桃太郎の真実

式羽 紺次郎

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第四章

猿の真実

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犬は桃太郎の後ろをついて歩く。桃太郎の機嫌を伺いながらビクビクと後を付いて行っていることは明白だった。
キビ団子の威力はそれほど強烈なものだったのだ。桃太郎は生まれて初めて育ての親に感謝していた。
だが、家来はまだまだ足りない。
この犬一匹では、日本一の盗賊になることは不可能だろう。戦闘力の向上は見込めるが、なんせ知恵不足だ。
桃太郎は自分以外にも、知恵を絞れるずる賢い人間を求めていた。
さて、どうしたものか。そんなことを考えていると、後ろから犬が恐る恐る話しかけてきた。
「も、桃太郎さん、1つ聞いてもよろしいですかい。」
「なんだよ。」
「俺たちは、どこに向かっているんですか?かれこれ1週間は歩きっぱなしですよ。」
おばあさんからは金目のものを盗ってこい。と言われた桃太郎だがそんなことはすっかり忘れていた。
ただ単に盗賊生活を楽しんでいた。しかし、このままでは確かに面白くない。
何より、日本一の盗賊を名乗るからには何かしら大きな仕事を成し遂げることを、目標にしなければならない。
「よし、犬!」
「は、はい!」
犬は何を言われるのかと、ビクビクしている。
「これから俺たちは歴史に名を轟かせるような大仕事をするぞ。その為のまずはネタ探しだ。」
「とりあえず、この辺りで大きな金の話はないか調べてこい。馬鹿犬。」
犬は大急ぎで近くの村の方角に走っていった。
その間に桃太郎は、次の奴隷・・・いや仲間を探すことにした。
「俺や、犬に出来ないこと。そうだな、間者の役割を果たすやつがいいな。」
そう言って桃太郎は少し考え込んだ。
桃太郎は名案を思い付いたのか、ニヤリと笑うと、近くの村の方角に歩き出した。

村に到着すると、犬が門番の男を締め上げていた。桃太郎の指示通り、情報収集に勤しんでいるようだ。
桃太郎は犬の横を通り過ぎ、村の中に入る。そして、怪しい雰囲気のある裏路地に入っていった。
そこは、所謂売春宿が並ぶ通りだった。桃太郎は入口に立ってる、客引きの老婆にこの通りで一番の高級店を
尋ねるとその店に向かい歩を進めた。
店に入るとそこは、まるでおとぎ話の世界だった。煌びやかで桃太郎の少年時代からはあまりにもかけ離れた空間で
あったために彼は、居心地の悪さから若干の吐き気を覚えたが、それを堪えて受付に向かった。
受付には、上品な着物を纏い、柔らかい笑顔を浮かべる中年の男性が座っていた。
「ようこそいらっしゃいました。お客様。本日はどのようなご趣向にいたしましょう。」
「そうだな。この店で一番頭の回る女を付けてほしい。俺は馬鹿が嫌いでね。知的な会話を楽しみたい気分なんだ。」
「承知いたしました。ご要望通り、当店一の才女をお付けいたしましょう。」
桃太郎は、案内された部屋で待機していた。そこも豪華な装飾に溢れ、広々としていた。
その部屋は、桃太郎が生まれ育った家のすべての部屋を合わせたよりも大きく感じた。
しばらく、高価そうな壺などを眺めて待機していると、障子の外から声が掛かった。
「お客様。お待たせいたしました。紅蘭と申します。」
その声は艶やかであり、且つ落ち着いた雰囲気も有しているなんとも不思議な声だった。
「おう、はいれよ。」
その声を聞いて、障子を開け部屋の中に入ってきた女性は今まで桃太郎が、生まれ育った村で見てきた女が同じ動物であることを
疑ってしまうほど、美しかった。
桃太郎は柄にもなく、見とれてしまった。故郷の村では、何人もの女を脅して自分のものにしてきた桃太郎だが、
目の前の女性にはそんな稚拙な手など通用しないように思えた。むしろ気を抜けばこちらが彼女の傀儡にされてしまうような
そんな妖艶さすらも彼女からは伝わってきた。
「あんたは、俺が見た中でもっとも美しい女性だよ。えっと」
「紅蘭でございます。お褒めにあずかり光栄ですわ。お客様、まずは晩酌になさいますか?」
「そうだな。紅蘭。そうしてくれ。」
桃太郎は、いつになく興奮していた。それは、単に絶世の美女を目の前にしたからではない。彼女を自分の意のままに操ることができると
確信しており、そして、彼女の使い道を考えたときの楽しさを想像すると自然と喜びに震えるのだった。
桃太郎は、紅蘭に酌をしてもらった酒を飲み干した。これもまた、格別の美味さだった。
「美味いなこれ。」
思わず口に出ていたようだ。
「それは良かった。此れは奥州は藤原氏が好んで嗜むといわれております、冷酒でございます。」
「なるほど、道理で辛口だが、飲みやすいんだな。だが、ちょっと足りないものがあるよな。」
彼女の方を見る。紅蘭は首をかしげる。
「何でございましょう。私では酒の肴にはご不満ですか?」
「ははは。そうじゃないけどよ。つまみは多いに越したことはないだろ。」
桃太郎は懐から、例の黒い団子を1つ取り出す。
「紅蘭。お前は大変物知りらしいな。ここの旦那がそう言ってたぜ。どうだ、これを食べてみろ。
 そして、これが何か当てることが出来たら、ここで一番高い酒と飯をたらふくおごってやろう。」
そう言って、紅蘭の手に団子を置いた。
「まぁ、私と知恵比べということですか。いいですわ。こう見えても食には少しうるさいですのよ。」
そう笑みを浮かべながら、彼女は団子を一口齧る。
(しめた!だが、まだだ。1つ丸ごと食わせないと落とせないかもしれねぇ。)
桃太郎は下卑た笑い声を上げたくなったが、それを堪えた。
「どうだ。不思議な味だろ。一口だけじゃわからないだろうよ。ケチケチしないで、花魁らしく
 思い切って一口で食べてみな。そんで、当ててみやがれ。」
紅蘭はこちらを見ながら、残りのキビ団子を一口で食べた。
そして、全部を噛み終え、飲み込んだ。
「これは・・なんでしょう。悔しいのだけれど、さっぱりですわ。お客様の故郷のお味かしら。
 でもあの色から推測いたしまするに・・・」
そこまで言った後、紅蘭の表情が一変した。先ほどまでの美しい笑みは消え、一気に絶望の表情になった。
ここまで勝利の笑いを我慢していた桃太郎は、紅蘭のその顔を見ると感情を爆発させた。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「どうした!!俺が怪物にでも見えたか?俺はお客様だぞ!女!」
紅蘭は何も言えず、ただ震えながら桃太郎の顔を見ている。
「無駄に知恵だけつけやがって、所詮は見世物でしかないんだよお前は。曲芸の猿と変わらねぇ。」
「そうだ。猿だ。いいじゃないか。猿と犬。俺の家来は畜生ばっかりだ。ぎゃははは。」
桃太郎は手を叩いて笑っている。猿山の大将が部下同士を戦うのをみて、笑っているかのように。
桃太郎は狂った笑い声を上げ続けるのだった。
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