!いけぇぇぇ!!」」
コゼットとマリウスが叫ぶ。
「いけぇぇぇ!」
「打ち消せ!!」
「頑張れ!!」
アベルを応援する歓声が聞こえると、ファイアーストームが火の粉を散らしながら消えた。
「「「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」」」
要人達は皆驚いていた。剣聖オデッサでさえ驚いた。
「バカな……第三階級魔法だぞ?」
ギラバがわななく。
アベルはそのままハルに向かって魔法の剣で斬りかかった。
「終わった。アベルの優勝だ」
商国トルネオは良いものを見たと満足気に言った。
皆そう想い決着を見守るが、アベルの魔法の剣はハルに触れる寸前で弾かれ、打ち消された。
アベルは驚く。ハルの周囲を覆うように青い炎が揺らめいているからだ。
ハルは魔法を詠唱する。
「ヴァーンプロテクト……」
大炎にあてられた観客達は、その熱に浮かされていた。
「ねぇどっちが勝つと思う?」
「第三階級魔法を唱えればもう勝ちじゃね?」
若い男女が隣で話している。
──フン、これだから若い者は……
白髪をくたびれさせたような色の髪をセンター分けにし、額にはハチマキを巻いているロンシャンシャンは髪色と同じ顎髭をいじりながら、この決勝戦がどうなるのか予想していた。
武では1枚も2枚も上手なアベル。武はそこそこにして魔法に長けたハル。
──この一戦は今後の世界情勢をも巻き込む歴史的なモノになるだろう……
眼を光らせるロンシャンシャン。
──因みにワシはただの格闘技好きのオッサンじゃ
『それでは決勝戦!ダーマ王国国立魔法高等学校1年!アベル・ルーグナー!対フルートベール王国王立魔法高等学校1年!ハル・ミナミノ』
リングに上がる道中、2人はそれぞれの試合を観客席から見ていた記憶を辿っていた。
──あの身のこなしとさっきの第三階級魔法……
──あの体術と魔法の剣……
2人はリング上へあがり同じ問いを自分にかける。
──どうする?
──どうする?
「ハルーーー!!」
「アベルーーー!!」
ここへ来てホームであるフルートベール王国代表のハルと同じくらいアベルの声援も聞こえてきた。
『始めぇぇぇぇ!!』
ハルとアベルは一歩も動こうとしなかった。
「え?なんで!?立ったまま?」
女が隣にいる彼氏に聞く。
「なぁ!?なんで始めないのかな?」
彼氏もその意見に同意した。
「いや、もうすでに始まっている……」
ロンシャンシャンは隣にいる男女の会話に入るように呟いた。
「え?誰この人?」
ハルが初めに動いた。
「錬成……」
超速でアベルの前へ行きそのままのスピードで右ストレートを顔面に当てようとする。
アベルはそれをまるで狭い通路を通るように身体を横にして躱した。
──あたったら死ぬな……
ハルは右の拳を引かずに振り抜き、前のめりになった体勢を右足を出して踏ん張った。それを軸にして左足で後ろ回し蹴りを放つがそれも空をきる。
空を切った左足を着地させその足で飛び上がったハルはそのまま回転しながら右足でアベルの顔面目掛けて蹴りを入れるがそれも躱されてしまう。
アベルは最後の蹴りを見切り、ハルが着地する前の空中で掌底をハルの胸に放とうとしたが、そのアベルの掌底を狙らいすましたかのように、ハルが拳をぶつけてこようとしたので咄嗟に掌底を引っ込める。
ハルは無事に着地した。
アベルは素手で戦わない方がいいと判断し、ファイアーボールを唱えながら距離を詰める。
ハルは迫る火球を躱す素振りを見せない。諸にヒットするが、その後ろを走るアベルを見据えたままだ。
──耐性か?
アベルはそう当たりをつけ、魔法の剣をだして斬りかかる。
ハルはそれを綺麗に躱した。
レナードとレイは二人の試合を見ていた。
「なぁレイ?あの二人、全然本気じゃなかったんだな……」
「そうだな……」
静かに相づちを打つレイ。
「それにアベルの持ってる魔法の剣……」
「あぁ、実に理想的だ」
ヴァレリー法国議長ブライアンは二人の試合を全く目で追えない。残像がいったり来たりしているだけだ。
「い、いったい。何が……」
シルヴィアとエミリアはブライアンを無視している。試合に集中しているようだ。
ダーマ王国宮廷魔道師アナスタシアは自分よりも二人の方が強いことに最早悔しさすら出て来ない。隣にいる騎士団長バルバドスは違うようだった。
「ぐっ……」
握っている落下防止の柵に力が入るバルバドス。
宰相トリスタンは考えた。
──これが帝国とフルートベールの戦力。しかし、このハル・ミナミノはフルートベールでも戦力的にかなり上の存在だろう……ただアベルは帝国での戦力位置はおそらく中間辺りだ。隠れた戦力であるのは間違いないが、帝国四騎士の1人シドー・ワーグナーの息子、シドーはそれより強いか最低でも同等だろう。もしアベルが帝国の最終兵器ならばこんな三國魔法大会などで披露するのは考えられない。これは私やこの会場にいる帝国密偵への警告でもあるのだろうか……
ハルの強さは知っていた。レッサーデーモンを1人で抑えられる強さだ。スタンは二人の攻防を眺めていた。
──アベルは、あれから更に強くなったのか……
スタンは指を組んで観戦していた。
アベルとハルの攻防に更なる動きが。
「撃ってこい。第三階級魔法」
「そんじゃそうするよ」
ハルはアベルと距離をとった。
「来るか?第三階級魔法……」
オデッサ含め誰もがそう思った。観客全員が前のめりになる。
「何故だ!!?何故それを唱えさせないよう間合いを詰めない?」
格闘好きのロンシャンシャンは疑問を口にしたが、もう遅い。ハルは背部へ下げた両腕を前へ押し出しながら唱えた。
「ファイアーストーム!」
レイとの試合同様、炎の渦がリングを埋め尽くす。
アベルはその場で仁王立ちし、魔法の剣を右手で持ち、切っ先をしたに向けている。まるでファイアーストームを待っているかのようだ。
レイは自分がやられたこの魔法を客観的に見て対策を考える。
「この魔法をこのリング内で唱えられたら終わりだよな」
レナードがそう呟いた。
「アベルーーーー!!」
アベルの潜入しているダーマ王国魔法学校で同じクラスのコゼットが身を案じる。
迫り来る深紅の炎。アベルは動かない。どこか集中している様子だ。
炎がアベルの間合いに迫ってきた、その時、魔法の剣をクルクルと回転させ炎を切り刻む。
「剣技、炎舞……」
まるで舞を踊っているかのように、炎を斬っていく。
本来剣技の炎舞は自身が炎のように揺らめき、炎を纏いながら攻撃する技だが、アベルは炎を纏わず、周りを取り囲む炎の一部となり、火と火の間(そんなものがあるらしい)に剣を差し込み火を掻き消している。
「なるほど……」
オデッサは声が漏れでた。
──そうやって回避する方法があるのか。これでうちの国の小僧に勝機はなくなったか……
「あれは、あれは!?何をしている?」
宰相トリスタンは訊いた。
バルバドスが戸惑いなから答える。
「あれは…剣技の炎舞…あれで第三階級魔法を掻き消す気です……だがそんなことできるのか?」
「そんな!?最強の第三階級魔法を!?」
アナスタシアは自身が唱えられない憧れのファイアーストームが打ち破られる可能性に反応する。
「綺麗……」
エミリアは炎の中にいるアベルの影が揺らめいているのにただ見とれていた。
「お手本のような炎舞だ……」
シルヴィアもそれに賛同する。
「まさか、第三階級魔法を打ち消すなど……」
アマデウスは呟いた。
「「アベルー!いけぇぇぇ!!」」
コゼットとマリウスが叫ぶ。
「いけぇぇぇ!」
「打ち消せ!!」
「頑張れ!!」
アベルを応援する歓声が聞こえると、ファイアーストームが火の粉を散らしながら消えた。
「「「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」」」
要人達は皆驚いていた。剣聖オデッサでさえ驚いた。
「バカな……第三階級魔法だぞ?」
ギラバがわななく。
アベルはそのままハルに向かって魔法の剣で斬りかかった。
「終わった。アベルの優勝だ」
商国トルネオは良いものを見たと満足気に言った。
皆そう想い決着を見守るが、アベルの魔法の剣はハルに触れる寸前で弾かれ、打ち消された。
アベルは驚く。ハルの周囲を覆うように青い炎が揺らめいているからだ。
ハルは魔法を詠唱する。
「ヴァーンプロテクト……」
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