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第70話

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~ハルが異世界召喚されてから10日目~ 

大会まであと3日
戦争まであと6日 

 昨日の選考会が終わり、ハル、レイ、レナードは授業そっちのけで訓練場へ集められた。 

「ねぇ、ハル君?昨日ギラバ様に付け回されてたって本当かい?」 

 レイの兄レナードが訊く。 

「本当ですよ…」 

 あのあとギラバとか言うイケメン宮廷魔道師に捕まったおかげでゼルダとスコートの試合を観れなかった。 

 生まれや訓練方法、魔法に関しての知識をさんざんに訊かれた。 

『魔法は今、何属性を何階級まで唱えられるんだい?』
『生まれはどこ?』
『どうしてあんなに威力のあるファイアーボールを撃てる?』
『訓練方法は?』
『どうしてレベルが23もあるんだい?』 

 この内、正直に答えたのはファイアーボールの威力についてと訓練方法だけだ。 

 あとは答えたくないと言ってその場を濁した。レベルがわかるのにどうして習得魔法がわからないのかという疑問が残ったが、この疑問は直ぐに解けた。ギラバの持つ鑑定スキルが『Ⅰ』だからだ。 

 ──迂闊だった…これは次戻った時は何か対策…阻害する魔法?そんなものがあるのかわからないが、それを自身にかけないとならない。 

 また生まれについては向こうも想うことがあり、そこまで追及されなかった。しかし、ファイアーボールの威力について話した際、向こうが勝手に納得したのを覚えている。 

◆ ◆ ◆ ◆ 

「ファイアーボールについてはフレイムとファイアーエンブレムをくらったことがあるので、それで火力について考える切っ掛けを貰いました」  

「っ!?フレイムとファイアーエンブレムをくらった?もしかして君は、ドレスウェルの…いや、これ以上訊くのは良くないな……」 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 こんな具合だ。 

 ──その後、戦争予定地の防護を、築くとか言ってそこにも連れて行かれそうになったし……はぁ…みんなスコート半端ない、スコート半端ないって言ってたし…見たかったな……でも!次戻ったとき、鑑定阻害の対策をすればスコートの試合が見れる!! 

 そんなことを考えていると校長のアマデウスがやって来た。 

「ふぉっふぉっふぉ、君達が代表者3名じゃな?」 

 入学式で毎回見ていた姿だが、公の場と違い、ここではフランクな雰囲気だ。 

「大会まであと3日、これから君達にはワシの特別訓練を受けて貰おうと思う!」 

 訓練場に他の生徒はいない。 

 1000人は軽く入る広い訓練場に校長アマデウスは魔法を唱えた。 

「ファイアーストーム!!」 

 炎の渦が空を赤く染め上げ、降ってくる。その炎は広範囲に広がった。 

「ヒュ~♪」 

 レナードは口笛で感嘆を表現した。 

 渦の中にいたらひとたまりもないだろう。 

 炎が消えると訓練場の地面が焦げついているのが確認できた。 

「今からこの魔法を伝授しようと思う」 

 ニカッと笑う校長。スタンの第二階級魔法演習の授業を思い出した。
 
 ハルとレナードは第二階級魔法を使用できるがレイはまだ使用できないでいる。それでも校長の授業を受ける。 

「大事なことは自分の身体を信じることじゃ。今までの訓練、君達は他の生徒よりも多くの努力を重ねてきた。その努力に身を委ねて自分を信じるんじゃ」 

 ハルは適当に聞いていた。 

 ──だって唱えられそうだから。 

 でも久しく魔力を感じるトレーニングをしていない、良い機会だからもう一度初心に戻り、腹式呼吸をする。 

 レナードはファイアーストームを唱えようとするもやはりできないようだ。 

「ハル君!君もやってみてよ?」 

「いいですけど……」
 
 ハルは昨日のギラバに言い寄られた鬱憤もあり、それを吐き出すかのように唱えた。 

「ファイアーストーム!」 

 アマデウスよりも大きな炎の渦が訓練場全体に轟々と燃え広がる。 

───────────────────── 

 轟々と水の上に炎が浮いている。 

「見てくれ!これを!!」 

 商国の豪商トルネオは自慢の魔道具を護衛で雇ったAランク冒険者パーティーの『竜の騎士』に見せつけていた。 

「これは?どういうことですか?炎のしたにあるのは油ですか?」 

「違う違う、下は正真正銘ただの水だ」 

 パシャパシャと水を叩く。 

 ほ~っと興味のないような声を冒険者が発すると、トルネオは少しがっかりしながら言った。 

「君達はこれの素晴らしさをわかっていないね。本来水の上には火は立たないだろ?」 

「はい…」 

 雇い主に叱られて声が少し小さくなる冒険者達。 

「これは本来相容れないもの同士が共存することを表現した謂わば芸術作品なのだよ!」 

 冒険者達は雇い主であるトルネオが何を言っているのか理解できなかった。お互いの顔を見合わせて、なにそれ?食べれるの?と言った顔をする。 

「まぁいい……」 

 ここにはそんな変わった芸術作品や家具などの見るからに高価そうな調度品が置いてある。 

 三日後、フルートベール王国で行われる三國魔法大会のスポンサーをトルネオは担っていた。 

 『竜の騎士』リーダーのジョナサンもこの大会にかつて出場したことがある。その時はトルネオのような豪商がスポンサーには入っていなかった。 

 ──今の学生達は非常に運がいい……何故なら豪華な優勝商品がでるからだ…… 

「それより君達はどの国のどの生徒が優勝すると思う?」 

 恰幅のいい腹に手を当て、大会出場者のリストを取り出すトルネオ。出場者の顔を一流の絵師が描き、そっくりの顔が載っている。 

 それらを眺める一堂。 

「どうだ?賭けをしてみんか?」 

 トルネオが提案すると、 

「賭けになりますかな?優勝はこのレナード・ブラッドベルで決まりですよ」 

 ジョナサンが出場者リストからレナードを指差して言った。トルネオ以外の全員がジョナサンの意見に頷く。 

「そうか?君達は冒険者の割りに博打を打たないのだな?」 

「冒険者だからこそですよ?それにこの似顔絵と名前だけでは情報が少なすぎです」 

 トルネオはジョナサンの意見を無視してリストを眺めていた。 

「ほれ、例えばこの子とこの子…2人ともなかなか良い面構えをしているじゃないか?」 

 ジョナサンは眼を細くしてトルネオの言う2人を見た。 

「アベル・ルーグナー、ハル・ミナミノ……ですか……」 

「どうだ?そうは思わんか?」 

 首を傾げる『竜の騎士』達。 

 はぁ、と再びため息をつくトルネオにリーダージョナサンは話題を変えるべく言葉を発した。 

「そ、そういえば優勝者にはどんな品を贈るのですか?」 

「そうだなぁ…君達だったら何が良い?」 

 先程この豪奢な部屋に入る前にトルネオの宝物庫を案内してもらった。中には金塊や宝石の他に、沢山の魔道書やスクロール、魔剣・妖刀、防具等が乱立していた。どれも希少級の代物、中には伝説級のモノもあるとか。 

「やはり私はスキル『鑑定』のスクロールですかね」 

 ジョナサンが答える。 

「君は?」 

 ジャナサンの隣にいる彼の仲間に訊くと、 

「私は魔剣ケイオスですね」 

「私は魔道書ファイアーストームが……」 

「え!?」
「そんなのあったか!?」 

「フフフ…見つかってしまったか」 

 驚く『竜の騎士』メンバーを満足そうな表情で眺めるトルネオは何か思い付いた表情を浮かべた。 

「……ハッ!!思い付いたぞ!!優勝賞品を!!」 

 『竜の騎士』一堂は固唾を飲んで見守る。 

「優勝者は私の宝物庫で好きな品を1つ選んで持って帰る!というのはどうかな?」
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