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嫉妬
しおりを挟む「この前のキスの続き、しようか」
「つ、続きって……」
「ダイアナ、震えてる。俺のことが怖いか?」
震えてる?
指摘されて初めて自覚した。たしかに身体が震えている。でもそれがエドに対する恐怖かと言われると、そうではないような気がする。
エドの手がそっと伸びて、指先が頰に触れた。くすぐったいような不思議な感覚があり、びくんと身体が反応する。頰が赤くなるのを感じた。緋色の瞳が、私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
「…怖く、ないわ」
強い気持ちで言ったのに、吐く息が震えた。吸血鬼がニィ、と薄く笑う。
頰に触れていた指が離れ、熱い身体に抱き寄せられた。入浴した後だからだろうか、死体のように青白い肌からは想像できない体温だ。
「……かわいいな、お前は」
耳元に口をつけ、舌で優しく舐められてまたびくびくとしてしまう。気づけば、あっ、と甘い声が漏れた。
なぜかそのとき、私と結婚したいと告げたノアの顔が脳裏に蘇った。
「っ、エド、だめっ…」
弱々しく身体を押し返そうとすると、強引に唇を塞がれた。キスされているのだと理解するまで数秒を要した。あたたかい舌が口の中に入ってきて、絡み合う。心臓がドキドキして、もう好きにされたいという気持ちが脳内を支配していく。
「ダイアナ、お前もしかして、俺じゃない男のこと考えてたか?」
唇の端に垂れた唾液を舌で舐めながら、エドが嫉妬を含んだ声で言う。
混乱したままふるふると頭を振ったが認めてはもらえない。
「以前言っていた許婚のことだな。隠してもわかる、なにがあったかちゃんと話せ」
「エド…怒ってるの?」
「お前にじゃない。この部屋に囚われて、お前の周りをうろつく男を追い払うこともできない、無力な、なさけねえ自分に対しての怒りだ」
エドがやれやれというように首を振って、ベッドに腰掛ける。釣られて私も隣に座りながら、すがるように告げた。
「怒らないで。私、自分のことは自分でちゃんとできるわ」
「そうは言っても男なんて好きな女を手に入れるためになにするかわかんないだろ。いざというとき守れるところにいてやれないっていうのがもどかしいんだよ」
「エドもそうなの?」
「あ?」
「手に入れるために、なにするかわかんない?」
「……あぁ、わかんねぇな」
緋色の瞳が揺れて、次の瞬間、また唇をふさがれた。自分で煽るようなことを言っておいてなんだが、心臓がドキドキして死んでしまいそうだ。エドはいつも迷いがない。迷いなく自分の気持ちを表現し、手を伸ばしてくれるのが、嬉しい。
お互いの舌が絡み合う音だけが室内に響いて、ぞくぞくした。時々そのふたつの牙を舌でそっとなぞってみる。
やがてエドの唇は私の首にキスを落としていった。ふと耳の奥にレオナの言葉が蘇る。
『あの部屋でむかし、ダイアナ様がお怪我をなさったんですよ。覚えていませんか?』
『確かあの部屋にある彫刻で肩を切ったんです』
エドの舌が、私の首筋の血管をなぞった、ように感じた。快感に身をよじりながら、ぼんやりとかすむ脳内で考える。記憶にない幼少期の不可解な怪我。私の肩に傷跡はない。はたしてそれはほんとうに切り傷だったのだろうか?
「ダイアナ……愛してる」
ひょっとしてそれは、何者かに噛まれた跡ではなかったか。
たとえばその部屋に封印された、齢300歳の吸血鬼などに。
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