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1 研究所で

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目がさめるとそこは大きな水槽のようなものの中だった。ローラはいまその中に浮かんでいる。

少しずつはっきりしていく意識の中で、自分が服を着ていないこと、水の中にいるのになぜか息ができること、身体中にさまざまな器具やチューブがつけられていて、どうやらそれが水槽の外へと伸びているらしいこと、などなどの事柄をゆっくりと理解していく。


(ここはどこ……?)


水中で体の向きを変えるのは容易ではなく、なんとか首だけを少し傾けると、水槽の外にこちらに背を向けた白衣の人間が立っているのがぼんやりと見えた。


(人がいる……)


そう思ったちょうどそのとき、人間がこちらを振り返る。視線を感じたのかもしれない。水を通して見ているのではっきりとした姿形まではわからないものの、それはおそらく男性であるように思えた。


ごぼごぼ、と耳の中で水の音がする。






15分ほど後、ローラは培養液(と博士は説明した)の中から救い上げられ、ストーブの前に座らされて大きなバスタオルにくるまっていた。


水槽のそばに立っていた人間はやはり長身の男性だった。白衣を身に纏い、黒いメガネをかけ、黒い髪は長めで色白の、いかにもインテリといった風貌の男だ。


「言葉は話せるかい?」


マグカップに入ったあたたかい飲み物をすすめながら、男は言う。ローラは飲み物を受け取りこくりとひとつ頷くと、おずおずと自己紹介をした。


「私の名前はローラです。17歳です。えっと、ここは……」


ローラは言いながら、マグカップを持っていない方の手でバスタオルを強く体に巻きつけた。油断すると裸が見えてしまいそうで恥ずかしいのだ。
そんな気持ちを知ってか知らずか、男はにこやかに話しはじめた。


「やあローラ。私はこの研究所の持ち主、アルベルトだ。26歳。博士と呼んでくれ。君は今日から私の研究対象になったんだよ」
「研究対象?私が?」
「驚かずに聞いてほしいんだが、いまは君が生きていた時代から数百年後の世界なんだ。人類は絶滅しかかっている。人間は本当に数少なくなった。僕は君に会って生身の女性を初めて見たんだよ」


ローラはなにか返事をしたかったが、あまりに現実離れした話にすぐには頷くことができなかった。博士はとうとうと語り続ける。


「君ははるか昔に冷凍保存され、いまこうして、僕の手元にやって来てくれた。貴重な研究対象なんだ。この研究所で衣食住のすべてを保証する。悪いようにはしないから、私の研究に付き合ってくれないか?」


意味はわかるが理解ができないという思いで、ローラは小さく首を振った。


「あの……私、なにがなんだか」
「数百年ぶりに目覚めたところに突然こんな話をされたんだ。戸惑うのも無理はない。とりあえず今日一日は、リハビリもかねて研究所でゆっくり過ごすといい」


博士の語感は穏やかだったが、ローラは混乱していた。これからどんな毎日が始まってしまうのだろう。
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