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第10話

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 フレデリカは驚嘆した。魔法学校に通ってもいない17歳の少年が3つの属性魔法を唱えたことに。 

「先生!この火はどうやって飛ばすの?」 

 ハルが掌にちょうどおさまるくらいの火球を浮かばせて訊いた。フレデリカはハルの質問を聞いて我に返る。
 
「え?…ん~その火が遠くへ行くイメージかな?それか魔力を飛ばすイメージという人もいるけど……」 

 フレデリカは指を立ててそれを口元に持っていく。彼女が何かを考えるときはこのような癖が出るのだ。 

 ──ん~こうかな? 

 ハルは掌から魔力を飛ばすイメージで掌握している火の玉を飛ばした。 

 火の玉はハルの手から離れ、手の向けた先にある閲覧室の机に命中した。 

「「あー!」」 

 激しく燃え出す机。すると、ハルの頭の中で機械的な声が聞こえる。 

ピコン 

火属性第一階級魔法
『ファイアーボール』を習得しました。 

ゴーン ゴーン 

「ハハハハッ」 

 例の路地裏に戻っていた。 

 そもそも閲覧室での魔法は厳禁らしいがこの日はフレデリカしか受付を担当していないので注意する人が誰もいなかった、それと魔法初心者のハルなら大丈夫だとフレデリカは思っていたようだ。 

 ──あのあとどうなったんだろ?今度から外で練習しなきゃ! 

 そう思いながら図書館へと向かった。 

<図書館> 

「この火をもっと大きくしたいんですけどどうすれば良いんですか?」 

 ハルはおへそ辺りで掌を上へ向け、自分の目線ギリギリまで火をたぎらせている。フレデリカはそれを見て口をあんぐりと開けて驚いている。何故ならフレデリカの唱えられる火属性魔法の火よりもハルの手にあるそれが大きいからだ。 

「その火を10メートルくらい飛ばせる?」 

「やろうと思えばできます」 

「ハル君、それができるなら第一階級火属性魔法はできることになっているわ。ファイアーボールという魔法よ」 

「そうなんですか?」 

「……ハルくん今のレベルはいくつなの?」 

「えっと……」 

 ──1なんだよなぁ…… 

 ハルが口ごもっているとフレデリカは申し訳なさそうに言った。 

「ごめんなさい。個人情報なのに…魔力の数値だけでも良いから教えてほしい…私のも教えるから」 

 フレデリカは手を翳すと透明で四角いスクリーンが浮かび上がってきた。それをスマートフォンのようにスワイプしてその画面をハルに見せる。 

「これが私のステータス」 

【名 前】 フレデリカ・シーカー
【年 齢】 20
【レベル】  9
【HP】   68/68
【MP】  80/80
【SP】   55/55
【筋 力】 42
【耐久力】 46
【魔 力】 55
【抵抗力】 51
【敏 捷】 42
【洞 察】 41
【知 力】 76
【幸 運】 20
【経験値】 260/1000 

・スキル
『魔法使いの心得』
 
・魔法習得
  第一階級火属性魔法
  『ファイアーボール』
  『ファイアーウォール』 

  第一階級水属性魔法
  『ウォーター』 

  第一階級風属性魔法
  『ウインドカッター』 

  第一階級土属性魔法
  『ストーンバレット』
  『クリエイトグレイブ』 

  第一階級光属性魔法
  『シューティングアロー』 

  第一階級闇属性魔法
  『ブラインド』
 
 
「人のステータスを初めてみました…」 

「平均的な数値でしょ?」 

 照れながら言うフレデリカは少し艶かしく見える。フレデリカは続けて言った。 

「さぁ!私も見せたんだからハルくんのも見せて!」 

「え!?そんな約束してな……」
 
 迫り来るフレデリカはまるでハルの服を脱がすかのように手を伸ばしてきた。 

「わわわかりました!だから手を離してください!」 

 スッと手を離すフレデリカ。ハルは手を翳し心のなかで念じた。 

 ──ステータスウィンドウオープン 

 ブン、と音を立てて半透明のスクリーンが浮かび上がる。 

【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】  1
【HP】   40/40
【MP】  18/20
【SP】   50/50
【筋 力】  9
【耐久力】 25 
【魔 力】 11
【抵抗力】 12
【敏 捷】 18 
【洞 察】 15
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 0/5 

・スキル 
『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』
  
・魔法習得
  第一階級火属性魔法
  『ファイアーボール』 

  第一階級水属性魔法
    ── 

  第一階級風属性魔法
    ──
   
 ハルは久しぶりに見たステータスに違和感を覚えた。 

 ──あれ?前よりちょっとだけステータス上がってない?けど相変わらず文字化けの部分は読めないな…… 

 フレデリカは神妙な面持ちでハルのステータスを見ている。ハルは自分の通知表を人に見られている気分になった。 

 ──レベル1!?…でもレベル1なのに耐久力、HP、SPがやたら高い……っえ!?知力931!?どうしてこんなにあるの!?一体この子は何者? 

「あの…自分が弱いことはもう分かってるのでもう閉じて良いですか?」 

 ハルが後頭部を掻きながら言ったがフレデリカには聞こえていないようだった。 

 ──確かにレベルが上がらなくてもステータスは上昇する…だけど効率が悪すぎる…… 

 それを確認するためか、フレデリカは質問した。 

「ハルくん…今まで死にかけたことある?」 

「へっ」 

 突然の質問に面食らうハル。今までの出来事を思い返すようにして答えた。 

「ん~確かに今まで何回か死にかけてますね……」 

 ハルは異世界に来る前も足の骨を折り体内にボルトが埋め込まれていることを思い出していた。 

「溺れたことは?」 

「あります…でもどうしてそれを……」 

 フレデリカは表情を変えず質問を続けた。 

「今までたくさん勉強してきた?」 

 ハルは日本で通っていた学校を思い出す。 

 授業中寝てるハル、遅刻するハル。 

 ──あ!でも中学生の頃は理数系が得意だったなぁ。でも高校に入って物理とか化学とか数学Bだっけ?全くわからなくなった……中学の頃は勉強楽しかったな…… 

 そんなことを思いながら答えた。 

「いや~全然してないですよ」 

 ハルの言い方にフレデリカは思うところがあった。
  
 ──それは嘘のようね…… 

 フレデリカは少し合点がいったようだ。 

「ごめんなさい。不躾な質問をして、私がハルくんのステータスを見たかったのは魔力の数値を確認したかったからなの」 

「はい……?」 

 あっけらかんとした返事をハルはかえした。 

「ハルくんの火が私が唱える火よりも大きかったものだから…魔力の数値に違いがあるのかなって思ったの。でもこれは魔力の大きさというよりも知力の差なんじゃないかと思うの」 

「知力の差……」 

 フレデリカの話をうまく飲み込めない。そんな状態のハルに構わずフレデリカは続けた。 

「第二階級魔法もハルくんなら直ぐに…」 

◆ ◆ ◆ ◆ 

『フレデリカなら直ぐに第二階級魔法を習得できるよ!』 

◆ ◆ ◆ ◆  

 昔のことを思い出した、フレデリカは途中で言い淀んだ。 

「え…直ぐに?なんですか?」 

 よく聞き取れなかった。それよりもハルには気になることがまだある。 

「あの…さっきの質問は一体……」 

「あぁ!さっきの質問ね!死にかけたことはあるかってやつ!レベルを上げないでステータスを上げる方法を知ってる?」 

「知らないです……」 

 ──ていうかレベルの上げ方すら知らないんですけど…… 

「それはですね…日々の鍛練によって上げられるのです!」 

 ──え、ふつー 

「ふつーって顔しないの!!」 

 フレデリカは先生のような口調になった。 

「しかし!それでは非常に効率が悪いのです!1ヶ月間毎日鍛練しても1上がれば良い方なのです!また1日でステータスの一つを1~3上げるには死にかける程の負荷が必要だと、ある論文には書かれています!つまりハルくんのステータスを見るに今まで何回も死にかけているということがわかりました!」 

 フレデリカはハルの眉間に指をさしながら言った。
  
「あぁ確かに……」 

「一体どんな経験を……」 

 フレデリカは聞きたいようで聞きたくないような口調で訊いた。 

「昔から怪我は良くしてたけど……」 

「怪我!?ハルくん…あのね、このHP、SP、耐久力の数値は腕の骨を何回も折っても間に合わない数値なのよ!?」 

「腕折るくらいなら…それよりも酷いことがありましたし……家庭の事情でね」 

 ニカッと笑ったハル。 

 ──この台詞は一回言ってみたかった。 

 その無理矢理な笑顔を眺めてフレデリカは沈痛な面持ちを見せた。 

 ──もっと酷いことを…家庭の事情で…… 

 フレデリカは自分がボロボロの服装で磔にされ、鞭で打たれる姿を想像をした。身体に寒気が走ったフレデリカは話題を変える。 

「そ、そしてこのスキルを見てください!第一階級水属性魔法耐性(中)これは過去に川や海で溺れて死にかけた人によく付与されるものです!」 

 言い終わってフレデリカはハッとする。 

 ──ハルくんの場合、もしかしたら…… 

 フレデリカは自分が逆さで磔にされ水責めされているのを想像した。それとは対称的にハルは自分の過去の黒歴史が去来する。 

 ──母さんと父さんと海に行った記憶が甦るな…そして溺れた……っとそんなことは置いといて! 

「このスキルは何?」 

 気を取り直してハルは文字化けしたスキルを指さす。 

「感性の言語化?」 

 ハルの指差した文字化けしたスキルと違うところをフレデリカは読んだ。 

「初めて見るスキルだわ…どういう効果があるの?」 

「わからないんです」 

「え…そこを押してもわからないの?」 

「ここですか?」 

 ハルは自分のステータスウィンドウ上に記載されている感性の言語化と書いてある文字に指を押し付けた。 

『感性の言語化』
【ステータス上昇率を上げる】 

 ──こういう風にして見れるのか…… 

 フレデリカはこの文言を見て絶句した。 

 ──これどういうこと?…さっき私が言ったレベルを上げないでステータスを上げる方法にも適用されるってこと? 

 顎に手を当てて、ハルのステータスウィンドウを睨み付けるフレデリカ。 

「……せい?……先生?…フレデリカ先生?」 

 ハルの呼ぶ声にようやく反応を示した。 

「え?ごめんなさい…どうしたの?」 

「他のスキルは知ってますか?」 

「え?他のスキルはですね、恐怖耐性(中)、物理攻撃軽減(弱)、激痛耐性(弱)……」 

 ──ぇ……一体どんなことを経験すれば…こんなスキルが身に付くの? 

 フレデリカは読み上げているとだんだんハルが心配になってきた。今、ここで笑顔を見せているのが奇跡なんだと思えてくる。 

 ハルはフレデリカの反応を見て思った。 

 ──フレデリカさんには文字化けしてるスキルは見えていないのか…… 

「そ、それよりもハルくんはもう火属性と水属性と風属性が唱えられるのね!」 

 若干フレデリカが涙ぐんで喋っているように聞こえた。 

 ハルからしたら、おそらく土、光、闇、聖属性魔法も使えるだろうと考えていた。何故それを唱えないかというと戻りたいとき用のストックにしようと思っているからだ。この世界で既に4回も危ない思いをしている為、危険を察知したら新しい属性魔法を唱えて緊急回避のように戻ることにしようとしていた。 

「すごいわ!私は一応全属性の第一階級魔法なら唱えられるけど、魔法学校で3年間一生懸命勉強して習得したのよ!」 

 正直悔しい思いもフレデリカにはあった。これは学生時代に経験した感情だったが自分の3歳下の男の子が自分より優れていると知ったときに嫉妬よりも素直な驚きと称賛のほうが大きかった。 

「土属性の第一階級魔法をやってみましょう?」 

「えっと…それは大丈夫です。火属性の第二階級魔法を教えてほしいです!」 

 ハルの言葉にフレデリカはうつむき気味で答えた。 

「…それは私には教えられないわ…私のステータスを見たでしょう?私はその魔法が唱えられないの」 

「出来なくても、フレデリカ先生なら知っているはずです!ここにはそれに関する本がたくさんあります!それに第二階級魔法が出来るからってそれを教えるのが下手な人もいます!逆に出来なくても教えることが上手い人っていますよね!」 

 フレデリカはその言葉を聞いたときに自分の可能性にも気付いた。もしかしたら自分は教えられるかもしれないという自信と心の奥底にしまってあった、あの時諦めていた第二階級魔法に関しての熱意が込み上げてくる。 

「やってみましょう!!」 

 フレデリカは腕まくりをしてやる気を示す。 

 火属性の第二階級魔法は半径10メートル以内の炎の柱を迸らせ、対象を焼き尽くす魔法、ファイアーエンブレムという魔法名のものがあるらしい。同名のゲームはやったことないけど登場キャラクターならハルは知っている。 

 それを唱える為には生まれつきの才能が必要とされているようだ。しかしハルならその才能を持っているとフレデリカは半ば確信していた。 

 閲覧室から図書館の裏にある広場に移動し、やり方や魔法の詳細を教えたのだが、フレデリカは自分が唱えられないのでやはり上手く教えることが出来ない。 

 ハルは夢中で訓練に勤しんだ、やらなければならないことを忘れて。 

 気づけば日が沈みかけていた。 

「あ………」
 
 ハルが急に青ざめたのでフレデリカは魔力欠乏、つまり、MPを0近くまで消費してしまったのかと思った。 

「大丈夫?」 

 心配そうに尋ねられた、ハルは呟く。  

「…僕もう行かなくちゃ……」 

 ハルは走り出した。一人で、ルナを救うべくあの路地裏に向かって。
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