上 下
45 / 146

第44話

しおりを挟む
~ハルが異世界召喚されてから5日目~ 

 2つの馬車と1つの荷馬車を用意していたが、荷馬車はハルのアイテムボックスによって必要としなくなった。 

 今更乗らなくなったとは言えず、そこにスタンが1人で乗り込むこととなった。 

「一応、注意しておく。今回ハルがいたから荷物を管理しなくてもよくなったが、本来なら荷物の管理含めて訓練なんだからな?いつでもハルがいると思って甘えすぎんなよ?」 

【1号馬車】アレックス、クライネ、リコス、ハル、アレン 

【2号馬車】マリア、ゼルダ、レイ、デイビッド 

 スコートはハルのいる馬車には乗りたくないとごね始めたが、かといってレイのいる馬車にも乗りたくないと言っていた。 

 結果、 

「俺は構わんが、お前もっと仲間と仲良くしろよな」 

「フン」 

 スタンのいる荷馬車にスコートは同席することとなる。荷馬車には腰掛けるところはなく、二人とも胡座をかいて座っていた。 

 馬車に入ると左右には進行方向に背中を向けて座る三人がけの椅子と進行方向を向いて座る同じく三人がけの椅子があった。 

 アレックス、クライネ、リコスが進行方向の向きに座り、ハルとアレンがそれと対面するように座った。 

 馬車を走らせてからすぐに向かいにいるリコスが大きな眼鏡の縁に手を当てて訊いてきた。 

「ねぇ?ハル君、どうやって第二階級魔法を習得したの?」 

 貴族出身ではないハルと同じ庶民のせいあってか他の生徒よりは親しげに尋ねるリコス。 

 ──ん~第四階級魔法を習得できたからその下位の魔法を使えるようになった…とは言えないよな…… 

 ハルはどう答えるべき考えてから口を開く。 

「魔力の込めかたを色々試したんだ。あとは火の性質を考えてみたり」 

「火の性質!?」 

 メガネ少女のリコスは前のめりになった。 

 ハルが接近してくるリコスの顔にどことなく照れていると、そうとは知らずにリコスは更に前のめりになった。 

「火の性質ってどういうこと?」 

 不良同士がメンチのきりあいの際に顔と顔を近付ける。ハルとリコスの距離感はそんな感じだ。 

「ちっ近いよ!」 

 その一言にハッとしたリコスは、自席へと姿勢を正して座る。 

「ご、ご、ごめんなさい!魔法のことになるとつい…」 

「フレデリカさんみたいだな……」 

 ハルは呟くとリコスの表情が一変した。 

「どうしてお姉ちゃんのこと知ってるの?」 

「お姉ちゃん?」 

「私はリコス・シーカー!フレデリカ・シーカーは私のお姉ちゃん!」 

「そ、そうなんだ!フレデリカさんは僕に魔法を教えてくれた先生なんだよ」 

「お姉ちゃんが!?今は図書館司書をしているはずなんだけど……」 

「ぼ、僕に魔法の本をお薦めしてくれたんだ!」 

「そういうことね……」 

 話題がそれた。ハルはなんとかリコスを納得させる。 

「それより火の性質って?」 

「あぁ、第一階級の火属性魔法と第二階級の火属性魔法の火力が違うんじゃないかって考えたんだ」 

「うんうん」 

 リコスだけじゃなく、同席しているアレックスもクライネもアレンも興味津々に聞いている。 

「どうやったらその火力が上げられるか、小さい火で試したり、魔力の込めかたを変えたら火力があがるんじゃないかって考えたり」 

「さっきも言ってたけど魔力の込めかたを変えるって?」 

 ハルは目線を上にそらして自分の考えを確かめるようにして言った。 

「魔力って人それぞれ感じかたが違うでしょ?例えばスタン先生と僕の魔力の感じかたって違うと思うんだ」 

「うんうん?」 

 何人かついてこれてない生徒がいる。 

「きっと正しい魔力の感じかたってのがあって、今現在自分自身でしっくりくる魔力の感じかたって本当に正しい魔力の感じかたなのかな?」 

「待って!何言ってるかわかんない!」 

 貴族魔法士爵家で髪をお洒落に伸ばし、毛先を遊ばせているチャラ男風のアレンが言う。 

「ちょっと黙ってて!」 

 自分よりも地位の高い筈のアレンをリコスが黙らす。ちなみにこの学校では身分による上下関係は重んじられていないが、社会に浸透してる身分差を感じずにはいられなかった。しかしリコスは魔法のこととなると話は違う。 

「続けて」 

 先を促すリコス。 

「簡単に言えば、第二階級魔法が使えるスタン先生の魔力の感じかたに近付けるって感じかな?」 

 ──感じって何回使うねん! 

 ハルは自分の説明の仕方が絶望的に下手なのを自覚する。 

「つまり、今の自分の魔力の感じかたが間違ってるかもしれないって思うことね?」 

 リコスが纏めてくれた。 

「そうそう」 

「じゃあさ!じゃあさ!どうしていきなり第二階級魔法が使える人がいるの!?」 

 アレックスが手を挙げながら聞く。この質問はリコスにとって邪魔な質問ではないようだ。ハルの回答を期待しながら待っていた。 

「たまたま魔力の込めかたが正しかったんじゃないかな?」 

「どういうこと?才能ってこと?」 

「いい意味で才能だよ。絵が最初から上手い人っているじゃん?モノの捉え方が最初から良かったんだよ、捉え方が良くない人は、どうしたらよくかけるか勉強しなきゃいけない。だから良い意味で言えば才能であって、悪い意味で言えば、運が良かったって言えるんじゃないかな?」 

 知らず知らずにスタンを見下すような言い方をしていた。 

「でも何が正しいかなんて…」 

「きっとわかるよ、正しければ第二階級魔法が使えるんだから」 

「そっか...そうだよね!あー!!なんか早く魔法使いたくなってきた!」 

「ここではやめてよね!!」 

 ハル達の会話を聞いていたのか馭者がほっと一息ついていたのを背中で感じた。 

───────────────────── 

 目的地に着いた。日は沈みかかっている。 

 オレンジ色の光を放つ街頭が辺りを照らしていた。王都と変わらない街並みがそこには広がっている。 

「なんかあんまり王都と変わらないね」 

 初めて来たハルは言う。 

「チッチッチッ、宿舎はすぐそこだが先に海見てこいよ」 

 スタンはそういうと皆が走る。アレックスがハルの手を引いた。日の光が眩しくて、アレックスの表情がよく見えない。だけど握る手の感触からして、きっとワクワクしているのだろうと予測ができた。 

 アレックスに手を引かれながら走る。 

 ──こんなところに海があるのか? 

 何回かここに訪れたことがある生徒達は海まで一直線に進む。そして、徐々に磯の香りが鼻腔を刺激した。 

「この宿屋の先だよね?」
「そうそう!」 

 王都のような街並みから、目印の宿屋を抜けると、 

 白い砂浜と海が見えた。 

「「うわぁー」」
「きれい……」 

 沈みかかった恒星テラが空と海を赤く染める。 

 しばらくその光景を目に焼き付けるAクラス生徒。 

 少ししてからハルは疑問に思った。 

「ねぇねぇリコス?」 

「なに?」 

「砂浜があそこにあるけど、ここは石畳だよね?地盤は大丈夫なの?」 

「「確かに……」」 

 アレックスとアレンが頷く。 

「オホン!それはですね。第7階級の土属性魔法を使って地盤を変えたと言われているのです!」 

 その口調はどことなくフレデリカのそれと似ていた。 

「「へぇー」」 

 ハルだけでなく他の生徒達も知らなかったようだ。 

「誰がそんな魔法を?」 

「それは妖精族の長とかじゃないかしら?クロス遺跡は妖精族が残した遺跡だから……それよりもこんな範囲の地盤を固められる魔法ってすごいと思わない?」 

 甘いものを食べた女子のように幸せそうな表情でリコスは言う。 

「ちなみにクロス遺跡はあそこ」 

 リコスは人差し指でとある方角を示した。指の先には大きな岩がテトラポットのように積み重なっている。その更に先は崖になっていた。 

 どうやらリコスはその崖を差しているようだ。 

 サスペンスドラマに出てくるような崖の上は木々が生い茂っていた。崖から少し離れた(ここからじゃ少しだと思える距離も実際には結構な距離があるだろう)ところに、一際大きな塔のような影が木々の上からその姿を覗かせている。 

 ──あれか…… 

 遺跡というからには地球で言うマヤ文明の建造物見たいなものを想像していたが、 

 ──あの塔がそうなのか…… 

 ねっとりとした潮風に当たりながら、穏やかな波が白い砂浜に寄せては、沖の方へ返す。その音が心地よかった。 

 沈みかかるテラは太陽のようだ。 

 子供の時に家族と行った思い出。あの家族旅行のことを考えまいとしていたハルだが、日本で過ごした日々のことをここへきて思い出す。 

 この世界へ来てから目にしたことのない街や生活、そして魔法。だがようやく自分が見たことのある風景にたどり着いた。 

 ハルは日本に戻るという選択肢を自分の今後の計画に付け足した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

他人のスキルを奪って強くなる。城を抜け出した王子は自由気ままに世界を放浪する

クマクマG
ファンタジー
 王城での生活に窮屈さを感じていた第三王子のラベオン・エンシュリアは王城を抜け出すことを企てる。  王族という縛られた身分では体験できなかったであろう経験を経て、人間としても王族としても成長していくラベオン。個性的な仲間と共にダンジョンを探索したり、クエストを達成したり、はたまた他国に行ったりと自由気ままに旅をする。  人や物のステータスを見ることができる『鑑定眼』、あらゆるモノを盗むことができる『栄光の手』、騙すことに特化した『神の噓』を駆使して、強敵にも挑んでいく。ただ、ラベオンは基本的に善人なので、悪用はしません。……多分。  ラベオンが行きつくのは冒険者としての生活なのか、王族としての生活なのか、それとも……。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...