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第43話

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~ハルが異世界召喚されてから4日目~ 

 冒険者達を一蹴したハルはAクラスの生徒達に向き直ると、Aクラスの生徒達は固まっていた。それもその筈、いくら脅しとはいえ禍々しい大剣を取り出し、冒険者の首をはねようとしたのだから。 

 ──……引いてない? 

 ハルが恐る恐る近付くと、 

「ハルってさ─」 

 アレックスが俯きながら話す。 

 ハルはドキドキしながら続きを待った。 

「アイテムボックス持ちなの!!!?」 

 アレックスの表情が明るくなった。思っていたのと違う反応を示すアレックスにハルは困惑する。 

「え?…そうだけど……」 

「「すっごーい!」」
「良いなぁ」
「第二階級魔法使えてアイテムボックス持ちとか……」 

 みんなが声をあげる他に1人だけフルフルと震えてる者がいる。スコートだ。 

 スコートはハルの胸ぐらを掴んで怒鳴った。 

「貴様!俺の邪魔をしやがって!あんな奴等を倒したからと言って調子に乗るなよ!今すぐ俺と勝負しろ!」 

 主張したいことがたくさんあって何を言ってるのかよくわからない。 

 そんなスコートの後頭部を後からゼルダがぶん殴る。 

ガンッ 

 っと鈍い音を立ててスコートは、ハルの胸ぐらを掴んだまま沈みこんだ。ゼルダはハルに言った。 

「ごめんね。コイツ負けず嫌いでさ」 

「いや、大丈夫だよ」 

「しかし…ゼルダ……コイツは俺から…」 

 後頭部を押さえながらスコートが言う。 

「まぁ、スコートが何言っても負け惜しみになるだけだよ、勝負したいんなら7日後の選考会で思う存分やればいいじゃん?」 

「フン、命拾いしたな!ゼルダに免じて許してやろう」 

 胸ぐらを掴んだまま言う。 

「ぁ、ありがとう……」 

 ハルはひきつった表情で言った。 

 ──早く離して…… 

───────────────────── 

「ねぇ…ハル君…いいかな?」 

 マリアがモジモジしながら言う。 

「ハル…?ちょっと…」 

 アレックスがハルの袖を引っ張りながら言う。 

「ハ…ハルさん…これを」 

 クライネが恥じらいながら言う。 

「ハルくん…私も……これいい?」 

 リコスが躊躇しながら言う。 

「ハル?あのさぁ」 

 ゼルダが強めの口調で言う。 

 ──モテ期到来か!!! 

 と思ったがそうではなく、皆の荷物持ちだ。ハルがアイテムボックス持ちだとわかると、こうなることはこの世界では常のようだ。『皆の荷物持ちにゃー』とフェレスが言っていたのを思い出す。 

 ことの発端はAクラスの男子生徒達から始まる。 

 時は少し遡り…… 

◆ ◆ ◆ ◆ 

「ハル殿…これを頼みます」 

 男にしては長い髪を一本に結んだ、デイビッドが防具と武具をハルに渡す。 

 ──殿って…武士か? 

「ハルー!俺もお願い!」 

 少しだけチャラついた雰囲気のあるアレンも武具と防具と着替えまでもハルに渡す。 

 それをたまたま目撃していたゼルダが言った。 

「あ!それいいね!」 

 ゼルダもハルに自分の防具と着替え、下着を渡した。 

「え?流石にこれは……」 

 ゼルダの下着を手にしているハル。スコートを横目で見る。 

「良いの良いのっ!下着は今買ったばっかだし!着替えは試着で一回着ただけだから!皆も領地に帰って着替えとか持ってくるの面倒でしょ?だったらハルに持たせた方が絶対良いよ」 

 スコートが近付いてくる。 

「貴様!変な気は起こすなよ?」 

「変な気って?」 

「その…ゼルダの下着を……」 

「下着を?」 

「下着をだな…よからぬ…ことに…使うなよ?」 

「あ…うしろ……」 

 スコートの背後から拳を振りかざすゼルダが見えたがもう遅かった。 

 本日二度目の鉄拳が振り下ろされる。心なしか一発目より今の二発目のほうが威力が高い気がした。 

◆ ◆ ◆ ◆ 

「いやぁ~買った買った!」
「こんなに買ったのに荷物がないなんてやっぱり最高!」 

 アレックスとゼルダが晴れやかな笑顔で言った。 

「うちもアイテムボックス持ちの人雇おうかな……」 

 クライネがボソッと言ったのをハルは聞き逃さなかった。 

 ハルはドキっとした。クライネの独り言もそうだが、今ハルのアイテムボックスには皆の着替えや女子達の下着も入っているのだから…… 

 もしこの状態で戻ってしまったら彼女達の下着を持ったまま戻ることになる。 

 ──それはそれでありなのか?っておい!ただの変態じゃねぇか! 

 ハルが悶々としていると、 

「俺は貴様になど頼らん!」 

 スコートだけが手に荷物を持っていた。 

~ハルが異世界召喚されてから5日目~ 

「ルナさん行ってきます!」 

「孤児院のことは任せて!いっぱいレベルアップしてきてね!」 

 ルナに見送られながらハルは集合場所、王都の南門へと向かった。 

 正直ルナのことが心配だったが、スタンも一緒にクロス遺跡に行くので自分がスタンを見張っていればなんとかなると考えた。また、レベルアップ演習中、スタンが寝泊まりする部屋に忍び込み、帝国との繋がりとなる証拠が手に入ることを期待していた。 

 王都の周りを高い壁が囲い、門はその壁の一部となって外敵から王都を守っていた。 

 スタンが先に集合場所におり、馬車の手配をしている。続々とAクラスの生徒が集まった。 

「おはよう~」
「おはよう!」
「先生おはようございます」 

「おう!お前ら早いな!」 

 少しして、ゼルダとスコートがやってくる。
スコートは自分よりも遥かに大きなリュックサックを背負っていた。 

「お前なぁ、いくらスコートが護衛でもここまでやったら奴隷とかわらないだろ?」 

 スタンがゼルダにツッコむ。 

「スコートは奴隷ですけど、この荷物は私のじゃないですよ?」 

「え?じゃあ誰の?」 

「全て俺のだ!ゼルダに万一のことを考えて厳選した、持ち物だ!」 

 ──あれでか…… 

 ドサッと置かれた荷物を見上げてハルは思った。 

スタンは目を瞑りながら言う。 

「置いてけ」 

「いや!しかし!もしものことがあれば!?」 

「じゃあお前を置いてく」 

「そんな!!」 

 スタンとスコートのやり取りの最中にレイがやって来た。少しの荷物を持ちながら。 

 ──きっとレイの部屋って必要最低限のものしか置いてないんだろうな…… 

 ハルはレイの荷物の少なさを見て、勝手に部屋を邪推する。 

 これで全員集まった。 

「よし!これから三泊四日の遠征に行く!」 

「ヨッ!!」 

 待ちに待った演習、アレックスは拍手を送り、囃し立てる。 

「…と言いたいところだがお前ら荷物はどうした?」 

 レイとスコート以外の全員がハルを見る。 

「…あ、僕が持ってます」 

「持ってるってどこに?」 

「ここに…」 

 ハルはアイテムボックスに手を入れて中の物を取り出した。 

「あ!」
「ちょっと!」
「いや!」 

 ハルは自分の取り出したモノを確認した。それは下着だった。ハルは頬を染め上げる。ハルが手にしたものを見たスコートが詰め寄ってきた。 

「貴様!よくもゼルダに辱しめを!!許さんぞ!!」 

「ごめんごめん!わからなかったんだよ!…ってそれにしても……どうしてゼルダのだってわかったの?」 

「フン、俺は小さい時からゼルダと一緒だったのだ!下着のことなどとうに知り尽くしている」 

 スコートは顎に手をあて、自慢気に語った。 

 ゼルダの目が獲物を狩る獣のように光る。 

「そっか…えっと…今……後ろ振り返らない方がいいよ……」 

 ハルはゼルダの顔をまともに見れなかった。 

「後ろだと?」 

 スコートは振り向くとッ─ 

ガンッ!バキッ! 

 右手による鉄拳が振り下ろされ、直ぐ様左手のフックが放たれる。 

 スコートが殴り飛ばされている横でスタンとレイは思った。 

 ──アイテムボックス持ちかよ…コイツ本当に危険だ…… 

 ──アイテムボックスまで持ってるのか…… 

 スタンとレイは、ハルに対する評価を改めた。
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