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第73話

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~ハルが異世界召喚されてから13日目~ 

 スタンは選手控え室に行ってハルとレイの様子を見に行った。 

 ──心配ないだろうけど…… 

 剣聖オデッサとすれ違い、スタンは軽く会釈をする。剣聖が敗れて2年とちょっと、一体どのような方法でマキャベリーは彼女を精神的に殺したのかスタンにはわからなかった。それよりも何故物理的に殺さなかったのかがスタンや帝国の貴族連中も口には出さないが疑問に思っていることの1つだ。
 
 疑念が渦巻くなか、他国の選手、ダーマ王国の紋章を着けた防具を着ている少年が前から歩いてくる。 

 控え室へ通じる路は薄暗く、窓がついている所もあるにはあるが、今日は曇りなので光が射さない、代わりに光属性魔法が付与されている魔道具が通路を照らしていた。 

 近付いてくるダーマ王国の少年は通路を照らす魔道具によってその顔をはっきりとスタンに見させた。 

 スタンはあまりの驚きに息をするのを忘れた。 

 少年はそのままスタンを横切り観客席へと向かった。 

 浅黒い肌に白髪の少年、緋色の瞳がスタンを戦慄させる。 

───────────────────── 

「なんだこれは?」 

 曇り空の下、グスタフは今、頭上から光に照らされている。 

 大きな光源はグスタフの真上に広がっていた。その光はリングの半分を埋め尽くすほどだ。 

 手で光を遮りながらそれを見ているグスタフ。 

 観客席にいるグスタフ同様ヴァレリー法国代表選手ドロフェイとその先生ヴォリシェヴィキは目を丸くしていた。 

「あれは…第二階級光属性魔法のプリズム!」 

 解説するようにドロフェイは叫んだ。生まれて初めてこの魔法を見たのだからついはしゃいでしまった。 

「はぁ、今年も彼の優勝だ……」 

 ヴォリシェヴィキはレナードの才能に拍手を送り、自身の生徒達を憐れんだ。
 
 ヴァレリー法国議長ブライアンと魔法兵団副団長エミリアはその光を見ていた。 

「あれは……」 

「プリズム、第二階級の光属性魔法だよ」 

 さっきまで見下すような言い方をしていたエミリアは真剣に見ている。 

 シルヴィアは先程から黙ったままだ。 

「ねえ?シルヴィア様ならあの小僧にどうやって勝つ?」 

 ──小僧って…… 

 ブライアンは敢えて突っ込まなかった。 

「あぁ…そこにいらしたのねギラバ様……」 

 シルヴィアが呟く。 

「流石シルヴィア様!あんな小僧眼中にないのですね!!」 

 ──そういうことじゃないと思うけど…… 

 ブライアンはまたも突っ込みを飲み込む、それより自国の選手に見向きもしてないこの2人に恐怖心すら芽生えていた。 

 光源から目映い光の柱が発射される。 

 グスタフは聖属性魔法プロテクションをかけて抵抗力を上げたがそれでも第二階級魔法の威力に勝てない。 

 グスタフの腕輪が砕け、気を失った。 

『勝者~~!!レナード・ブラッドベル!!』 

 観客は珍しい魔法を見て大いに盛り上がった。 

「いずれあの魔法も唱えられるようにしたいな……」 

「僕のが先に唱えてみせるよ?」 

 アレンはスコートの真っ直ぐな意見を肯定しつつ冗談のつもりで言った。 

「アレン。お前ならきっとできる。俺と違って魔法の才能があるんだから」 

 アレンは笑ってその場を誤魔化したが、目には涙が溢れそうになっていた。スコートを嫌っていた自分が情けなくなったと同時に、自分が憧れているスコートに才能があると言われたからだ。因みにアレンがこの魔法『プリズム』を唱えられるようになったのは、少し先の話になる。 

「流石レナード坊っちゃんですね!!」 

「あぁ当時の私よりも強い……」 

 レナードの父レオナルドとその従者は、レナードの成長に喜び、とどまることない強さに一抹の不安をも感じていた。 

 このまま真っ直ぐ育ち、フルートベールの為に尽くしてほしいと願わんばかりだ。あの強さは今後様々な誘惑と試練が待ち受けるであろうとレオナルドは予測してる。 

 それは勿論、これから試合が行われるレイにも当て嵌まることだ。 

 ──何アイツ、当時のギラバ以上じゃない…… 

 ダーマ王国宮廷魔道師アナスタシアは爪を噛んだ。考え込みすぎると出る彼女の癖だ。 

 同じく騎士団長のバルバドスはレナードと相対したときの対策を考えていた。 

「彼に勝てる者は我が国にいるかね?」 

 宰相トリスタンが不意に質問した。 

「「私が!」」 

 2人が食い気味に答える。 

「いや、同い年での話なんだが……」 

 トリスタンは言い繕った。だが二人を試したのは事実だった。今の反応でレナードの戦闘評価を換算した。対軍となると話は違うが、今現在のダーマ王国が誇る個々の戦力でもかなり上位の実力だろう。 

 それでもフルートベール王国には剣聖、イズナ、ギラバ、ルーカス、このレナードの父レオナルド、アマデウスに聖女がいる。 

 ──帝国にくみしてる私でさえ三國同盟は魅力的だが…… 

 歓声が耳に残る。白髪で肌が浅黒い少年アベルはレナードを見て不敵な笑みを浮かべた。そしてこれから自分が出る第二試合に向けて、選手入場口へと歩き出す。 

───────────────────── 

『第二試合!!ワインマール法国魔法学園高等学校3年生ドロフェイ・バフェンコ!!対!ダーマ王国王立魔法高等学校1年生アベル・ルーグナー!!』 

 2人の選手がリングへと歩きだした。 

「アベル~!!」 

 ダーマ王国代表選手マリウスの妹、コゼットが叫ぶ。 

「アイツ、戦士だ……」 

 スコートは呟いた。 

「「どうしてわかるの?」」 

 アレンとアレックスが同時に聞く。 

「身のこなしが剣ありきの動きだからだ」 

「そう?」 

 ゼルダが疑問を抱く。 

『始めぇぇ!!』 

───────────────────── 

「…ここは……ぅっ……」 

 グスタフは自分が何をしていたのか一つずつ思い返していった。 

「朝起きて…ご飯食べて……レナード!!! 

 ──俺はまた負けたのか…… 

 ここは医務室。試合の熱気を冷ますような閑散とした雰囲気が漂っている。 

 ──どのくらい寝ていたんだろうか?次の試合は? 

「あっ!ドロフェイの試合だ!!」 

 グスタフは急いで医務室を出て友の試合を観るため観客席へと向かおうとすると、 

 選手入場口から、とぼとぼと見慣れた子供のシルエットが歩いてくるのが見えた。 

 歳の割には背の低いドロフェイだ。 

 彼は、昔は身長のことで悩んでいたようだが、今では身長が低いことにより相手が油断するので、それを逆に長所ととらえている。 

 彼は強い男だ。 

 そんな男がまるでもぬけの殻のような表情で歩いてくる。 

「ドロフェイ!緊張してるのか?」 

「…何が?」 

 ドロフェイは虚ろな表情で聞き返してくる。 

「次はお前の試合……」 

「終わったよ……もう終わった…僕の敗けだ」 

 ドロフェイはグスタフが言い終わる前に自分の試合結果を口にした。 

───────────────────── 

「な、なんだったんだ今の?」
「おい……何が起きた?」
「一瞬であの小さな少年が場外に……」 

「今の魔法使ってた?」 

 アレンがスコートとデイビッドに訊く。 

「わからない……」 

 デイビッドは即答した。 

「使っていないと思うが……」
 
 スコートは持ち前の洞察で少し考えながら自身の考察を口にする。 

 宰相トリスタンは口をこれでもかと大きく開いて固まっていた。 

「騎士団長、今のは……」 

 アナスタシアが意見を求める。 

「魔法?それともスキルの類いか!?…ものすごい速度でヴァレリー法国の選手を吹き飛ばした……」 

 アナスタシアは魔法を使ってないと判断していた。 

「おそらく、何かのスキルってとこかしら……」 

「シルヴィア様、今のって…?」 

 エミリアは何か恐いものを見たかのように怯えながらシルヴィアを見やる。 

「あぁ…恐らくただの掌底打ちだ。それもかなり手加減していた」 

「や、やっぱり?」 

「あれが全力ではないことを加味しても推定レベル25以上だろう」 

「25っ!!?」
 
 議長ブライアンが唾を飛ばしながら叫んだ。 

 その唾がエミリアにかかる。 

「ガハハハハ!ほらな!私の言った通りであろう?」 

 トルネオは大会前にアベルなる少年の実力を似顔絵だけで言い当てていた。 

 『竜の騎士』リーダー、ジョナサンはトルネオの言葉を聞いていなかった。今はもう誰もいないリングの上をただ見ている。脳内で先程の試合を何度もリプレイさせながら。 

「あ、あのくらいできる人物がいた方が宣伝により効果が……いやどうだろうか……」 

 ギラバが小さく呟く。 

 ギラバのシナリオではフルートベール王国の圧倒的武力を喧伝して、三國同盟を促すはずだった。 

 しかしここへ来てダーマ王国に新たな脅威の兆しを見せられては、ダーマがつけ上がり足元を見ながらの外交になる恐れがある。そうなってしまうとあと3日で同盟なんてのはかなり難しくなりそうだ。 

 ──いくらミナミノ少年がいても……いや…逆に彼をミナミノ少年が倒せば……しかし、おかしい。今の白髪の少年アベルのレベルは18…ステータスもそこそこだ。あの動きは一体、スキルか? 

 会場とフルートベール王国の未来に暗雲が立ち込める。
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