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クロエという少女
しおりを挟む夜伽としてクロエが現れたのは、新月の寂しい夜のことだった。
「……よろしくお願いします」
透き通る弱々しい声がドアの向こうから聞こえた。初めて聞く声だ。本来その日の夜伽は帰らせるつもりだったのに、ふとユダの中で嗜虐心が首をもたげ、なんとなく呼び込むことにした。
「入れ」
短く告げると、少女の細い体がドアの隙間をすり抜けるようにして、恐る恐る室内に入ってきた。
近くで見ると、漆黒の長い髪をした少女だった。目は丸くて大きく、とにかく肌が白い。小さいがふっくらとした唇が印象的だ。
「クロエと言います。伽は初めてなので満足していただけるか心配ですが……、その……がんばります」
緊張した表情を見るに、その言葉に嘘はなさそうだった。王族の夜伽になったばかりということは、おそらくもともとは街で花売りでもしていた娘を拾ってきたのだろう。なんにせよその名前や生い立ちに、興味は微塵もない。
手首を掴んでベッドに押し倒すと、クロエは戸惑いながらもされるがままになっていた。
いつものようにローションの瓶を掴み、準備を整えると、一息に挿入しようとする。
ここで予想外のことが起きた。
「あっ、痛い!痛いです、ユダ様」
小さい悲鳴。今まで経験したことのない展開におどろき、ユダは思わず腰を引いた。
「痛い……だと……?」
そこは今しがた塗りつけたローションで充分潤っているし、摩擦が痛みを感じさせたとは思いにくかった。確かめるように人差し指を挿入してみる。原因はすぐに分かった。中は信じられないほど窮屈で、その間、クロエが身をよじって痛がったからだ。
「お前、まさか」
言及されるのを恐れるように少女は目をそらす。
「……処女なのか?」
いつまで経っても返事をしないのを肯定だと受け取り、しばしの沈黙のあと、ユダはため息をついた。
「……もう帰れ。経験もないくせに、ヤケを起こしてこんな仕事をするな」
「ユダ様、私はっ」
「うるさい。俺はもう寝る」
「……どうして、抱いて下さらないのですか」
ユダが涙声に驚きクロエのほうを向いたときにはもう、泣き出していた。狼狽する。一体なんなのだ、この娘は。こちらが好意でなにもせず帰してやろうとしているのに。
「どうしてってお前、痛いのは嫌だろう」
「うっ、うっ……ぐす、痛いのは、いや、です」
「だからやめてやると言ってるんだ」
「ぐずっ……でも、私、ユダ様に、抱いていただきたかったんです……」
「なぜそんなことを」
「夜伽は、うっ……私の役目、なのに……、うっ、うっ、うぇぇん」
うんざりして頭を抱えながら、ユダは面倒くさそうにに告げた。
「……いくらなんでも泣きすぎだろう。わかったよ、後日ちゃんと女にしてやるから、今日のところはもう帰れ。泣き顔を見たらそんな気分じゃなくなった」
「ご、ごめんなさい……」
ぐずぐずと、まだ鼻をすすっている。
「ほら、ティッシュ使っていいから。俺は面倒な女は嫌いだ。また呼んでほしかったらさっさと泣き止んで帰ることだ」
「……わかりました。絶対ですよ。約束してくださいね」
「ああ」
次にクロエの順番が来て、彼女がまた部屋の前で挨拶をしたとき、自分は呼び込まずにその場で帰すだろう、とユダはぼんやり思った。冷たく突き放す自分の姿が目に浮かぶようだ。
しかし、ああ、という返事に心底嬉しそうに微笑んだクロエの顔を見たとき、またこうして部屋の中でふたりで話すことがあるような予感も、なぜか芽生えた。
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