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君と動物園に
しおりを挟む今日の僕はホストではなく、ただの青木昴21歳だ。自他共に認める美形の青年で、ただいま絶賛片思い中。となれば、突如決定した(強引に決定させた)動物園デートに浮かれない理由がない。
前日のうちに長い時間をかけて着ていく服まで厳選し、僕は3時間睡眠やそこらとは思えないくらいの爽快な目覚めでその朝を迎えた。遮光カーテンのわずかにあいた隙間から、きらきらした秋の朝の光が部屋に差し込んでいる。
今日は! 思いっきり楽しむぞ~!
大きく伸びをしたあと、スキップでもしたい気分で勢いよくカーテンを開けた。僕の最高の1日が、いま始まろうとしている!
◆
待ち合わせ場所に着くまではそわそわして落ち着かず、柄にもなく緊張なんてしてしまったが、優也の顔を見た途端そんな落ち着きのなさはどこかに行ってしまった。しっくりくる、というのだろうか。照れや恥ずかしさは多少あるものの、友達として並んで歩くことになんの違和感もない。自然体で、ふたりの時間を楽しむことができた。
「右を見ても左を見ても親子連れとカップルしかいないんだけど。なぜ俺はこんなに天気のいい日曜日に、スバルと動物園なんか散歩しているのだろう……」
「ちょっと! 散歩じゃなくてデートって言ってよ!!」
動物園に着き、まだ少し園内を歩いただけなのに、すでに信じられないくらい楽しい。
「優也、なんかすごいいいにおいがしない?」
ふたり並んでウサギ小屋を過ぎたところで、広い原っぱのような場所に出た。僕が漂ってくる甘い匂いの正体をきょろきょろ探しながら呟くと、一足先に見つけた優也が人混みの向こうを指さす。
「あ、あそこだ。クレープだってさ」
「え、クレープ!? 食べたーいっ」
ほんとうは甘いものは好きでも嫌いでもないが、こういうときにはしゃいだ方が可愛いんじゃないかという腹黒い計算で、わざと嬉しそうな声を上げてみた。
ぶりっこ作戦にまんまと引っ掛かったのか、優也は仕方ないなという様子で自分の財布に手を伸ばす。
「どの味がいい?」
「チョコバナナ! 優也はどれにする?」
「俺は食わねーよ」
というやりとりをしながら、罠にかけたつもりがかけられたような気持ちになった。優也が当たり前のように僕にクレープを買ってくれるという現実の方が、僕のくだらないぶりっこなんかよりはるかに心臓に悪い。ドキドキしっぱなしだ。
嬉しくて嬉しくて、今度は計算なんかではなく大いにはしゃいでしまった。
「騒がれたらかなわんと思って買ってやったのに、さらに騒ぐとはどういうことなんだ……?」
「嬉しいからしょーがないだろ!」
その日に食べたクレープは間違いなく、僕にとって人生で一番、そして世界で一番おいしいチョコバナナクレープになった。
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