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第42話

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~ハルが異世界召喚されてから4日目~ 

 短い茶髪の口元が嫌らしく歪んでいる冒険者と目のつり上がった如何にも悪巧みをしていそうな冒険者、髪の一本一本を前方に撫で付けて、マリアの脚に視線を注ぎながらニヤニヤと笑っている冒険者に向かってスコートが言った。 

「離れろ」 

 スコートがゼルダ達Aクラスの生徒と3人の冒険者の間に立つ。 

「なんだぁ?お前?」 

 茶色い髪の冒険者が言う。 

「俺はゼルダの護衛だ」 

 目のつり上がった冒険者がそれに反応した。 

「へぇ~ゼルダちゃんっていうのかぁ」 

 ゼルダは頭を抱えて呟いた。 

「この馬鹿」 

 スコートは真剣な表情でもう一度言う。 

「離れろ」 

「おいおい、良いのかよ?お前ら魔法学校の生徒だろ?この王都じゃ魔法の使用は厳禁なんだぜ?」 

 冒険者の一人がそういうと、ハルは驚く。 

 ──そうだったの? 

 ハルは初めてそのルールを知った。 

 ──この冒険者達はそれをわかっててゼルダ達に絡んだのか…卑怯だな…… 

 と思いつつ、ハルはスコートを少しだけ見直した。ダル絡みされて鬱陶しいと思っていたが、ああやって行動できるのは凄いことだ。 

 この時、Aクラスの男子生徒デイビッドとアレンもこの輪に加わった。 

「なんだよぞろぞろと、お前ら表出ろ」 

 冒険者の1人が言うと皆、店を出る。 

 ニタニタと笑っている冒険者3人組と不安な表情をしているマリア達女子生徒、毅然としているスコートとハルは冒険者達のあとをついていった。 

───────────────────── 

 アンディは休日を過ごしていた。 

 二日前、臨時収入が入ったからいつも世話になってる武器屋へと向かう。 

 店の前がなんだか騒がしい。人だかりが出来ている。 

 ──また喧嘩か? 

 アンディは人混みを掻き分けると、冒険者3人と魔法学校の生徒達が対面していた。 

 ボサボサの髪をしたお世辞にもいい目付きをしているとは言えない学生の1人が長剣を構えている。 

「来い」 

 同じく長剣を携えている冒険者が馬鹿にしたような表情で学生と対峙していた。 

 ──はぁ…こんなことやってっから冒険者は良い目で見られねぇんだよなぁ…… 

 アンディは溜め息をつくと、学生は剣を振りかぶり冒険者に打ち込んだ。 

 冒険者はそれを受け止めるが、予想以上にいいうち込みだったため、驚いた表情をしていた。 

 剣を打ち込んだ学生が呟く。 

「剣技…連撃……」 

 学生による連続攻撃によって、冒険者の長剣は弾き飛ばされた。 

 冒険者はその場に尻餅をつくと、群がった観衆達が声をあげる。 

「「「オオオオ!!!」」」 

 沸き上がる歓声を浴びながら、学生は長剣の切っ先を冒険者の眉間に突きつけ、そのまま冒険者を見下ろして告げた。 

「これに懲りたら二度と近付くな」
 
 見事勝利をおさめた学生は後ろを振り向き、長剣を腰にさしながら、仲間達の元に帰ろうとしたその時、 

 勝負に敗れた冒険者は、その学生の腰目掛けて体当たりした。 

 驚いた学生は流石の身のこなしでも避けることはできない。地面に顔を激突させず、仰向けになるよう半回転しただけでも拍手を送りたい。 

「きたねぇぞ!!」
「この卑怯モンが!!」 

 野次馬達から冒険者へ罵声が轟く。 

 アンディはこれは自分が止めないとダメだと思い至り、前へ出ようとしたが、 

───────────────────── 

 勝利を修めたスコートは後ろを振り向き、愛しのゼルダの方へと歩く。 

 すると、腰辺りに衝撃を感じた。 

 咄嗟に半回転し、ダメージの少ない背中から地面に落ちることに成功するが、スコートが勝利した筈の冒険者が馬乗りに股がってスコートを嬉々とした表情で殴ろうとしていた。 

 拳を振りかぶる冒険者。 

「くそっ!」 

 スコートは両腕を前へ押し出して防御しようとしたが、その拳は振り下ろされることはなかった。 

 冒険者の手首を掴む手が両腕の隙間から見えた。 

 ──あの庶民の手だ。 

 庶民には綺麗すぎる手が冒険者の手首を掴んでいた。庶民はスコートに馬乗りになっていた冒険者をどういう原理か、持ち上げて立たせると、言った。 

「それはダメだよ」 

 スコートは立ち上がり、脚に付着した砂利を払う。ゼルダはスコートにかけより背中を払った。 

 スコートは思う。 

 ──どうやってアイツを立たせたんだ? 

───────────────────── 

 生意気な学生を転ばせ、馬乗りになっていた俺は、拳を掲げ、野次馬達の前で恥をかかされた礼をたっぷり込めて振り下ろそうとした。しかし何者かに手首を捕まれ、礼を返すことができなくなった。またも俺は瞬間的にイラッとしたが、捕まれた手首がびくともしないことにえもいえぬ恐怖を感じ取っていた。 

 どういうわけか俺はその場から立たされ、叱責される。 

「それはダメだよ」 

「……」 

 後ろで見ている仲間達は俺の手首を掴んでいる学生に長剣を構えて斬りかかった。 

 捕まれていた手首が離され、解放感を得る。まるで重たい重りを外した時のような感覚だった。 

 学生は俺を置き去りにし、2人の元へと向かった 

 仲間達は2人が横並びとなって長剣を大上段から振り下ろそうとしている。 

 学生はその2人の間を縫うようにして通った。いや、すれ違うと言った方が良い気がする。 

 仲間達の顔を見ると、その表情は驚愕を示していた。 

 何にそんな驚いているのか、俺は一瞬わからなかったが、2人の持っていた長剣がなくなっていることに気が付いた。 

 2人は急いで通りすぎた学生の方を振り返ると、2人の鼻先に先程まで自分達が持っていた柄物を学生が両手に1本ずつ持ち、突き立てている。 

「これ、貰って良い?」 

「……」
「……」 

 学生は仲間達の沈黙を肯定と受けたのか、持っていた2人の長剣を消す。 

「?」
「?」 

 無くなった長剣に驚いた仲間達ではあるが、自分達を脅かす凶器が無くなったのを良いことに、再び殴りかかろうとしていた。 

「馬鹿!よせ!」 

 俺の忠告を無視して殴りかかろうとする2人の足を学生が下段回し蹴りで脚払いする。 

 2人が並ぶようにして宙に浮き、仰向けで地面に倒れた。 

 学生はどこからともなく自分よりも大きな大剣を取り出した。2人地面に並べて首を同時に跳ねるには十分過ぎるほど大きな剣で、仰向けで寝ている二人の首目掛けてその大剣を振り下ろした。 

「ヒッ」
「やめっ」 

 寸でのところで大剣は止まり2人は命を落とすことはなかった。 

 それを見た俺の両足はかつてないほど震えている。 

───────────────────── 

「おーい!ハルー!」 

 アンディが声をかける。 

「アンディさん!」 

 ハルは大剣をしまいながら挨拶をした。 

「大変だったな!」 

「まぁいつものことですよ?」 

「大方コイツらが変に絡んだってとこだろ?」 

「そうですね……」 

 アンディは深い溜め息をつくと、言った。 

「…コイツらのことは同じ冒険者である俺が責任もってギルドに報告しておくよ」 

「ありがとうございます!」 

「おうよ!」 

 ハルはアンディに一礼してアレックス達の元へ戻った。
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