上 下
13 / 13

嫉妬

しおりを挟む

「この前のキスの続き、しようか」
「つ、続きって……」
「ダイアナ、震えてる。俺のことが怖いか?」


震えてる?
指摘されて初めて自覚した。たしかに身体が震えている。でもそれがエドに対する恐怖かと言われると、そうではないような気がする。


エドの手がそっと伸びて、指先が頰に触れた。くすぐったいような不思議な感覚があり、びくんと身体が反応する。頰が赤くなるのを感じた。緋色の瞳が、私の目を真っ直ぐに見つめてくる。


「…怖く、ないわ」


強い気持ちで言ったのに、吐く息が震えた。吸血鬼がニィ、と薄く笑う。
頰に触れていた指が離れ、熱い身体に抱き寄せられた。入浴した後だからだろうか、死体のように青白い肌からは想像できない体温だ。


「……かわいいな、お前は」


耳元に口をつけ、舌で優しく舐められてまたびくびくとしてしまう。気づけば、あっ、と甘い声が漏れた。

なぜかそのとき、私と結婚したいと告げたノアの顔が脳裏に蘇った。


「っ、エド、だめっ…」


弱々しく身体を押し返そうとすると、強引に唇を塞がれた。キスされているのだと理解するまで数秒を要した。あたたかい舌が口の中に入ってきて、絡み合う。心臓がドキドキして、もう好きにされたいという気持ちが脳内を支配していく。


「ダイアナ、お前もしかして、俺じゃない男のこと考えてたか?」


唇の端に垂れた唾液を舌で舐めながら、エドが嫉妬を含んだ声で言う。
混乱したままふるふると頭を振ったが認めてはもらえない。 


「以前言っていた許婚のことだな。隠してもわかる、なにがあったかちゃんと話せ」
「エド…怒ってるの?」
「お前にじゃない。この部屋に囚われて、お前の周りをうろつく男を追い払うこともできない、無力な、なさけねえ自分に対しての怒りだ」


エドがやれやれというように首を振って、ベッドに腰掛ける。釣られて私も隣に座りながら、すがるように告げた。


「怒らないで。私、自分のことは自分でちゃんとできるわ」
「そうは言っても男なんて好きな女を手に入れるためになにするかわかんないだろ。いざというとき守れるところにいてやれないっていうのがもどかしいんだよ」
「エドもそうなの?」
「あ?」
「手に入れるために、なにするかわかんない?」
「……あぁ、わかんねぇな」


緋色の瞳が揺れて、次の瞬間、また唇をふさがれた。自分で煽るようなことを言っておいてなんだが、心臓がドキドキして死んでしまいそうだ。エドはいつも迷いがない。迷いなく自分の気持ちを表現し、手を伸ばしてくれるのが、嬉しい。


お互いの舌が絡み合う音だけが室内に響いて、ぞくぞくした。時々そのふたつの牙を舌でそっとなぞってみる。
やがてエドの唇は私の首にキスを落としていった。ふと耳の奥にレオナの言葉が蘇る。



『あの部屋でむかし、ダイアナ様がお怪我をなさったんですよ。覚えていませんか?』

『確かあの部屋にある彫刻で肩を切ったんです』



エドの舌が、私の首筋の血管をなぞった、ように感じた。快感に身をよじりながら、ぼんやりとかすむ脳内で考える。記憶にない幼少期の不可解な怪我。私の肩に傷跡はない。はたしてそれはほんとうに切り傷だったのだろうか?


「ダイアナ……愛してる」


ひょっとしてそれは、何者かに噛まれた跡ではなかったか。


たとえばその部屋に封印された、齢300歳の吸血鬼などに。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...