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第77話

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~ハルが異世界召喚されてから13日目~
 
 ──思ったよりもやりおる…… 

 剣聖オデッサはレイの攻撃を躱すハルの動きを観察していた。鑑定スキル持ちの者は、戦闘力が低いとオデッサは自負していた。 

 ──だが…あのアベルという少年の方が武に聡い。 

「いけぇー!レイくーん!!」
「レイく~ん!!」 

 観客の黄色い声援に、 

「ハルーーー!!」
「レイーーー!!」 

 マリアとアレックスの声援が混ざる。 

「「はぁはぁはぁ…」」 

 ハルとレイの名前を叫んだ後お互いをみやるアレックスとマリア。 

「やるわね」
「まだまだ……」 

 2人は再びリングに向かって叫んだ。 

「ハルー!レイなんかぶっ倒せーー!!」
「レイー!頑張ってー!」 

「何の競技してんだか……」 

 ゼルダが肩を竦める。 

「ぁはは……」 

 クライネが2人の熱に気圧され声援を送りたいけど送れないでいる。 

「どうせハルくんが勝つでしょ?」 

 リコスがそう呟くと、それを小耳に挟んだマリアが燃えるような瞳でリコスを威圧する。リコスはそれに恐怖と罪悪感を感じとり声を出した 

「レイくん!!頑張れー!!」 

 それを聞くといつもの可愛らしい笑顔のマリアに戻る。 

「ハルくーん!!」 

 ユリも負けじと声をかける。 

 それを横目にAクラスの男子達は黙って観戦していた。 

 レイが光の剣で次々と剣技を繰り出すが、ハルはそれを悉く躱す。 

 レイは光の剣をから片方の手を離し、ハルに向け、大量のシューティングアローを射出する。 

 ハルはそれを全て躱すと、レイの両肩にシューティングアローが浮いているのに気が付いた。 

「あれは……」 

 父レオナルドが呟く。 

「ホーミング……」 

 兄レナードは呟いた。アベルに敗北したが、切り替えてレイの試合を観戦している。 

 ハルに剣技を使って斬りかかる、それを避けたハルに追撃するよう、両肩の上に浮いているシューティングアローが放たれる。 

 ハルはそれを躱すと再び光の剣が襲ってくる。 

 ハルは迫り来る光の剣を先程の試合でアベルのように掴もうとしたが、弾いてしまった。 

 ──ムズい…… 

「今あの少年、アベルとかいう奴の真似をしようとしたな……」 

「でも失敗しましたね?」 

 シルヴィアとエミリアは試合を冷静に観戦していた。 

「さっきのアベルの方が強いですよね?」 

 エミリアは尋ねる。 

「そのようだな。スピードに関して言えばハルという少年よりもレナードの方が上だ。悪くはないが、さっきの試合のファイアーボールを連発するくらいでないと……」 

 シルヴィアはそう評する。 

 ダーマ王国宰相トリスタンは呟く。 

「この試合も十分に凄いんだが…さっきの試合の方がもっと凄かったような」 

「そのようですね。それよりアベル少年に早く会いたいわ」 

「直ぐにでも軍に入隊させたいものだ」 

 アナスタシアとバルバドスが述べた。 

 観客も口々に2人の試合の感想を言い合っている。集中力がきれて飽きてしまったようだ。 

 しかしレイは諦めずに攻撃を加える。 

 レイは自分が負けるとわかっていた。 

 ただ全力を出したい。そして打ちのめされたい。それが今の自分に大切なんだと思っている。 

 幼い頃から兄レナードと比べられてきたレイは、同い年の者ができないようなことを簡単にやってのけたとしても誰に誉められることなどなかった。 

 レイはいつも兄に敗れる。しかしそれは2年の差があるので当然と心得ていた為、悔しくはなかった。何故ならレイは2年前のレナードより強い。そのことに誇りをもっている。 

 レナードがホーミングを使えるようになったのは2年生の時だ、またレイはレナードよりも一年早く光の剣を具現化させている。 

 いつも自分と同い年の時のレナードを越えるように努めているからだ。そんな高い目標があるため、レイは同年代の者達など見向きもしていなかった。 

 スコートの視線にも気づいていなかった。 

 しかしハルと出会った。同い年のハルと出会って、レイは初めて悔しさを感じる。その想いはとても歯痒いが、嬉しくもあった。 

 過去の兄の姿ではなく、今、目の前にいる強大な好敵手を前に全力を出したい。そんな気持ちで一杯だった。 

 自分の壁のさらに向こう側にいる者達を感じていたい。いつか自分もその頂きに届くと信じて。 

 スタンはレイの戦う姿を見て思った。 

 ──そうだ、お前ができるのは間合いを詰めてハルに魔法を撃たす暇を与えないことだ 

 ハルはレイの猛攻を避け、距離をとろうとするがレイがそうはさせまいと間合いを詰める。が、ハルの拳が疾風の如く放たれた。 

 レイはガードが遅れ、諸に食らってしまう。 

 拳の衝撃で後ろへ後退させられる。 

「くそ……」 

 ハルは両腕を後ろに引き魔力を込めた。そして一気に両腕を前へ押し出し、魔力を解放する。 

「ファイアーストーム」 

 リング全体を炎の渦が包んだ。 

「「「「「「!!?」」」」」」 

「は!?」
「え!?」
「うっそ!?」
「マジか!!?」 

 炎の渦がレイを襲う。 

「第三階級のしかも火属性魔法……シルヴィア様ぁ……あのガキ…私と同等ですか?」 

「そのようだな……」 

 エミリアとシルヴィアの会話を静かに聞く議長ブライアンは、リングに渦巻く炎の熱に毛髪のない頭がひりついた。 

「あ、あの魔法はなんだね?」 

 宰相トリスタンは自分の中で答えを予想している。おそらくその予想は適中するだろう。 

「第三階級火属性魔法の…ファイアーストームです……」 

 アナスタシアは自分が唱えられない魔法を年端もいかない少年が唱えているのに言葉を失った。いや、この魔法に関しては世界で二人しか唱えることができない。 

 アマデウスはハルの唱えた炎をみて時代の移り変わりを感じていた。 

「明るみになってしまったのぉ」 

「これは……」 

 フリードルフⅡ世はハルの後ろ姿に勇ましさと危うさを感じ取っていた。 

「フフフフフ」 

 ギラバは大炎を見ながら含み笑いをしている。 

 観客の頬を紅く染める巨大な炎の渦。その炎を眺めているアベルは持ち前の緋色の瞳を更に煌めかせていた。 

 炎は消え、レイの腕輪はくだけ散った。 

「いつかお前を越えてみせる」 

「楽しみにしてるよ」 

『勝者!ハル・ミナミノ!!』
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