異世界転移したけど最弱スタート〜Lv.1から創造魔法で最強に〜

第十話

　「ん、チャイムか。　今日はここまで。午後からは模擬戦をやるから、着替えとけ」

　やっと終わった……。　長すぎる。　日本のように授業やって、休憩時間があって、授業やってという訳じゃない。　一つの授業をぶっ通しでやり続けてる。
　集中力が持つハズもなく、眠気と戦っていたのは言うまでもない。

　「トール、食堂行こーぜ」

　「あ、ああ」

　何故か平気な様子のトイとサムが、昼食に誘って来た。

　「皆、通って来た道だ。　すぐ慣れる」



◇



　学園の食堂は教師も含めて、無料になっていて、教師の大半は食堂で夕食まで済ましている。

　「おっじゃまー」

　「邪魔するなら帰れよ、リーベ」

　「連れない事を言うでない。　男子の中に女子が入るのだ。　光栄に思いたまえ」

　元気いっぱいのポニーテールの女の子が、トイに絡む。　その後ろからやって来た女の子に、トールは目を奪われた。

　大人しそうな見た目に、茶髪薄茶の瞳。小柄で戦いとは無縁に思える女の子だった。
　目が合ったと思ったら、その子は顔を逸らしたが頬は赤くなっていた。

　「私はリーベ・タリスロッテ！　こっちは、モルテ・アルマよ」

　「アルマ？　もしかして警備兵のロイさんと知り合い？」

　「うん、そう。　知り合いっていうか、お兄ちゃん」

　「良かったですなモルテさんや。　話せて」

　あ、顔を赤くして怒ってる……かわいい。



◇



　「よーし、まずは魔力酔いに気をつけて、撃てるとこまでやってけー」

　大丈夫、昨日徹夜で呪文一覧を暗記したから、学園長が言ってた無詠唱はしない。　ま、長すぎるから短くしたのもあるけど。

　例えばこれ

　「集え、ファイヤーアロー」

　よし、成功だ。
　ん？　何で静かなんだ？


　「トール……お前、詠唱したのか？」

　「しましたよ」

　「いやいや、してねーだろ？　呪文名しか聞こえなかったぞ」

　あれ？　またやったか？

　シュピーゲル先生が何故か大急ぎで学園長を連れて来た。

　「よし、もう一回やって見せてくれ。出来れば違うやつを」

　学園長が怖いんですけど。

　「放て、ファイヤーボール」





　沈黙が痛い。　沈黙……長くない？！

　あ、手招きする学園長。　あれが猫耳ならリアル招き猫だなあ、なんて思いながら近づくとヒソヒソと話を始めた。

　「トール、お主やりおったな」
　
　「うすうすは感じてます」

　「わしには濃くハッキリと感じるんじゃが？」

　「無駄な部分を省いただけですよ」

　「今の呪文一覧が、無駄を省きまくった状態なんじゃよ。　じゃからお主がやっとることは、ほぼ無詠唱じゃ」

　「よし！ここは、学園長が師匠って事にしましょう！」
　
　そう、それが一番この場を収めるのに無難な選択だと思った。
　だから、その案に乗った学園長は振り向き、叫んだ。

　「トールはわしの弟子じゃ！　じゃから、ほぼ無詠唱なのは当然のことじゃから気にするでない！」

　「さすが師匠！　その通りです！」

　見たか！　この迫真の演技を。

　「「なわけないだろ！」」