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強引な君と
しおりを挟む「そういえばあんた、スバルくんと動物園いくんだってー?」
哀子である。電話口でハツラツとした声で言われて、仕事の休憩中くつろいでいたところだいうのに、ぎょっとしてしまった。
「なにお前、なんで知ってんの!?」
吸っていたタバコを慌てて灰皿に押しつけ、スマホを覆うようにして小声でヒソヒソと追及する。喫煙所を使う上での最低限のマナーだ。あまりの驚きについでかい声を出してしまったばかりだが。
「んーとね、おとといデビルジャム行った時に言ってたよ。その日さあ、夕陽があたしに無断でいなかったから、頭きてスバルくん指名したんだよね。一緒に行ったあたしの友達が、タイプだって言うから~」
「哀子の友達のタイプがスバルとかまじでクソどーでもいいんだって。そんなことよりなぜ動物園の件を」
だいたい俺はあの朝方の連絡をいまだにシカトしている。いつものことだ。つまり正確には、まだ約束は交わされていないはずだった。なのにあいつの頭の中ではとっくに確定していたらしい。
……俺の返事とかどーでもいいわけね。
「知らないけど、優也と動物園デートの約束した~ってすっごい嬉しそうにしてたの。めちゃめちゃびびったよ、あんたよくOKしたよね~。そしたらそのあたしの友達が、えーいいなー! って言い出して」
「OKしてないのにあいつが言いふらしてるだけなんだよ。でもどうせ行くことが決まってしまっているなら、是非ともその子も一緒に」
「スバルくんが即座に断ってた」
……あの野郎。
「なんかスバルくんって、妙に優也に懐いてるよね? なんで?」
「それはまじで俺が知りたい……」
「でもあんなイケメンに懐かれて嫌な男も女もいないよね~。キラキラ王子様って感じでさ」
いる! ここに! 迷惑している男が!
「……つーかお前、電話の用件はなんなんだよ。貴重な昼休憩を割いてやってるのに、くだらない話ばっかりしやがって」
「え、あんた今お昼休みなの!? もう16時半なんですけど」
「うるさい。納期の都合でな、あるあるなんだよこの業界は」
「へー大変だね。じゃあ端的に言うとさ、デートしてみる気ない?」
「は?」
「女の子紹介してあげる」
「ま、まじ?!」
「その、スバルくんがタイプって言ってた子。ルミちゃんっていうんだけど」
俺とスバルは似ても似つかないんだがそこは問題ないのか………?
「まあその話は今度改めて話すわ。デートしてくれるって伝えておくからー。まず、動物園楽しんできてねー!」
「おい、俺はまだするとは言ってな」
ブツッ。ツー ツー ツー
……哀子もスバルも、俺の周りはなんでこうも強引なやつばっかりなんだろう。
ため息をつき、新しいタバコを一本取り出して火をつけた。やるせなさすぎる。
俺、来週、動物園に行くのか……?
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